「・・・・皆様。 私、プラント最高評議会議長・ラクス=クラインの名において、ここに宣言いたします。
緊迫していた戦火を再び消し去られた今、
二度とこのような事態が起きないことを願って・・・ここに、終戦を宣言いたします!
連合は、残党を残すだけとなった状態です。
このまま、どちらかが滅びるまで皆様は戦われるのですか? それを運命だと、受け入れられるのですか?
私たちは、何も違わないのです。 大切な人を喪ったら、悲しみ、憎みます。
そして、悲しみの連鎖は果てしなく続くでしょう。 その先に見えるのは、滅びのみですわ。
そうならないためにも、この場においてその連鎖を断ち切らなければなりません。
2年前、確かに悲しみの連鎖は終わりを告げたかに見えました。 プラント・地球間の停戦協定において。
しかし、結果的にその平和もたったの2年で崩壊いたしました。
そして・・・再び世界は混乱を迎えましたわ。 今度こそ、その連鎖を完全に断ち切らなければなりません。
私たちは、お互いを見てどう違うと判断するのですか? 生まれが違うから?
ただ、それだけのために戦いを繰り返してゆくのですか? 銃を・・・剣を置きなさい。
そして、話し合いという場において、ご自身の考えを相手にぶつけていくのです。
私たちは、話し合いというものを出来ます。
互いを理解してゆくことが、悲しみを失くす最善の道だと、私は信じておりますわ・・・・・」



この宣言で、全てが完了いたします。
戦争の根絶・・・それこそ、私たちの悲願。
戦争は、何も生み出しませんわ。
生み出すとすれば・・・それは、悲しみ。
コーディネイターであろうと、ナチュラルであろうと・・・・大切な人を失えば、悲しみます。
私たちは、そんな悲しみのない世界を作りたかった・・・・。
だからこそ、2年前にその悲しみの鎖を断ち切るために、戦場の地へ向かいました。
しかし・・・漸く勝ち取った“平和”は、たった2年しか保てなかった・・・。



『戦争の根絶』。
それは、双方の武力を取る以外、道はなかったのでしょうか。
ですが、私たちは新しい道を歩もうとしてます。



『話し合い』を通し、今度こそ相互理解を深めて“平和”を真実にしましょう・・・・・・。








Adiantum
    ― 変化ある、明日へ ―











各地で起こり始めたこの現象は、すぐさま会議室に報告が入った。
その報告に、にこやかな笑みを浮かべたラクスは嬉しそうに頷いた。



「・・・うまく行ったみたいだな」

「そうだな。 これで・・・漸く平和が戻った。 ・・・後は、あいつらの軍法会議だけだな」

「・・まだ問題が残っていたか。 忘れていたぜ」



ラクスたちの様子を離れたところで見守っていたイザークは、
彼にしては珍しいほどの優しさと慈しみをその表情と瞳に宿していた。
そんなイザークに対し、ディアッカもまた嬉しそうに微笑を見せた。

ディアッカのからかいにいつものペースを取り戻したイザークは、
ふと思い出したかのように元議長であり現在拘束されている3人の存在を思い出した。
イザークの言葉にすっかり忘れていたディアッカは苦笑いを浮かべながらも、
歓喜の声が響く会議室から抜け出した。





彼らのことは既にイザークたちに任せているため、姿の消えた二人を追ってはいかなかった。



「・・・・まぁ、今更軍法会議になど行わなくとも結果は見えているだろう。
あの兵器の製造データは、こちらで抑えているからな。
そして、元議長の真の目的もまたニコルが見つけたデータによって分かっている」

「そうだな。 あとの2人もまた、その動機はわかっているさ。
赤髪のほうは、アスランが好きだったんだろう? だから、姫を亡き者にしようとした。
そのことを知っていた元議長はその感情を利用し、自分の駒にしたと。
で、もう1人の赤目のほうは、姫が『FREEDOM』のパイロットだと知らされでもしたんだろ?
アスランの話だと、姫が殺したと勘違いして逆恨みしていたと言っていたからな」

「どちらにせよ、俺たちがやつらに同情することはないだろ。
そこにどんな感情があろうが、俺たちの大切な幼馴染に危害を加えようとした者に、同情するわけがない」



2人は評議会の中にある軍本部に向かうと、
そこに待機していた一般兵からデュランダルとシン、
ルナマリアを簡単に取り調べた後軍法会議を行う部屋に連れて行ったと報告を受け、その一室に向かった。
軍法会議場所に着いたイザークたちは中央に立たされている3人に冷たい視線を浴びせた。



「なぜ、俺たちがこんなところにいなきゃいけないんだよ!」

「そうよっ! 私たち、何も悪いことしていないじゃないっ!
議長を助けることが、そんなにいけないことなの!?」



イザークたちの視線を受け止めたシンたちはあまりの冷たさにカタカタと震えていたが、
いつものように虚勢を張ると、自分たちの立場をよく理解していないのかキャンキャンと喚いた。



「私語は慎むように。 貴様らは己らの立場を理解していないようだ。
・・・今から、貴様らに与えられた刑を言う。 貴様ら3人、極刑に処す。 刑の執行は、明後日。
の刑に関して、変更は一切ない」

「死刑!? なぜ、俺たちが死刑になるんだよっ!」

「そうよっ! 私たちは死刑になるようなことをしていないわ!!」

「何を言っているんだ? 貴様らはそれなりの重罪を犯した。この刑は、それ相当のものだ。
なにせ、貴様らは2年前に停戦協定を結んだにも拘らず再びGシリーズを製造し、
お粗末のセキュリティーで管理していたために連合軍に易々と侵入を許した。
それだけでも重罪なのに、大量破壊兵器である『メサイア』を製造した。
その重罪人の逃走を手助けし、待機命令を無視したお前たちなのだぞ? 軍人にあるまじき行為だ。
しかも、お前たちは本来ならば軍の模範にならなければならない立場にも関わらずだ」



検察官の決定した刑に関して、自分たちが極刑を受ける筋合いはないと強く抗議した。
その事に対して、それまで黙って聞いていたイザークは、
アイス・ブルーに冷たさを宿したまま検察官に対して喚く2人を見下しながら弾圧した。
イザークの視線を諸に受けたシンとルナマリアは先ほどより震えが酷くなり、
それまで喚いていた元気がどこに行ったのか、その場に座り込んでしまった。



「・・・・・あ〜あ。 イザークの視線を諸に受けた所為で立てないじゃん。 ・・・馬鹿だよなぁ。
お前たち如きが、切れている状態のコイツの視線を受けてまともに立っていられるわけないじゃん」



ディアッカはため息をつきながら、座り込んでしまったシンたちを見据えた。
しかし、そんなディアッカの瞳にも優しさは一切なく、イザークと同等の冷たい色しか宿されていなかった。
力なく座り込んでしまった彼らを引きずるようにして、一般兵は軍法会議室から連れ出していった・・・・・。




連れ去られる姿もまた、侮蔑も込められた視線で見送るともう用がないとばかりに部屋から退室し、
ラクスたちのいる会議室へと戻っていった・・・・・。





イザークたちが再び会議室に戻ってきたと同時刻、
ラクスの偽者であるミーアと共に管理下である病院に赴いていたダッドが報告のために会議室に現れていた。



「報告に来たよ。
ラクスちゃんと似た顔に整形していた少女は、ニコル君が渡してくれた写真通りに戻した。
念のため、強力な暗示と記憶操作で君たちに関する情報を消しておいたよ。
これで、彼女が二度と君たちの前に表れることはないだろう。
後、例の彼だけど・・連合のお粗末な記憶操作を漸く全て取り除くことに成功した。
少し、最近の記憶が欠落しているところもあるだろうが・・・操作された2年前辺りの記憶は全て、解かれた。
彼と共に連れてこられた3人もまた、
渡されたデータを元に刺激を与えないように注意しながら治療をしている最中だ。
彼らの場合、長い月日をかけて操作されていたみたいだからまだ戻らないが・・・・
彼らが普通に生活できるように、何としてでも健康体に戻す」

「お疲れ様でした、ダッド小父様。 その件に関しては、全て小父様にお任せいたします」

「分かった。 彼らもまた、被害者だ。 そのためにも我々は死力を尽くすよ」



ダッドの報告にニッコリと微笑んだラクスは、
報告書に目を通しながら揺り籠と共にプラントの病院に搬送された彼らの個人データを見た。
そこには名前以外の個人データを全て消されている形跡を見つけ、
痛々しそうな表情を見せたがすぐさま議長の顔へと戻り、ダッドに一任した。







それから数ヶ月・・・・。
再び世界は平和を取り戻した。


2年前と違うのは、プラントと地球間において停戦協定ではなく、プラント側の勝利としての終戦であった。
しかし、勝者であるプラントは敗者となった地球に無理な要求を突きつけることなく、
ただ純粋に話し合いとしての平和の道を歩むようにと通達しただけであった。
その事により、各国々はいがみ合いをすることなくプラント側の要求に答え、
歩み寄りという努力をすることとなった。
そんな中、プラントだけではなく、
世界の英雄として有名になった2年前の第3勢力の要・・・・アスランとキラの結婚式が月にて行われた。
本来の予定では、プラントにて行われるはずであったが、
キラの希望により急遽会場を変更して彼らが初めてであった季節に式を挙げることとなったのだ。



「漸く、あの頃の約束が果たせるよ」

「・・・うん。 本当、夢見たい・・・。 もう、離れない。 ずっと、一緒にいて?」

「当たり前だろう?
キラと一緒にいるために、今度こそあの悲しみを味合わないために頑張ってきたんだから。
キラをもう二度と離さないよ」



桜吹雪が彼らの新たな門出を祝福するかのように舞い、キラはその光景を嬉しそうに微笑みながら眺めた。
そんなキラを背後から抱き締めたアスランは、キラ限定の笑みを浮かべると頬と額にキスを落とした・・・。



「キラ、とても美しいですわv やはり、キラは笑っているお姿が一番綺麗ですわね。
あの綺麗な笑顔を守るためにもより一層この平和を維持できるように努力しないといけませんわね」

「そうだな。 あいつらが一番苦しんだんだ。 苦しんだ分、幸せになることは当然だ。
あの曇りない笑みのために、俺たちは出来る限りのことをしよう」

「当然でしょ。 俺たちが作りたかったのは、姫が心穏やかに暮らせる世界だった。
心が人一倍繊細な姫が、苦しむことなく悲しみのない世界を作るために、剣を手にしたんだからさ」

「キラさんたちは、僕たちの光ですからね。 殺伐とした世界から救い出していただきました。
純粋な彼女の気持ちを、今度は僕たちが守っていきましょうね」



2人から少し離れたところで彼らの様子を見守っていたラクスたちは、
口々に彼らの幸せそうな光景を守っていこうと誓い合った。
幼い頃からこの光景を見ている彼らは、この姿こそ彼らの自然体だと認識しており、
また自分たちも彼らによって救われていると実感しているのであった。



「姉様、綺麗ですね。 兄様も幸せそうです。 僕は、あのお2人に自分の存在価値を教えてもらった。
俺は俺自身であって、他の何者でもないと。 長い呪縛から、解き放ってくれた」

「レイだけじゃない。 私もまた、キラたちに救われた。
世界を呪い、己を呪っていた私の心を溶かし、
こうして生きているのはキラたちが私をこの世界に留めてくれたからなのだからな」



レイは視線の先で幸せそうに微笑み合っている2人を見ながら、自分のことのように喜んだ。
そんなレイの姿に苦笑いを浮かべながらも優しさをその瞳に宿したクルーゼもまた、
普段見せない優しい微笑を浮かべていた・・・・・・・。








プラントの勝利として戦争が終結して3年。
プラント全土にとって、喜ばしい知らせが舞い降りた。
コーディネイター同士の出産率は数年間連続で低下していたのだが、
その確率は一組の夫婦によって見直しが決定した。


その夫婦とは、
終戦してまもなくに結婚した有名人・・・現在では、
プラント一のプログラマーと最高評議会議員にして絶大な支持を誇る彼らであった。

自然妊娠したことに対しても奇跡に等しいのだが、驚くにはまだ早い。
彼女がその身に宿した新しい命であり、国民にとって希望の光である赤子は、双子だったのだ。



「・・・ありがとう、キラ。 俺に大切な家族を与えてくれて」

「僕もありがとう。 ・・・この子たちのために、僕は頑張れる。
この創られた命でも、新しい命を宿すことができた。
気にしないわけじゃないけど・・・この子たちのために、僕自身も強くなるよ」



キラは自分と夫であるアスランに抱かれている自分たちの大切な結晶たちを
慈愛に満ちた表情で見つめながら、決意の色を宿した瞳をアスランに向けた。



「俺も頑張らないとね。 キラやこの子たちを守れるように。 なによりも、キラを悲しませないようにね」



決意の宿る瞳を見つめながらアスランもまた、優しさの色を宿した瞳をキラに向け、ニッコリと微笑んだ。





彼らを祝福するかのように、彼らの出会った月から淡い光が彼らを照らした。
その淡い光を受けた赤子たちは嬉しそうに微笑を浮かべ、
そんな赤子たちにキラたちもまた優しく微笑みかけた・・・・・・・。








僕たちは出会い、様々な分岐点や限られた選択肢によって現在がある。
これからもまた、色々な・・・それでも限られている選択肢が待ち受けていると思う。


けれど、貴方とならどんな困難でも乗り越えられると思うの。
そして、乗り越えた先には・・・・たくさんの未来が待っている・・・・・。




彼女は、自身を穢れだと昔言っていた。
俺は、彼女が穢れているとは思わない。
例え、それが真実だとしても・・・それは過酷にも彼女の前に唯一つしかなかった選択。
その事に対して、彼女が心を痛める必要はない。
・・・それが出来ないのが、彼女だと理解しているけど。


俺にとって、彼女の存在そのものが“純潔”。
穢れなき存在。
だからこそ、今度こそこの手で守り通そう。
彼女が再び、美しい微笑を悲しみによって隠れてしまわないように・・・・・・。











END.











2007/12/31













最終回ですv
本当にギリギリで年内までに終わらせることができました;
いや、原稿は既に完結していたんですがね;
だらだらと更新していたら・・・05年からですから・・・;
余裕で2年はかかってますね;
更新を楽しみにしていてくださった皆様、ありがとうございました!
今年は、本日で終わりですが・・・来年もなにとぞ、よろしくお願いいたしますv