「ストライクパックを。 そしたら、キラくん、もう一度通信をやってみて?」

「・・・はい」



なんて、傲慢なんだろう。
この人は分かっているのだろうか。
自分の言動に矛盾があることを。
口では、『コーディネイター』僕ら『ナチュラル』自分たちの敵だと言う。
けれど・・・実際にはその『コーディネイター』を利用している。






・・・本来なら、今頃彼の腕の中にいたのに・・・・・・。











Iris
 ― ナチュラルとコーディネイター ―











「開口部を抜けました! コロニー内部に侵入!!」

「モルゲンレーテは大破! 『ストライク』、起動しております!」



コロニー内部に侵入した際の名残か、白き巨大戦艦は爆煙をその身に纏っていた。
戦艦内では、モニターに映し出される映像とセンサーに反応する熱源を確かめ、ナタルに報告していた。













「『アークエンジェル』!? 無事だったのね!」



突如現れた戦艦に驚いた表情を浮かべていたマリューだったが、
その艦が自軍の最新鋭艦だと気づくと、歓喜に溢れた表情を浮かべていた。










起動した『ストライク』の掌に拘束した4人と自身を乗せ、『アークエンジェル』と呼ばれた艦が着艦する場所へ向かわせた。



「ラミアス大尉!!」



開かれた『アークエンジェル』のカタパルトに機体を乗せ、
膝立ての要領で掌に乗せていた5人を降ろしたと同時に、右側からマリューを呼ぶ女性の声が響いた。



「バジルール少尉」

「御無事で、なによりでした!」

「貴女たちこそ、よく『アークエンジェル』を。 おかげで、助かったわ」



マリューに駆け寄ったナタルの後ろには、
AA内部で作業を行っていたため助かった整備班のメンバーなどを含めた、『アークエンジェル』の生き残りたちも勢ぞろいしていた。
軍の敬礼を見せたナタルに、マリューも敬礼を返し彼女たちの無事にホッと胸をなでおろした。









――――― バシュンッ!!












「・・・え!?」



その時、再び灰色へと変化した『ストライク』のコックピットが開き、中から成人にも満たない子どもが現れた。その姿にナタルは驚愕の表情を浮かべ、背後に控えていた他のクルーたちもそれぞれ驚きを隠せないでいた。








――――― グィィィィィィィィン!











「おいおい、なんだってんだ? 子どもじゃねーか。 あの坊主があれに乗っていたっていうのか」

「ラミアス大尉。 これは・・・?」



フックに足をかけ、独特の電子音と共に下に降りてきたキラにミリアリアたちが駆け寄る。
軍人しかいないはずの戦艦では異様な光景に、ナタルは信じられないという表情で、マリューに尋ねた。



「へぇ・・・。 こいつは驚いたな。 地球軍第7機動艦隊所属、ムゥ=ラ=フラガ大尉。 よろしく」

「地球軍第2宙域第5特務財団所属、マリュー=ラミアス大尉です」

「同じく、ナタル=バジルール少尉であります」



ナタルの問いに対し、言いにくそうに言葉を濁したマリューは眉を伏せて下を向いた。
そんな彼女たちに、『ストライク』よりも前に止められていたMAのパイロットがのんびりと彼女たちの前まで歩いてきた。
それぞれ敬礼して名乗りあった後、フラガは本題とばかりに切り出した。



「乗艦許可を貰いたいんだがねぇ・・・・。 この艦の責任者は?」

「・・・・艦長以下、艦の主だった士官は皆、戦死されました。 よって、今はラミアス大尉がその任に当たると思いますが」

「え・・・・!?」

「無事だったのは、艦にいた下士官と10数名のみです。 私はシャフトの中で、運良く難を・・・」

「艦長が・・・そんな・・・・」



フラガの言葉に、ナタルは息をのむと重い口調でそれに答えた。
続けられた言葉に、マリューは衝動に凍りついた。
上官である艦長の死と、自身に降りかかった重い任に対しての不安からくるものであった。



「やれやれ・・・なんてこった。 あーともかく、許可をくれよ。 ラミアス大尉。 俺が乗ってきた船も、落とされちまってね・・・」

「あ、はい。 許可いたします」



ナタルの答えを聞いたフラガは重たい溜息を吐いたものの、頭を軽く掻くとマリューに向き直って再び許可を求めた。
フラガの言葉に正気に戻ったマリューは慌てた口調で許可を出した。



「で、あれは?」

「御覧の通り、民間人の少年です。 襲撃と受けた時、なぜか工場区にいて・・・。 私が『G』に乗せました。 キラ=ヤマトといいます」

「ふぅん?」

「彼のおかげで、先の戦闘の際も『ジン』1機を撃退し、アレだけは守ることができました」



許可を受けたフラガは振り返り、不審そうな表情や不安そうな眼で見つめる少年たちの姿に、不思議そうな表情を浮かべた。
そんなフラガに対し、マリューは感情のこもらない声で淡々とこれまでの経緯や起こった状況説明を述べた。



「『ジン』を撃退した? あの子どもが・・・!?」



敵軍の機体を撃退したということに驚きを隠せないナタルは、友人と思われる学生2人に縋り付かれている少年に視線を向けた。



「俺は、あのパイロットになるひよっ子たちを護衛してきたんだがね・・・・。 連中は・・・」

「ちょうど、艦長らに着任の挨拶をしている時に・・・爆破されましたので。 ・・・共に」

「・・・そうか」



キラに向けていた視線を戻し、再びマリューたちに向けたフラガは、なぜ自分がここにいるかを告げた。
彼と共に到着したパイロットたちは、搭乗する予定であった『G』を見ないまま着任と同時に戦死したと、
ナタルは沈痛な面持ちで首を横に振った。
そんなナタルの言葉に、飄々とした表情を浮かべていたフラガの顔が、一瞬だけ重々しく引き締められた。



「・・キラ、コーディネイターだから」

「なに!? コーディネイターだと!!?」



キラの傍に立っていたカズイの口から、ボソッと呟くように小さな声が格納庫に反響した。
小さな声だが、シーンと静まり返っていた為、その声はよく響いた。
そんなカズイの言葉に反応したのは、沈痛な表情を浮かべていたナタルであった。
彼女から発せられた言葉からは、コーディネイターを心底嫌っているように聞こえる。
ナタルの大声によって、マリューたちの背後に控えていた兵士たちが持っていた銃の銃口を一斉に、キラに向けた。



「おい、落ち着けって! コーディネイターと言っても民間人だろうが!?」



そんな兵士たちの行動に対し、フラガは慌てた様子を見せながら止めに入った。
銃口を向けられたキラは、傷ついた表情を見せ、歯を食いしばると視線を地面に落した・・・・・・。










【ヘリオポリス】付近に停泊したままの状態にあるヴェサリウスのブリッジでは、
ミゲルが持ち帰ったデータを後ろにあるスクリーンに映し出していた。
そこに広がる映像は、ミゲルが機体を失った原因とも言える『ストライク』との戦闘シーンであり、
急に動きが良くなった原因は、クルーゼとアデス、そしてアスラン、そしてアスランから告げられたミゲルには解っただろう。



「相変わらず、いい腕をしているね・・・あの子は」

「感心している場合ではありませんぞ、隊長。 これでは、計画が狂ってしまいます」



映像を見終わったクルーゼの第一声は、その一言であった。
そんな上司に、アデスは眉間に皺を寄せながら感心している場合ではないと、上司に進言した。



「そう焦るな、アデス。 あちらにはやつらがいる。 多少、予定が狂ったところであちらに気づかれるようなことは起こらんよ」

「・・計画のことは心配してません。 が、私は彼女自身が心配です」



そんなアデスに対し、クルーゼはあくまでも自分のペースを乱すことなく、
ゆっくり浮きながらメインモニターに映し出されるコロニーを眺めた。
そんなクルーゼに、映像を見ている最中でも無表情だったアスランは、
少しだけ感情のこもった声で今までモニターに映し出されていた機体に乗っている彼女の心配をした。



「アスランの気持ちはよくわかっている。 だが、ここで我らが慌ててしまっては、今まで頑張ってきたあの子の身にも危険が及ぶ。
・・・そうだな。 カモフラージュとして今からあちらに戦闘を仕掛ける。 ミゲルたちのグループと共に、アスラン、君も出るかね?」

「隊長!?」

「何、すでにあの機体のデータは取れている。 君のことだ。 すでにOSは組み込まれているのだろう」

「・・・了解しました」



仮面ではクルーゼの表情はわからないが、アスランにかける声がいつもより優しさを帯びている。
そのことに安堵していたアデスだが、続けられた言葉に驚きを隠せないでいた。
そんなアデスの驚きを無視した形のクルーゼは、アスランの出撃の許可を出したのだった・・・・・・。











2009/05/18













漸く、本編の3話です。
【Iris】の話数、変更しました。
ブログで連載している【Iris】の2部を執筆していると、
途中から本編沿いではないことが発覚したためです。
冒頭などは、また時間のあった時に修正したいと思います・・・。