「無事だったのは、爆発の時艦の中におりました、ほんの数名だけです・・・。 ほとんどが、工員ですが・・・」

「状況は? ザフト艦はどうなっている」

「解りません。 私共もまだ、周辺を確認するのが手一杯で・・・」



地下のシェルター内部で秘密裏に製造されていた白い戦艦の中には僅か数名の軍人しかおらず、
階級は全て軍曹以下であった。
自身より上司である女性・・・ナタル=バジルールは、
共にこちらへやってきた青年・・・アーノルド=ノイマンと共に、艦橋であるブリッジへやってきた。






―――――カチッ








「さすがは、アークエンジェルだな。 ・・・これしきの事で、沈みはしない・・・か」

「しかし、港口側は瓦礫が密集しております。 完全に、閉じ込められました」



電源が切られていたブリッジの電源をオンにしたナタルは、
操縦席近くにあるモニターを使って現段階で調べられる新造艦の被害状況を調べた。
次々と映し出される情報に目を通したナタルは、
先ほどの大爆発でもほぼ無傷状態の『大天使』の頑丈さに感心した。





そんな上司の言葉に、ノイマンは彼女を見つける前にある程度周りを調べたのか、
予定していた港口が地下であるが故に、先ほどの爆発により瓦礫の山が築かれていることを報告した。






――――― ザッ、ザー・・・・








「! ・・・まだ、通信妨害されている。 だが・・・では、こちらが陽動!?
ザフトの狙いは、モルゲンレーテということか! クソッ!! あちらの状況は!!
『G』はどうなったというのか! これでは、何も解らん!!」


《ザッ、ザ、ザー・・・。 ザー・・・イク。 ザー・・・ぐん、おう・・・とう》




ノイマンの報告を聞きながら、ナタルは回線を開くと周波数を合わせ始めた。
だが、どこに合わせても通信が繋がらず、砂嵐のような音が占めていた。











「こちら、X-105『ストライク』。 地球軍、応答願います。 地球軍、応答願います!」


《ザッ、ザ、ザー・・・・》




ノイズが混ざっているため、通信が不可能だということを確認したキラは、ため息を吐きながら機体から降りた。



「ナンバー5のトレーラ、あれでいいんですよね」

「えぇ、そう。 ありがとう」

「それで? 俺たちはこのあと、どうすればいいんです?」



機体から降り、渡された水を飲んでいるとトレーラーをモルゲンレーテ内部から持ってきたサイは、
マリューにトレーラーを指しながら告げた。
そんなサイの言葉に頷いたマリューは、次の指示を待つサイに中に入っているものを出すよう、告げた。



「ストライクパックを。 そしたら、キラくん、もう一度通信をやってみて?」

「・・・はい」



マリューの言葉に頷いたキラは、内心盛大なため息を吐いていたがそれを表に出すことはない。
ゆっくりとした足取りで再び機体に上り、コックピット内部に収まった。











「艦を発進させるなど! この人員では無理です!」

「そんなことを言っている暇があるのならば、やるにはどうしたらいいのかを考えろ。
モルゲンレーテはまだ、戦闘中なのかも知れんのだぞ!
それをこのままここに籠って、見過ごせとでも言うのか!」



AA内でノイマンの抗議する声が響いていた。
そんなノイマンの言葉に耳を傾けることなく、ナタルは黙々と艦の起動準備を整えてゆく。



「連れてまいりました」

「シートにつけ。 コンピューターの指示通りにやればいい」

「「「はい」」」



トノムラ伍長は、ナタルの命令で内部にいた動ける人員すべてを連れてきた。
ナタルの指示に従い、それぞれ言われたシートに座ってゆく。



「外にはまだ、ザフト艦がいます。 戦闘など、できませんよ」

「解っている! 艦起動と同時に、特装砲発射準備―――できるな? 曹長」



ノイマンはナタルにどうにかして思いとどまるよう告げるが、ナタルは聞く耳を持たない。
意志の変わらないナタルに、ノイマンもついに腹を括った。
パイロットシートに飛び込むように座り、コンソールに向かった。



「発進シークエンス、スタート。 非常事態のため、プロセスC30からL21まで省略! 主動力オンライン!」



ナタル自身は艦長席に座り、きびきびと指示を出す。
それぞれのクルーたちは宛がわれたモニターを確認し、出された指示通りにコマンドを押してゆく。



「出力上昇、異状なし! 定格まで450秒!」

「長すぎる! 【ヘリオポリス】とのコンジットの状況は?」



突如振られたトノムラは慌てながらも、モニターを確認しながらナタルに報告する。



「い、生きてます!」

「そこからパワーをもらえ。 コンジット、オンライン! パワーをアキュムレーターに接続」

「接続を確認。 フロー正常。 定格まで20秒!」



【ヘリオポリス】と接続を確認し、先ほどよりも早いスピードで出力が上昇する。



「生命維持装置、異状なし!」

「CICオンライン」

「プロキシステム、オンライン」

「FCSコンタクト。 磁場チェンバー及びペイトインプレッサー、アイドリング正常」

「外装衝撃ダンパー、最大出力でホールド!」

「主動力、コンタクト。 エンジン異常なし。 『アークエンジェル』全システム、オンライン! 発進準備、完了!」

「気密隔壁閉鎖! 総員、衝撃に備えよ・・・! 前進微速。 『アークエンジェル』、発進!」



全システムが起動したのを確認したノイマンは、不安を隠すように叫ぶ。
システム音の響くブリッジに、ナタルの声が響いた・・・・・・。











機体をトレーラーの場所まで移動させたキラは、モニターでトレーラーに積まれた武装を静かに見据えた。
マリューに言われていたパックが何であるかキラには解っていたが、
『民間人』が軍の機密を知るはずがないのだから、キラは一度確認のため、コックピットを開いた。



「どれですか? パワーパックって!」

「武器とパワーパックは一体となっているの! そのまま装備して!」



キラの言葉に、マリューは痛む肩を押さえながら叫んだ。



「まだ解除にならないのね・・・・避難命令」

「親父やお袋たちも、避難しているのかな・・・」

「は〜あ。 早く、うちに帰りてー」



ミリアリアは、未だに鳴り響くアラームに眉を顰めた。
そんなミリアリアの言葉に、トレーラーの操作パネルを弄っていたサイは手を休めながら家族の心配をし、
トレーラーに身を預けるように身体を傾けたカズイは溜息とを吐きながら人口の空を見上げた・・・・・・。











「特装砲発射と同時に、最大戦速!」



港にたどり着いたことを確認したナタルは、発射準備されていた特装砲の発射を合図し、
その爆風を生かして、人工地に穴を開け、コロニー内部へ脱出した・・・・・・。












――――― 突如、地下より現れた白き巨大戦艦。
それは、少年たちをどこへ誘うのだろうか。
その白は、希望かそれとも絶望か。
見えない歯車は、ゆっくりと確実に動き出し、無知の人間を飲み込んでゆく・・・・・・。











2009/01/01













・・・今回のメインは・・・戦艦側ですかね。
とりあえず、地下に隠されていた戦艦が
無理やり穴を開けて地上に出てまいりました。
・・・本編を見れば分かることですが・・・・ナタルさんたち、
本当にヘリオポリスなんてどうでもいんだなぁ。
いくら港が閉鎖されているって言っても・・・・
何も知らない民間人がいる中立のコロニーの地表に、
どでかい穴を開けてはならないだろうに・・・・。