「アスランの気持ちはよくわかっている。 だが、ここで我らが慌ててしまっては、今まで頑張ってきたあの子の身にも危険が及ぶ。
・・・そうだな。 カモフラージュとして今からあちらに戦闘を仕掛ける。 ミゲルたちのグループと共に、アスラン、君も出るかね?」



アデスに言われるまでもない。
あの子は、私にとって“妹”のような存在。
そんなあの子を、本来ならばこのような任務に向かわせたくはなかった。
しかし・・・現状がそれを許さない。
だからこそ、できるだけあの子の心労を軽減するよう、あいつらを前々から潜入させた。
あいつらを信用していないわけではないが・・・・それとこれとは、違うからな。
何より、私より彼の方が心配でしょうがないだろう。
彼らは本来、引き離してはならない存在なのだから・・・・・・。











Iris
 ―偏見と悪意  ―











緊迫した雰囲気の中、それまで静かに聞いていたマリューが人の良さそうな笑みを浮かべながら、前に進み出た。



マリューの言葉に対し、キラは目を伏せながら答えたものの、
内心では先ほどマリュー本人の口から告げられた言葉に対しての矛盾に毒を吐いていた。





彼女は、忘れているのだろうか。
自身が放った言葉を。
彼女は、「戦禍に巻き込まれるのが嫌で、中立国に移ったコーディネイター」に対し、
『乱暴でも何でも・・・戦争をしているんです! 【プラント】と地球・・・。
コーディネイターとナチュラル。 貴方方の『外の世界』ではね・・・・・・』と告げたのだ。
その言葉から、中立国から一歩外に出たコーディネイターは、
それまで共に同じコロニーで暮らしていたナチュラルを撃たなければならないことになるのだ。
そのことに気付かないマリューに対し、キラは彼女に見えないところで憎しみの籠った視線を向けていた・・・・・・。



「一世代目?」

「両親は、ナチュラルってことか。
・・・ここに来るまでの道中、これのパイロットになるはずだった連中のシュミレーションを結構見てきたが、
やつらのろくさ動かすのにも四苦八苦していたぜ」



伍長であるロメルがキラの発言に驚き、整備士である青年・・・マードックに視線を向けた。
そんな周りを気にせず、フラガは苦笑いを浮かべながら視線を沈黙を守る『ストライク』に向け、自身が護衛してきた面々を思い出していた。



「大尉。 どちらへ」

「どちらって・・・。 俺は被弾して降りたんだし、外にいるのはクルーゼ隊だぜ? あいつは、しつこいぞ〜?
こんなところでのんびりしている暇はないと思うがね」



艦内に向かって歩きだしたフラガに対し、ナタルは慌てた表情を見せた。
そんなナタルに、フラガは顔だけ振り返らせるとどの隊が攻めてくるのかを告げた。
クルーゼ隊――――その名は、連合軍でも有名な名前であった。
クルーゼ自身も有名だが、クルーゼ隊はエリート部隊とされ、ザフトの花形部隊でもあった。
その戦歴はエリートの名に相応しく、全ての任務において完遂されている。
そんなクルーゼ隊に狙われていると知った彼らは、戦慄がはしった。






一方その頃、ヴェサリウスではアスランの搭乗する赤い機体・・・『イージス』と『ジン』3機の出撃準備が着実に整えられていた・・・・・・。






【ヘリオポリス】内部に警報が鳴り響く中、『アークエンジェル』・・・通称AAの格納庫には、
爆破されなかったトラックが次々と積み込まれ、弾薬などの物資が運び込まれていた。



「水は、モルゲンレーテから持ってくるほかないだろ!」

「『ストライク』の弾薬とパーツが先だー! 急げー!!」

「マードック軍曹! 来てくださいよー!!」



格納庫は今、様々な物資や整備に追われており、混乱を招いていた・・・・・・。







とりあえず解放された【ヘリオポリス】の学生で民間人である彼らは、艦内にある居住区スペースの一画が宛がわれた。
下士官の部屋であり、2段ベットが左右に備えられている部屋に落ち着いた5人は、それぞれ思い思いに束の間の休息をとった。
キラは入って左側の2段目に上がるとそのまま瞼を閉じ、肩にはそれまで隠していたトリィの姿がある。



「こんな状況で寝られちゃうっていうのも、すごいよな」



そんな中、カズイがポツリと呟きを洩らした。



「疲れているのよ。 キラ、本当に大変だったんだから」



そんなカズイの言葉に、心配そうにキラを見つめていたミリアリアはカズイに視線を向け、これまでの経緯を思い出した。



「大変だった・・・・か。 ま、確かにそうなんだろうけどさ」

「・・・何が言いたいんだ、カズイ」



そんなミリアリアの言葉に、カズイは表情を歪めながら皮肉な笑いを溢した。
まるで、棘のあるような言い方に気付いたサイは、眉を顰めながら視線をカズイに向けた。



「別に? ・・・ただ、キラにとってはあんなことも『大変だった』で済んじゃうもんだなって思ってさ。
キラ、OS書き換えたって言っていたじゃん。 アレの。 それって、いつさ」



嫌な笑みを友人たちに向けたカズイは、無意識にも嫌悪感を含む視線をキラに向けながら、拘束される前に呟いた言葉を繰り返した。



「いつって・・・」



カズイの問いかけに対し、それに答えられる答えを知らないサイたちは、言葉に詰まった。



「キラだって、あんなもんのことを知っていたとは思えない。 じゃぁ、あいついつOSを書き換えたんだよ。
・・・キラがコーディネイターだっていうことは、ここにいる皆が知っていることだけどさ。
遺伝子操作されて生まれてきたやつら・・・コーディネイターってんのは、そんなことも『大変だった』で出来ちゃうんだぜ」

「・・・・・・」

「ザフトっていうのは、皆そうなんだ。 そんなんと戦って、勝てんのかよ・・・地球軍は」



カズイの視線に含まれている悪意に、その場にいる友人たちは気付かない。
そんな中、カズイは言葉の中に畏怖を感じさせる。
中立国のコロニーで育ったとはいえ、殆どのコーディネイターは本国である【プラント】に住んでいる。
中立国に住むコーディネイターは、キラなど両親がナチュラルの一世代目か訳有りで本国に住めないコーディネイターばかりである。
そのため、【オーブ】のコロニーで暮らす彼らはキラ以外のコーディネイターを知らない。
カズイは、まるでコーディネイター全てが恐怖の対象であるかのような言い方であるが、
本人はもちろん・・・友人たちも気付いてはいない・・・・・・。






一方ブリッジでは、中尉以上クラスである3人の士官たちが今後について話し合ってた。



「・・・ふぅ。 ・・・コロニー内の避難は100%完了しているということだけど、さっきので警報レベルは9に上がったそうよ」

「・・・シェルターは完全にロックされちまったって訳か・・・。 あぁ・・・けどそれじゃあ、あのガキ共はどうするんだ?
もう、どっか探して放り込むって訳にも行かないじゃないの」



【ヘリオポリス】の管制室に連絡を取っていたマリューは、民間人たちの避難が完了していることにホッとため息を吐いた。
しかし、先ほどの戦闘で警戒レベルが上がり、シェルターは開放されないことを示している。
マリューの表情とは裏腹に、フラガは肩を竦めながら現在、居住区の一室にいる学生たちの今後を心配した。



「彼らは、軍の機密を見たためラミアス大尉が拘束されたのです。 このまま開放する訳には・・・」

「じゃあ、脱出にも付き合ってもらうってんのか? 出て行きゃ、ど派手な戦闘になるぞ」



軍人の鑑であるナタルは、彼らがこの艦に乗艦した理由を述べ、拘束するのは当然だとその表情が物語っている。
そんなナタルの言葉に、フラガは2人に分からない程度に眉を顰め、
外で待ち構えているザフト軍がどの隊であるか分かっているために、避けては通れないと暗に伝える。



「・・・『ストライク』の力も、必要になると思うのですけど・・・・・・」

「アレをまた、実践で使われると!?」

「使わなきゃ、脱出は無理でしょ?」

「あ・・・」



2人の言葉を静かに聴いていたマリューは、ポツリと本音を漏らした。
その言葉に隠されたモノを正確に読み取ったナタルは、キッと上官であるマリューを見つめたが、彼女の言葉に反論できるものが無かった。



「あの坊主は、了解しているのかい?」

「今度は、フラガ大尉が乗られれば・・・」

「おい・・・無茶言うなよ。 あんなもんが俺に扱えるわけないだろ」



マリューの隠されたモノにはフラガも気付いており、キラの身を案じた彼は了承を取っているのかと尋ねた。

そんな彼の言葉に対し、敏感に反応したナタルは軍人であるフラガが搭乗すれば言いと考え、
伝えたが格納庫に収められている『ストライク』のOSを見たフラガは、肩を竦めながら無理だと断言した。



「え?」



そんなフラガの言葉に、ナタルは驚きを隠せない表情を見せた。



「あの坊主が書き換えたって言うOSのデータ、見てないのか? あんなもんが普通の人間に扱えるもんかよ」



キラが構築したOSはとても複雑で、OSを理解できない人間が動かすととても危険な代物であることを告げた。



「なら・・・元に戻させて・・・。 とにかく、あんな民間人の・・・。 しかも、コーディネイターの子どもに、大事な機体をこれ以上任せるわけには」

「そんでのろくさ出て行って、的になれっての?」



そんなフラガの言葉に苦虫を潰したような表情を浮かべたナタルは、
地球軍だからなのか・・・それとも、単純にコーディネイターが嫌いなのかは定かではないが、
コーディネイターであるキラに対し、嫌悪感があることは確かであろう。


ナタルの言葉に、フラガため息を吐きながらチラリと女性2人に視線を向けた・・・・・・。











2009/10/29













前回の更新がキラの誕生日。
今回の更新がアスランの誕生日。
・・・実に、5ヶ月間の空白(笑)
ボチボチ更新できたらいいなぁとおもっておりますww