爆発により、電気系統が全て切断された地下の格納庫は真っ暗の暗闇に包まれた。
その中を、1人の士官が自分以外の生存者を探す為、無重力の感性を活かしながら飛び回る。



「誰か、誰かいないのか!?」



そんな士官の目の前に、上官であり新造艦の艦長に任命されていた者の軍帽が流れ、
その帽子を見た士官は呆然とした表情を浮かべた。
徐々に双方の瞳に涙が溢れ、ギュッと軍帽を握った士官は涙を流した。



「クソッ! 誰か、生き残った者は!」



士官の言葉にシーンとした沈黙が辺りを占めたが、背後からドンドンという何かを叩く音が響いた。
士官はその音のする方向を振り向き、静かに見つめていた先に、
ショートしたことにより自動ドアの機能を持たなくなった扉を蹴破る者が懐中電灯を片手に中へと入ってくる。



「バジルール少尉!ご無事でッ!!」



あまりの眩しさに目を隠した士官に、蹴破った同じ軍服を身に纏う士官は驚いた声を上げた。

宇宙で戦闘を繰り広げていたフラガは、『ジン』が撤退していく様子を眺めていた。
そんな彼の元に、簡潔なメールが届き、
そのメールの内容に驚いたフラガだったが、肩を竦めると返信メールを開いた・・・・・・。










一方その頃、『ジン』の自爆に巻き込まれたキラたちは、
木々が先ほどの戦闘で薙ぎ倒されてはいるものの、
地球軍の輸送車のある場所へ片膝を付いた状態で巨体が再び灰色となっていた。
沈黙を守る巨体をサイは物珍しそうに見上げ、カズイはコックピット付近まで近づいていた。
ミリアリアは気を失っている地球軍の兵士の傷の手当と看病を続けており、
そんな彼女の彼氏であるトールはコックピット内のシートに座っていた。



「気が付きました? キラ〜」



小さなうめき声と共にゆっくりと瞼を開いた兵士に気付いたミリアリアは、
優しく声を掛けると少し離れたところで休んでいたキラを呼んだ。



「あぁ、まだ動かないほうがいいですよ」



兵士が横たわっているところへ近づいてきたキラは、
兵士が無理にでも動こうとして呻いているのを見ると、まだ安静にしていないと駄目だと、静止した。



「お水、飲みます?」

「・・・ありがとう」



儚そうな表情を浮かべたキラをジッと見つめていた兵士だったが、
ミリアリアから渡された水を受け取ろうとしたが起き上がることができず、キラの手を借りて起き上がった。




彼らが穏やかに会話を交わしている間も【ヘリオポリス】では警報が鳴り続けている。



「すげーな。 『ガンダム』っていうの」

「動く? 動かないのか?」

「お前ら、あんまり弄るなって」



受け取った水を飲んでいる彼女の耳に、呑気な声を発しているトールの言葉が聞こえた。
そんな言葉に、兵士は険しい表情を浮かべ、キラは内心ため息をついていた。



「何でまた、灰色になっているんだ?」

「メインバッテリーが切れたんだとさ」

「ふぅ〜ん?」



トールは物珍しそうにコックピット内のボタンを押し、
動かないことを確認した為コックピットから出ようとしたところ、
共に上ってきていたカズイが先ほどまでの色と違うことを指摘した。
そんなカズイの言葉に、先ほどキラから聞いたトールはバッテリーが切れていることを告げた。
そんなトールの言葉にイマイチピンと来ないのか、よく分かっていない口ぶりでカズイは答えた。



「その機体から、離れなさい!!」



兵士の言葉と共に、一発の銃声が鳴り響いた。
弾丸はコックピットの近くに辺り、付近にいた2人の少年は驚き、
近くに立っていたカズイは情けない声を上げた。



「何をするんです!? やめてくださいッ。 彼らなんですよ!? 気絶した貴女を、降ろしてくれたのは!」



痛みをこらえて立ち上がった兵士は銃を下ろすことなく、
向けたままの状態で機体の周りにいる少年たちを威嚇する。
その様子を見ていたキラは慌てた様子を見せながら兵士に駆け寄り、制止の声を上げた。


自分を静止しようとするキラに対して苛立ちを覚えた兵士は、その銃身をキラに向けた。
銃身を向けられたキラは驚いた表情を浮かべ、一歩後ろに下がった。



「助けてもらったことは・・・感謝します。
でも、あれは・・・軍の重要機密よ。 民間人が無闇に触れていいものではないわ」

「なんだよ・・・。 さっき操縦していたの、キラじゃんか」



兵士は痛みに耐えながら、言葉を発した。
そんな横暴とも取れる言い方に、トールは小さく呟いたが、
その言葉は兵士の耳にも届き、キラに向けていた銃身をトールに向けた。




(・・・機密・・・ね。 確かに、機密は守るべきもの。 けど・・・それはもう、通用しない。
だって、連合と敵対しているザフトにばれているもの。 だからこそ、こうして攻撃を仕掛けられた。
それに、忘れているのかな。 ここにいるのは、みんな民間人。
民間人だと解っていながら、貴女は銃を向けるのね)




キラは同様を浮かべながらも、内心では兵士に対して毒を吐いていた。
銃身を向けられたことにより両手を挙げたトールを始めとする3人は、
大人しくキラのいる位置へ進み、ミリアリアもまた大人しくトールの傍に寄った。
ミリアリアは無意識なのか、まるでキラを銃身の目の前に出すような形で彼らの後ろに避難した。



「みんな、こっちへ。 1人ずつ、名前を」



兵士は一歩下がると、自分よりも一回りほど幼い民間人の子ども全員に銃身を向けた。



「サイ=アーガイル」

「・・・カズイ=バスカーク・・・」

「トール=ケーニヒ」

「ミリアリア=ハウ・・・」



キラを除く全員が名前を告げると、兵士はキラの時だけ名前を言うよう、
まるで強制するかのように銃を突きつける。



「・・・・キラ=ヤマト(この人・・・コーディネイター嫌い・・かな?)」



キラは内心で思っていることを隠しつつ、トールたちの知る表情で名前を告げた。



「私は、マリュー=ラミアス。 地球連合軍の将校です。
申し訳ないけれど、貴方たちをこのまま解散させるわけにはいかなくなりました」

『えぇ!?』



地球軍の将校だと名乗ったマリューは、
銃身を彼らに向けたまま形だけの謝罪を述べながら拘束すると、言外に伝えた。
そんな彼女の発言に、キラを除く学生組は驚きの声を上げ、
キラは表面上は彼らと同じ驚き顔を見せてはいるが、内心では呆れ顔であった。



「事情はどうであれ、軍の重要機密を見てしまった貴方方は、
然るべき所と連絡が取れ、処置が決定するまで私と共に行動をしていただかざるおえません」

「そんな、冗談じゃねーよ。 なんだよ、そりゃ!」

「従ってもらいます」



驚く子どもを無視した大人は、
自分の言い分が正しいとばかりに軍のマニュアル通りの言葉を、民間人に突きつけた。
そんな言葉に冗談じゃないとばかりに反論したトールの言葉に対しても、
マリューは軍人特有の高圧的な物言いで反論を退けた。



「僕たちは、【ヘリオポリス】の民間人ですよ? 中立です! 軍とかそんなの、関係ないんです!」

「そうだよ! 大体、何で中立である【ヘリオポリス】に地球軍がいるのさ。
そっからして、おかしいじゃねーかよ!」

「そうだよ! だから、こんなことになったんだろう!?」



キラは彼女の言い草に対しても、ある程度の予測が付いていたのか早々に話し合いを放棄し、
傍観者に徹していた。
だが、生まれてからずっと『中立国』と謳っている【オーブ連合首長国】で守られてきた彼らは、
国内の『平和』が『仮初』だと、本当の意味では全く理解していない。
その為、彼女の言い分に対しても、黙って従うはずがなかった。






―――― バンッ!バンッ!!






何時までたっても尽きることのない糾弾に耐えかねたマリューは威嚇をこめて、実弾を二発空へ向けて撃った。




(・・・あの銃って・・・旧式だよね? ・・・よく見てないから、解らないけど・・・。
どうも、リボルバーかな? ・・・今のを含めて合計3発。
内部で2発撃っていたから・・・全部で5発は消耗しているはずだよね・・・。
本当にリボルバーなら、どう頑張っても8発しか装填できないから・・・残りは3発・・・かな?)




傍観者を決め込んでいるキラは、
目の前で自分たちを高圧的物言いで命令する地球軍士官の行動を観察することにした。

先ほど撃ったことにより、侮蔑をこめて彼女の持つ銃に装填されている残りの実弾を計算していた。



傍観者的立場を取ったが、
周りが不信がらないように表面上は突然の事態に戸惑いと不安を隠せぬ子どもを装うことをもちろん、忘れない。



「黙りなさい! 何も知らない、子どもが!!
中立だと・・・関係ないとさえ言っていれば、今でもまだ無関係でいられる・・・。
まさか、本当にそう思っているわけじゃないでしょう?
ここに、地球軍の重要機密があり、貴方たちはそれを見た。 それが、今の貴方たちの現実です」


(「何も知らない子ども」・・・ね。
一応、僕はコーディネイターだから成人しているんだよね。
まぁ、この場合大人だったら「何も知らない民間人」になるのかな?)



目の前で、彼女の言う「何も知らない子ども」に、
自分のいっていることだけが正しいとばかりに説教しつつ、
その「子ども」に現実を突きつけるマリューの姿に、キラの中でそれまで抑えていた怒りが沸々と沸きあがる。
彼女の言い分と彼らの言い分。
どちらも同じレベルのものであり、偏った見方しかできない物言いであった。



「そんな、乱暴な」

「乱暴でも何でも・・・戦争をしているんです!
【プラント】と地球・・・。 コーディネイターとナチュラル。 貴方方の『外の世界』ではね・・・・・・」



戦争を知らず、『中立国』に守られて暮らしてきた彼らを子どもと決め付け、
戦争を知っている自分は正しくそして大人だと、
そのように判別するその傲慢さは、一体どこからやってくるのだろうか。




(・・・解っているのかな? この人は、僕がコーディネイターだと薄々だろうけど、勘付いているはず。
いくらなんでも、訓練を受けていないはずの『民間人』の十代の・・・それこそ、
この人の言う『子ども』が、傷ひとつなしに4階相当の高さから飛び降りれるわけがない。
それに、『民間人』で『子ども』である僕がOSを書き換えた時、驚愕を顕にしていたもの)




キラは怒りを通り越して、呆れを感じていた。
では、ここにいる子どもたちも彼女の言う『外の世界』に出れば・・・【ヘリオポリス】から一歩でも『外』に出れば、
他の者たちと同じように殺し合わねばならないのだろうか。
彼女の頭から、根本的なものがスッポリと抜け落ちていた。
戦争をしているのは、『軍人』である。
『軍人』であるが故に、上からの命令は絶対。
そして、『軍人』であるが故に、周りは『味方』と『敵』と分けられる。
だが、目の前にいる子どもは『民間人』である。
彼女の言う『戦争』というカテゴリーに、彼らは全く該当しない。
だが、彼女はそんな彼らの目の前で意気揚々と言ってのけた。











2008/12/02













キラの呟いている内心は、当時本編を見ていた私の心境です。
当初、マリューさんに対していい感情を抱いていなかったので・・・。
最初の辺りは、彼女らに対してアンチ警報・・・でしょうかね;