アスランとミゲルが通信機越しで話している間、
白と青に染まった機体に乗るマリューは、アスランに撃たれた右肩の痛みがピークに達しようとしていた。
そんなマリューの様子に気づかないキラは、機体の鈍い動きに疑問が確証へと変わっていた。




(・・・この機体、OSが未完成? この機体だけじゃない・・・。
きっと、残りの機体も未完成だったはず・・・。 あっちの機体には、アスランが搭乗している。
ここに来た機体は・・・確か、ミゲル? ・・・貴方の運に、かける!)




傍から見ると困惑気な表情であるが、キラの優秀な脳内はこれから起こることをシミュレーションしていた。
一か八かのかけであるが、キラが弾き出した内容が現段階での最良であったため、
キラは躊躇いなく実行に移した。



「ここにはまだ、人がいるんですっ!! こんなものに乗っているんだったら、何とかしてくださいよ!!」



再び『MA-M3 重斬刀』を振りかざした『ジン』を避けるように後ろからボタンを押したキラは、
レバーを引いて機体をしゃがませた状態から肘鉄を『ジン』にくらわせた。
フェイントでの攻撃の為、『ジン』は避けられることなく諸に当たると、バランスを崩して後ろへ倒れこんだ。



「無茶苦茶だ! こんなOSで、これだけの機体を動かそうだなんてッ!」

「まだ、全て終わってないのよ。 仕方ないでしょッ!」



ある程度の予測はしていたものの、改めてOSを見たキラは驚きを隠せない表情を浮かべた。
そんなキラの心情を知らないマリューは、
まだ完成していない機体に苛立ちを隠せない気持ちが半分と
目の前にいる少年が何者かをおぼろげに気づきだしたことからの苛立ち半分が合わさって、
どこか棘のある口調になっていた。



「どいてください! 早くッ!」



キラは焦ったように、マリューに向かって怒鳴った。
そんなキラに圧されたのか、
困惑しながらもコックピットをキラに譲ったマリューはキラの素早いタイピングに驚きを隠せなかった。






―――― カタッ!カタカタカタッ






(こ、この子・・・・。 やっぱり、コーディネイター!?)




キラはマリューの視線とその意味に気付きながらも気付かないフリをしながら、キーボードを打ち続けた。


突如動きの止まった機体に不信感を持ちながらも、『ジン』は攻撃を仕掛けるべく白い機体に突進した。
だが、その突進に気付いたキラは一度モニターに視線を移すと、片手でトリガーとレバーを操作した。
バルカンが発射され、牽制した。
そのことで、ミゲルは現在目の前にある機体を操縦しているのが誰か、正確に把握した。



牽制を受けて一度動きを止めた『ジン』は、
一気に間合いを詰めると『MA-M3 重斬刀』を水平方向に斬りつけた。


水平に向けた際に一歩下がったキラは、拳を作ると『ジン』の顔面に叩きつけて『ジン』の体勢を崩した。

後ろに吹き飛ばされた『ジン』は背後にあった建物に激突し、建物の一部を壊しながら崩れ落ちた。



「――キャリブレーション取りつつゼロ・モーメント・ポイントおよびCPGを再設定・・・・チッ!
なら模擬皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結、
ニューラルリンゲージ・ネットワーク再構築―メタ運動のパラメータ更新、
フィードフォワード制御再起動、伝達関数―コリオリ偏差修正―運動ルーチン接続、
システム、オンライン、ブーストストラップ起動・・・・・・!」



キラは『ジン』が暫く起き上がってこないことを確認すると、ブツブツと呟き、
時々悪態や舌打ちを挟みながらも猛然とキーボードを常人ではありえない速度でOSを書き換えていく。
全てのシステムを確認し終わったキラは、ペダルを踏み込みレバーを引き上げた。
これまでの幼稚な動きとは一転して即座に反応した機体は、ブーストの状態でジャンプして空中に飛んだ。
『ジン』もまた機体を追うような形で飛び、その間も『MMI-M8A3 76mm重突撃機銃』を連射し続けた。
連射射撃を綺麗に避けながらキラは再度スペックを呼び出した。



「後は・・・。 『アーマーシュナイダー』!? これだけか!」



スペックを呼び出すとモニターに機体構造図が呼び出され、
機体の型式番号と名前や頭部バルカンのほかに、
両腰アーマーに収納される折り畳み式対装甲ナイフが点滅され、舌打ちした。
ボタンを押し、両腰から折り畳み式ナイフが射出される。
それを掴むと同時に、
ブーストの時間切れで再び地上に降り立った『ジン』が
僅かな差で同じく降り立った機体・・・『GAT-X105 ストライク』に再び照準を合わせると連射を続けた。
だが、その連射を素早い動きで『ストライク』が避ける。



「さすが、彼女だな・・・。 そろそろ、攻撃を仕掛けてくるか?」



ミゲルは先ほどよりも数段動きが機敏になった機体を感心したように頷き、
OSを戦闘中に書き換えた彼女の実力に改めて驚かされていた。



「こんなところで・・・! やめろー!!
(・・・この攻撃で、彼にも伝わるはず。
私がこれに乗っていることは、既にアスランによって知らされているはずだもの。
不本意だけど・・・これからの行動を考えると、これがベスト・・・ね)」



口で叫んだ言葉とは正反対なことを思っていたキラだが、
表情には一切出していない為、マリューに全く気付かれなかった。



連射攻撃が終わった瞬間、再びブーストのゲージが溜まったのを確認したキラは、
軽くジャンプをしながら間合いを一気に詰め、
『ジン』の懐に入り込むと左・右と『アーマーシュナイダー』の剣先で『ジン』の首のジョイント部分を突き刺した。

一番脆い部分をピンポイントで突き刺された為、電気系統が火を噴く。
そのことにより、『ジン』は完全に沈黙した・・・・・・。



「ハイドローとなし。 多元浮動システム応答なし。
・・・『フェイズシフト装甲』なら、これくらいの衝撃を耐えることは可能だろ」



ミゲルは沈黙した『ジン』がもう動かないことを確認すると、自爆装置を起動させた。
ここまでする必要性はないのだが、現在民間人として行動しているキラの今後を考えると、
ここで何もしないよりは機体を自爆させることが最善だと判断したからだ。
自爆装置を起動させるとモニターには残り時間が表示され、
それを確認したミゲルはコックピットを開けるとそのまま脱出した。



「!? まずいわッ! 『ジン』から離れて!!」



その様子をモニターで確認したマリューは
敵兵が機体を破棄した意味を理解したのか驚愕の表情を浮かべ、キラを怒鳴った。
そんなマリューに僅かに眉を潜めたキラだが、もちろん彼女の言っている意味を理解している。
だが、民間人はその意味を理解することはできないことはよく分かっている為、驚いたように振り返った。
それと同時に、カウント0になった残り時間と共に無人の『ジン』が爆発を起こし、
その爆風と共に大きな巨体が吹き飛ばされた・・・・・・。










『ジン』の自爆と同時刻、
【ヘリオポリス】の地下・・・大量の爆薬を仕掛けられたドックでは無重力の中、
幾多の死体や道具が浮いていた。
そんな中、壁に衝突したと同時に気を失っていた1人の女性仕官が目を覚まし、
次第に広がる光景に息を呑んだ。



「・・・・船。 アークエンジェルは!?」



女性仕官はそれまで自分にぶつかってきた死体に息を呑んでいたが、
自分に与えられた任務を思い出したのか急いで確認と他の生存者を探す為に飛んだ・・・・・・。










一方未だ戦闘の続く宇宙では、
エンジン部分を狙われた地球軍の艦は爆発を起こしながら目の前に迫る【ヘリオポリス】に衝突しようとしていた。



「操舵不能ー!」

「ぬぁー!!」



操縦士は衝突を避けようと必死に舵を握ったが、
エンジン部分を損傷したと同時に制御が不能になったのか、
努力むなしく【ヘリオポリス】に衝突し、グチャッと真っ二つに曲がって爆発した。










同じく宇宙で戦闘を続けていたヴェサリウスの艦橋では、爆発した地球軍艦を見据えていた。



「ミゲル=アイマンよりのレイザービーコンを受信。 エマージェンシーです!」

「ほう。 ミゲルが機体を失うとはな。 ・・・彼女が乗っているからか」

「隊長、当初の予定が完全に覆されましたよ。
本来ならば、彼女はこの戦闘が始まる前に帰還する予定でしたでしょう」

「・・・こうなったからには、仕方あるまい。 ・・・やつに連絡を」



管制官の言葉に、クルーゼは感心した声を出した。



既に【ヘリオポリス】に残る最後の『G』シリーズ以外は、
ヴェサリウスとガモフに格納されて現在はシステムの解析とOSの構築を行っている。


そして、帰還の際に最後の機体には誰が搭乗しているのか、
報告がされているためにアデスは管制官の言葉に当然だろうとの表情を浮かべていた。




しかし、予定していた計画とはかけ離れた現状に対して不安を隠せないアデスに、
考える仕草を見せたクルーゼは、通信士にとある回線を指定した・・・・・・。











2008/11/01













まず最初に・・・・。
保志さん、本当にお疲れ様です!(敬礼)
『ストライク』のOS起動・・・何度も聞き続けました;
早口なので、一度では聞き取れません(涙)
数回聞いて、確かめて・・・・漸く完成させました;