ブリッジから出ようとした地球軍の艦長は、かすかに鳴り響く警告音を不審に思い、
中央に出たままとなっていた球体の宇宙地図を見つめた。
緑に光る宇宙地図は、中央にある【ヘリオポリス】に向かって来る二隻の進路を示していた。











「こちら、【ヘリオポリス】。 接近中のザフト艦、応答願います。 ザフト艦、応答願います!」

「管制長!」

「落ち着け! ええい、アラート止めんか!」



突如、【ヘリオポリス】の宇宙港管制室に鳴り響くアラート。
接近するザフト艦2隻を確認した所員たちは慌しく近づいてくるザフト艦に警告を放つが、
止まることなくこちらに近づいてくる。
責任者である管制長の姿に、
1人の所員は安どの表情を見せたが、緊迫した状況のためすぐさま不安気な顔に変化した。



「接近するザフト艦に通告する! 貴艦の行動は我が国との条約に大きく違反するものである。
直ちに、停船されたし!」



管制長の通信に、ノイズが混じり始めた。
それでも、管制長は【ヘリオポリス】の本国であるオーブは中立の立場を取るこのコロニーに、
戦艦の入港を一切認めない。




だが、近づいてくるザフト艦2隻はその通告を無視して、徐々にその距離を縮めている。



「強力な、電波干渉! ザフト艦より発信されています! これは・・・明らかに戦闘行為ですッ!!」



通信状態を確認していた所員は、信じられないとでも言うような表情で管制長に伝えた。
そんな部下の言葉に、勧告を発していた管制長は一気に血の気が引いたように顔面蒼白となった。










同じ頃、電波干渉をしていた戦艦・・・ヴェサリウスでは、隊長席に座るクルーゼが徐に右手を翳した。
そのことで戦闘開始という合図になった・・・・・・。





隊長の戦闘合図を受けた格納庫は一気に慌しくなり、
既にスタンバイされていたザフト製の二足歩行戦闘兵器・・・MSのジンが数機、2隻から出撃した・・・・・・。










一方、艦を出ようとした地球軍の艦長はそのままブリッジに残り、
出払っていたほかのクルーたちと護衛としてここまで共にやって来たフラガを呼び戻した。



「敵は?」

「2隻だ。 ナスカ及び、ローラシア級。 電波妨害直前にMS部隊の発進を確認した」

「ルークとゲイルは、『メビウス』にて待機。 まだ、出すなよ!」



呼び戻されたフラガは、艦長席に座る指揮官の横を通り過ぎるとCIC席に座るクルーの椅子を握った。
フラガの目の前には近づいてくるザフト二隻の特徴が映し出され、
それと同時に2隻から発進されたMSの進路も映し出された。
それらを核にしたフラガは、
近くにいる飛行型戦闘兵器であるMAの搭乗者2名を指名し、機体で待機するように命じた。
フラガは即座にブリッジから出ると、
自らも愛機である『メビウス=ゼロ』に搭乗する為に格納庫へと向かった・・・・・・。










アラートが鳴り響く中、
宇宙港の最深部に造られた管理室で作業している地球軍兵士たちは慌てた様子で指揮官に駆け寄った。



「艦長」

「慌てるな。 迂闊に騒げば、あちらの思う壺だ。 対応は、【ヘリオポリス】に任せるんだ」



駆け寄る部下に、艦長と呼ばれた指揮官は冷静な判断で回りに指示を出す。




《第16隊班は、物資搬入を開始》


《起動電圧、正常》




ガラス越しに見える作業は、緊迫した様子で最後の作業に追われていた。



「解っている。 いざとなれば、艦は発進させる! ラミアス大尉を呼び出せ! 『G』の搬送を開始させろ!」

「ハッ!」



通信を切った艦長は、後ろに控えていた兵2人
・・・先ほど、キラたちがエレカステーションで会った2人に最も重要である機密の塊の搬送を開始させろと命じた。




だが、彼らの気付かないところでセットされた爆破装置は、残りカウント4秒を切っていた・・・・・・。










ヴェサリウスの艦橋では、モニターにMS部隊と【ヘリオポリス】が映し出され、
静かに見つめていたクルーゼはアデスに指示を出した。



「高山部を叩いたら、一気に抑えるぞ」

「ハッ!」



クルーゼの言葉に緊張した面持ちのアデスは、今回の作戦が無事に終了することを祈っていた。
すでに2隻から発進していた数機の『ジン』が【ヘリオポリス】の宇宙港へ向かい、
宇宙港からは防衛の為に『ミストラル』が発進した。










外で起きていることにまったく気付いていないコロニー内部では、いつもと変わらない日常が続いていた。
だが、刻一刻と迫る装置の時間。



「アークエンジェルへ! 急いでッ!!」



モルゲンレーテの作業服に身を包んだ1人の女性が、大きな搬送車に指示を出す。










宇宙港の最深部に隠された白い戦艦の下にセットされた装置が、0をカウントした。
突如、鳴り響く爆音。
その爆発は、最深部全体を包み込むと、
管理室を隔てていたガラスを爆発で粉砕され、管理室が一瞬にして炎に覆われた。
指揮官の命令で通路を通っていた2人もまた、黒煙の爆風に吹き飛ばされた・・・・・・。










宇宙港の最深部で起こった爆発は地上にも影響し、
ほぼ真上に当たるモルゲンレーテは大きな揺れが起こっていた。



「きゃあ!!」



モルゲンレーテ内にあるキラのいる研究室でも大きな揺れが起こり、備え付けであった棚を落とした。
まるで、地震のような揺れ。




宇宙に浮かぶコロニーでは、決して起こりえない現象であった。



「隕石かッ!?」



キラの隣に座っていたサイは、目を見張りながら周りに被害がないかを確かめた。




(・・・作戦時間、来たんだ。 ・・・これで、漸く還れる)




キラは表面では心配そうに周りを見渡しながらさりげない仕草でPCに転送されていたメールを確認した。
メールの内容に、内心でクスクスと微笑んだキラだったが、見事に表には出さなかった。









コロニー内部が爆発によって揺れる頃、外では『ジン』と『ミストラル』の攻防が繰り広げられていた。



「フラガ大尉」

「船を出してください。 港も制圧されます。 此方も、出る!」



地球軍艦に収められていた一機のMAに、パイロットスーツを身に纏ったフラガが滑り込む。
安全装置を付けながら通信機越しに聞こえる艦長の声に反応したフラガは、
宇宙港が制圧される前に脱出しろと、告げた。





『ミストラル』の攻撃を避け、ピンポイントでコックピットを狙う『ジン』。


次々と撃墜される『ミストラル』に、宇宙港から姿を現した数機の『メビウス』とフラガの搭乗する『メビウス=ゼロ』。

そして・・・輸送艦に扮した地球軍艦もまた、その姿を現した。



宇宙港内に侵入した『ジン』は、港の管理室を破壊した。



「ザフト軍MS、第7エリアに侵入!」



その破壊を受け、【ヘリオポリス】全体を管理する司令塔では、
鳴り止まないアラームとその対応などに追われる管制官たちの姿があった。
変わらない日常を送っていた市民たちの頭上を通過する『ジン』に、
信じられない表情を浮かべていたが、通過する際に巻き起こる風圧に、その身を守ることで精一杯であった。





外にいる陽動部隊とは別行動をしていた別働隊は、
指定されたポイントの地点に到着し、現在繰り広げられている状況を静観していた。
遠距離を見る事が可能な電子双眼鏡を覗き、見たことのない形をするMSを確認した。



「・・・アレだ。 クルーゼ隊長の言った通りだ」



確認した銀色の髪をした少年は、双眼鏡を下ろしながら隣にいる金色の髪をした少年に視線を送った。



「突けば慌てて巣穴から出てくる・・・・・って?」

「やっぱり、間抜けなものだ。 ナチュラルなんて」



銀色の髪を持つ少年と金色の髪を持つ少年は、皮肉気に顔を歪めると急いで搬送する地球軍の姿を嘲笑った。
そんな彼らの会話を聞きながら、紺瑠璃色の髪とエメラルドの瞳を持つ少年は、
その美しい瞳に冷ややかな色を宿しながら目の前に広がる光景を静かに見据えていた・・・・・・。



「お宝を発見したようだぜ。 セクタS。 第37工場区!」

「了解。 流石イザークだな。 早かったじゃないか」



陽動として宇宙港から侵入を果たした『ジン』に送られてきたデータを見据えたザフト兵は、
共に侵入していた人物へ告げた。
その告げられた内容に、金色の髪とオレンジスピネルの瞳を持つ青年は、その報告にニヤリと笑った。
2機の『ジン』は、送られてきたデータのエリアへと空を翔る。










――――― 『G』の元へ・・・・・・。








2008/10/01















1話の後半スタートです。
半分以上が戦闘なので・・・副題に使用。
ブログを先に読まれた方には“彼”の正体はバレバレでしょうけどね;