「・・・・・・。 ハッキングすればいい。
こちらからウィルスを流し、あちらの制御をこちらが掌握すれば・・・ジ・エンドだ」



あの子の平穏を脅かしたその罪、万死に値する。
本来ならば、あの艦丸ごと落としたいところだが・・・・あそこには、あの子がいる。



落とすことが叶わないのならば、
やつらのちっぽけなプライドを粉々に砕いてやらないと・・・気がすまない。

たったそれだけで、この怒りを抑えてやるんだ。




寛容・・・だろう?












02. 初めての人質











未だに微妙な空気がブリッジを包み込んでいる中、その原因が再び入室してきた。




いつものようにドアの前で入室許可を得ることなく、
そのまま入ってきたことに驚きを隠せないクルーたちであったが、ヒシヒシと背中に感じる威圧感に怯え、
誰一人として後ろに振り向こうという勇者はいなかった・・・・・・。



「・・・隊長、プログラムが出来ました。 いつでも、流せます」

「そうか。 だが、あちらと回線を繋げないといけないのだろう?」

「あちらの回線は、既に開いていますから。 彼女たちは、『ハロ』の回線を切る方法知りませんし」



アスランは表情を変えることなく自らの持つPCを立ち上げた。
起動されたPCの画面に映し出される複雑な構造となっているプログラム
を静かに見据えていたクルーゼは、
現在映し出されているプログラムを流すには先ほどの説明だと
キラの持つ『ハロ』と通信回線を開かなければならないのでは・・・と疑問を持った。
そんなクルーゼに、アスランは目を細めながらそちらの準備も完了だと告げた。



「・・・では、予定通り計画を決行する。 アスランはすぐさまこのプログラムを流してくれ。
開始の合図は、君のカウントとしよう。 ミゲルとラスティ、アスラン以外もそれぞれの機体で待機。
掌握後、『ブリッツ』の支援へ向かえ」

『了解。 ザフトの為に!』




アスランの言葉を聞いたクルーゼは、
自分の目の前に立つパイロットたちを見渡すと次々に指示を出した。
この場にいないニコルは既に『ブリッツ』で待機しており、
後はアスランがプログラムを流すだけとなっていた。
イザークとディアッカは、敬礼をし終わるとすぐさまブリッジから退室して格納庫に向かった。



アスランは後ろの様子を気にすることなく、複数のコマンドを打ち込んでいた。
その様子を少し離れた所で静かに見守っていたミゲルたちであったが、
掌握後のことを考えて彼らも格納庫へ向かった。




全てのコマンドを打ち終えたアスランは、
エンターを押すと共に画面いっぱいに映し出された愛し子の姿に、
それまで身に纏っていたどす黒いオーラを一瞬にして払拭させた。




(!! 一瞬にしてどす黒いものが消えた!?)




アスランの変化をヒシヒシと肌で感じていたクルーたちは、
それまで消えることのなかった
どす黒いオーラと威圧感が綺麗に消え去ったことに驚きを隠せないでいた・・・・・・。







《・・・あら? グリーンちゃんの回線が開いておりますわ。 キラ、こちらをご覧なさいな》

《・・・ヒック。 ・・・・う? あしゅ?》


「キラ」



キラの抱くグリーンちゃんの両目が赤く点滅していることに気付いたラクスは、
偶然にもアスランと通信が繋がった際に聞いていた表示画面方法の手順を踏んで
グリーンちゃんの頭上に小さなモニターを出現させた。

そんなラクスの様子を涙をこらえならがも小さな嗚咽を出しながら小さく首を傾げたキラは、
ラクスが示すように自分の腕に抱くグリーンちゃんを正面に向けた。


小さなモニターに映る大好きな人の顔を見つけたキラは、小さな声で大好きな人の名を呟いた。
どんなに小さかろうとキラの声と聞き逃すことのないアスランは、
彼女限定に見せる優しげな笑みを浮かべながら、キラを怖がらせないように優しい声をかけた。


そんな声に、周りにいたクルーたちが大きな衝撃を受けているのだが、
そんなものキラにのみ意識が向いているアスランにとってまったく気にする必要のないものであった。




《・・・先ほどの宣言、私たちも驚いておりますわ。
・・・あの方たちは私たちを“人”とは思っていないようですわね。
・・・このようにして通信を開かれたのは、何か理由があるのでしょう?》

「えぇ。 ・・・あの宣言後、何かあったのですか?」



涙を浮かべるキラの頭を優しく撫でながら、モニターに映るアスランに真剣な視線を向けた。
ラクスの言葉に頷きで肯定したアスランは、
キラの姿を見て払拭したはずの黒いオーラを再びその身に纏った。




《ナチュラルの方々に悪意を向けられたのですわ。
初めは、お分かりになっておりませんでしたが・・・キラはとても頭がいいですわ。
なぜ、自分に向けられているのかまでは理解できないようですが》




アスランの問いかけに少しだけ思案したラクスは、
そのアクアマリンの瞳に悲しみを宿しながら
通信が切られた後のブリッジ内で晒された自分たちの状態を告げた。



「・・・・キラ、聞こえるかい?」


《・・・あしゅ?》




ラクスの言葉にアスランは形のいい眉を顰めたが、
表情を変えることなく先ほどよりは落ち着きを取り戻したように見えるキラに優しく話しかけた。
アスランの言葉に、涙の後の残るキラはキョトンとした表情を見せた。



「そうだよ? ・・・キラ、俺の言うことを聞けるよね? キラの今もっているハロ、ラクスに預けて?」


《・・・ぐりーんちゃんをらくしゅに? あい》

《受け取りましたわ、アスラン。 このグリーンちゃんをどうすればよろしいのです?》


「部屋の中にある備え付けのPCの隣に置いて、PCを起動させてください。
ハロの側面に、小さな窪みがあると思います。 そこを、軽く押してください」



モニター越しに小さな腕を伸ばしてくるキラに対し、
優しい微笑を浮かべたアスランは、キラが大切に抱えているグリーンちゃんをラクスに渡すように指示した。

アスランの言葉に何のためらいも見せないキラは、素直に抱えていたグリーンちゃんをラクスに渡した。
キラからグリーンちゃんを受け取ったラクスは、
何かの意図を持って自分に渡すように告げたのだと確信し、次の指示を待った。



アスランからの指示に従ったラクスは、
固定されているPCの隣にグリーンちゃんを置き、PCを起動させながら側面の窪みを押した。




《終わりましたわ。 次は、何をすればよろしいのです?》


「いえ、していただく作業はそれだけです。 後は、こちらで出来ますから。
キラ、ラクスの傍を離れないようにね? もうすぐで、全部終わるから」



全ての作業を終えたラクスは、モニターに映るアスランに次の指示を仰いだ。
だが、ラクスに準備してもらう作業は全て完了した為、後はキラと静かに待っていてくれと告げた。
静かにラクスの作業とアスランの言葉を聞いていたキラに、
もう一度安心させるように微笑を浮かべた・・・・・。






キラたちとの通信を切ったアスランは、
先ほどキラに見せた微笑が幻だったかのように
払拭されていたはずのどす黒いオーラが再び彼を中心にブリッジ内へ広がりを見せた。




アスランはグリーンちゃん経由で、ラクスたちが軟禁されている部屋のPC内に侵入した。
グリーンちゃんはPCとの接続が確認されると、先ほど押された窪みが反応し、
グリーンちゃんの口がパカッと開かれ、中から1本のコードが出現した。


コードはラクスに触れられることなく自動で固定されているPCに接続され、AAのマザーを表示し出した。

その様子は、グリーンちゃん経由で接続されているアスランのPCにも流れており、
必要なデータを確認したアスランは、別窓で表示していたプログラムを流した。



「・・・プログラム、正常に稼動。 ニコルに、出撃命令を。
このプログラムは、後2分で全体に侵食します。
ですので、『ミラージュコロイド』のまま、出撃しても何の問題もありません」



エンターを押したアスランは後ろを振り向き、それまで黙って作業を見つめていたクルーゼに告げた。
そんなアスランの言葉に、クルーゼは頷くとオペレーターに合図を出した。



「システム、オールグリーン。 カタパルト開放。 『ブリッツ』、発進して下さい!」


《『ミラージュコロイド』、生成良好。 散布減損率、37%》




AAに感知されないように死角の位置にカタパルトを向け、静かに開放した。



AAの感知システムは既にアスランが掌握した為、機械での探索は既に無効化されている。
だが、カメラが備えられている艦の側面まで欺くことは出来ない。
そのため、さり気ない動作でAAに怪しまれないよう注意を払いながら死角の位置へ持ってきたのだ。


静かにカタパルトが開放され、『ブリッツ』のコックピット内で待機していたニコルは、
『ミラージュコロイド』を展開させるボタンを押し、順調に展開していく様子を見守った。




完全に生成されたのを確認したニコルは、
そのまま音を立てることなくAAのブリッジ付近へと近付いて行った・・・・・・。








2008/06/01
Web拍手より再録。