「・・・プログラム、正常に稼動。 ニコルに、出撃命令を。
このプログラムは、後2分で全体に侵食します。
ですので、『ミラージュコロイド』のまま、出撃しても何の問題もありません」



後、少しで愛おしいあの子をこの腕に。



もう少しだけ、待ってて?
絶対に、その鉄の鳥籠から助け出して見せるから。



もう、泣くことを我慢しなくてもいい。
心が純粋なキラにとって、悪意を向けてくるナチュラルの言葉は、とても痛かっただろうから。




俺が、守るから。



だから・・・、可愛らしいその微笑みを俺に見せて?












02. 初めての人質











時は少し遡る。
“人道的立場”から保護したにも拘らず、
敵対するコーディネイターであるがために民間人である少女たちを
非道な手段で“人質”にしたAAのクルーたちは、
“人質”のおかげで偽りと知りながらも一時期の平和を過ごしていた。
先ほどまで戦闘が行われていたにも拘らず、
艦内はすでに戦闘配備が解除されており、ブリッジ内では緊張感かが欠けていた。





――――― 今ある平和が、嵐前の静けさだと知るのは・・・ごく一部の人間に過ぎなかった・・・・・・。










―――― ブゥン・・・













「!!?」

「い、一体何なの? ・・・緊急時に備えて、別回線で非常灯が付くはずです。
ノイマン曹長、そっちに切り替えて」

「了解。 切り替えカウント、開始。 5・4・3・2・・・、切り替えます」



戦闘区域にいたにも拘らず、緊張感の欠けたブリッジが突如全ての電源が落ちた。
落ちたのは電力関係全てのため、辺りは宇宙から差し込む僅かな星明りを頼りに、
ノイマンはカウントを取りながら非常灯のコマンドを押した。
電力が落ちた為、敵影探索やCIC、艦内への全チャンネルが全て遮断された。



「ッ!! 艦長ッ! 電力が回復しても計器類がまったく反応を示しません!」

「なんですって!? すぐに回復は出来るの!?」

「・・・それが、画面自体がブラックアウトしてます!」



電力は回復したものの、そのほかの機器が全て反応しないことにクルーたちは驚きを隠せずにいた。
クルーの報告に驚きを隠せないマリューは、すぐに回復できるか聞き返したが、
彼らは知らないがプログラムの時点で書き換えられているために修復不可能であった・・・・・・。



「・・・艦長・・・。 舵も取れません。 こちらの意思では、一歩たりとも行動することすら不可能です」

「・・・・なんてこと・・・・。 でも、一体誰が・・・・? !!?」



舵を握っていたノイマンの呆然とした報告に、
脱力感からか艦長席に深く座り込んだマリューは顔を伏せ、手で額を支えた。
AAに乗艦するクルーや民間人の命を守る義務のあるマリューは対策を練ようと、再び顔を上げた。
だが、その目に飛び込んできたのは自分たちが開発してきた
Gシリーズの中の1機・・・特殊なシステムが組まれていた黒き機体・『ブリッツ』が
ビームライフルの銃口をブリッジに向けていた・・・・・・。




《チェック・メイト。
こちら、ザフト軍クルーゼ隊・ニコル=アマルフィ。
貴艦に勧告いたします。 貴艦の計器類は全て、こちらで掌握させていただきました。
無駄な抵抗をせず、こちらの指示に従ってください》


「・・・子ども・・・・? まだ、彼らと変わらない年頃の声じゃない・・・・」



強制的に全周波で通信回線を開かれたブリッジでは、
【ヘリオポリス】の元民間人である少年兵たちと同年代であろう
敵軍のパイロットの声に驚きを隠せないでいた。



「・・・艦長・・・。 いかがなさいますか?」

「・・・私たちに残された道は、1つしかないわ。 ノイマン曹長、投降信号を上げて」

「了解」

「艦長ッ! ザフトに投降なされるおつもりですかッ!!
ここで投降しては、我々がこれまでやってきた意味がッ!!!」



目の前で起きていることに対し、
対処しきれずに思考が停止したクルーたちの中でノイマンはひどく落ち着いた様子で、
マリューにとるべき道を尋ねた。



そんなノイマンの言葉にマリューの脳裏には上官から言われた特務内容を反芻させたが、
艦長としての自分が何を選ばなければならないのかを朧気にも理解していた。


マリューの言葉に頷きを返したノイマンは、目の前にある赤いスイッチを押そうとしたが、
戦闘指揮官として副艦長席に座っていたナタルが身を乗り出し、マリューに詰め寄った。



「投降しなければ、我々は何の抵抗も出来ずにこのまま死ぬでしょう。
私は、軍人ですから“死”は怖くないわ。 でもね? 私1人の命ではないの。
ここにいるクルーたちや先ほど人質にしてしまった彼女たちが乗っているのよ。
貴女ならできる? 彼らの命を巻き添えに死ぬという行為が、貴女はできると思うの?
それが、最善の判断だと・・・貴女は、そう思うの?」



マリューは真剣な表情で、目の前にいるナタルを見据えながら静かに告げた。
彼女の言葉は他のクルーたちの心にもしっかりと響き、
それぞれが真剣な表情で中央にいる2人を見つめていた。



「分かり・・・ました」



ナタルの悔しそうな小さな呟きはシンと静まり返っていたブリッジに響き、
スイッチの上で固まっていたノイマンの指が、赤いスイッチを押した・・・・・・。










―――――― “人道的立場”から保護した民間人を“外道”の道を選び、
人質にしてまでザフトからの攻撃を逃れた、地球軍の“大天使”。
だが、その道が己の命運を分けるとは知らず。



大切な“天使”を己が手に再び抱く為、紅き騎士が眠っていた獅子を呼び覚ました・・・。





全ては、愛しき“天使”を守る為に・・・・・・。









END.








2008/07/01
Web拍手より再録。















漸く、ENDを付ける事ができました;
今年の元旦からですから・・・7ヶ月かかりましたね・・・。
私自身、Web拍手史上長期の連載となりました。
最後が微妙に尾切れになってますが、
今月より拍手に記載されているものが続編となります。
今回のテーマは、『人質』でしたので、人質→AA掌握まででした。
番号が飛んでますが、基本続いている内容であれば気にしませんv
できるだけ、番号順をそのままに時列を進める予定ですが;
7ヶ月間もの間、【初めての○○】にお付き合いくださいまして、ありがとうございましたv