「あしゅ。 きらね、あしゅとのおやくしょく、まもったよ。 きら、らくしゅといっしょに、あしゅをまってる」

《・・・あぁ。 すぐに迎えにいけるよう、頑張るからね》



迎えに行くよ、キラ。
可愛い、俺の愛し子。

もう、怖い思いなんてさせない。
悲しいのに、我慢して泣かない君はとても痛々しいから。


さぞ、あの艦で強いられた生活で辛い目に合ったんだろう。
幼いながらも、優秀すぎるから悪意に満ちたものも全て感じてしまうんだね?



何より、小母上たちを殺した『ナチュラル』と同じ地球軍。




あの現場にいた君の目に、やつらの纏っていた軍服が強く焼きついているのだろう・・・・・・。












02. 初めての人質











嬉しい誤算で今は敵戦艦に表向きは保護となっているが、
実際には囚われの身となっている愛し子と僅かな時間ではあるが、
会話することが出来たアスランは、部屋に備え付けられているデジタル時計で時間を確認し、
PCの電源を落として自室を後にした・・・・・・。




《コンデションレッド発令。 コンデションレッド発令。
作戦時刻まで、残り30分。
パイロットは、直ちにMSにて待機。 各クルーは、所定の位置へ。 もう一度繰り返します・・・》




艦内放送から聞こえるオペレーターの声に、一気に艦内が騒然となった。





待機室へ入ったアスランの目の前には、
既に同じ艦所属であるアオライトの瞳を持つ少年・・・ラスティ=マッケージと
ラピスラズリの瞳を持つ少年・・・ミゲル=アイマンの姿があった。



「遅かったな。 あっちではもう、準備は整っているはずだぜ」

「あぁ。 ・・・どうも、元からあの艦は掌握にする予定だったみたいだな」

「? どうゆうことだ?」

「・・・確証はない。 まぁ、アレを掌握してから分かることだ。 俺の勘違いかもしれないしな」



既に着替え終わっているラスティは、いつもならば既にMSへ向かっている同僚に声をかけた。

そんなラスティに対し、先ほどまでラクスに聞いていた内容で、とある確証を握っていた。
だが、それを断定するまでの材料が全て揃ってはいない為、
それが正しいという判断は彼には出来なかった。
そのため、ミゲルの言葉に肯定や否定を述べることが出来ず、
全てが解決するのはAAを掌握してからだと結論付けた。





3人はそれぞれのパイロットスーツに着替えると、自分たちの愛機へと乗り込んだ。




《全機、パイロットの搭乗を確認。 システム、オールグリーン。 カタパルト、開放。
『イージス』、『デュエル』、『バスター』、『ブリッツ』、『ジン・ミゲル機』、『ジン・ラスティ機』。
発進してください!》




3人が乗り込むとそれぞれのコックピット内にオペレーターの声が響いた。



発進コールが終わると、それまで閉じていたカタパルトが開放され、
4機のGシリーズと2機のジンが漆黒の闇へ飛び出した・・・・・・。










宇宙に飛び出したアスランたちは、作戦前に行ったミーティングした通りに動いた。


まず、遠距離攻撃が得意分野である『バスター』がAAのメインエンジンを狙い、
そのアシストとして『ジン』2機が参戦する。
AAから出てくる『メビウス=ゼロ』に対しては、
彼らの中で一番闘争心の強い『デュエル』が担当。
『イージス』と『ブリッツ』は、『メビウス=ゼロ』がAAの援護に回らないように引き離す役を担った。
これらの役割は、今までの戦闘データを集計したトータルで出した適材適所の結果であった。



目標ポイントに着いた『バスター』は
『超高インパルス長射程狙撃ライフル』をAAのメインエンジンに照準を合わせ、狙撃した。
AAは『ジン』2機によって足止めされていたため、狙い通りにエンジン部分から爆発が起きた。

しかし、サブエンジンが搭載されている為、
完全に足止めというわけではないが、彼らの目的は撃沈ではなく掌握のために問題はない。


メイン部分を落とされたためAAは艦の制御が難しくなり、均等が僅かにずれ始めた。
そんなAAを見逃さなかった『ジン』は、
合流した『バスター』と共に危険値まで追い込むように攻撃を過激化させた。


そんな様子を片目で確認した『デュエル』は、
『イージス』と『ブリッツ』との連携をとりながら『メビウス=ゼロ』を翻弄し続けた。



『メビウス=ゼロ』本体を取り囲むように搭載されている4基の『ガンバレル』が
有線誘導によって3機を襲うが、既にシミュレーションされていた3機は危なげなく回避し続け、
再び『メビウス=ゼロ』へ戻る前に一斉射撃を始めた。

もちろん、彼らも撃墜することが目的ではない為、
照準はわざとずらされているが逃げることに精一杯なため、
『メビウス=ゼロ』のパイロットであり軍歴の長いフラガでもその真意を気付く事はなかった。


尤も、『有線誘導式ガンバレル』をフルに活用して単体に集中砲火したとしても、
Gシリーズの特徴であるPS装甲の前にはまったくの無力である為、たいしたダメージは与えられない。

だが、あえて避けることで相手に焦りとプレッシャーを与えることに関しては、
最も有効な為にあえて回避し続けたのだ。










AA側は今までにないチームワークで攻めてくるザフト軍に、焦りと不安を隠せなくなっていた。
CICに就いていた少年兵たちは自分たちが死ぬのではないかという恐怖も合わさって、
オペレーター席に就いていた少年兵・・・カズイ=ガスカークなどは恐怖のあまりに震えていた。



「くっ! アルスター二等兵に通信を開け!」

「は、はいっ!」



副艦長席に座っていたナタルは、
居住区にいるもう1人の少女兵の名を叫びながら部下に通信回線を開かせた。

ナタルの声に対し、忠実に彼女のいる部屋に回線を開かせた。




《・・・はい》


「アルスター二等兵。 すぐさま、コーディネイターの2人を連れてブリッジへ。 至急だぞ!」


《えっ!? 私がですか!?》


「そうだ! 早くしないと、この艦が落とされるぞ!」



小声で返事した少女・・・フレイ=アルスターに対し、ナタルはラクスたちを連れてくるように命じた。
そんなナタルの命令に対し、フレイは嫌そうな声を出したが、
ナタルは気にすることなく現状を簡潔に伝えた。




そんなナタルの発言にフレイは、回線の前で震えた。
そんなフレイの返事を聞くことなく回線を切ったナタルに、
艦長席に座っていたマリューは何か言いたげな表情を浮かべたが、
何も告げることなく目の前に突きつけられている現状の打破する方法を模索していた。










一方、ナタルの命令を受けたフレイは最後に告げられた言葉を反芻していた。



「・・・この艦が落とされる? 私、死ぬの? そんなの、絶対に嫌! ・・・そうよ。
あの化け物たちを人質に取ればいいのよ。 そうしたら、この艦・・・私は無事を保障されるわ」



フレイはブツブツと呟きながらラクスたちのいる士官室へ向かった。










艦が攻撃の衝撃で揺れる中、
ラクスは優しい笑みを浮かべながらキラが安心するように歌を歌い続けていた。
静かにラクスの歌を聴いていた『ピンクちゃん』だったが、
外にある気配に気付いたのか扉の前でポーンと飛び跳ねた。
そんな『ピンクちゃん』の様子に、ラクスは歌をやめるとジッと扉を見つめた。





―――― プシュンッ!





ロックが外され、何も告げることなく勝手に進入すると目の前に座っているラクスの腕を強く引っ張った。
そんなフレイに驚いた様子を見せることなく立ったラクスに、
キラは不安そうな表情を浮かべながら抱きついた。


そんなキラに対し、フレイは狂気をその瞳に宿しながらキラを睨みつけた。

フレイの視線をまともに受けたキラは、ガクガクと痙攣のように震えだし、
近くを跳ねた『グリーンちゃん』を強く抱きしめた。


キラは今まで強烈な負の感情を宿した視線を受けたことがなかった。
常に絶対的信頼を寄せているアスランが傍にいた為、大切に守られてきたのだ。

そのため、キラにとってアスランの傍は安心できる居場所として認識されており、
キラを守ることに関しては刷り込みのように無意識に己に対して課しているため、
アスランも不思議に思っていない。
初めて受ける強烈な視線に幼い心は耐えられるはずもなく、美しいアメジストの瞳は恐怖に染まっていた。



「そうよ・・・。 この艦にはアンタたちがいるのよ。 ちょっと、来なさいよ!」



フレイは女性とは思えない力でラクスの腕と恐怖のあまりに後ろへ下がったキラの首元を掴むと、
そのままの状態でブリッジへ向かった・・・・・・。











「『ローエングリーン』、発射準備! 『ジン』が来るぞ!! フラガ大尉は!?」

「『ゼロ』、現在『デュエル』と交戦中!! 近くに、『イージス』と『ブリッツ』!!
近すぎて、こちらから援護できません!!」



ナタルは次の攻撃準備を指示しながら、現在唯一のパイロットであるフラガの状態を確かめた。
そんなナタルの声に、CICを勤める少女兵・・・ミリアリア=ハウは
フラガの乗る『メビウス=ゼロ』の位置と敵の機体の位置を確かめながら
こちらから援護することが不可能だと告げた。





―――― プシュンッ!







「副艦長、連れてきたわ! この子たちを人質に取るんでしょう?
私、まだ死にたくないわ。 早く、言ってよ!!」



メインモニターに映し出される、『メビウス=ゼロ』とGシリーズ3機との交戦と爆撃を受けて光るブリッジ内。
そして、その衝撃で強い揺れを感じる中、フレイは狂ったように大声で叫んだ。


そんなフレイの様子を気にすることなく、ナタルはインカムを外すと副艦長席から飛び、上へ浮上してきた。
上に浮上したナタルはそのまま、カズイの座るオペレーター席に近づくと彼がつけていたインカムを奪い、
全周波数に合わせ、現在いる戦闘区域の全チャンネルを開いた。



「バジルール少尉!!」

「ザフト軍に告ぐ。 こちらは地球連合軍所属艦・『アークエンジェル』!
当艦は現在、【プラント】最高評議会議長・シーゲル=クラインの令嬢、ラクス=クラインを保護している!」



マリューの静止を聞かずに、全周波数に乗せてナタルは高々と宣言した。
その様子は、全チャンネルを開いたと同時にGシリーズや『ジン』、
敵艦であるヴェサリウスとガモフのメインモニターに、
敵の士官に腕を掴まれたラクスと、首元を掴まれて持ち上げられたキラの姿がはっきりと映し出された。



「ラクス様、キラ嬢!?」



メインモニターに映し出された少女たちに驚いた声を上げた
ヴェサリウスの艦長・・・フレデリック=アデスとは対照的に、クルーゼは静かにモニターを見据えていた。




《偶発的に救命ポットを発見し、人道的立場から保護したものであるが、
以降、当艦へ攻撃が加えられた場合、
それは貴艦のラクス=クライン嬢に対する責任放棄と判断し――当艦は自由意志で、
この件を処理するつもりであることをお伝えする!!》




ナタルの高々とした宣言は、戦闘区域全体に響き渡った。





「クソッ! ナチュラル共は、何を勝手なことをほざいているんだッ!」


《落ち着けって、イザーク! 今動くとラクス嬢が危険に晒されるんだぞ!!》


「分かっている! だがッ!!」



戦闘区域のど真ん中にいて交戦中だった『デュエル』のパイロットであるイザークは
コックピットの中で叫び声をあげていたが、その様子は不運にも回線を開いていた
ヴァイオレッドサファイアの瞳を持つ少年・・・ディアッカ=エルスマンが被害にあったくらいである。





「・・・・・・」



そんな『デュエル』のコックピット内とは正反対で
強制的に流れてきた“人質宣言”以外の回線を切断した状態の『イージス』のコックピット内では、
絶対零度のブリザードが吹き荒れていた。





―――― ピ、ピッ!






所属艦からの通信を知らせるアラームが、『イージス』のコックピットに鳴り響いた。


アスランはそのアラームに対し、モニターを繋げることなく通信回線だけ開いた。




《潮時だ、アスラン。 君の気持ちも分かるが、ここは一先ず撤退だ。
我らの最優先事項は彼女たちの身の安全だろう?》


「・・・・・・。 了解しました。 直ちに、帰投します」



回線から聞こえてくるクルーゼの言葉に頷きながら機体の進路を所属艦に変えながらも、
絶対零度の冷気を纏い、
より一層冷たさが増したエメラルドの瞳はモニターに映し出されたAAの姿を睨みつけた・・・・・・。








2008/04/01
Web拍手より再録。