「・・・これで、あちらに信号が送られるはずですわ。 キラ、もう少しの辛抱です。
きっと、アスランがお迎えに参りますわよ?」

「う? きら、いいこでまってる」



あのアスランが溺愛する可愛らしい幼子。



父の関係で知り合った私たちでさえ、彼の笑顔を見ることができなかった。


何事にも無感動で無感情。
感情を表に出すことを苦手とする方。


私にとって、あの方の評価はそれだけでした。



しかしそれは、私・・・いいえ、周りの勝手な思い込みだったのですね。


それを証明するかのように、
アメジストの瞳を持つ愛らしい幼子の前では
見たこともない笑顔で優しく包み込んでおりますもの。


そして、アスランの愛情が一杯注がれたこの幼子もアスランのことを、
全身で信頼しておりますわ。




事故とはいえ、今は敵対している地球軍に囚われてしまいましたが、
この幼子の為にも私は私ができることをするだけですわ。












02. 初めての人質











【ヘリオポリス】の崩壊後からAAの後を追っているザフトの2隻艦・・・ヴェサリウスとガモフは、
AAの探索に感知されない距離で追跡を続けていた。
そんな中、パイロットである為に戦闘がない限り自由の利く紺瑠璃色の髪とエメラルドの瞳を持つ少年は、
宛がわれた自室に篭もり、私物であるノートPCのフォルダを眺めていた。



「・・・今回の作戦・・・思った以上に長引きそうだな。 キラは・・・元気だろうか」



フォルダ内には、少年と一緒に写っている鳶色の髪とアメジストの瞳を持つ幼子の姿が映し出されていた。



そんな中、緊急時以外鳴る事のないアラームがPCから発せられた。
そのアラームは彼の知る限り1人の人物にしか明かされておらず、
それは即ち彼がもっとも大切にし、愛してやまない幼子の身に何かあったことを知らせる信号であった。



そのアラームを呆然とした様子で聞いていた彼の視界に、
ブリッジからの呼び出しを示す通信機が点滅していることに気付き、
少年は自分の中に生まれた予感を抑えながら通信を繋げた。



「・・・こちら、アスラン=ザラです」


《アスランか。 すぐにブリッジへ来てくれ。 本国からの緊急通信だ。 ほかの者もすでに呼び出している》


「了解。 ・・・すぐに参ります」



通信機からは彼の所属する隊の上司・・・隊長からの呼び出しであった。
現在、作戦中である彼らの隊に本国からの通信など普段ならば皆無である。
そんな中、緊急に通信があるということはそれほど重要な内容だということは火を見るよりも明らかであった。
PCから響くアラームと本国からの緊急通信というタイミングに、
少年の中に生まれた予感が次第に大きくなるのを彼は感じていた・・・・・・。








エリートの証である真紅の軍服の上着を身に纏い、ブリッジに向かった少年の先には、
同じ軍服を身に纏う4人と彼らの2期上の先輩で緑服を身に纏う少年たちが少年を待っていた。



「遅いッ!」

「・・・別に、待っている必要性などないだろう。 ・・・イザーク、俺のPCに緊急信号が入った。
発信元は・・・分かるな?」



真紅の軍服を身に纏い、
白銀色の髪とサファイアの瞳を持つ少年はエメラルドの瞳を持つ少年を睨みながら怒鳴った。


そんな同僚に、エメラルドの瞳を持つ少年は、ため息を吐きながら彼の前を通り過ぎた。



すれ違い様に先ほど入った情報を告げた。



「・・・まさか・・・それに関連することなのか?」

「・・・俺の予感では、そう告げている。 ・・・まぁ、ブリッジに行けば分かることだ」



その内容に共通する人物は1人しかおらず、
その人物はサファイアの瞳を持つ少年にとって大切な人であった。
サファイアの瞳を持つ少年の言葉に、エメラルドの瞳を持つ少年は表情を歪めながら答え、
自分の考えをリセットするかのように首を振り、ブリッジの扉の前に立った。



「アスラン=ザラ、以下5名参りました」



エメラルドの瞳を持つ少年・・・アスラン=ザラはそう告げると扉を開き、ブリッジ内へと飛んだ。



「急に呼び出してすまない。 本国・・・議長と国防委員長の連名での通信だったのでね。
回線を開いてくれ」

「了解。 通信回線、解除。 ・・・・繋がりました」



ブリッジの中央にある宇宙地図を挟んで奥のほうに、
仮面をつけた白の軍服を身に纏っている青年・・・彼らの上司であり
ヴェサリウスとガモフの最高責任者である隊長・・・ラゥ=ル=クルーゼの姿があった。
アスランたちは迷わず彼の傍まで飛び、


並び終えると、目の前に出てきたメインモニターに視線を移動させた。
その間、クルーゼはブリッジ勤務のクルーに通信回線を開くよう命じ、自分もモニターに注目した。





《作戦中、急に呼び出してすまないな。 だが、一刻を争う緊急事態なのだ。
本日未明、【ユニウスセブン】の追悼式典準備のために民間のシャトルで訪問していた彼女が
地球連合軍の些かいに巻き込まれ、緊急脱出用のポットで脱出したところまでは掴めている。
だが、それを境に行方不明なのだ。
お前たちの艦がちょうどデブリ帯付近だと聞いたので、お前たちにラクスの捜索を頼みたい》

《・・・アスラン》


「・・・はい、父上」


《そのポットには、ラクス嬢だけが乗っているのではない。 キラちゃんも一緒に乗っているのだ。
今回の準備の為の訪問は、前々から決まっていたこと。
だが、キラちゃんが1人きりは危ないと、彼女と一緒に乗っていたのだ。
行方が掴めなくなった付近では、地球軍が確認されている。 一刻を争うぞ》





モニターに映った2人の男性・・・【プラント】議長であるシーゲル=クラインと
、ザフト軍のトップ・・・国防委員長であるパトリック=ザラは
真剣な面持ちでアスランたちにとって悪い知らせを告げた。




シーゲルの言葉に予測はしていたとはいえショックを隠せないイザークと自分の父から告げられたことに、
自分の予測が当たっていたのだと冷静に判断していたアスランは、
必ず助け出すという決意をその瞳に宿していた。



「了解しました。 議長、委員長。 何としてでも、ラクス嬢方をお助けいたします」


《頼むぞ》





クルーゼの言葉にパトリックとシーゲルは頷きを返した。





直後、彼らの目の間には沈黙を守るモニターのみとなり、
それを確認したクルーゼは改めて自分の部下たちへと振り向いた。



「・・・隊長。 少しの間、お時間を頂ければラクスたちの居場所は特定できます」

「・・・どういうことだ、アスラン」

「ラクスには、キラを預けるということでその保険として、一体の護衛ロボを渡していました。
もちろん、キラにもですが。
そのロボに搭載されている機能の一つに、緊急時の時のみ送信できるプログラムを加えていたのです。
そのプログラムが発動すると、どのような場所にいても必ず、私のPCに受信されるようになっています。
こちらに呼び出される前、その信号をキャッチしました。
場所を特定するには、多少時間がかかるかと思いますが、
先ほどの通信からするとあまり場所はここから離れていないかと」



沈黙を守っていたアスランは、
目の前にいるクルーゼにキラたちの居場所を特定することが出来ると告げた。


その報告に、クルーゼは驚きを隠せないままどのようにして特定するのかと尋ねた。



そんなクルーゼの尤もな質問に対し、
自分にとって、何者にも変えがたい愛し子を預ける際に、
一緒に渡していたペットロボから受信した信号のことを告げた。
そんなアスランの言葉に、
サファイアの瞳を持つ少年・・・イザーク=ジュール以外の同僚たちも
驚きを隠せない表情でアスランの言葉を聞いていた。



「・・・すぐに取り掛かってくれ。 分かり次第、こちらに連絡を」

「了解」



考えるしぐさを見せたクルーゼは、アスランがハード面に強いことを知っているのか、
手がかりがほぼ皆無の状況を打破できるチャンスには変わりないため、アスランに任せることを決めた。
クルーゼの許可に、
アスランは頷きを返すとすぐさま自室にあるPCで特定する為にブリッジから姿を消した・・・・・・。







自室に篭ってから数分後、入ったきり出てこなかったアスランが再びブリッジに姿を現した。



「アスラン、特定・・・終わられたのですか?」

「あぁ。 ・・・やはり、近いところからだ。 ・・・隊長、キラとラクスはここ・・・『足つき』にいます」



静かにブリッジに入出したアスランは、信号の発信源を知らせるべく、宇宙地図の前で立ち止まった。
その様子を静かに見つめていた若草色の髪とトパースの瞳を持つ少年は、心配そうにアスランに尋ねた。


そんなトパーズの瞳を持つ少年・・・ニコル=アマルフィに対し、
アスランは頷くと宇宙地図に点滅する1つの物体を示した。





アスランの示す先には、彼らの追っている連合軍の艦・・・AAを示すランプが点滅していた。



「おいおい、『足つき』・・かよ」

「・・・まさか、だな。 ・・・あちらが先にラクス嬢を発見したわけ・・・か」



アスランの示した先を静かに見ていた橙色の髪とアオライトの瞳を持つ少年と
金色の髪とラピスラズラリの瞳を持つ少年は、呆れた様子で眺めていた。
そんな彼らを静かに見つめ、睨むように点滅を見つめていたイザークに対し、
この中で付き合いの長い黄金色の髪とヴァイオレッドサファイアの瞳を持つ少年は、
苦笑いを浮かべながら肩を竦めた。



「・・・きまり・・だな。 今から30分後・・・1900に攻撃を開始する。 コンデションレッド発令。
パイロットたちは、所定の位置に。 今回は、ラスティ、ミゲルもザクで出撃するように。
ただし、ラクス嬢とキラ嬢がおられるのなら、艦を落としてはならない。 掌握へ作戦を変更!」


『了解。 ザフトの為に!』




クルーゼの命令に、アスランたちは頷きすぐさま作戦が結構出来るように準備に取り掛かった・・・・・・。








大天使に囚われた幼い天使と歌姫。
彼の者を救うため、真紅と蒼穹の騎士が立ち上がる・・・・・・。








2008/02/01
Web拍手より再録。