「・・・・僕たちの大切なキラさんを傷つけてきたその罪、万死に値しますよね。
・・・・そして、僕たち『コーディネーター』やSEED学園に通う『ナチュラル』の生徒たちのプライドも傷つけた。
・・・あの会合であの人に貰ったデータがあります。 このデータを基に僕独自の情報を使って徹底的に調べますよ」



あの心の優しいキラさんを傷つけたその罪、とても許されるものではないですよ。
キラさんを、そして僕たちの大切な学園を侮辱したその罪、その身をもって償ってもらいましょう。
あの学園で、キラさんの理解者だとおっしゃった彼女からのデータは本物でした。
あの人の意思もまた、キラさんが心穏やかに暮らせることなのでしょう。
アスランもまた、完全に切れておりましたし・・・・・。
どちらにしろ、この先あの一族が陽の光の元で暮らせることはないでしょう・・・・・。


















Everlastingly
         ― アスハへの粛清 ―

















入手した情報は全て彼らのみが使用することのできる特殊な場所に保存し、今後に関しての保険とした。




その頃、ザラ家に一時帰宅していたアスランとキラは約2ヶ月ぶりとなるレノアとの夕食を共にしていた。
キラが学園から頼まれたセキュリティーのプログラム構築をするため、
レノアとの会話を一時中断したのを見届けたアスランは、
自分たちを家に呼び戻した本当の理由を聞くため自分用のコーヒーとストレートの紅茶を母のいるリビングへ運んだ。



「・・・・母上。 俺たちを家に呼び戻したのはもう一つ理由があるのでしょう?」

「・・・・そうね。 ・・・このことは、いつかちゃんと貴方にも話さないといけないと思っていたことよ。
・・・特に、あの家の者とキラちゃんが会ってしまったのなら。 アスラン、これだけは約束してもらえるわね?
何が起こったとしても・・・キラちゃんは貴方が守りなさい」


「何を当然なことを言っているんですか? キラは俺の全てです。 キラを守るのは、俺にとって当然なことですよ」



アスランは母の言葉に首を傾げながらも当然とばかりに即答した。
幼い頃からキラしか見ていなかったアスランは、全てを敵に回してもいいほどキラを想っていたのだ。
そんなキラを守るのは、アスランにしてみればとても当然なことであり、その事に関しては何の疑問も感じたことはない。



「その言葉を聞いて安心したわ。 ・・・あの家・・・・アスハ一族の者と会って、キラちゃんの様子はどうだったの?」
「? ・・・・何かに怯えるように身を硬くしていましたよ。
・・・・なんか、不穏な空気を感じたのでとっさに抱き締めましたけど。
その後も、キラに危害を加えるだけでなく俺に触れようとしたので、イザークたちも機嫌が悪くなっていましたね」



母の言葉にアスランはその時のことを思い出した。
オーブ学園の名が出たときから過敏に反応していたキラだったが、
あの時ほどキラの震えが酷いことがなかったと常日頃から傍にいるアスランは確信している。



「・・・・・そう。 あのアスハ家は、キラちゃんにとって遠縁に当たるそうよ。
最も、ハルマさんとではなく、ずっと昔に縁を切ったみたいだけど・・・・。
・・・・3年前、キラちゃんのご両親であるカリダたちが何者かによって殺害されたのは知っているわよね?」


「はい・・・・・。 あの後すぐ、母上たちがキラの後見になるために捜していたことも知っています」



アスランは3年前のことを思い出した。
彼にとってヤマト夫妻はもう一つの両親とも思えるほど慕っていた。
両親共に忙しいザラ夫妻に代わってアスランを育てたのはヤマト夫妻であった。



「カリダは私の。 ハルマさんはパトリックの大切な友人だったからもあるけど・・・何より、
私たちはキラちゃんのことを本当に気に入っていたから。
彼女たちの忘れ形見を大切に育てたかったのよ。
・・・・でも、私たちが捜した時にはもう、遅かったわ。
カリダたちが殺害された後すぐに、何者かによって連れ攫われていたのだから・・・・・。
この3年間、貴方もだけど私たちも持てる全ての情報網を酷使して捜したわ。
・・・・一向に見つからなかったキラちゃんの情報がヒットしたのは、本当に最近だったの」


「・・・・キラは以前、オーブ学園に通っていたと聞きました。 しかし、キラは俺たちと同じコーディネーターです。
そんなキラがナチュラルしか受け入れないあの学園にいることは・・・出来ませんよね? ・・・!! ま、まさか・・・・」


「・・・・そのまさかよ。 キラちゃんを連れ去ったのは、
そのオーブ学園の理事を務めるアスハ一族の現当主であるウズミ=ナラ=アスハ。
キラちゃんに危害を加えたというカガリ=ユラ=アスハの実の父親よ」


「・・・・・母上。 なぜ、3年間消息の情報が入らなかったのでしょう・・・。
オーブ学園は、私たちの住むコロニーの隣ですよ?すぐ近くにいて、なぜ今まで気付かなかったのでしょうか・・・・・」


「・・・・その事に疑問を感じたのは、貴方だけではないわ。
パトリックもそのことが気になって、アレからまたカリダたちのことを調べなおしたの。
・・・・信じがたい事実が発覚したわ。 貴方は、ハルマさんの実家は、ヤマト財閥・・・・。
彼もヤマト家が所有する会社の社長を務めていらしたわ。 人望も厚く、多くの社員から慕われていたの。
キラちゃんはヤマト財閥の正当なる後継者。 全財産はキラちゃんが相続することになる。
彼らは・・・その財産に目を付けた。 自分たちの企業を拡大させるには、莫大な資金が必要となるわ。
・・・・カリダたちを殺害した容疑者たちは、全てアスハが雇ったSP・・・・・だったの」


「!! ・・・で、では、キラは自分の両親を殺したものたちに連れ攫われたのですか!?」

「・・・・・・そうよ。 キラちゃんはまだ未成年。 相続された資金を動かすことが出来ない。
成人するのを待って、資金を引き出してからカリダたちのところに送るみたいだったの・・・・。
その事実に辿り着いたのは、キラちゃんが見つかってすぐのことよ」



アスランは母の言葉に自分の答えが間違っていることを願った。
しかし、そんなアスランの願いは儚く、彼が考えてしまった最悪の結末が見事現実だったのだと知る。
しかし、その話によってキラが異常までにアスハの名とオーブの名を恐れていることが理解できたのである。
自分に危害を加える者たちに懐くのはいくらキラでも出来ないことである。
そして、心優しいキラと愛情を注いでキラを育てた夫妻の死を知るキラにとってそこでの暮らしは考えるまでもなく、
苦痛の日々だったことは容易に想像できることであった。



「・・・・・母上、キラに危害を加えたことだけでも俺にとって重罪です。
それだけでも重罪なのに、優しかったカリダさんたちまで死に追いやったアスハを俺は許すことはできませんよ」


「もちろん、私たちも同じよ。 だから、徹底的に潰すくらいの証拠を今、集めているの」



アスランは徐々に全身からブリザードが吹き荒れるほどの絶対零度とも言える冷気をその身に纏った。
そんな息子の姿に慣れているのか、レノアもまた似たような笑みを浮かべた。



「そうですか。 実は、今回のことで我ら生徒会執行部も好い加減に頭にきまして、
今ニコルが色々とハッキングしながら隠蔽された証拠を集めています。
カガリ=ユラ=アスハは俺たちがきっちり片しますから、母上たちに現当主のことをお任せいたしますよ。
母上たちはその男に大切な友人を奪われたんですから」


「あら、社会的に追放するの? でしたら、パトリックに協力を仰ぎなさい。
あの人もアスハを潰すことは賛成だから。 きっと、色々と裏を回してもらえるわ」



息子の言葉に笑みを深くしたレノアは、徐に近くにおいてあった通信機を取り出し、ある場所へと連絡を入れた。




《こちら、SEED学園理事長直属・秘書室です。
理事長はただいま外せませんのでアポイントがない方はこちらにご用件をどうぞ》



「レイ? 私はレノア=ザラよ。 パトリックに大切なお話があります。 繋いでもらえないかしら」


《レノア様でございましたか! ・・・申し訳ございません。 すぐに、理事室へお繋げいたします》

通信に出た秘書・・・レイ=ユウキは慌てた様子で社長室へ繋げた。

「・・・・ありがとう。 貴方が有能なのは私も知っているわ。
しかし・・いくら慌てているとはいえ、ちゃんとモニターに接続していないといけないわ」



《・・・申し訳ございません。 通信、接続いたしました》


「ありがとう」



レイはレノアに向かって深々と頭を下げるとそのまま通信が途絶えた。
変わって映し出されたのは広い部屋ながらも住人の性格を現しているのか無駄なものの置かれていない社長室であった。




《レノア、どうした》


「貴方にお願いがって通信しました。 アスランに真実を伝えました・・・・。 そろそろ、時期でしたから」


《・・・・・そうか》




表情の硬い通信相手・・・自分の夫であるパトリックを見ながら、先ほどまで息子と話していた時の母親の顔ではなく、
どこか決意した表情を見せるレノアは、どこか遠くを見るように真実を話したと知らせた。




そんな妻の発言にパトリックもまた、そろそろ真実を知らせなければならない時期だということを悟っていたのか、
どこか考えるように頷いた。



「先日、オーブ学園との合同会議があったことはご存知ですわね?
あちらの生徒会会長が例の・・・カガリ=ユラ=アスハだったようですわ。
キラちゃんに何らかの危害を加えようとし、アスランやニコル君たちが救出したと聞いております」



《こちらにも、クルーゼから連絡が来ている。
・・・このように通信を開いたということは、アスランも徹底的に潰すということか?》



「はい。 社会的に抹殺いたしますわ。 あの一族諸共。
ただ、企業にいる重役以外は一般の方々。 彼らの救済はきちんといたしませんといけませんもの。
そこで、貴方のお力をお借りしたいと思ってこのように通信を開きました」



《分かった。 こちらも動かせるだけの会社に声をかけよう。
それぞれの能力別に振り分ければ、その者たちにあった再就職先があるだろう》




パトリックは【プラント】に多くの会社を経営するザラカンパニーの総帥でもあると同時に、
SEED学園の理事も勤めているため、オーブ学園との合同が会ったことは知っている。




そして、そこで起こった騒動に関しても生徒会の顧問であるクルーゼから報告書として知っていた。




そのため、妻が通信を開いてきた時から何を伝えるかなんとなく察していたのか、
既にザラカンパニーの重役たちに根回しはしている。
彼もまた、レノアと同じ考えでありアスハ一族の会社を潰したとしてもそこに勤める平社員まで
害が及ぶことを望んでいるわけではない。
そのため、彼らの救済のためにそれぞれの能力に応じた会社で働けるように、重役たちに伝えている。







水面下での最終打ち合わせが行われて数ヵ月後、
ニコルの集めた情報とレノアがキラを見つけるために集めた情報が全て揃い、
本格的にカガリやその父・・・・アスハ一族を丸ごと社会的に追放する準備を整えた。





それらのデータは全てニコルの元に集まり、予め用意していた回線でそれらのデータを【プラント】中に流した。
もちろん、その中にはアスハの経営する会社のスポンサーや取引先など株主たちとかなど
会社にとって失えない者たちにも流れている。





そのことはオーブ学園の理事会のメンバーを始めとする生徒たちにも広がっており、
今まで理事だった父の威厳を借りて、好き勝手にやってきたカガリは肩身の狭い思いをしている。
最も、アスランを始めとする生徒会メンバーはこのようなことで許すわけにはいかない。







そのことは、アスランの父でありアスハに殺されたキラの父・・・ハルマ=ヤマトの友人でもあるパトリックも息子たちと同意見だった。



パトリックはキラの両親を殺したとする決定的な証拠やその他の裏づけされたデータを彼が信頼する検事局に流していた。
もちろん、そのデータにおまけとして賄賂や法に触れた際のデータ抹消など、刑事責任となるデータも一緒に渡していた。






その情報を受けた検事局は独自に捜査を開始し、パトリックが持ってきたデータが事実だということを突き止めた。



その際、主犯格であるアスハ一族の当主・・・ウズミ=ナラ=アスハが逮捕され、
そのほかの罪でアスハ一族の大半が監獄行きとなった。





そのことも受けてか、アスハが提携する会社はスポンサーが次々と離れて行き、
仕舞いには会社のトップたちであるはずの重役が捕まったこともあってかドミノ倒しのように次々と倒産の道を辿った。




会社が倒産したため、そこで働いていた平社員たちは路頭に迷うと覚悟していた矢先に天の助けのように、
彼らに手を差し伸べる会社がいくつかあった。
もちろん、その際にそれぞれの能力が適応しているかの調査が行われ、無理のない場所で勤められることが保障された。



彼ら平社員を救ったのはパトリックの持つ会社だけではなく、
生徒会メンバーの親たちの持つ会社もパトリックと共にそれぞれの能力を活かした社員を雇った。






ヤマト夫妻殺人として捕まったウズミの娘であるカガリもまた、父親が捕まったということが学園中に広まり、
学園はおろか【プラント】にて暮らせる状態ではなく、夜逃げでもするかのように暗闇にまぎれて【プラント】から出て行こうとすると、
彼女もまた、父親が隠蔽してきた数々の罪状があったのか、周辺を張り込んでいた刑事たちに拘束された。







それらの情報は、各メディア・・・新聞やTV、ネットを通じて【プラント】中に広がり、
彼らの遠縁でも親族であったキラの耳にも自然と入ってきた。
しかし、彼女とアスハが親族だという事実を知るのはごく小数に限られているため、メディアがキラの周りに集まることは一切なかった。
最も、セキュリティが厳しいSEED学園に潜入できる記者たちがいなかったのだが。







それから数日が経ち、SEED学園の生徒会室にも今まで通りの風景が見受けられるようになった。
一ヶ月ほど前まで積み重ねられていた書類は全て片付けられ、ある書類といえば会長席の前と副会長席前、
そして・・・それらをまとめる書記の席に束ねられている程度であろう。



「五月蝿い奴らが一掃されたから、漸くこの学園自体にも平和が戻ってきたな」

「そうですね。 あの大量な企画書や始末書を見ないでいいと思うと、本当に嬉しいですよ」

「そうそう。 残りは、いつもの業務だし?」

「皆様、紅茶が入りましたわ。 お手元をお休めになって、少し休憩時間にいたしません?」



会長席前を書類を持って歩いていたニコルは、役員席に座るイザークの言葉にニッコリと微笑みつつ
その背後に真っ黒いオーラを背負いながら毒を少し抑え気味に吐き、
その毒舌を気にすることなくイザークの隣に座っていたディアッカは頷いた。



その様子を苦笑いしつつも奥にある給水室から人数分のカップをトレイに乗せて出てきたラクスは
生徒会室にいるメンバーに声をかけ、休憩の合図を出した。



「そうだね。 アスラン、キリがいいところで一旦止めておかないと・・・休憩が出来ないよ?」

「あぁ。 ちょうど、コレが終われば俺の仕事は終わるさ」



会長席の隣に陣取る副会長席にある最後の書類から顔を上げたキラはニッコリと隣に座るアスランに微笑み、
そんな幼い頃に見ていた心からの微笑みに自然とアスランの表情も笑みに変わり、
静かに席を立つとキラの手を優しく取り、ラクスたちの集まる中央のソファーへと移動して行った・・・・・。





オーブ学園が企画をSEED学園に提案し、勝手にことを進める前の日常・・・・。
オーブの理事とその娘であり生徒会会長だった者の逮捕によってオーブ学園のイメージがダウンし、
名門であるSEED学園に色々といえる立場ではなくなったために今後一切、
彼らがSEED学園の敷居を跨ぐことは出来ないだろう・・・・・・。






―――― 君が俺の全て。
貴方との幼い日々が、僕にとって唯一色あせない大切なもの――――。







END.








2006/11/16













約1年近くかかったパラレル、これにて完結です!
・・・長かったです;
展開的に詳しくなかったので・・・分からないと思いますが;
・・・一応、この設定はリクにて使用します。
前回のあとがきにもありましたように、この設定は元々はリク用だったので。
・・・リクが、本来の軸となるのですよ;
ここまで、お付き合いくださいまして、ありがとうございました!