「・・・僕の可愛い妹たちを傷つけたその罪、身をもって償ってもらわないと」
「・・・その考えには賛同する。 だが、まだ時期ではないぞ」
「分かっているさ。 ・・・だが、許されるものではないよ?」
僕の可愛い妹たち。
ARES
門の前には彼女たちの知り合いであり従兄の友人でもある安部 晴明の姿があった。
「晴明様!?」
「・・・・みんな、無事、みたいだね。 優希も心配していた。 凛、君は早く横になって安静にしておきなさい。 ・・・・今回のことは、私も彼も戦いの一部始終を見ていたから」
「・・・・! 兄上は今回のこと、予測されていたのですね・・・・・」
柊の言葉に図星だったのか、晴明は苦笑いを浮かべていた。その笑いにより、彼らは柊の言葉が当たっていることを知ることとなった。
屋敷に入った凌は、楓たちと別れて姉を寝室へ運ぼうとした。しかし、その行動は姉によって妨害され、彼らが向かった方向と寝室のある離れの中間地点で立ち止ることになった。
「・・・凌、兄上様にお会いするわ。 傷口は塞がっているから、派手に動かなければ平気よ?」
凌は姉の性格を熟知していた。意外と頑固者であるということを。そして、凌自身姉には甘いということを改めて思い知らされたのである。 せめてもの抵抗ということで苦笑いを浮かべたが、姉を壊れ物のように大事に抱き直すと、元来た道を引き返して従兄の待つ大広間へと進路を変えた。 凛はそんな弟に嬉しそうに微笑むと、耳元で“ありがとう”と呟いた。
「お帰りなさいませ。 凛様、凌様。 兄上がお待ちです」
大広間へと続く扉の前にいたのは従弟の1人である隼だった。彼は本家の末弟である慧の側近の1人でもある。
「隼、慧と魁はどうしたの? いつも3人一緒なのに・・・・珍しいわね。 ・・・凌、ここからは歩くわ。 兄上様に失礼よ?」
「・・・御意。 ですが姉上、せめて僕の肩くらいお使いくださいませ。 先ほどの戦闘が影響しているので、少々貧血気味ですよ? あまり、無理をなさられると本当に倒れてしまいます」
凌は姉をゆっくり降ろしながら真剣な顔で心配そうに言った。凌にとってそれが一番重要らしく、凛は苦笑いを零しながら答えた。
「凌、兄上様にお会いして一応説明をしたらすぐに部屋へ引き返して休むわ。 このお屋敷は兄上様と晴明様の造った結界で守られているから安心よ? ・・・それでも不安だと言うのなら、兄上様にお頼みしなさい」
凛は弟の頭を優しく撫でた。その様子を一度も口を挟まずに聞いていた隼だったが、漸く話の付いた凛たちを見計らったのか先ほどの凛によって問いかけられたことに答えた。
「慧様と魁はすでにこちらへ着いておられます。 私は我が主の命によりお2人をお待ちしておりました。 ・・・とうぞ、こちらへ・・・・・・」
2人は開かれた扉から中へと入って行った。この屋敷の主もまた、凛たちの従兄である。しかし、優希自身が凛たちを実の妹弟のように可愛がっているので本当の兄弟と思われていた。 優希の傍には既に楓たちが来ており、その横に、慧、魁、蒼、蓮が座っていた。彼の隣には右に大和、左に吹雪の姿もあった。吹雪は優希の力によって具現化された式神である。彼女は攻撃が主流ではなく、回復系を主に取り扱う式神である。大和は吹雪とは異なり、攻撃を主に取り扱っている。大和は性別的には決まってはおらず、その場に応じて性別を変えているのだ。大和は吹雪のように紙から創られたのではなく、優希の影から創られた者であった。この2人の共通する点は優希の命令には絶対だが、彼の命令にしか従わないことであろう。
「兄上様。 凛、凌共に只今戻りました。 遅くなって申し訳ありません」
「お帰り。 凛、凌。 この所、‘鬼’が活性化していたから心配していたよ? ・・・だが、無事ならそれでいい。 凛、報告は楓たちから聞いたら君は自室で安静にしていなさい。 凌は凛に付き添っていてね。 大和、蒼たちをそれぞれの部屋へ案内してくれ。 慧たちは晴明と一緒にね。 詳しいことは彼から聞くといい。 晴明は例のこと、頼んだよ? 楓と柊も今日はお休みなさい。協力攻撃は、後から疲労が出てくるからね。 ・・・続きは明日にしようか」
「優希はこの屋敷の結界の綻びの修理をするんだろう? ・・・慧、魁、隼、行くよ」
優希はこれからのことを淡々と説明・処理を行っていた。晴明は頷き、慧たちを連れて大広間を後にした。蒼と蓮は大和に案内されて部屋へと向かい、凛は凌に再び抱えられ、楓と柊は自分たちの部屋へとそれぞれの思いを胸に離れへと足を向けた。
−とある山中の村−
屋敷から北東(艮)に位置する山里に禍々しい気配が溜まっている村があった。その村は大きな結界で村全体を覆っているために気配が外部に漏れない。そのために、普通の人が見れば、そこはただの山にしか見えてはいなかった。村にある大きな屋敷から複数の声が漏れていた・・・。
「・・・そうか。 また奴らに消されたか・・・。 ・・・・あの者達の‘氣’の力は、我々のものとはまったく正反対だ。 ‘陰’ではなく‘陽’の力。 絶対に我々の計画に気づかれてはならぬ。 ・・・・良いな?」
「御意。 ・・・・そのことで御屋形様、この件はこの耀にお任せくださいませ。 ・・・・すでに、都の方には刺客を放たれておりますゆえ」
耀と名乗る男は、頭をたたみに付くくらいに下げながら、目の前にいる男に申し出た・・・。
2005/08/06 修正・加筆
なにやら不穏な動きをしている人たちが出てきましたね。
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