「この頃、不穏な動きが見えてきたな」
「・・・姉上に傷つけた者には、それなりの報復を」
「・・・あまり、無茶をするなよ? 凛殿が心配すからな」
姉上は僕の全てです。
ARES
「流石は凛様ですね。 ・・・優希様の勅命により、皆様をお迎えに参りました。 ・・・蒼様、蓮様、こちらへ」
大和が蒼と蓮を庇うように呼んだ頃、凛と楓の前にはそれぞれ凌と柊の姿があった。
「・・・札に宿りし聖なる力よ。 我が主・優希の創りし結界よ!! その力にて、我らを守りたまえ!!」
大和は蒼と蓮を守るようにしながら札を高く掲げた。
「・・・蓮たちは平気ね。 ・・・なんだ、ザコばっかりなのね。4人で分割する?
ザコだけど、数が多いもの」
楓は残念そうな声を出しながら隣にいた凛にはなしかけた。
「・・・だったら、一気にやりましょう? 4人の合体攻撃のほうが手っ取り早いわ。 ・・・凌、準備はいいわね?」
「はい、姉上。 ・・・夏ですから冷たいほうがいいですね」
凌は姉に微笑み、敵に向かっていった。
「我ら4人の氷の舞、しかと見よ! 水神・青龍よ、我らに力を貸したまえ!!」
「無は氷の如く冷たし、そしてまた、月の如し!!」
楓たちの持っていた武器から少しずつ冷気が出てきた。
「「「「翡翠流秘奥義・『霧氷月』!!」」」」
4人が声を揃えて唱え終わった瞬間、氷の刃は一気に敵を囲み、凍らせて跡形もなく消し去った。
「・・・亡霊に肉体はいらないでしょう? 生き返りを諦めて、大人しく成仏なさい」
凌は氷のような微笑を見せた。
「凌、危ない!!」
凛はすぐさま弟の近くに行き、とっさに両腕を広げた。
「・・・凛!?」
「姉・・・上・・・・? ・・・きっ、貴様―――――!!! ・・我と契約せし水の精霊達よ!! 汝等、氷の矢となりて我が敵を狙撃せよ!! 『氷の刃』!!」
凌はいつもならば絶対にしないような口調をしていた。
「・・・凌、怪我・・・ない・・・わね・・・・? ・・・なぜ、泣いて・・・いるの・・・・?」
「・・・姉上。 なぜ、僕を庇ったのですか・・・?」
凛は血の気のない顔で弟が安心するように笑って見せた。そして、あまり力の入らない腕を精一杯上げ、凌の瞳に溜まった涙を優しく指でふき取った。
「・・・愛しい子。 私は・・・貴方が全てよ・・・・・・・。母上様たちが・・・お亡くなりになられて、確かに私たちは兄上様に・・・引き取られたわ・・・・。 けど・・・、私は貴方が・・・・一番・・・・・愛しい。 だから・・・庇った・・のよ・・・・・。 私・・・・は、貴方を・・・・誰よりも・・・・愛しているわ・・・・・・・・・・・。 私の・・・可愛い・・・・・凌・・・・・・・・」
凛の声は最後が掠れていった。そんな凛の様子に今まで黙って見ていた柊が慌て、凛に風の魔法をかけた。
「凛殿!! ・・・我と契約せし風の精霊達よ!! 汝等、癒しの吐息にてこの者の傷を治したまえ! 『癒しの風』!!」
周りの風が急激に暖かくなって傷口に集まり、傷はたちまち癒されていった。10分後には傷は完全に塞がり、凛の顔色も何とか回復していった。
「・・・ありがとう、柊」
「傷口は塞ぎましたが、完全に戻るために今日はもう絶対安静ですよ? 凌、凛殿にお屋敷まで肩を貸して差しあげて」
凌はしばらく考え込んだが、柊の言葉に頷き、いきなり姉を抱え込んだ。当然凛は驚いたが、凌は‘お姫様抱っこ’をやめなかった。
「・・・姉上、安静にしてなければならないのでしょう?」
「・・・凌?」
凌の少し悲しみの印象を持たせる言葉に凛は不思議に思い、抵抗をやめて弟に話しかけた。
「・・・僕には姉上しかおりませんのに・・・。 それに、例え兄上の御命令であろうと、姉上以外の御命令には従えません」
「・・・凌・・・、ごめんなさい。 貴方を傷つけてしまったのね? けど、あの言葉は私の本心でもあるの。 それだけは、忘れないで・・・?」
凛は観念したのか凌の首に両腕を回し、耳元に囁いた。その様子を見ていた大和達は2人の様子に微笑んでいた。 それからは、刺客に襲われることなく都へと降りた凛たちは彼女たちの家でもある屋敷に入っていった。
2005/05/31 修正・加筆
過去編になって初めての戦闘です。
|