「この頃、不穏な動きが見えてきたな」


「・・・姉上に傷つけた者には、それなりの報復を」


「・・・あまり、無茶をするなよ? 凛殿が心配すからな」



姉上は僕の全てです。

まだ僕が5歳にも満たない頃、両親は他界しました。
・・・当時、何も理由を話されなかったようですが・・両親を殺した者たちは、今僕たちの戦っている‘鬼’。

・・・幼い頃から、僕の世界は姉上でした。
姉上を守れるように、強くなりたいです。

姉上は今まで僕にいろんなものを与えてくださいました。
人としての慈愛に満ちた温もり・・・。


寒い時、暖めてくださったのは、姉上でしたから・・・・・。








ARES
  ― 眠れる獅子 ―











「流石は凛様ですね。 ・・・優希様の勅命により、皆様をお迎えに参りました。 ・・・蒼様、蓮様、こちらへ」



大和が蒼と蓮を庇うように呼んだ頃、凛と楓の前にはそれぞれ凌と柊の姿があった。
凌達はそれぞれ、自分の姉を守るような体勢をとっていた。

大和は目を鋭くし、袖の中から一枚のお札を取り出した。



「・・・札に宿りし聖なる力よ。 我が主・優希の創りし結界よ!! その力にて、我らを守りたまえ!!」



大和は蒼と蓮を守るようにしながら札を高く掲げた。
そのお札には優希によって創られた強力な結界が封印されており、大和はその力を解放したのである。

結界は円形を造り、蒼達を包み込んだ。



「・・・蓮たちは平気ね。 ・・・なんだ、ザコばっかりなのね。4人で分割する? ザコだけど、数が多いもの」



楓は残念そうな声を出しながら隣にいた凛にはなしかけた。



「・・・だったら、一気にやりましょう? 4人の合体攻撃のほうが手っ取り早いわ。 ・・・凌、準備はいいわね?」


「はい、姉上。 ・・・夏ですから冷たいほうがいいですね」



凌は姉に微笑み、敵に向かっていった。
それと同時に凛たちも走り出した。

凛たちは幼い頃から従兄である優希によって武術全般を教え込まれていた。
その中でも凛と凌は棍術を。
楓と柊は剣術が得意であった。
凛たちは円形になりながら回り、徐々に五法星の形を作っていった。
五法星とは、彼女たちのシンポルでもあり、合体攻撃や協力攻撃の威力を増幅させる力の源でもある。
2人だと4倍。
3人だと40倍。
4人になるとその力は無限大となる。


しかし、それは全ての力を出して、尚且つ完璧に制御できた場合であるが・・・。



「我ら4人の氷の舞、しかと見よ! 水神・青龍よ、我らに力を貸したまえ!!」


「無は氷の如く冷たし、そしてまた、月の如し!!」



楓たちの持っていた武器から少しずつ冷気が出てきた。
その冷気を纏った武器を地面に触れるようにし、五法星の形にしていった。

敵を中心に、五法星となった冷気は見る見るうちに氷の刃となっていった。




「「「「翡翠流秘奥義・『霧氷月』!!」」」」




4人が声を揃えて唱え終わった瞬間、氷の刃は一気に敵を囲み、凍らせて跡形もなく消し去った。
4人は呼吸も乱さず、平然としていた。
地面に残っていたのは、氷の欠片だけだった。



「・・・亡霊に肉体はいらないでしょう? 生き返りを諦めて、大人しく成仏なさい」



凌は氷のような微笑を見せた。

そんな時、彼の背後から人影が出てきた。
その人影に気付いたのは彼と反対方向にいた凛だけであった。

背後にいた男は凌にめがけて手に集める氣・『掌底』を放った。



「凌、危ない!!」



凛はすぐさま弟の近くに行き、とっさに両腕を広げた。
そんな姉の姿を呆然と見ていた凌の目の前でその光は、凛の身体を貫いた。



「・・・凛!?」


「姉・・・上・・・・? ・・・きっ、貴様―――――!!! ・・我と契約せし水の精霊達よ!! 汝等、氷の矢となりて我が敵を狙撃せよ!! 『氷の刃』!!」



凌はいつもならば絶対にしないような口調をしていた。
彼は、常に丁寧語だが彼が最も大切にしている姉を侮辱したり、傷つけたりした場合は普段の冷徹さから一変して、一気に怒りがMAXとなる。



凌は水の精霊に命を下し、姉を抱き寄せた。

氷の矢は凛に攻撃をした男に命中し、身体を貫いた。
消える際、耳障りな悲鳴を残しながら・・・。


しかし、すでに姉に意識が向いていた凌にとってはどうでもいいことであった。
凛の意識が少し戻ったらしく、凌の頬を愛しそうに撫でた。



「・・・凌、怪我・・・ない・・・わね・・・・? ・・・なぜ、泣いて・・・いるの・・・・?」


「・・・姉上。 なぜ、僕を庇ったのですか・・・?」



凛は血の気のない顔で弟が安心するように笑って見せた。そして、あまり力の入らない腕を精一杯上げ、凌の瞳に溜まった涙を優しく指でふき取った。



「・・・愛しい子。 私は・・・貴方が全てよ・・・・・・・。母上様たちが・・・お亡くなりになられて、確かに私たちは兄上様に・・・引き取られたわ・・・・。 けど・・・、私は貴方が・・・・一番・・・・・愛しい。 だから・・・庇った・・のよ・・・・・。 私・・・・は、貴方を・・・・誰よりも・・・・愛しているわ・・・・・・・・・・・。 私の・・・可愛い・・・・・凌・・・・・・・・」



凛の声は最後が掠れていった。そんな凛の様子に今まで黙って見ていた柊が慌て、凛に風の魔法をかけた。



「凛殿!! ・・・我と契約せし風の精霊達よ!! 汝等、癒しの吐息にてこの者の傷を治したまえ! 『癒しの風』!!」



周りの風が急激に暖かくなって傷口に集まり、傷はたちまち癒されていった。10分後には傷は完全に塞がり、凛の顔色も何とか回復していった。



「・・・ありがとう、柊」



「傷口は塞ぎましたが、完全に戻るために今日はもう絶対安静ですよ? 凌、凛殿にお屋敷まで肩を貸して差しあげて」



凌はしばらく考え込んだが、柊の言葉に頷き、いきなり姉を抱え込んだ。当然凛は驚いたが、凌は‘お姫様抱っこ’をやめなかった。



「・・・姉上、安静にしてなければならないのでしょう?」


「・・・凌?」



凌の少し悲しみの印象を持たせる言葉に凛は不思議に思い、抵抗をやめて弟に話しかけた。



「・・・僕には姉上しかおりませんのに・・・。 それに、例え兄上の御命令であろうと、姉上以外の御命令には従えません」


「・・・凌・・・、ごめんなさい。 貴方を傷つけてしまったのね? けど、あの言葉は私の本心でもあるの。 それだけは、忘れないで・・・?」



凛は観念したのか凌の首に両腕を回し、耳元に囁いた。その様子を見ていた大和達は2人の様子に微笑んでいた。

それからは、刺客に襲われることなく都へと降りた凛たちは彼女たちの家でもある屋敷に入っていった。








2005/05/31

修正・加筆
2006/04/01













過去編になって初めての戦闘です。
何度も言いますとも!
管理人は、戦闘、魔法(呪文のみでも可)が、大好きです!!!
協力攻撃、これだけじゃありませんよ?
個人スペースの設定集にはこれ以外の攻撃技がありますから!
因みに、協力攻撃の元となったのは、〔幻水〕ですv(またかよ)
凌に関しては・・・完璧に私の好みです。
シスコン・ブラコン大好きですv