「君たちさえ良ければ、僕の屋敷に住まないかい? ・・・懐かしい子達に会えるよ」


「俺は構いません。 ・・・俺がいたい場所は、和の傍ですから」


「・・・お言葉に甘えます。 ・・・おかしいですよね? なんだか、とても懐かしい感じがするのは・・・・」



父さんが仕事の関係でアメリカに渡る事になった。
運悪く、今までのように短期間じゃないらしく最低でも3年は向こうにいることになった。
俺たちはこっちで既に受験を終え、大学の場所も決めていたため母さんと一緒には行かなかった。

尚がいれば、俺は平気だから。
尚も、同じことを言ってくれえるしな。

そんな時、母さんの知り合いである岩瀬 優希さんを紹介された。
初めて彼と会った時、自分の中にある何かが彼に反応を示した。
遠き昔、俺は彼にあったことがあるのだろうか?








ARES
  ― 懐かしき者たち ―











再び歩きだした真澄たちは一軒の大きな屋敷の前で立ち止まった。その表札には‘IWASE’と書いてある。



「ただいま戻りました、優希お兄様。 遅くなって申し訳ありません」


「お帰り、真澄。 怪我はないね? ・・・用件から言うよ? 明日、君たちのクラスに転入生が2人来る。 その2人は双子で関係者だからね。 あと由希、今日君の母君に会って君たちがここに住むことを伝えたからね。 若葉と葉月もここに住むように」

真澄と最澄はある事情ですでにこの屋敷に住んでいた。中はとても広く、部屋もたくさん余っていた。



「優希様、お2人をお呼び致しましょうか?」


「頼むよ、大和。 ・・・そうだね、母屋の大きい部屋のところに連れて来てくれるかい?」


「御意」


「お兄様、我々は荷物を置いてまいります」



優希は頷き、真澄たちは退室した。その時、大和が若葉を止めた。



「若葉様、葉月様はすでにお部屋の方にお運びいたしました。 今は安らかにお休みになられております」


「そう。 ・・・ありがとう、大和」



真澄たちの部屋は離れにあった。もちろん、男女別である。しかし、最澄や葉月には時々、不安になることがあり、よく姉の部屋に泊まりに来ていたりしていた。そんな弟たちに考慮してか彼女らの部屋は向かい合わせになっていた。右側には奥から相馬、由希、楢葉、葉月、最澄の順に並んでおり、左側には葉月の前に若葉、最澄の前に真澄の部屋が並んでいた。この屋敷は外面的にはいかにも名家・・・というよりも古来の造りとなっているが、中は彼の最も愛する妹弟達のことを一番に考えている。彼女達はキリスト教ということもあり、中庭を挟んだ奥には礼拝堂もある。

荷物を離れにある自室に置き、真澄たちは兄のいる母屋の大広間へと向かった。この大広間とは、この屋敷で一番広い部屋の造りになっており、一族中が集まる時に使用する部屋である。



「失礼いたします、兄様」


「お入り。 ・・・由希、彼らが明日にでも君達のクラスに転入できるよう既に理事長や理事会には話しつけてきたから」



優希は妹弟たち限定の微笑を見せながら視線を正面に戻した。そんな優希の視線に気付いて同じように前を見たのは、若葉だけであった。



「・・・和クン? ・・・尚クン? あの・・・双子の?」


「久しぶり、若葉」



彼女たちの目の前にいたのは、真澄、最澄、若葉、葉月の4人が幼い時に一時期住んでいた『天使孤児院』の近所に住んでいた双子の兄弟であった。彼女たちは幼い頃に両親を亡くし、両親の知人である『天使孤児院』の‘ママ先生’に引き取られていた。そこには、彼女たちと同じような境遇でそこで暮らしていたたくさんの義兄弟がいた。今ではこうして離れて暮らしてはいるが、月に一度は彼らに会いに行っている。

そんな彼女たちの友達に当時近所に住んでいた双子の兄弟がいた。彼らは一卵性双生児であるため、見分けが付かないが例外として真澄たちや彼らの両親だけは一度も間違えたことがなかった。彼らも真澄たちの過去を知っても変わらずに遊んでいた。しかし、しばらくして真澄と最澄は父方の伯父夫婦に引き取られ、若葉と葉月は母方の祖父母に引き取られた。彼らもまた、家の事情で遠くに引っ越してしまい、今では別の人が借りていた。



「悪かったな、何の連絡も入れられないで」


「・・・いいえ、元気そうで安心しました。 10年ぶり・・・ですか?」


「もう、そんなに経つか? ・・・お前は相変わらずのようだな、最澄。 やっぱり、今でも真澄の言う事しか聞かないのか?」



左耳にシルバーリングのピアスをしていた少年が謝り、その隣にいた人物が笑いながら最澄に尋ねた。



「・・・和也さんたちって確か、姉様と同い年でしたよね? この時期に転入ですか?」



図星だったのか、一瞬言葉に詰まったが笑っている少年・・・周防 和也に尋ねた。



「家の事情でね。 父さんが仕事で今度は海外に転勤になった。 確か、アメリカのNYだったかな? で、母さんが一緒に行ったのさ。 父さんだけだと、家事能力ないからな。 俺たちはそう何度も転校したくなかったんだ。 海外にもね。 ・・・旅行だったらいいけど、住むのは勘弁してほしいから。 父さんたちも俺たちがこっちに残ることを許してくれたし。 そのまま前の家に残るつもりだったけど、ここには優希さんに呼ばれたんだ。 真澄たちもいるし、なにより優希さんは母さんの知り合いみたいだったから。 だから、安心だとも言っていた。 で、この際だから、学校も転入しようかと思ったわけ。 ここの学園、エスカレーターだろ? どうせ、大学受験もすることだしな」


「ちゃんと、編入試験受けたぞ? クラスは実力だ」



和也は一気に説明すると、その横から左耳にピアスをつけた周防 尚也が言葉を付け足した。彼らは一卵性双生児なため、一箇所くらい変えないと大抵の人間に間違えられてしまう。そんな時、弟である尚也が自分から耳にピアスをつけると言い出した。そんな弟の姿を見たためか、和也は反対しない代わりに尚也のつけていない片割れを自分が反対の耳につけると言い出した。それ以来、新しいピアスをつける時は2人で分けるようにしていた。

優希は真澄たちに大変甘かった。真澄たちと優希は遠縁である。若葉と葉月は祖父母に引き取られたが、真澄たちは引き取られ先である伯父夫婦との関係が悪く、そんな真澄たちを不憫に思った優希が伯父の家から真澄たちを解放した。それ以来、真澄と最澄の保護者は優希である。彼自身はまだ鳳来学園大学院に通う大学院生だが、彼の実家である『岩瀬』家の当主でもある。

ここで簡単に彼らの家系図を紹介しよう。


まず、彼らの本来の本家は《岩瀬》家である。
《神岡》家は表での本家であった。
血筋的には余り繋がってはいないが、《岩瀬》家の初代当主の次男が《神岡》家の初代当主である。

《岩瀬》家は『星見』であったため、ほとんど表には姿を現さなかった。
そんな《岩瀬》家を守るべく、分家に当たる《神岡》家が矢面に立った。
それ以来、政治の面では《神岡》を通して《岩瀬》に繋がるという今のような連絡手段が出来た。

《岩瀬》家の現当主は優希である。
そして、《神岡》家の現当主は由希の父であった。
次期当主は彼の一番上の兄に当たる綾人であった。



続いて、《神岡》家からの分家だが、由希達の従兄弟に当たる分家とハトコに当たる分家の2種類がある。

相馬の実家である《名取》家と楢葉の実家である《佐倉》家、《竜崎》家は由希の従兄弟関係にある分家である。
相馬の父が由希の父である総帥の弟で、楢葉の母が妹であった。

もう一つの分家は、由希の祖父の兄弟の孫に当たる。
真澄たちが名乗っている苗字は彼の父が婿養子としていたため、母方の苗字だった。
父方の苗字は《永井》家である。
もちろん、《早瀬》家も分家の一つである。
彼女ら以外にも《鳳》家と《村神》家もまた、分家であった。



つまり、今いる場所に血縁者が8人いることになる。



「お兄様、本日の夕食は私がお作りいたします。 いいですよね? ・・・最澄、貴方は和クンたちに説明をしてあげてね」



真澄はニッコリと微笑みながら兄・優希に問いかけた。最後の方は後ろに控えている弟に向けたものであった。



「任せるよ。 ・・・楢葉、手伝っておやり?」



「「はい」」


「・・・兄様、私は葉月の傍におります。 ・・・ご報告は由希たちだけで十分だと思いますから・・・・・・」



優希の命令と同時に最澄と楢葉の返事が重なった。真澄と楢葉は台所へと消え、若葉は弟のいる寝室へ足を運んだ。



「姉様からのご命令ですから、これまでのことを大雑把にご説明いたします。 ここ数年、我々の前にこれまでの間・・・・」



優希は最澄の言葉には口を差すことなく、傍観者に徹していた。彼への報告も最澄の話に出てくるので、そう急ぐこともないのだ。時折、由希と相馬の話も加えて説明が始まった。








2005/04/16

修正・加筆
2006/04/01













懐かしい人たちとの再会編(違っ)
双子の名前・・・・某ゲームシリーズの主人公でつけております。
最澄・・・姉至上主義者ですね(悦)