「よいか、相馬。 お前は、由希様の側近だ。 必ず、優希様をお守りするんだぞ?」


「日々、鍛錬を怠らないようになさい。 あの方を守るその気持ちも大切になさいな」


「はい。 父上、母上」



優希様をお守りすることは、僕の誇りです。
あの時お会いした時から、我々は由希様に忠誠心を誓いました。
そのことは、昔と変わらず今もこの胸に・・・・・・。








ARES
  ― 招かれざる客 ―











真澄達の言う“優希兄様”(真澄の場合のみ優希お兄様)とは真澄達の親戚とは違うが遠い血縁者である。正門を出て“兄様”のお屋敷に向かう由希達の背後に怪しげな団体の人影があった。人影に気付いた相馬は、絶対零度に近い微笑を浮かべながらそのことを由希に報告をした。



「由希様、お気付きですか? 何者かが我々の後を尾行しているみたいですよ」



そんな相馬に真澄は微笑を見せた。



「流石、相馬ね。 でもそっちの方は私たちが出なくてもいいみたいね。 ・・・最澄、前方に結界を創ってくれるかしら?」



姉の微笑を見た最澄は軽く頷き、一歩前に出た。



「御意。 ・・・これくらいでいいですか、姉様」



最澄は円形の結界を半径3qの範囲で創った。真澄は微笑しながら頷き、左斜め後ろにある電柱の影に視線を送った。そこから、全身を黒で統一されたスーツを着た男達が数十人姿を現した。



「神岡 由希君、我々と共に来てくれないかね。 断ればどうなるかぐらいは、君は分かっているだろう?」



そのような状況に陥っても由希は平然としていた。彼らにとってのこれは日常茶飯事であったために、これくらいの脅しにはもう慣れていた。そして、なによりも彼らにはとても強い絆があった。それを信じ、由希は相馬たちを信じているので怖いとも思わなかった。



「お断りいたします。 大切なお方とお会いする予定ですので。 それに、彼らを甘く見ていると痛い目にあいますよ? これは、僕からの忠告・・・いいえ警告です」



由希は即答し、毅然とした態度で男達にニッコォと微笑んだ。その間に相馬は楢葉に頷き、由希を守る体勢をとっていた。この2人は幼い頃から武道をやっており、今となってはそれら全てにおいて有段者であった。真澄達も剣術、合気道、柔道においては有段者である。



「・・・楢葉、君は余り由希様のお傍を離れないように。 ここは我らに任せて、若葉様方は奴らをお片づけくださいませ」



相馬は若葉達にニッコリと微笑を見せると、横目で男達を牽制しながら最澄の張った結界を見つめた。



「そうね。 2人とも、少しは手加減してあげなさいね? 真澄、最澄行くわよ!!」



若葉は相馬に微笑を返すと、真澄たちを連れて結界の中に入っていった。その後を黒ずくめの男達の何人かが若葉たちの後を追おうとしたが、それらは全て相馬と楢葉に投げ飛ばされてしまった。



「あなた方のお相手は、我々です。 ・・・ですが、由希様には指一本触れさせはいたしませんよ?」



楢葉は不敵な笑みを浮かべた。彼らの場合、幼い頃から常に由希と一緒にいたため、自分達自身で由希を生涯の主と認めた。それ以来、彼を煩わせないためにも2人は、事務的なものは全て処理を行ってきた。【学生会】に入った理由の一つがそれである。由希も運動能力以外も全てに関して普通の者達よりも遥かに上である。しかし、その運動能力に場合、由希よりも相馬たちや真澄たちが化け物並みなのである。

スーツの男達は相馬たちを完全に甘く見ていた。彼らの属する組織の上層部からの情報で彼らが普通の高校生よりも強いと知らされてはいたが、所詮は子どもだと。そして何より2VS40人以上であるから数も圧倒的に自分たちが有利だと思って疑わなかった。それが、常識である。しかし、そのような常識というプライドは彼らの前では何の意味もなかった。だが、彼らは男たちの中にあった常識をも今日を境にして全てを返上させてしまった。そして・・・男たちの中にあった歪んだプライドをことも見事にいや、徹底的に叩き潰してしまった。それはもう、跡形もなくなるようにしながら跡形もなくなるように。



「名取 相馬。 我らの主を害する者は我らの敵に等しい。 ・・・覚悟!!」


「佐倉 楢葉。 由希様は我らの主。 二度とこのような愚かな事を思えないよう、成敗いたします」



2人は同時に空手の型をした。
そんな2人に男たちは一瞬怯んだが、後方にいたリーダー格の男が命令をし、一斉にかかってきた。

しかし、当の本人たちはそれらを平然としてみていた。
彼らは柔道、空手、合気道関連は本家を守るとして物心が付く以前から両親に教え込まれていた。
それ以来、自然と学んだことにより今では大人たちよりも強くなっていた。

それでも、普段は優しく微笑む極普通の高校生である。
だが、そんな彼らは自分たちの君主である由希に危害を及ぼす者には徹底的に倒し、多額の慰謝料と一緒に手出し無用と教え込んできた。


楢葉はスッと避け、棒に向かって左脚を振り上げた。その反動で男の右頬を蹴りつけた。
男はろくに受身もとれずに吹っ飛び、後方にあった電柱に叩きつけられた。


相馬に向かった男は右手にガスバーナーを持っていた。
吹かれている炎を避け、その腕に手刀を叩き込んだ。骨が逆に曲がり、バーナーの炎は己の髪を焼いた。

2人は充分、力を弱めていた。
彼らが本気でやっていたら、スーツの男たちの中で生存者はいないだろう。

5人位の者達は車で逃走を計ったが、すかさず相馬が腰に手をやり、手裏剣を取り出してその者達の足元と車のタイヤに命中させ、突き刺した。


人数はさすがに50も超えなかったが、それでも2人の子どもに経った5分でK.O.にされてしまった。



「お怪我はありませんか、由希様」


「大丈夫だよ。 心配してくれてありがとう、楢葉。 相馬、これを回収しておいたよ。 名取家の家紋入りのコレをね」



由希の手の中にはさっき相馬が車に放った手裏剣があった。それを受け取り、いつも腰にはめている専用にはめた。



「ありがとうございます、由希様。 ・・・後は真澄様方ですね」



相馬は真澄たちが入って行った結界を見つめた。

結界とはその中で建物が壊れたとしても一般的に問題はない。普通の人はその中に入れないのだ。しかし、結界を創った本人が怪我をした時はその力は弱まり、瀕死になればその力の効力はなくなる。それは結界が破られた事になり、結界内での事が影響して建物とかが壊れてしまう。



「姉様、・・・3人ですか?」


「・・・いいえ、結構いるわ。 若葉、私今から力を使うわ」


「そうね、真澄。 最澄、そこは危ないからこっちへ」



最澄を避難させ、真澄は両手で拳を作り、力を込めた。
その手を合わせ、全身の力をそこに集中させた。

しばらくすると、そこから静電気が出てきた。
手をゆっくりと伸ばしていき、両手の中で円球にしていった。


その様子を見ていた最澄の両手には棍(赤、青)を持っており、若葉もまた右手にフェンシングで使っていそうな剣を持っていた。

真澄の瞳は茶色が少し入っている黒であったが、この時は金色が少し入っている翠になっていた。



「・・・我と契約せし雷の精霊たちよ。 汝の力にて我らの敵の姿を見せたまえ!『雷鳴招来』!!」



真澄はその円球を空高く投げた。

その円球・・・雷の塊は結界の中心で止まり、そこから雷が出て、敵の影に正確に落ちていった。


それにびっくりして物陰から姿を現した。



「姉様、これを!!」



最澄は片手の棍(赤)を真澄に向かって投げた。それを受け取り、敵の攻撃に備えて気配を配った。柱の影から出てきたのは瞳に怒りの炎を秘めていた不良達だった。だが、彼らはもう人間ではなかった。彼女たちが戦っている‘鬼’に憑依され、その身体が乗っ取られてしまったのだ。完全に‘鬼’と化してしまったら彼女たちでも助けられる確率0%。その区別は彼女たちの見ているオーラ(気)である。真澄は最澄に微笑し、攻撃にはいった。見渡しの良かった屋根の上から急降下し、男たちの間に行った。最澄、若葉もまた真澄の様に上の方から降りてきた。彼女たちは何度目かの攻防戦を繰り返した。それに嫌気がさしたらしく、若葉は2人にある提案を出してきた。



「・・・相馬たちはもうかたが付いたところね。私たちも早く終わらせましょう。 真澄、私も‘力’を使うわ。 早く兄様の所に行かなきゃいけないしね? ・・・悪いけど、発動するまでの少しの間だけでもいいから奴らを足止めしてくれるかしら」


「・・・分かったわ。 最澄、行くわよ!! あっ若葉、良かったら合図してね」



2人は左右に前後に向かい敵を翻弄した。体格も敵よりはるかに小さいので反動が少なく、交互に高速移動するので中には回りきれずに転倒してしまった者も出てきた。その間、若葉は自分の持っていた剣に力を込めた。その剣は徐々に炎が帯びていった。



「真澄、最澄、避けて!!」


「姉様、こちらへ! ・・・我と契約せし水の精霊たちよ。 汝の力にて我らを守りたまえ! 『守りの氷霧』!!」


「・・・我と契約せし火の精霊たちよ。 汝の力にて我らの敵を焼き尽くせ! 『烈火招来』!!」



最澄の結界魔法と若葉の炎による攻撃が重なった。炎は結界を避けて敵の方に向かい、円状に包み込んだ。それから数分たち、炎が徐々に引いて消えたときにはそこにいた者達は全て跡形もなく蒸発してしまっていた。最澄は自分で創った結界を解き、姉に向かって微笑した。



「姉様、お怪我はありませんか?」


「大丈夫よ、最澄。 ・・・由希たちの無事ね?」



由希は頷き、後ろを振り向いた。そこには中型の黒猫の姿があった。



「皆様、優希様の勅命によりお迎えに参りました」


「大和。 ・・・この者たちはそうする? 警察にでも連れて行こうか」


「・・・いえ、この者たちは私が連れて行きますので。 皆様はお早くお屋敷へ・・・」



 黒猫・・・大和は人の形に変わり、ロープで巻かれていた者たちの周りを光で包み込んだ。その光が消えていたときには、大和たちの姿も消えていた。








2005/04/07

修正・加筆
2006/04/01













戦闘シーンを突っ込んでみました。
SFになりそうですね・・・・。
魔法とか、武器関係での戦いが大好きなんです。
(幻水などのRPG好き)