「忘れ物はないわね?」


「大丈夫ですよ、姉様」


「気を付けて行っておいで。 今日は、早く帰って来るんだよ?」



平和な時・・・・。
時々、戦闘などもあるけれど・・それ以外は何の変わりのない日常。


・・・けど、確かにあの時(・・・)から何かが変わってきた。
何か、とても胸騒ぎがする・・・・・。








ARES
  ― 学園生活 ―











桜が散り始め、うっとうしい梅雨のやってくる5月。新入生もクラスに馴染んできた頃でもある。
鳳凰祭(体育祭)も慌しいが無事に終わり、生徒達の頭の中は早くも中間テストのことになっていた。
この鳳来学園は二期制であるため、テストは4回しかない。

学園の理事長は創立者である、神岡家の人間であった。
幼等部・小等部・中等部・高等部・大学部・大学院とで成る巨大な学園は、
日本一の大財閥《神岡》が未来をしょって立つ若者達の学び舎なれと、私財のみで完成させた一つの巨大な〔都市〕である。



「姉様!!」



午前の授業を終わらせるチャイムが鳴りやんで数分が経った頃、高等部2年Z組のクラスに元気のいい声が響いた。Z組とは、その学年でスポーツや学力のSPクラスのことである。その声の持ち主に微笑み、腰まである髪を揺らしながら近づいて行った女子生徒がいた。



「どうしたの、最澄?」



少女は最澄と呼ばれた少年にニッコリと微笑んだ。



「昼食のお時間なので、お迎えに参りました。 ・・・ご迷惑でしたか?」



少年は少女に怒られるのではないかと心配をしながら少女の表情を見ていた。



「そんなことはないわ。 けど、もう少し静かに呼んでちょうだいね? 先に行っていてちょうだい。 ここを片付けたらすぐに行くわ」



少女は少し俯いていた少年の頬に優しく触れ、安心させるように微笑んだ。



「わかりました。 ・・・いつもの場所でお待ちしております」



頬を撫でたられた少年は安心したように微笑み、少女のいる教室を後にした。少女・・・時永 真澄は弟の最澄の後姿を微笑みながら見送ると自分の机に戻り、急いで準備に取りかかった。最澄は3歳年下の中等部2年Z組に在籍していた。



「真澄、そろそろ行きましょう?」



まるでタイミングを計っていたと思わせる声の持ち主は、真澄の親友であり従姉でもある早川 若葉である。彼女の弟は最澄と同じクラスだった。



「葉月はどうしたの? いつも、最澄と一緒に行動をしているのに」



真澄は弟と一緒に来なかった若葉の弟に姿を探した。



「・・・あの子は今、風邪でダウンしているわ。 だから、来る時に吹雪に頼んできたの」



若葉は苦笑いを浮かべながら、教室の扉を開けた。



「そう・・・。 行きましょうか」



そんな真澄の言葉に若葉も頷いた。

この学園は特殊で、幼等部・小等部は離れているが、中等部・高等部は中庭にあるカフェテリアで繋がっている。
大学部・大学院もこれと同様で中庭のカフェテリアで繋がっている
(そのほかにも各校舎内にそれぞれカフェテリアがある。校舎自体は高いフェンスで隔たれている)。

ちなみに高等部から大学部へ行く近道は、中庭にある細道であった。
この通り道に中国風の建物があり、建物の中には2人用のベンチが設置されていた。


小等部は中央館・東館・南館・西館がある。中等部からはこのほかにも北館があった。
クラスも小等部は、1年と2年が1階、3年と4年が2階、5年と6年が3階の南館と西館に普通クラスがある。
中等部・高等部は学年にいる生徒が多いため、学年順となって南館と西館に分かれて普通クラスがある
(この場合の分け方は、文系が南館で理系が西館)。
中等部からある北館には、海外にあるこの学園の姉妹校の生徒で短期の留学生専用・・・別名・国際科クラスの棟である。
中央館は4階までとなっていて、職員室と特別教室がはいっている。
ここまでは一般生徒も入れるが、唯一東館だけは立ち入り禁止区域となっていた。


その理由は、東館はZクラス専用の棟だからである。この学園では毎年4月の始業式に学園側から、校章・学年・クラスバッチが発行されている。
防犯対策も兼ねて制服の襟に付いているクラスバッチの中に、マイクロチップが搭載されているのだ。

このチップにはIDの役割を示している。もしも他人のバッチを付けている場合、校舎の扉は開かない。

これは校舎内も同じことで、東館に続いている廊下にはガラスの扉があり、Zクラスの者以外が一緒に通ろうとすると自動的に閉まる。
しかし、Zクラスの者ならば年齢問わずに入ることができる。
最澄は中等部から高等部の校舎に来て、この扉を通って姉のいる2年のクラスに来ているのだ。






彼女達の昼食はいつも屋上で食べていた。3階の西側の階段を上り、屋上に続く扉を開いた。最澄はフェンスの近くにできていた日陰に立っていた。そんな彼の近くに3つの人影があった。



「由希? [学生会]の仕事はもういいの?」



真澄は3つの人影の中で一番背の低い少年に尋ねた。



「大丈夫だよ。 今日の分は終わらせて来たから。ね、相馬?」



由希と呼ばれた小柄な少年は真澄の質問に答えながら、右隣にいた少年に尋ねた。



「はい、由希様。 それに、本日は優希兄様にお呼び出しがありましたからね。 それが何よりも我々にとっての最優先事項です」



相馬と呼ばれた少年は、ニッコリ微笑んだ。






中央館の4階には、それぞれ[学生会]という組織の部屋がある。[学生会]とは、いわば生徒会と同じような役割である。決定的に違うのは、教師陣が何も口出しをしない事である。



「由希達も? 私も今朝、葉月を吹雪に預けた時に放課後来るように言われたわ」


「由希様、若葉様、まずは昼食にいたしましょう」



由希様と呼ばれているのは神岡 由希彼本人が神岡家の末息子だからである。名取 相馬は代々続いているボディーガードとして有名な〈忍者〉の末裔である。佐倉 楢葉は相馬と同じ神岡家の分家であった。


ちなみに、高等部の[学生会]は会長・由希、書記・相馬、会計・楢葉、で構成されている。

昼食も終盤にさしかかって話す余裕ができた頃、最澄の隣にいた姉が話しかけてきた。



「最澄、SHRが終わったら貴方のクラスに迎えに行くわ。 少し、待っていてくれるかしら」



姉に尋ねられた最澄は、即座に頭を縦に振った。



「それなら、僕らも一緒に帰ろう。 若葉も行くだろう? そのまま、優希兄様のお屋敷に」



楢葉から渡されたお茶を飲みながら由希が提案した。



「そうね。 葉月も吹雪がお屋敷に連れて行っていると思うから、引き取らないとね」



由希の提案に若葉は賛成の意思を示した。そんな会話の中、相馬は自分のしている腕時計に目線を送り、時刻を知らせた。



「・・・これで、放課後の予定は決まりですね。 皆様方、そろそろお昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴ってしまいます」



相馬のその言葉に一番慌てたのは、最澄である。彼は中等部であるため、急いで自分の食べていた弁当箱をしまいこんだ。



「姉様、僕はこれにて失礼いたします。 ・・・放課後は自分の教室にて待機しております」



最澄は真澄たちに向かって礼儀よくお辞儀をし、急いで階段を駆け下りて行った。

彼女達のお弁当は楢葉が作っている。彼は見ただけでお菓子などを作ってしまうのだ。いつもニコニコ微笑んでいて気質も温和であるが、彼の中にある怒りの導火線・・・地雷とも言えるのは、由希に関してのことである。それは、相馬にも言えることであった。



SHRも終わり、お昼の約束通りに真澄達は中等部にいる弟のクラスへと向かった。最澄は既に帰りの準備を済ませていた。最澄は物心が付く前から姉である真澄以外の命令やお願いを聞かない一面があった。他人に対して、好意を抱くことはあっても、敬意は姉のみに対してである。だが、彼の場合は軽い人間不信に近いものがあるのでめったに好意を抱くことはなかった。



「最澄、帰りましょう」



真澄達に自覚症状はないが、この鳳来学園近辺では有名人である。校外からも人気は高く、それこそ男女問わずに。それを裏付けるかのように、昨年の鳳栄祭(高等部・文化祭)のミスコンの順位で1位は真澄。2位は若葉だった。中等部の頃から毎年、バレンタインの時期や彼女達のB.D.にもたくさんのプレゼントが学年問わずに渡されている。そして、神岡家の末弟であり小等部3年から今まで学生会会長を務めてきた由希の遠い親戚兼幼馴染みでもあった。



「はい、姉様」



姉の声にニッコリと微笑んだ最澄は荷物を入れた指定鞄を持って、教室から出てきた。彼よりも先に出てきた彼のクラスメートは、口々に由希達と挨拶を交わして行った。








2005/04/01

修正・加筆
2006/04/01













オリジナル、ARES〜戦いの神〜連載開始です!!
このネタを思いついたのが今から約4年前・・・(滝汗
ようやく表に出すことが出来ました。

・・・5年目にして、漸くまともなものができました;