「忘れ物はないわね?」
「大丈夫ですよ、姉様」
「気を付けて行っておいで。 今日は、早く帰って来るんだよ?」
平和な時・・・・。
ARES
桜が散り始め、うっとうしい梅雨のやってくる5月。新入生もクラスに馴染んできた頃でもある。
「姉様!!」
午前の授業を終わらせるチャイムが鳴りやんで数分が経った頃、高等部2年Z組のクラスに元気のいい声が響いた。Z組とは、その学年でスポーツや学力のSPクラスのことである。その声の持ち主に微笑み、腰まである髪を揺らしながら近づいて行った女子生徒がいた。
「どうしたの、最澄?」
少女は最澄と呼ばれた少年にニッコリと微笑んだ。
「昼食のお時間なので、お迎えに参りました。 ・・・ご迷惑でしたか?」
少年は少女に怒られるのではないかと心配をしながら少女の表情を見ていた。
「そんなことはないわ。 けど、もう少し静かに呼んでちょうだいね? 先に行っていてちょうだい。 ここを片付けたらすぐに行くわ」
少女は少し俯いていた少年の頬に優しく触れ、安心させるように微笑んだ。
「わかりました。 ・・・いつもの場所でお待ちしております」
頬を撫でたられた少年は安心したように微笑み、少女のいる教室を後にした。少女・・・時永 真澄は弟の最澄の後姿を微笑みながら見送ると自分の机に戻り、急いで準備に取りかかった。最澄は3歳年下の中等部2年Z組に在籍していた。
「真澄、そろそろ行きましょう?」
まるでタイミングを計っていたと思わせる声の持ち主は、真澄の親友であり従姉でもある早川 若葉である。彼女の弟は最澄と同じクラスだった。
「葉月はどうしたの? いつも、最澄と一緒に行動をしているのに」
真澄は弟と一緒に来なかった若葉の弟に姿を探した。
「・・・あの子は今、風邪でダウンしているわ。 だから、来る時に吹雪に頼んできたの」
若葉は苦笑いを浮かべながら、教室の扉を開けた。
「そう・・・。 行きましょうか」
そんな真澄の言葉に若葉も頷いた。 この学園は特殊で、幼等部・小等部は離れているが、中等部・高等部は中庭にあるカフェテリアで繋がっている。
彼女達の昼食はいつも屋上で食べていた。3階の西側の階段を上り、屋上に続く扉を開いた。最澄はフェンスの近くにできていた日陰に立っていた。そんな彼の近くに3つの人影があった。
「由希? [学生会]の仕事はもういいの?」
真澄は3つの人影の中で一番背の低い少年に尋ねた。
「大丈夫だよ。 今日の分は終わらせて来たから。ね、相馬?」
由希と呼ばれた小柄な少年は真澄の質問に答えながら、右隣にいた少年に尋ねた。
「はい、由希様。 それに、本日は優希兄様にお呼び出しがありましたからね。 それが何よりも我々にとっての最優先事項です」
相馬と呼ばれた少年は、ニッコリ微笑んだ。
中央館の4階には、それぞれ[学生会]という組織の部屋がある。[学生会]とは、いわば生徒会と同じような役割である。決定的に違うのは、教師陣が何も口出しをしない事である。
「由希達も? 私も今朝、葉月を吹雪に預けた時に放課後来るように言われたわ」
「由希様、若葉様、まずは昼食にいたしましょう」
由希様と呼ばれているのは神岡 由希彼本人が神岡家の末息子だからである。名取 相馬は代々続いているボディーガードとして有名な〈忍者〉の末裔である。佐倉 楢葉は相馬と同じ神岡家の分家であった。
ちなみに、高等部の[学生会]は会長・由希、書記・相馬、会計・楢葉、で構成されている。 昼食も終盤にさしかかって話す余裕ができた頃、最澄の隣にいた姉が話しかけてきた。
「最澄、SHRが終わったら貴方のクラスに迎えに行くわ。 少し、待っていてくれるかしら」
「それなら、僕らも一緒に帰ろう。 若葉も行くだろう? そのまま、優希兄様のお屋敷に」
楢葉から渡されたお茶を飲みながら由希が提案した。
「そうね。 葉月も吹雪がお屋敷に連れて行っていると思うから、引き取らないとね」
由希の提案に若葉は賛成の意思を示した。そんな会話の中、相馬は自分のしている腕時計に目線を送り、時刻を知らせた。
「・・・これで、放課後の予定は決まりですね。 皆様方、そろそろお昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴ってしまいます」
相馬のその言葉に一番慌てたのは、最澄である。彼は中等部であるため、急いで自分の食べていた弁当箱をしまいこんだ。
「姉様、僕はこれにて失礼いたします。 ・・・放課後は自分の教室にて待機しております」
最澄は真澄たちに向かって礼儀よくお辞儀をし、急いで階段を駆け下りて行った。 彼女達のお弁当は楢葉が作っている。彼は見ただけでお菓子などを作ってしまうのだ。いつもニコニコ微笑んでいて気質も温和であるが、彼の中にある怒りの導火線・・・地雷とも言えるのは、由希に関してのことである。それは、相馬にも言えることであった。
SHRも終わり、お昼の約束通りに真澄達は中等部にいる弟のクラスへと向かった。最澄は既に帰りの準備を済ませていた。最澄は物心が付く前から姉である真澄以外の命令やお願いを聞かない一面があった。他人に対して、好意を抱くことはあっても、敬意は姉のみに対してである。だが、彼の場合は軽い人間不信に近いものがあるのでめったに好意を抱くことはなかった。
「最澄、帰りましょう」
真澄達に自覚症状はないが、この鳳来学園近辺では有名人である。校外からも人気は高く、それこそ男女問わずに。それを裏付けるかのように、昨年の鳳栄祭(高等部・文化祭)のミスコンの順位で1位は真澄。2位は若葉だった。中等部の頃から毎年、バレンタインの時期や彼女達のB.D.にもたくさんのプレゼントが学年問わずに渡されている。そして、神岡家の末弟であり小等部3年から今まで学生会会長を務めてきた由希の遠い親戚兼幼馴染みでもあった。
「はい、姉様」
姉の声にニッコリと微笑んだ最澄は荷物を入れた指定鞄を持って、教室から出てきた。彼よりも先に出てきた彼のクラスメートは、口々に由希達と挨拶を交わして行った。
2005/04/01 修正・加筆
オリジナル、ARES〜戦いの神〜連載開始です!! ・・・5年目にして、漸くまともなものができました;
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