「この身が穢れようとも、私の忠誠はルシフェル様に捧げているの。
あの時、あのまま《天界》にいることよりも共に堕天する道を選んだ。
今、私たちを動かしているのは・・・ルシフェル様の切なる願いの為」



全ては、ルシフェル様のために。
ルシフェル様の望みを叶えるべく、我らはこの地に再び舞い降りた。
利害一致した《地界》の住人である4人と共に・・・・・・。






―――― 純白の翼を漆黒に変えた天使。
敬愛する『明けの明星』の為、嘗て共に戦った天使たちと敵対する。
己が、信じた信念のために・・・・・・








apocalypse
    ― 嘗ての師弟関係 ―











北区の上空に伸びる蒼い光。
その光と同時に、練馬区の上空にも同じような―蒼い光よりは、若干小規模―光が出現した。
この光は、蒼い光・・・ガブリエルが創り出した結界を同じで、レミエルがアスモデウスに敗北するその時まで崩壊することはない。



元々、天使たちの創り出す結界は純白の光に包まれている。
しかし、精霊の力を借りているガブリエルの結界は、精霊の属性――水の力が作用し、青色となって創り出されている。



「・・・北の方角・・・・・。 ガブリエル様が結界をお創りになられたッ!?」

「・・・水のタリスマン≠フ奪取には同じ水属性であるリヴァイアサンが向かったわ。 彼らは、遥か昔からの因縁。
同じ水の力を使う者同士。 さぁ・・・これで周りの被害を気にせずに出来るわね? 始めましょうか!」

「ッ!! ・・・ガブリエル様は、水使いの中でも上位におられる方。 そう簡単に、負けるはずがありませんッ!」



ガブリエルの力を感知したレミエルは、彼が嘗て封印した地である北の方角に視線を送った。
視線の先にはレミエルの創り出した結界と同じように、天空へ一直線に伸びる蒼い光が見える。
即座にガブリエルの創り出した結界だと悟ったレミエルは、既にガブリエルが何者かとの交戦を開始したと確信し、愕然とした表情を見せた。
そんなレミエルに対し、北に向かった人物を知っているアスモデウスは、
クスクスと妖艶な笑みを浮かべるとhiems〔ニンブス〕を持たない左腕を前に突き出した。


彼女の左腕にはストレートグレイの2連となっているブレスレッドが付けられており、オレンジ色の宝玉が数個付けられている。
その宝玉は《人界》にある鉱物・トパーズであった。
彼女は堕天使。
それにより、堕天する以前のように聖力は既になくとも、《天界》で学んだ知識はあり、また嘗て使用していた武器や宝具なども全て使える。




――― しかし、聖力ではなく魔力が力の源となっているために悪しきモノを祓うとされている銀に触れることは出来ないが。




アスモデウスは力強く拳を作ると、左手に魔力を集中させた。
小さかった黒い光が徐々に大きくなり、ある程度の大きさになった光を無造作に宙へ投げた。
投げられた黒い光は空中で分裂していき、分裂が終わる頃には小さいサイズになっているものの、無数の黒い玉が出現していた。



「・・さぁ。 この攻撃を避けることは出来るかしら?」



アスモデウスはクスクスと微笑みながら左腕を頭上に上げ、勢いよく振り下ろした。
彼女の仕草が合図になったのか、宙に浮かぶ無数の黒い玉は一斉にレミエルに向かって飛んできた。



「クッ!!」



レミエルは咄嗟に防御壁を作ろうと左手を翳した。
半数以上を咄嗟に創り出した防御壁で防御できたものの、僅かに残っていたのかレミエルの左腕と右太股に僅かな傷を残した。



「腕を上げたようね、レミエル。 昔の貴女なら・・・それくらいの傷ではすまなかったわ。 ・・・次はどうかしら?」



レミエルの仕草に驚いた様子を見せることなく、アスモデウスは《天界》にいた頃のレミエルとの鍛錬の様子を思い出していた。
その頃と比べ、数倍も腕を上げたレミエルに対し、嬉しそうに微笑を浮かべたアスモデウスはhiems〔ニンブス〕を一度上空に上げると、
カチッと音を立たせてレミエルに刃を向けた。
音を立てられた際に、アスモデウスの甲を護る為に柄から手甲が出現した。



hiems〔ニンブス〕を握り直したアスモデウスは、ニッコリとレミエルに笑みを見せると瞬時にレミエルの懐に入り込んだ。


自分に向かってきたアスモデウスを防御することが不可能だと悟ったレミエルは、後方に飛ぶことで攻撃を回避した。
バランスを整えたレミエルは、左手に握られているmons〔モンス〕をアスモデウスのように一度上空に上げ、
カチッと音を立たせて刃をアスモデウスに向けた。
音を立てられた際に、レミエルの甲を護る為、柄から銀色の手甲が出現した。




彼女たちの武器は、双方とも斬る事が目的のものではない。
双方の武器とも突く事を専門とする武器であった。
その為、彼女たちの姿勢はフェンシングのような姿勢をしており、攻撃方法もまたフェンシングに類似している。




自分の攻撃を避けたレミエルに対して驚いた様子を見せることなく、笑みを浮かべたアスモデウスは、
再びレミエルに攻撃を仕掛ける為に先ほどの数倍の速さでレミエルの急所を狙って突いた。


アスモデウスの早い攻撃に、レミエルは攻撃をする間もなく防御に徹するしかなかった。
防御をするものの、相手の攻撃を全て捌くことは出来ずに三回に一回の確立でダメージを負っている。


アスモデウスの攻撃をヒラリと舞いながら後方に避けたレミエルは、mons〔モンス〕を水平にすると右手に聖力を集中させた。
彼女の付けているブレスレッドからも淡い光が放出され、その光はmons〔モンス〕全体を包み込んだ。
暫くすると、その光は全てmons〔モンス〕に吸収されたかのように消え去り、それまで無機質な色だった刃は、淡い純白の光を放っていた。



「私に、闘いを教えてくれたのは・・・貴女。 だからこそ、自分の力が貴女に敵うことが出来ないと判っているつもりよ。
けれど・・・私はこの場を譲るわけにはいかない。 全ては、ウリエル様方のためにッ!」



オレンジカルサイトの瞳に強い光を宿したレミエルに対し、アスモデウスもまた、
レミエルと同じように左手に集中させた魔力をhiems〔ニンブス〕に送り込んだ。
送り込まれた魔力を吸収したhiems〔ニンブス〕は、濁ったような黒い光を放っている。



今度はこちらからとばかりに攻撃を仕掛けるレミエルに対し、
冷静に相手の攻撃を捌いていくアスモデウスは、レミエルの足元を左足で捌いた。


アスモデウスの左足に捌かれるその瞬間、
咄嗟に避けたレミエルはそのまま宙に浮かぶと一回転をし、宙にいる自分を静かに見つめるアスモデウスに向かって急降下した。

降下してくるレミエルを静かに見つめていたアスモデウスは、軽く左手を握ると小さな黒い光を出現させ、その光をギュッと握り締めた。
ゆっくりと開かれた掌には先ほどの光ではなく、ガラスの欠片のような小さな破片が多数あり、
自分に向かってくるレミエルにその破片を放った。





――― ブスッ!!





その攻撃に対し、降下途中であったレミエルは咄嗟に防御壁を作ろうと右手を翳したが放たれた破片の速度が速く、
作る前に全ての衝撃を受けた。
破片は全てこれまでの攻防戦の折にアスモデウスによって付けられた傷に集中し、全身に痺れを起こした。


魔力の直接攻撃を受けたレミエルは、その場所が傷口であったこともあり、
流れ出る血を止血しようにも魔力による攻撃の為、回復能力が通常の攻撃よりも遅い。
そして、傷口に直接魔力を当てられるような攻撃のために彼女の聖力の消耗にも繋がる。
それだけでなく、全身が痺れる様な感覚に襲われているレミエルは、その場に立っていることも間々ならず、右膝を地面に付けた。



「・・・勝負、ついたわね。 その状態では、もう戦うことは無理でしょう。
その場でジッとしておけば、暫く経ったら動けるようになるわ・・・。 思ったより、時間が経ったようね・・・・。
私も、貴女ほどではないけれど力を消耗してしまった。 ・・・今から向かったとしても・・・邪魔になるだけ。
貴女の目的は、達成されたことになるわね・・・レミエル」



アスモデウスは地面に右膝を付けるレミエルに対し、闘いの最中に見せていた妖艶な笑みではなく、
嘗て共に戦っていた頃と同じ穏やかな笑みを浮かべていた。
そして、そのガーネットに宿る色もまた、濁っている色ではなく澄んだ色を宿していた。
2人を包み込んでいた純白の結界は、レミエルが地面に右膝を付いた時に崩れるかのようにして崩壊した・・・・・・。








―――― 嘗て、共に戦い、共に鍛錬をしてきた者同士。
各々の信念を貫く為、2人は敵対して闘う道を選んだ。
白き翼を持つ者、黒き翼を持つ者に破れたが――その結果、相打ちとなる











2009/04/01













師弟関係であるが故に、互いの戦い方や癖などを誰よりも熟知している2人。
よって、アスモデウスの勝利か相打ちの二つしかない状況です。
レミエルの守りたいという意志と越えるための努力の結果、相打ちとなりました。
堕天しているため、聖力は0で魔力オンリーのために、
傷を受けたレミエルは毒に犯されます。
反する力は、害にしかならないので。