「・・・必ず、お前を縛る呪縛から解放する。
お前の純粋な心を利用し、邪な考えを持つ奴からの解放・・・。 それが、私の望み」
大切な私の半身。
《天界》にいた頃、神に忠誠を誓った覚えはない。
私が護りたいのはただ1人。
私の半身の為に、私は戦ってきた。
・・・我が弟を害するのなら、たとえ神だとしても・・・私は許さない。
―――― 半身を最も愛する『明けの明星』。
彼の者が戦ってきたのは、大切な半身をその手で護る為。
半身の為ならば、その身を漆黒に染める・・・・・・
apocalypse
― 黒き七柱 ―
天空から地上へと突き刺さる7つの暗黒の光。
その光の中に出現した者たちの中で、
3人の気配が自分たちのよく知る者たちと似ている気配を感じた紫苑たちは、光に感知能力を集中させた。
光のある場所は彼らのいるところから遠い距離があるが、
記憶が完全に覚醒した今、その距離はあまり問題にはならない。
彼らがその気になれば、遠く離れた場所でもその気配を辿る事は可能なのだ。
「・・・ッ! 兄様ッ!!」
似ていると思われた気配の持ち主たちは、嘗ては同胞と呼び、
共に戦ってきた仲間・・・《天界》から追放された3人の天使たちだった・・・・・・。
その3人の中に、紫苑は誰よりも求めていた半身の忘れられない気配に対し、切なさを含んだ声で叫んだ。
たとえ、その叫びが空中に浮いている彼らに気付かれることが無いと解っていても、
紫苑は叫ばずにはいられなかった。
記憶が覚醒していない時から、無意識に求めていた大切な唯一無二の魂の半身なのだから・・・・・・。
大切な半身の気配を察知した紫苑が悲痛な声を上げている頃、
中央にある暗黒の光の中にいる人物は、
とても懐かしく・・・そして、愛おしい気配に気付いてその懐かしい気配のする方向へゆっくりと視線を向けた。
「・・・ミカエル。 姿はあの頃と変わったが・・・魂はあの頃のまま。
純粋で美しく、私の大切な愛おしい片割れ。 必ずお前を、あの忌々しい呪縛から解放する・・・・・・」
小さく己に誓うかのように呟かれた言葉は、自身を囲む6人の人影には聞かれていなかった。
彼のいる場所からは彼の能力を最大限まで使用しても小さく映る程度だが、彼はそれでも満足気に微笑んだ。
彼の視線の先に小さく映る人影・・・紫苑を見つめる瞳は愛しさと優しさが含まれていたが、
最後に呟いた言葉には冷たい冷気が籠っていた・・・・・・。
彼は一度瞼を閉じ、再び開けると天空を見つめた。
彼の動作を静かに見守っていた6人の人影は、一斉に四方へと飛び去って往った・・・・・・。
最後までその場に留まっていた彼もまた、東へと飛び去った・・・・・・。
自分たちのよく知る気配と最も大切に想う半身の気配に、
呆然とする彼らの目の前で四方へ飛び去る7人の人影。そして、彼らに付き従う形で散って行く黒い影たち。
「・・・あの方角は、俺たちが嘗てこの地に封印した“タリスマン”が封印されている方角!?
・・・彼らの狙いは、やっぱり“タリスマン”か!」
「・・・しかし、彼らには既に聖力の力が残っていないはずです。 ・・・寧ろ、正反対の力を手にした彼らが、聖力が込められている“タリスマン”に触れられるはずがッ!」
由岐は呆然とする頭を漸く正常に戻せたのか、拡散して向かっていった方角に、驚愕の声を上げた。
先ほどまさかと言っていた仮説が、事実だったことにとても受け入れることが出来ない優衣は、
戦慄の走る身を強く抱き締めた。
「・・・だが、彼らの向かった先が “タリスマン”を封印した場所ならば、追わなきゃいけないだろ。
・・・確かに、彼らの力では“タリスマン”の力を解放することは不可能。
だが・・一つでも“タリスマン”を手に入れることが出来れば、この中央を護る結界が簡単に崩されるぞ」
「・・・それこそ、彼らの真の目的でしょうね。 中央に私たちが封印した“タリスマン”こそ、彼らの狙うモノ。
・・・その“タリスマン”を手にすることが出来れば、この世界は・・・《人界》は崩壊するわ。
そして、ゼウス様のお力も、大きく消費されてしまう」
由岐たち2人の言葉に眉を顰めた久遠は、もう一つの考えられる事を仮説として話した。
しかし、その仮説は他の仮説よりも現実味を帯びており、誰もその仮説に反論する要素が無かった。
中央を護る四方の“タリスマン”は、四つあることでその力を均等に保っている。
どれか一つでも欠けると、その力のバランスは脆くも崩れ去り、
結界そのものが崩壊して封印されている“タリスマン”がその姿を現す。
中央に封印される“タリスマン”は、属性が無い。
そして、それを創り出したのは確かに天使だけの持つ聖力だが、
属性が無い為に聖力は形を創り出す事だけに使用された。
その為、ほかの“タリスマン”と違って結界が破られると同時に、
その“タリスマン”は誰にでも触れることが可能になるのだ。
紫苑も久遠の言葉に頷き、遠くを見つめていた視線を久遠たちに戻した。
黒曜石の瞳には強い決意が宿っており、その決意の意味を取り違えることなく理解している6人は頷きあった。
彼らの向かった先に何があるのかを誰よりも理解している紫苑たちは、彼らを追うことを決意した・・・・・・。
「・・・これから俺たちが向かうところは・・・悪意に満ちている。 そんなところに、聖華を連れて行けない。
・・・聖華を護りながら彼らと戦うことなど、目覚めたばかりの俺たちは無理だ。
すまないが・・・ここで聖華を護ってくれ。 ここが、一番安全な場所だと、俺は判断した」
抱き締めていた腕を聖華からゆっくりと外しながら、目の前にいた水月たちに託した。
不安そうに見つめてくる妹に、久遠は何時もの優しげな表情で微笑み、彼女の頭を優しく撫でた。
そんな兄の仕草に、聖華は漸く安心したのか、何時もの微笑を久遠たちに見せた。
聖華の微笑に対して安心した表情を見せた久遠たちは、ゆっくりと瞼を閉じた。
閉じると同時に再び両腕を大きく広げ、
先ほど覚醒したばかりの力の一部を解放し、それぞれの背中に美しい純白の翼を出現させた。
翼を出現させた紫苑たちは、一度だけ視線を交わらせると、一斉に四方へと拡散して飛び去った・・・・・・。
「・・・私、幼い頃から悪意のある場所や、悪意を向けてくる人の側にいると、すぐに倒れてしまうんです。
悪意を感じる・・・それは、本当に生理的に教えられるんですよ。
私はそうは思っていなくても、体の方が素直で。
それで、よく倒れたことがあって・・・兄様方は、酷く心配なされてしまった。
私のできることは唯一つ。 兄様方が安心だと思われる場所で、兄様方のご無事を祈るだけです・・・」
美しい純白の翼を広げて四方へと飛んで行く兄たちの姿を静かにジッと見つめていた聖華に、
水月は労わるように彼女の背に優しく触れた。
そんな水月に対し、
聖華はジッと兄の飛んで往った方角を見つめながら兄たちが自分を水月たちに託した意味を静かに話した。
彼らがこれから向かう先・・・その場所は確実に悪意のあるところ。
そのような場所は、幼い頃からすぐに倒れてしまう聖華を連れて行けるはずが無い。
そして、そのような状況下で彼女を護りながら戦うことは不可能であろう。
そのことを誰よりも理解している聖華は、
祈るように両手を胸元で組みながら天に向かって静かに祈りを捧げた・・・・・・。
―――― 今、光と闇の最終決戦がその長き沈黙を破り、始まろうとしていた・・・・・・
2008/12/02
次回から章を変えて、戦闘・・・・。
この章は、覚醒から戦闘までの導入部分的役割なので、
通常の半分です(滝汗)
チラッと『兄様』が登場v
・・・後輩の許可を貰って、イメージイラストを載せれたらなーと思ってます(本気で)
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