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       「《人界》に広がる邪悪な力。 ・・・今は小さくとも、この事態を放って置くわけにはいかない。 
我ら天使の本来の任務は《人界》に暮らす人々を導くこと。 そして・・・悪に染まりし心を浄化することなのだから」 
 
 
 
 
ミカエルたちと共に降臨した《人界》。 
俺たちがこうして《人界》に降り立つのは、随分久々なことだ。 
ゼウス様の命によって天界軍を率いているが、本来の任務は悪魔や堕天使の討伐じゃない。 
人々の魂や定めを、正しき道に導くことだ。 
そんな俺たちが、この事態を放って置くわけにはいかない。 
その事態を見逃して、後から取り返しのつかないことになりかねないからな。 
 
 
 
 
 
 
      ―――― 全身に感じる己の持つ聖力とは異なる力の波動。 
最も聖力の強いとされる4大天使たちにだけ感知できるものだとしても、 
彼らに最も近いとされる神秘を司る天使・ラジエルが、《天界》にて感知した。 
それほどまで強き力、放って置くと危険なこととなるだろう・・・・・・ 
 
 
       
       
       
       
       
       
       
apocalypse 
          ― タリスマンの誕生 ― 
       
 
       
       
       
       
       
       
       
       
       
 
漆黒に覆われた空に佇む彼らに、彼らとは反する力が彼らを包み込もうとしていた。 
全身に張り付く魔力の波動に嫌そうな表情を見せるミカエルは、徐に左手を振り払った。 
 
 
振り払った直後、 
それまで彼らの傍に在った魔力の波動は綺麗に消え去っており、 
それとはまったく違う波動・・・彼らの纏う聖力の波動が彼らを包み込んだ。 
 
 
 
 
「強い魔力は私たちにとって毒でしかない。 
悪魔の討伐で多少免疫がついていたとしても・・・壁で隔てていた方がいくらかはましだろう」 
 
 
 
 
自分の聖力で円形の結界を張ったミカエルは、 
それでも先ほどまでの禍々しい魔力に不快感を露にし、思い切り眉を顰めた。 
 
 
 
 
「・・・どうする? この波動を元から消し去ることは無理だが・・・それでも最小限に抑えないと」 
 
「・・・波動の中心は、どうやらこの地らしい。 ・・・地上の精霊たちの力を借りて、この地に結界を施す」 
 
 
 
 
不快感を隠そうともしないミカエルに対し、ガブリエルは苦笑いを零した。 
しかし、彼の気持ちも分かるのかその事には触れず、この事態をどのようにして収拾するかを尋ねた。 
彼らの率いる天界軍の中ではそれぞれの軍の指揮官であったとしても、 
今回のように4大天使が揃って任務に当たる際はそのまとめ役にミカエルが選ばれる。 
今回も当然のようにミカエルに意見を仰いだガブリエルは、 
自分たちの中で桁違いに聖力の強いミカエルが波動の中心を探し当てたことに対して内心驚きながらも、 
彼の的確な指示に頷きを返した。 
 
 
 
 
精霊とは、地上に宿る自然の力そのものであった。 
四方を司る彼ら4大天使は、方位と共にそれぞれの自然の力もまた封じされている。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
東に封じられし、火を司る天使・ミカエル。 
西に封じられし、風を司る天使・ラファエル。 
南に封じられし、地を司る天使・ウリエル。 
北に封じられし、水を司る天使・ガブリエル。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
彼らは封じられた属性の力を借り、 
その力を自分の持つ聖力と合わせて彼らと敵対するものたちと戦うことが多かった。 
 
 
 
 
「・・・それしか方法がないか。 ・・・それぞれの方位に向かってくれ。 ミカエル、正確な中心地点は分かるか?」 
 
「・・・今、探索している。 ・・・ポイントはここからあまり離れていない。ちょうど、あの辺りだな」 
 
 
 
 
ラファエルはミカエルの言葉に頷きを返し、 
結界を施すほどの力を精霊たちから借りるために自分たちの封じられる方位へ向かおうとした。 
その際、結界の中心となる位置を確認する為にミカエルに話しかけた。 
ラファエルの言葉に精神を集中させては胴の中心地点を探していたミカエルは、前方を指差した。 
指された地点に全神経を向けたラファエルたちは、 
正確な波動の中心地点を把握し、一度視線を合わせて頷きあった。 
 
 
 
 
「お前たちはあの付近に待機。 私たちもそれぞれの方位で結界の準備を行う。 
最終段階は、あの地で行うからな。 その際、お前たちの力も借りる」 
 
「了解いたしました。 我らは、先にあの場所へと向かっております」 
 
「ここからだと、あまり気付かないだろうが・・流石にあの地点に行くと、 
お前たちの力でも感知することが出来るだろう。 
自分たち周りに、聖力で創った結界を張っておけ」 
 
 
 
 
 ウリエルとガブリエルがそれぞれの方位に向かったのを確認し、 
自分も封じられる方位へ向かおうとした際、状況が今一把握できていないアナエルたちに視線を送った。 
ミカエルの真剣な視線を真正面から受け止めたアナエルは、緊張した面持ちでミカエルの視線を受け止めた。 
そんなアナエルに対し、真剣な視線を外さないミカエルは彼らに指示を出した。 
 
 
 
その指示に頷きを返したアナエルたちを見届けたミカエルは満足そうに頷くと、 
今度は振り返ることなく、封じられる方位へと向かった。 
 
 
示された場所へ向かおうとしたアナエルたちに、 
忠告とばかりにラファエルが告げ、その言葉に神妙な顔で頷いたサマエルは、 
即座に自分たちの周りに聖力で創り出した結界を張った。 
 
 
 
そのことを見届けたラファエルは彼らの行動に頷くと、そのまま見返るとは逆の方位へと向かった・・・・・・。 
 
 
 
 
 
 
波動の中心を真ん中とし、封じられし東へやってきたミカエルは、静かにその場へ降り立った。 
ゆっくりと両腕を水平線になるまで広げ、それと同時に美しいルビーの瞳を瞼の裏に隠した。 
広げられた両腕をピンッと張り、一気に内に秘めていた聖力を開放した。 
それまで優しくミカエルを包み込んでいた純白の輝きは、放出されたように真上へと伸びた。 
 
 
 
東で純白の光が天空に伸びたとほぼ同時に、他の三方でも同じ一筋の光が天空へと伸びていた。 
 
 
 
閉じられていた瞼をゆっくりと開いたミカエルは、広げた姿勢のまま顔だけを天空に向けた。 
 
 
 
 
「地上にいし、全ての火の精霊たちよ。 我は火を守護し者なり。 
汝の力、我に貸し与えたまえ。 
その力、聖なる浄化の烈火を勿て、この地上に蔓延る邪悪なる念を焼き祓いたまえ!」 
 
 
 
 
ミカエルは祈るように告げた。 
彼の祈りに応えるかのように彼の聖力だけで創られた一筋の純白な光は、 
彼が方位と共に封じられている四大属性の一つ、火の力が加わって真紅へと変化を遂げた。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「地上にいし、全ての風の精霊たちよ。 我は風を守護し者なり。 
汝の力、我に貸し与えたまえ。 
その力、聖なる浄化の旋風を勿て、この地上を覆う邪悪なる念を薙ぎ祓いたまえ!」 
 
 
 
 
東の位置で真紅へと光の色が変化した頃、 
対の方角・・・西でもミカエルと同じように両腕を広げた状態のラファエルもまた、 
純白の一筋の光が彼の封じられている四大属性の一つ、風の力が加わって翠へと変化を遂げた。 
 
 
 
 
 
 
 
 
「地上にいし、全ての地の精霊たちよ。 我は地を守護し者なり。 
汝の力、我に貸し与えたまえ。 
その力、聖なる浄化の大地を勿て、この地上に蔓延りし邪悪なる念を包み込みたまえ!」 
 
 
 
 
東・西と純白の光がそれぞれの精霊の力を借りて変化を遂げ、 
南に位置するところでもまた、他の2人と同じ状態のウリエルも地上に宿る精霊に祈った。 
彼女の祈りは地上に宿る精霊たちに聞き届けられ、 
彼女の創り出した一筋の光は彼女の封じられている四大属性の一つ、地の力が加わって橙へと変化を遂げた。 
 
 
 
 
 
 
 
 
「地上にいし、全ての水の精霊たちよ。 我は水を守護し者なり。 
汝の力、我に貸し与えたまえ。 
その力、聖なる浄化の流水を勿て、この地上に蔓延りし邪悪なる念を流し清めたまえ!」 
 
 
 
 
他の3人の力と三属性を感知したガブリエルは、他の3人と同じように祈りを込めた。 
その祈りを聞き届けた精霊たちはガブリエルの周りに集まり、 
純白の一筋の光は彼の封じられている四大属性の一つ、水の力が加わって蒼へと変化を遂げた・・・・・・。 
 
 
 
 
 
 
天空に伸びる四色の光は、交わりながら十字架の形へとその姿を変えた。 
 
 
 
十字架の中心に先ほどミカエルたちが確認した波動の中心になり、 
その中心をめがけて四方に散っていたミカエルたちは中心へ集結した。 
 
 
既に指定されていた場所で待機していたレミエルたちはミカエルたちの姿を確認すると、 
彼らの張った結界で波動の威力が弱まっていることを確認し、自分たちを包み込んでいた結界を解いた。 
 
 
 
 
「・・・この地に、この波動を抑える“タリスマン”を封印する。 
この波動に対抗できるのは、我らの聖力だけだ。 精霊の力は常に平等。 
この結界はこの世界を守るためでもあるから、精霊は我らに力を貸し与えた。 
・・・だが、根本的なこの波動は、我らの力だけで抑えなければならない」 
 
 
 
 
4人の結界のおかげで多少弱まった魔力に対し、 
完全に消滅させることが不可能だと分かっていても 
このままにして置く訳にはいかないと感じているミカエルたちは、波動の中心を真ん中にし、円で囲った。 
囲われた円の中央に左腕を突き出したミカエルたちは、 
左腕に自分たちの聖力を集中させ、一気に放出させた。 
 
 
 
純白の光に包まれた中央は、徐々にその光を弱めていき、最後には両手に持てるサイズまで凝縮された。 
光が消え、光があった場所にはひし形の形をした水晶のようなものが宙に浮いていた。 
その色は透明で、透き通っていた。 
その水晶のような物体・・・“タリスマン”はゆっくりと彼らの目の前から降下し、 
地面へと吸い込まれていった・・・・・・。 
 
 
 
 
 
 
中央の無色の“タリスマン”が7人の天使によって創り出されたと同時期、 
天空に伸びる光が徐々に収まっていき、それぞれの場所で中央と同じ形をした物が光から創り出されていた。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
      東に、紅の“タリスマン”。 
西に、翠の“タリスマン”。 
南に、橙の“タリスマン”。 
北に、蒼の“タリスマン”。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それぞれ光が姿を変え、それぞれの属性の“タリスマン”となり、 
中央と同じように地面へと吸い込まれるかのように降下していった・・・・・・。 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――― 四方に封印されし、四大属性を秘める“タリスマン”。 
それらの“タリスマン”が鍵となり、中央を護る結界となる 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2008/09/01 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
今回は、“タリスマン”の誕生秘話ですv 
本来の意味は“お守り”です。 
その意味を掛け合わせ、 
世界を守る為に4大天使が 
それぞれの聖力を凝縮して作り上げたモノです。 
四方に封印されたタリスマンは、 
聖力だけでなく精霊の力も宿っているので、それぞれの色付きで。 
その二つの違いは、今後の付線となりますv 
 
 
 
 
 
 
      
 
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