「・・・何かが、起ころうとしている。 私の見た予知夢≠ヘ今までこんな早くのことはありえなかった。
・・・一体・・・、何が起ころうとしているの?」
予知夢≠ヘ、常に近い未来に起こる出来事のワンシーンしか見られない。
それでも、その近い未来は、数日後などではなく、半年・・・長い時は1年の期間があった。
今回もまた、そんな期間があると思っていたけど・・・頻繁に見るため、
幸に頼んで私の見た夢の気配をトレースしてもらい、彼らを私たちの屋敷に連れて来てもらった。
・・・頻繁に見るのは、とても近い未来だったということなのね・・・・・・・。
―――― 星見の巫女姫は、オーロラのように天空に光り輝く破片を静かに見つめ、
これから起きるであろう星の存亡を掛けた戦いの歯車が、静かに回り始めたことを感じていた・・・・・・
apocalypse
― 壊された封印 ―
北東――水月たちが『鬼門』と呼ぶ方角に、
僅かな亀裂の入った『シールド』を目撃した水月は、その事実にカタカタと肩を震わせた。
そんな姉の様子に、幸正は咄嗟に姉の肩を掴んで後ろを向かせ、力強く抱き締めた。
「・・・あの方角は・・・北東? ・・・あの辺りは、確か上野ですよね。 鬼門の中心・・・ですか」
依然と肩を震わせる水月を抱き締める幸正は、姉が驚愕した方角をジッと見つめた。
古代より、北東―十世紀前までは『艮』―は『鬼門』と呼ばれており、忌み嫌われていた。
その方角は、彼らの対極に位置する負の力や鬼たちの力が増すと言われており、
それらと敵対する為に古くから中央を守護するという意味合いで結界が施されているケースが多い。
今回もまた、その方角から伸びる暗黒の力は力がなかったとしても規模的にかなりの数がいると予想され、
方角的にもその力が増す謂れがあるために追加効果の役割を果たしていた。
小さな亀裂の入った『シールド』は、徐々にその亀裂が広がっていき、
暗黒の一筋の棒が消え去った頃には、流星雨のようにキラキラと流れ始めた・・・・・・。
「・・・『シールド』が、何者かによって破壊されたわ。 ・・・この、流星雨のような光は、『シールド』の破片。
このことは、やはり『シールド』を同じ原理で力を持つものにしか見えない。
・・・だからこそ、他の人々はこの異変に気付かない。
・・・早く新しい『シールド』を創らないと、
この星は滅びの前に戦後すぐのように昼と夜の気温差が激しくなる。
・・・もし、そうなってしまえば我々人類はもちろん、この地上に住む全ての生き物は死に絶えてしまう」
幸正に抱きつく力を僅かに込め、震える声で小さく呟いた。
そんな姉の言葉に、悲痛そうな表情を浮かべた幸正は、流れる『シールド』の成れの果てを見つめた。
水月たちに遅れて中庭に出てきた紫苑たちは、
壮大に流れている『シールド』の成れの果てが北極や南極など、
局地的に寒帯地方にしか見ることの出来ないオーロラ≠フように見え、
その光が朝方まで見ていた『シールド』だと気付きながらもジッと見つめていた。
そんな中、彼らの中で唯一力の持たない聖華は、
兄たちが何を見ているのかを知ることが出来ず、困惑気に兄たちを見つめた。
そんな妹の視線に気付かない久遠たちは、一点を集中してみている状態となっていた・・・・・・。
「兄・・・様?」
「どうかなさいましたか、聖華さん」
「・・・あの、兄たちが空の一点を見上げたまま動かなくなってしまったのですが・・・」
反応のない兄たちを心配した聖華に気付いた幸正は、小さく首を傾げながらどうしたのか尋ねた。
そんな幸正に対し、不安を隠そうともしない聖華は、
兄たちの見つめる空の一点をチラッと視線を向け、不安に揺れる黒曜石の瞳を幸正に向けた。
「・・・大丈夫です。
彼らの眠る記憶に、
拡散されて流れしまっている『シールド』の破片に対して、記憶の覚醒を促されたのでしょう。
暫く、この状態――トランスが続きますが、心配しなくても大丈夫ですよ」
不安気な聖華に対し、幸正は安心させるようにニッコリと優しく微笑した。
聖華たちの見つめる先には、一点だけを見つめる久遠たちの姿があり、
彼らは確かに空をジッと見つめているが、その焦点は合っていない。
彼らは完全にトランス状態となっており、意識と肉体が別々となっている。
彼らの意識はそれらを制御する肉体から離れ、時空を超えて過去へと引き込まれて行った・・・・・・。
紫苑たちの意識は膨大な情報と化している過去の記憶の海へ誘われ、
洪水のように彼らの目の前を過ぎ去る。
その記憶の波は、今まで彼らが過ぎ去ってきた過去へと遡り、この世に生を受けた瞬間まで遡った。
しかし、記憶の波はそれだけで留まることなく、更に過去へと遡る。
本来、人の記憶とは魂が転生する時にはそれまで培ってきた記憶は全てデリートされてしまう。
そのため、再びこの世に生を受けた時には真っ白な状態で再び死期が訪れるまでの生を過ごす。
そのため、どんなに記憶力がよくても、物心付く以前の記憶などないに等しい。
しかし、紫苑たちはこの世に生を受ける瞬間までを遡った後、
それ以前の記憶があるかのように再び記憶という波に流されていった・・・・・・。
大きな記憶の波は徐々にその威力を弱め、ジッと見つめる彼らに情報を流し始めた。
それらは彼らの頭の中を駆け巡り、
映画のワンシーンのように映像ではなく、静止の状態で次々と映し出される内容が異なっていた・・・・・・。
―――― 過去へと誘う記憶という名の情報。
その記憶たちは、彼らに何を示すのか。
《覚醒》の時は、近い
2008/07/01
第二章が開始しました。
章の副題の通り、この章は紫苑たちの封印された記憶についてです。
すでに、感のいい方はお気づきかと思いますが;
次回から、再び過去へと飛びますv
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