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       「・・・幼い頃から感じるこの違和感。 この数ヶ月間でその違和感が酷く感じるようになってきた。 
・・・この違和感、これから起こるという戦いの中で知ることになるの? 
この星が、私たちを星の存亡をかけた戦いの切り札として選んだ。 
・・・そんなもの、否定したいけど・・・その定めに逆らうことは、出来ないでしょうね」 
 
 
 
 
黒曜石の瞳を瞼で覆い隠し、何かを考えていた少女は、 
再びその黒曜石の瞳に外界を映し出した時、その瞳には決意が宿されていた・・・・・。 
 
 
 
 
 
 
――― 星は、己の存亡をかけて7人の少年少女を選んだ。 
果たして、その定めは、必然なのか。 
そのことを知るのは、星自身と未だ覚醒しない遙か昔の記憶のみ・・・・・・ 
 
 
       
       
       
       
       
       
       
      apocalypse 
          ― 動き出す時 ― 
       
 
       
       
       
       
       
       
       
       
       
 
水月の言葉に、不安そうな表情を見せた幸正であったが、そんな弟の様子に気付いた水月は、 
ニッコリと微笑みながら不安そうに自分を見つめる弟の頭を優しく撫でた。 
そんな姉の仕草に僅かながらも落ち着きを取り戻した幸正は、 
久遠の隣に静かに座る聖華をジッと見つめた。 
 
 
 
 
「・・・貴女からは、他の方々と同じ気配がいたしません。 
しかし・・・何か強い力を秘めている。 貴女の強い願いは、きっと貴女を助ける力となるでしょう」 
 
 
 
 
自分を見つめる幸正の視線を感じ取ったのか、聖華は小さく首を傾げた。 
そんな聖華に対し、幸正は静かに彼女から感じる不思議な力の波動が未熟なもので彼女自身、 
気付いていない事が解ったのか、微笑を浮かべながら彼女に告げた。 
 
 
そんな幸正の言葉が理解できないのか、聖華は首を傾げながらも小さく頷きを返した。 
 
そんな妹の姿を見ていた久遠は、僅かに不安がっている妹を安心させるように自分に引き寄せ、 
安心できるように頭を撫でながら背中を優しくポンポンと小さく叩いた。 
幼い頃から変わらない兄の宥め方に安心したのか、 
聖華は嬉しそうに微笑みながら兄に甘えるように擦り寄った。 
 
そんな兄妹の行動に、緊迫していた状態の部屋の空気が浄化されたようで、 
無意識に緊張していた由岐たちもまた、 
力が抜けたように兄妹に視線を向けながら苦笑いを浮かべていた・・・・・・。 
 
 
 
 
「・・・戦いは、そう遠くない未来に起こるでしょう。 
その時、貴方方が選ぶ道は、今の私では計り知れないこと。 
しかし・・・今日貴方方に伝えたことをお忘れにならないでくださいませ。 
私は、貴方方を苦しめる為にこのことをお伝えしたのではありません。 
一つの道を提示したまでのことです。 
戦いを選び、この星の存続の為に武器を取るか。 それとも・・・戦いを放棄し、この星と共に死を選ぶか。 
道は、二つに一つ。 もし、放棄なされたとしても、それも一つの定め。 
人の心は、例え決められた定めだとしても、とめることは不可能ですわ」 
 
 
 
 
慈愛に満ちた微笑を見せた水月は、静かに紫苑たち全員に視線を向けると、静かに話しかけた。 
 
彼女の言葉はどれも重く、しかし彼らを縛るような言葉ではなかった。 
例え、紫苑たちが戦いを放棄したとしても、彼女はその事を責めないだろう。 
それも星の定めと受け入れ、共に滅びの道を辿る。 
それが、望まない未来だとしても監視者≠ナある彼女たちが戦いに干渉することは許されない。 
全てを受け入れ、星の行く末を見守ることしか出来ないのだから。 
 
 
その役目に、個人の感情を入れることが許されない。 
彼女たちが見つめるのは、 
星が破滅の道を辿るか、存続の道を辿るかの二つの運命の狭間を最後まで見届けることなのだから。 
 
 
 
 
「・・・一つ、聞きたいことがある」 
 
「なんですか?」 
 
「・・・随分前から、何かが空を覆っていると感じる時がある。 
その覆っているものは、今のところここにいる俺たちしか周りにはいない。 
・・・お前たち2人には、あの覆うものが見えるのか?」 
 
 
 
 
水月の言葉に沈黙してしまった紫苑たちだったが、前々から疑問に思っていたことを久遠は口にした。 
 
 
 
 
「・・・えぇ。 アレは、一種の結界のようなもの。 力によって護られているものです。 
その覆うもの・・・私たち姉弟は、アレのことを『シールド』と呼んでいます。 
『シールド』は、古代に精霊の力を借りて創られたタリスマン≠ノよって創られているといわれます。 
尤も、そのタリスマン≠ヘ本来、別の物を護る為に創られているようですが、 
その作用が星の願いで全体を覆うようになっているのでしょう。 
その『シールド』を肉眼で見ることが可能なのは、それなりの力を持つ者たちのみ。 
・・・しかし、現在のように全体を覆うようになったのは、先の大戦後まもなくと聞いております。 
人間がこれまで行ってきた自然破壊のしっぺ返しです。 
その結果、この星の自転軸と公転軸の歪みが生じ、太陽の近くを廻りだしたと言われております。 
今までと違う場所で廻るようになり、昼間は灼熱となり、夜には極寒。 
それが原因となり、緑がまったく育たなくなりました」 
 
「・・・しかし、今は多くの緑がありますが?」 
 
 
 
 
水月の言葉に驚きを隠せない雫は、 
呆然とした様子で学院の近くはもちろん街中で見かける緑のことを思い出した。 
 
 
 
 
「確かに、今は多くの緑があります。 
しかし・・・それらは全て先ほど申しました通り、 
この地に封印されている四つのタリスマン≠ノよって創られた『シールド』があるからこそ。 
四つのタリスマン≠ニは、 
元々はこの世界に存在する四大属性の精霊の力を借りて創られた結晶のようなもの。 
精霊にとって、この星は母なる星。 だからこそ、この星を護ろうと『シールド』でこの星を覆ったのでしょう」 
 
「・・・アレの原理は、何となく解った。 
アレを見ることができるのは、不思議な力を持つ者だな? 
・・・俺たちがここに連れてこられたのは本当にそれなりの理由があるということだな。 
・・・力があるからこそ、星は俺たちを選び、 
また力があるからこそあの不思議な膜のようなモノを見るんだな?」 
 
「・・・膜というより、丸い水晶の中にいるような感覚ですね。 
だからこそ、太陽の光の反射で僅かに光って見えるのです。 
・・・それさえも、力がそれなりにないと見ることが出来ません」 
 
 
 
 
雫の言葉に、水月はニッコリと微笑を浮かべながら答えた。 
紫苑たちは水月の口から出てくる《精霊》の二文字に疑問を感じつつ、 
実際見ることが出来る為、信じずにはいられない。 
 
 
無理矢理納得したのか、額に指を当てながら考え込んでいた由岐は、 
最後の確認とばかりに水月に問いかけた。 
由岐の質問に答える水月は、微妙に言葉を訂正しながらも由岐の言葉を肯定し、 
どのように見えるのかを説明した。 
 
 
 
 
 
 
 
 
――――― キィィィィィィィィィィン!!!! 
 
 
 
 
 
 
 
 
沈黙が部屋を支配した直後、部屋の中にいた全員に頭が割れるほどの激痛が襲い掛かった。 
 
 
 
 
「・・・な・・・・に? この・・・頭の痛みは・・・・!?」 
 
 
 
 
その呟きは、誰のものであったかは頭に響く激痛のためにその場に全員が蹲っているため、 
判断できないが、その言葉は全員の心の叫びでもあった。 
 
 
 
 
 
ある程度痛みが引いた紫苑たちは、 
漸く頭に添えていた手を離しながら困惑気な表情を見せながら全員を見渡した。 
 
 
 
 
「・・・今の痛みは、一体?」 
 
「・・・解りません。 しかし・・・何かが起ころうとしているのかもしれません」 
 
「・・・皆様は、ここから動かないでくださいませ。 私は、『シールド』を見てきますッ!」 
 
「姉上!? 僕も一緒に!!」 
 
 
 
 
先ほどの激痛に、 
苛立ちを感じる久遠はその苛立ちを隠そうともせずに目の前にいる水月たちを見据えた。 
 
 
そんな久遠の強い眼力に負けじと返したのは、幸正であった。 
しかし、彼自身頭が割れるような激痛にこれまで遭ったことが無かった為、 
久遠の問いかけに答えられるほどの答えを持ってはいなかった。 
 
 
 
久遠と幸正の先ほどに比べて友好とは言いがたい会話に対し、 
自身を落ち着けるように深い溜息をついていた水月は、 
スクッと立ち上がると巫女装束を翻しながら中庭に続く廊下へと出て行った。 
 
その後を追うかのように幸正もまた、袴を翻しながら姉の出て行った襖からその身を廊下へと向けた。 
 
 
 
 
「・・・私たちも行きましょう。 先ほどから何かが、私に問いかけているようなの。 
・・・もし、このことで先ほど言われたことが現実となったとしても・・・逃げ出したくは無いわ。 
どの道、避けられない定めならば、真っ向から向かって往こうじゃない?」 
 
「・・・そうだな。 確かに、何もせずに逃げ出すなどそんなことをしたくはない。 
・・・全ては、俺たちが決めるのだから」 
 
 
 
 
紫苑の言葉に久遠たちは頷き、 
何かを決意した表情で彼らにとって分岐点とも言える襖を開放し、中庭へと歩みを進めた・・・・・・。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
水月たちが頭の割れるほどの頭痛を感じる少し前、 
彼女たちのいる千代田区より北東に位置する台東区・上野――某所にある公園にて、 
全身を黒で統一した謎の集団が数十人ほど集まっていた。 
 
その集団の格好から、ある程度の知識を持つ者がその場にいたとしたら、 
その集団が世間で“黒ミサ”と呼ばれる団体だと気付いただろう。 
 
 
しかし、その公園付近には人影すらなく、その集団を見る者たちは誰一人としていなかった・・・・・・。 
 
 
 
 
 
公園の中央に簡易だが祭壇が作られており、 
その真ん中ほどには麻酔によって眠らされている羊が寝かされていた。 
 
 
 
 
「我らの大いなる指導者、サタン様の為に。 この生贄を、サタン様に捧げます。 
我らは、サタン様によって選ばれし者たち。 
今宵は、我らの力が増幅する新月。 今こそ、サタン様を拒む忌々しい『シールド』を破壊する時!」 
 
 
 
 
祭壇の最前線に立つ中年太りの男がそのように叫ぶと、高々に右腕を上げた。 
それに倣うように、次々と公園に集まった黒服集団の人間たちが右腕を高々と上げていった・・・・・・。 
 
 
 
 
公園にいた者たち全員が高々に右腕を上げ、その場に停止したかのように留まった。 
 
 
 
 
 
 
 
 
――――― ピシッ!!!!! 
 
 
 
 
 
 
 
 
暖かな風が急激に冷えたような風に変化し、 
千代田区にいる少女が目撃していたのならば 
暗黒が天空を覆う『シールド』を直撃したことが目撃されていただろう。 
 
天空を覆う透明の『シールド』に直撃した暗黒の力は、 
一点を集中して小さな亀裂を『シールド』に刻み付けた。 
その小さな亀裂は、徐々に大きく広がりを見せた。 
その広がりは、暗黒の力を放った公園一体を包み込み、全体へと広がっていった・・・・・・。 
 
 
 
 
公園の中央に作られた祭壇の近くに降り立っていた数十羽のカラスが、 
公園に広がるどす黒い暗黒の気配を敏感に察したのか、 
異様な鳴き声を発しながら一斉に飛び去った・・・・・・。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――― 放たれし、暗黒の力。 
反する力により、破壊される聖なる『盾』。 
止まっていた刻が、今動き出す・・・・・・ 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2008/06/01 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
とりあえず、第一章はこれにて完結。 
一応、現段階での主要人物たちを出しました。 
頭の割れるシーンは、某アニメの影響・・・のはず; 
オリジなんて、だれも期待なんかしていないでしょうけど・・・趣味に突っ走ります! 
 
 
 
 
 
      
 
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