「・・・何かが始まろうとしている。 私たちの知らないところで、何かが・・・」



最近、とても不思議な夢を見るの。
私であって、私ではない。


昔から感じる違和感が、この数ヶ月間で酷くなった気がする。

まるで、自分の半分がない・・・そんな感覚。




この違和感と頻繁に見る不思議な夢と何か、関係があるの・・・?






―――― 覚醒の時ではない。
だが、確実に彼らの廻る歯車は着実に廻り始めていた・・・・・・








apocalypse
    ― 巡る運命 ―











淡い太陽の光が外界と遮断するブラインドの隙間から僅かに漏れ出て、
その部屋の住人の顔を照らし出した。


僅かな光でもここ何世紀かで、星の軌道が太陽に近くなりつつあるために眩しく感じる。




一時間前ほどまでは漆黒の闇に包まれていた部屋は、
一筋の光を切欠に照らし出され、部屋の住人の覚醒を促していた。






―――― ピピッ!






「・・・朝ね。 ・・・水? ・・・また、泣いていたのね・・・・」



太陽の光とベッドサイドにおいてある時計の電子音に目覚めを促された少女は、
眠気の残る頭をゆっくりと起こし、美しい漆黒の髪をかきあげた。

水滴が頬を伝い、布団の上に置かれていた手の甲に一滴雫が落ちたのを見届けた少女は、
自身が泣いていたということに気づいたが、その事に対して驚きを見せなかった。



彼女が目覚めて自身が泣いていることに気づくのはこれが初めてではなかった。
彼女自身、内容は覚えていないもののこの3ヶ月間、頻繁に同じ夢を見ているのだ。
夢にでてくる人物と一体化している彼女は、
その度自身が気付かない内に、黒曜石の瞳から一滴を流している。


ベッドから起き上がった少女は、ブラインドに近づいて引っ張り、上に上げた。




ブラインドを全て上げた少女は、窓の鍵を外して開放した。



「・・・空を覆うアレは何? アレに気付いているのは、私たち以外にもいるのかしら・・・・」



少女は視線を空に移し、ジッと見つめた。

彼女の見る先には、透明ながらも太陽の光で僅かに光って見えるモノ。
その存在に気付いているのは、彼女の身近では幼い頃からの友人たちのみであった・・・・・・。



少女は自身の頭に一瞬過ぎったことを振り払うかのように頭を軽く振り、沈黙する時計に視線を向けた。
時計のデジタル表示は既に予定時間を僅かに過ぎていた。





少女は、ベッドの横に掛けている制服を取ると、その身に纏った。


彼の纏う制服は、10世紀ほど前まで学生がその身に纏っていた『ブレザー』と似ている。
似ているというより、その『ブレザー』をモデルにしているものだ。
上着とスカートは漆黒であり、スカーフは真紅。
スカーフの上には、銀色の十字架が付けられている。
左肩には十字架と翼がモチーフとなっている校章が金色で刺繍されている。
左の胸元には左翼のついたタイピンはプラチナで、
そのタイピンの下部付近に銀色の装飾が施されている。
袖口のボタンも銀色で統一されており、腰部分とズボン付近にプラチナのチェーンベルトがある。
上着のラインは金色で統一されており、上着は太股の部分まで伸ばされていた。
太股付近には、左肩に刺繍されている校章と同じデザインが刺繍されている。
上着とのバランスで、白のカッターシャツを着用している。






制服をその身に纏った少女は、
そのまま部屋のドアの前立ち、その左隣にある画面に暗証番号を入力した。

入力された暗証番号を認識し、電子音と共にドアのロックが解除された。



少女は、側に用意していたバックを手に取ると解除されたドアから外に出た。

彼女の部屋は彼の手によって改良されたプログラムの為、オートロック式となっている。
そのため、再びドアにロックを掛ける手間が省けるのだった。





ロックが掛かった電子音を確認した少女は、そのまま近くの総合ステーションへと向かった。


新宿区に家がある彼女であるが、彼女の通う学院は都市の中央である千代田区にあった。
そのため、ステーションに向かい、そこから通っているのだ。




ステーションは空中に建設され、地上はエレカや自転車、徒歩などの専用道路となっている。



総合ステーション行きのエレベーターに乗った少女は、ガラス張りの窓から地上を眺めていた・・・・・。









総合ステーションに着いた少女は、
通い慣れた足取りで千代田区行きのオートウォークに乗り、千代田区行きステーションへ向かう。



千代田区行きステーションに着いた彼女を待っていたのは、彼女と同じ学院に通う学生たちであった。



「紫苑!」

「・・・・早かったわね、久遠。 聖華もおはよう」

「おはようございます、紫苑姉様」



少女を待っていたのは、漆黒の髪と黒曜石の瞳を持つ少年と、
少年と容姿の似ている漆黒の長い髪と黒曜石の瞳を持つ少女であった。

少女は一緒に待っていた少年の妹なのだが、幼馴染として育った少女のため、姉のように慕っていた。



「早かったな、じゃないさ。 紫苑にしては珍しく、遅かったじゃないか」

「・・・部屋を出るのが遅かっただけよ。 ・・・行くわよ。 向こうには由岐たちが待っているんでしょう?」



待っていた黒曜石の瞳を持つ少年・・・白柳久遠は少々呆れ顔で、
目の前にいる同じ黒曜石の瞳と持つ少女・・・蓮見紫苑を見つめた。
紫苑は憮然とした様子で久遠と久遠の妹であり共に自分を待っていた少女・・・白柳聖華を促し、
ステーション内へとその姿を消した・・・・。







搭乗ゲート付近には、彼らと同じ制服を纏った5人の男女の姿があり、
紫苑たちの姿を見つけるとニッコリと微笑を浮かべながら右手を上げた。



「おはよう〜」

「おはよう、雫」

「おはようございます、雫様方」

「おはよう。 ・・・時間だ。 行くぞ」



雫と呼ばれた肩まで伸ばされた漆黒の髪と黒曜石の瞳を持つ少女・・・櫻井雫は
パタパタと一緒に待っていたメンバーを置いて紫苑たちの近くまで走りよった。


そんな雫の様子を共に待っていたメンバーは苦笑いを浮かべながら、
久遠の言葉に頷きを返すとそれぞれ柱の側に置いていた荷物を取ると、搭乗ゲートへ向かった。
搭乗ゲートに到着した8人は、搭乗ゲートに停車している10人乗りの箱型に乗り込んだ。







8人の乗車を確認した箱型・・・リフターは、静かに出入り口のロックが掛かり、
前方には小さなシステムの搭載されている透明の箱が浮上してきた。


浮上してきた箱に左手を翳した紫苑は、
全ステーションで発行される認識付のブレスレットで解除し、システムを取り出した。

システム前方にある小さなモニターに表示されるよう入力し、千代田区の停留ステーションが表示された。




表示されるのは、停留ステーションだけではない。
停留ステーションの付近まで表示されている為、
どの場所で降下した方がより近いかを正確に判断することが出来るのだ。
彼らの通う学院もまた、停留ステーションの近辺にある為、表示されている。


学院の近辺にある停留ステーションに降下するようセットした紫苑は、
再びブレスレットを翳してシステムの箱を戻した。




箱へと戻ったシステムは、再び沈下し、床へ吸い込まれていった。
停留ステーションをセットされたリフターは静かに動き出し、
システム起動の為に立っていた紫苑は備え付けのソファに座った。



「紫苑、さっき部屋を出るのが遅かったって? 俺たちの部屋からそう遠くないだろう?」

「・・・えぇ。 またあの夢を見たから。 ・・・ちょっと考え事をしていたら、時間を忘れただけよ」

「・・・また、あの夢か。 ・・・何かあるのかな?
そう、何度も同じものを頻繁に見ることなんて、普通はありえないからな」



紫苑の対面に座っていた久遠は、
総合ステーションで紫苑と合流した時の事を思い出したのか、彼が遅れた原因を尋ねた。


そんな久遠に対し、リフターの窓から外を静かに眺めていた紫苑は、
視線だけ久遠に向けて苦笑いを浮かべながら答えた。

紫苑の度々視る夢のことは、本人の口から伝えられている久遠たちは、唯苦笑いを浮かべるしかない。
しかし、何度も同じ夢を見ることに対して彼らは何らかの意味があるものだと考えていた。


久遠の言葉に曖昧な微笑を見せた紫苑は、再び窓に視線を移して流れる外の景色をジッと見つめた。




彼らが交通手段として使用するリフターには、地上のように線路の上を通る事は無い。
専用のパイプラインが都市全体を覆っており、各区域ごとに総合ステーションが存在する。
パイプラインは特殊なもので出来ており、
下界からは解らないように総合ステーションとの接触部分以外は透明になっている。
その為、地上からは空中リフターが浮いている状態に見えるのだ。



総合ステーション以外の停留ステーションには、
それぞれリフターそのものが降下する仕組みとなっており、
発進する前にシステムを起動させたために降下する際はそのプログラムを読み込んで、
停留ステーションにリフターが降下できるほどの空洞が出現する。





スピードが出ているにも拘らず、室内はまったく揺れを感じさせていない。
セットされた停留ステーションに到着し、室内に到着アナウンスが響いた。



ロックされていた出入り口の扉が開放さ、
紫苑たちはリフターから出ると、ステーションからも見ることができる塔の頂上に、
十字架と翼がモチーフとなっている校章が大きく掲げられている。




(・・・ セイント・ルーキス学院。 あの人たちが姉上の仰られていた方たち)




8人が学院の敷地に入る姿を、少し離れたところから少年が凝視していた・・・・。








―――― 彼らを廻る魂の定め。
彼らに警告を促すため、1人の少年が彼らの前に姿を現す・・・・・・











2008/03/01













登場人物の設定・・・ネタばれが生じますので・・・・
もうしばらく、おあずけです;
今回、新たにキャラが登場しましたが・・・。
今後の展開で、彼らが何者かが、分かってきますv
・・・総合ステーションとかパイプラインはどは、
私の妄想で生み出した近未来の姿ですv
東京の23区は、まんまの名前で、場所も同じですv