「・・・僕も、絶対にリムを守って見せるよ。 そして、この国を・・・太陽宮を奪還してみせる。
僕が強くなりたいと、守りたいと願ったのは、可愛いリムを守るため。
そして、みんなに・・・カイルに守られるだけの存在になりたくなかったからだから」



幼い頃、貴族たちは母上に三節棍を習っている僕に、遠回しな侮蔑をぶつけてきた。
けれど、僕はそれでもやめなかった。
「いらない人間」だと、そう言われて育ったけれど・・・そう言っているのは僕ら家族とは関係のない人間たち。
母上も父上も・・・カイルたちもみんな、必要だといってくれた。
・・・みんな、ではないな。
あちら側にいる彼らだけは、どちらとも言わなかった。
必要だと言ってくれた大切な人たちのために、僕は強くなろうと・・・そう、誓った。
けれど、現実は母上たちを守れず、大切な場所である太陽宮・・・ソルファレナもまた、彼らの手の内。
このまま国外に逃げることも可能だろうけれど・・・僕らは、王族だから・・・・。
本来、太陽宮の玉座に座るべきリムを補佐するため・・・そして、
美しいファレナを戦場で滅ぼさせないために、太陽宮と『太陽の紋章』・・・絶対に、奪還してみせる。











Recover
  ― 敵か味方か ―











ルナスの森を抜け、漸くたどり着いた村にルーシュたちは唖然とした表情を浮かべていた。
そんな甥たちに、初めてではないサイアリーズは苦笑いを浮かべながら、この村がどういう村かを説明し始めた。



「初めてここに来るやつは、大抵唖然・呆然になるね。
ここはね、バロウズ卿が将来有望な人材や自分のお抱えの芸術家たちを集めた結果なのさ。
色々な芸術家たちを集めたもんだから、この村全体がこんなおかしなものが溢れてね」



そんな叔母の言葉に、いち早く状況を理解したルーシュは自分の腕に絡まっている妹姫の様子を覗いた。
妹姫の性格を熟知している彼は、彼女が叫ぶ前に宥めるように頭を撫でた。
兄王子に頭を撫でられることによってどうにか平常心を取り戻したリムスレーアだったが、
何かを訴えるような表情で兄王子たちを見上げた。



妹姫が何を訴えているのかが分かるのか、ルーシュは苦笑いを浮かべるだけであった。



「・・・それよりも、ここで情報収集ができるといいですねぇ。
このままバロウズ卿の統治するレインウォールに行っても逆に捕らえられて、
あちらに引き渡されたらここまで逃げたかいがありませんから」

「それもそうだね。 ・・・あまり、当てにはならないだろけど・・・聞かないよりはマシだろ」



仲のよい兄妹の仕草に微笑を浮かべていたミアキスだったが、何時になく真剣な表情で告げた。
そんなミアキスの内容に、サイアリーズも同意して村に住む自称・芸術家たちに聞き込みを開始した。




住人たちに話を聞いてみるものの、
誰に聞いても自分たちには関係ないとばかりにこの村以外のことには一切興味がないと返答されていた。
そんな返答に諦めながら橋を渡ろうとした彼らの目の前に、
バロウズの私兵と分かる軍服を身に纏った数名の姿を確認した。



「いたぞ! 王子殿下たちだ!!」



そんな私兵たちの言葉に、サイアリーズは慌てた様子で後ろを振り返り、
逃げ出そうとした彼女たちを引き止めたのは、野太く大きな声を発する者であった。



「王子殿下、姫様、サイアリーズ様。 ご無事でここまでたどり着いてくださった!
それがしも安心いたしましたぞ!」

「・・・ウィルド卿? ウィルド卿が、なぜハウド村に? こちらに、何か御用がおありで?」



聞き覚えのある声に、足を止めたルーシュは振りかえると、ゆっくりとした足取りで巨漢が近づいてきた。
雲を衝くような巨体、風に揺られるモヒカンが印象的な人物。
過去、アーメスとの戦いでフェリドとともに前線を守った経歴を持つボズ=ウィルド卿であった。



「えぇ。 僭越ながら、皆様をお助けに参ったのですよ。
太陽宮での一見は、既にエストライズにも伝わっておりますからなぁ。 誠に無念としか、いいようがありません」



ルーシュはウィルド卿と面識があった。
8年前のアーメス侵攻時、問団に混じって戦地を回った際にフェリドから紹介されていた。
嘘を全く吐かない彼の素直さや、
自分の目線に合わせる仕草やどを自然とした姿を見て、ルーシュは彼に懐いた。
また、大きな腕に抱き上げられたり肩車などをしてもらって喜んでいたルーシュを、
フェリドが優しい笑みを浮かべながら見つめていたことも覚えていた。



「ところで、ウィルド卿。
私たち太陽宮を脱出してから逃げてばっかりで、何がどうなっているのか分からないんだ。
私たちを助けに来たっていうのは、どういうことだい?」

「おお、これは気が利きませんで申し訳ございません。
現在、ゴドウィンは太陽宮だけでなくソルファレナを我手に制圧した後、
さも自分たちが理であるかのように喧伝を行っております。
ゲオルグ殿が女王陛下とフェリド閣下を殺めたなどと狂言も言っております。
ですが、私を含む国の東部ではそのようなことを全く信じておりません。
私と同じく、同友であるバロウズ卿も同じ考えでございまして。
そのため、ゴドウィンに追われている皆様方をお助けしようと、
現在動かせるだけの兵を率いてお探ししておりました」



自分たちよりも一回り大きいウィルド卿を眺めながら、サイアリーズは今一番気になっている状況を尋ねた。
彼女は目の前にいる人物がどのような人物かをよく知っている為、
彼が嘘を吐いていないことは分かりきっている。
豪放磊落で細かい気配りは苦手だが、実直な性格の持ち主である。
そんな彼だからこそ、肉親以外に一線を置くルーシュが貴族である彼に懐いたのだろう。



ウィルド卿から伝えられる内容に、ルーシュたちは眉を顰めた。
ゲオルグのことで確かめるようにこちらに視線を送る彼に、サイアリーズは強く頷いた。




そんなサイアリーズの隣でリムスレーアには聞かせないようにと彼女の耳に両手を当てたルーシュは、
大体のことは掴めていたものの改めて聞かされた内容に驚きと悲しみを隠せなかった。



「・・・そうかい。 偶然とはいえ、ここでアンタと会えたのはよかったよ。
逃げ回ってばかりで状況が全く分からなかったからね。
どこに行ったらいいのか、分からなくなっていたところだ」

「いやいや! 皆様のご心痛を思えば、なんでもないことですよ。
では、それがしがレインウォールまで皆様方をお連れいたしますぞ!
バロウズ卿が皆様方をお迎えしたいと、申しておりました」

「・・・バロウズ卿が? ・・・そうだね。 元々、そこに行く予定だったのだし・・・。 お言葉に甘えます」



ウィルド卿の告げた内容に、
現在の状況を大まかに理解したサイアリーズは心底ホッとした表情を浮かべていた。
サイアリーズの発した言葉にウィルド卿は恐縮した様子を見せ、
自分たちがここまで乗ってきた船を指しながらバロウズ卿の領地まで案内すると告げた。
そんな彼の言葉に、ルーシュは考える仕草を見せながら、
彼の言葉ではバロウズ卿を中心として反ゴドゥインとして立ち上がっていると悟った。
そのため、バロウズ卿本人は胡散臭くても目の前にいるウィルド卿も一緒のために
少しは安心できると判断した。
そんな甥の言葉に、彼女も同じことを考えていた為か反対することなく頷きで了承を返した。



「・・・では、俺はここまでだ」

突然、低い声でゼガイが告げた。



「なぜですか? 一緒に行きましょうよ!」

「いや・・・。 俺は闘神際でバロウズ卿の顔を潰した形になっている。
俺が一緒では、お前たちにも迷惑がかかるからな。 もとより、俺はバロウズ卿のところに戻るつもりはない」

「ですが、ゼガイさんは悪くないじゃないですか!!」

「世間では、道理が通じない輩も少なくはない。 闘技奴隷の言葉など、そんな輩の貴族には通用せんよ」



ゼガイの発言に、驚きを隠せないのはリオンであった。
リオンの中では、ゼガイも一緒に行くものだと決定していた為、ここで別れるという発言には心底驚いたのだ。
そんなリオンの傍で、ルーシュは彼の言葉を予測していたのか冷静な表情で聞いていた。



「ゼガイ、ここまで本当にありがとう。
太陽宮で貴方とカイルが来なかったら、リムたちを守ることなんてできなかったよ。
・・・これは聞き流してくれてもかまわない。
もし、僕らがバロウズ卿の屋敷を出ることになったら、貴方はまた僕たちに力を貸してくれますか?」

「・・・俺とて、お前たちに命を救われたのだからな。
俺は闘技奴隷として常に1人で戦ってきたが、お前たちと一緒に戦うのも悪くはなかった」



ルーシュはニッコリと笑みを浮かべながら、感謝の心でゼガイに礼を尽くした。
最後の言葉はゼガイにだけ聞こえるように声を落としており、
サイアリーズたちには分からないように小首を傾げた。
そんなルーシュに対し、ゼガイはゴドゥインから処刑されるところを助けられたことに礼を言い、
これまでのことを振り返りながら言葉を返した。
そんなゼガイの言葉を了承と受け取ったルーシュは小さく頷くともう一度、「ありがとう」と告げた。
ゼガイはルーシュに手を差し出し、握手をし合ってその場で別れた。
ゼガイがルナスの森に向かうのを見えなくなるまで見送ったルーシュたちは、
ウィルド卿が用意した船に乗り込み、バウド村を離れてレインウォールを目指した・・・・・・。









2008/12/02














モヒカンの領主登場(笑)
とりあえず、クーデターを起こした勢力と対抗してくれる貴族がいるそうで・・・・。
ゲームをされている方はわかると思いますが・・・この村は、本当に呆然とします(滝汗)
しかし、物語とはまったく関係ないので・・・サクッとv