大天使の局地的人災 6 二人があてもなく通路を漂い始めた瞬間、アラートが鳴った。 思わず二人は顔を見合わせる。
『総員第一戦闘配備!フラガ大尉はブリッジへ』
MAが壊れてしまったフラガにすることはないので、とりあえずブリッジへ来い、ということなのだろう。 すぐに身を翻してブリッジへと急ぐバジルール少尉の後を追うことになる。 振り返ってフラガに確認の視線を送る彼女に、焦っている様子が窺えた。 自分の役割を果たすため、すぐに前を向き直したのを見て、二人は笑いを噛み殺す。 恐らくブリッジに着いてもできることはない。 へリオポリス崩壊からこっち、艦のセキュリティシステムはキラが完全に掌握していた。 キラにとってアークエンジェルのメインコンピューターを外部からジャックすることなど、それこそ朝飯前というものだ。 きっと今ごろブリッジクルーたちは、利かない艦の自由にてんてこ舞いだろう。
『覚悟しといた方がいいぜ』
声を出してはバジルール少尉にばれてしまうのでフラガはミリアリアの肩を叩いて注意を引き、唇を読ませる。 それを見てミリアリアは、軽く眉を持ち上げた。
『悲鳴、ですか?』
『あぁ』
コーディネイターは総じて身体能力が高い。 当然、聴覚も優れている。 だからもし、ブリッジに悲鳴が上がった瞬間に到着すれば、耳に被害を被るのは必至だ。 生粋の軍人でばかりでまともな戦艦ならば、そういうことを赦さない雰囲気があるが、アークエンジェルはお世辞にも普通や正常という言葉では表せない。 その最たる存在である二人は、ブリッジの扉を開けようとしている少尉の背中を、幾分神妙な表情で見つめた。 後方の思惑など知らず、軍人の務めを果たすことを第一に考える女性は、ためらいもなく入室する。 その際、普段にはない大きなざわめきが聞こえるものの、聴覚に異常を来す状況ではないように思われた。 二人はバジルール少尉に続いてブリッジに足を踏み入れた。
「艦長さん、どうなってんの?」
とりあえず普通ではないこの場の雰囲気を説明してくれ、と頼んだ。 バジルール少尉も話を聞く姿勢を見せている。
「前を見て」
彼女が指差したのはメインスクリーンだ。 入って来た時のブリッジの様子がおかしかったことに気を取られていた少尉も画面を見て固まる。
「あーあ……」
「嘘……!」
驚愕の声を上げたミリアリアとフラガではあったが、彼らはすでに気がついていた。 ただ普通なら先に、戦闘とはまた違った緊張感を放つ人々に気を取られるだろうと考えたのだ。 実際、バジルール少尉ですらそうだったのだから。
「降伏勧告を受け入れました」
「何故っ?まだ戦ってすらいないでしょう……!!」
間髪入れず返されたそれは、おおよその人間の予想を裏切らない反応だった。
出撃できるMSやMAがないとはいえ、それだけで降伏など、彼女には受け入れ難い。 たとえブリッジに向かって銃口が向けられていても、否定の言葉が口をつく。
「生命維持装置と通信機器以外のコントロールを奪われたわ」
「ザフト側の意思なしに、一ミリの航行も我々には許されません」
苦笑しながら答えるラミアス大尉の後、操舵士であるノイマン曹長が状況を説明する。 バジルール少尉はまた絶句し、彼女とは違った意味でミリアリアとフラガも声を失った。
『『やり過ぎよ(だろ)、キラ……』』
やっと帰れるという安堵と恐らく起こるであろう混乱の渦に、いくばくかの期待と不安を抱きながら、格納庫へ集まるようにという指示に従った。
2004/12/08
会話少ないし、短いー
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