大天使の局地的人災 7
格納庫へ行く前にミリアリアを含めた学生クルーたちはラミアス大尉に呼び止められた。
「何ですか?」
大体の予想はついているがミリアリアは尋ねる。
「服、着替えて来た方がいいわ。あなたたちは巻き込まれただけの民間人だもの」
「はぁ…分かりました」
軍人と間違われて拘束されるのはごめんだ。 素直に少年たちは着替えに行く。 しかしミリアリアは違った。 フラガ以外の人間に見とがめられることはなかったが、非常に不服そうな表情で大尉をひと睨みする。 自分以外の誰かが気づく前に、とフラガは彼女に先を促した。 彼とて思うところはミリアリアとそう変わらないけれど、今はまだそのときではないから耐えなければならないのだ。
(ったく…ふざけないでよね!巻き込んだのはどこの誰よ!?)
下手に人情的なところを見せるからキラがあんな目に遭ったんじゃない、と悪態をつきながらキラに早く会いたい一心で、着替えを手早く済ませて格納庫へと急いでいた。 隣りで彼氏(偽)やその友人たちが、強張った彼女の顔を恐怖のそれと勘違いしたのか、必死に慰めの言葉を並べていたがミリアリアの耳には届いていない。 彼女の頭の中はどうやって地球軍の人々に嫌がらせをするかが占められている。 この辺りの思考は軍人らしくないものだったが、ヒビキ隊の人間としては別段気にすることではない。 目的を果たせばそれでいいのだから。 格納庫にはすべての人間が集められており、軍人・民間人問わず、彼らの表情には緊張や恐怖が見られる。 軍人たちは捕虜になろうとしているのだから当然だが、民間人はいつ落ちるとも知れない艦にいる必要がなくなったのだからむしろ助かったと喜ぶべきではないだろうか。 彼らが何に恐怖しているのか考えるまでもなく分かってしまい、ミリアリアの気分は更に下降した。
(“コーディネイター”に怯えといて何が中立国の人間よ!)
怒りが爆発しそうになるのを気合いで抑え込む。 キラに手を出した三人への最終報復・アークエンジェル編(←ザフトに戻ってからも続ける気らしい)のタイミングを逃さないようにしなければならない。 格納庫に増え出した緑の軍服の中から違う色を見つけようと目を皿のようにする。 白は見えない。 クルーゼは優雅に自室でティータイム、キラはここへ来たくないといったところだろうか。
──赤い軍服3、緑1、紺色1……
その集団が姿を見せた時、ザフト軍側に心地の良い緊張が走った。
(あ、ディアッカ……)
半年間会えなかった恋人を見つけて表には出さないが嬉しくなる。 しかしこの場にもし、キラがいたならそちらの方が喜びも大きかっただろう。 ディアッカがミリアリアの中でキラに勝てるのはいつになるのだろうか。 とりあえず、彼らが揃ったのでフラガに返してもらったスイッチ(赤くてカバーがついてるからフラガは恐ろしくて『これ、何?』と聞けなかった)を押した。
<トリィ?>
今まで行方不明だった緑の機械鳥が高い声で鳴きながら、どこからともなく現れた。 報復の好機とばかりにやって来たのか、はたまた創造主の気配を感じたのかは定かではないが、それのすること一つである。
つまり──…
<トリィッ!>
手のひらサイズの機械鳥の目から、ビームが三連射された。 それらは狙い違わずコードウェル・イクス・フロイスの脚を打ち抜く。 ざわめく人々を尻目に民間人の集団の中でミリアリアは小さくガッツポーズをしたのだが、周りの人間は凶暴化したトリィにいつ襲われるかと怯え、ザフトに囲まれている状況で逃げることもかなわず、ミリアリアの行動に気づかなかった。 当然自力で立っていられなくなった彼らはザフト兵たちに運ばれて行く。 ザフト側が他の地球軍の人間達に対するそれよりも一層、彼らに強い嫌悪を示しているのように見えるのは気のせいだろうか。 また、何も知らない彼らは意外にザフト側がトリィを警戒していないのだが、それに気づけるほどの余裕もない。 トリィを目で追っている民間人たちは、声をかけられてやっと正気に戻る。 それまで現実逃避をはかって何とか精神の均衡を保っていた何人かが泣き崩れた。 その大半は女性だ。 赤い髪の少女、フレイ・アルスターもその一人で、眼鏡の少年が彼女を慰めている。 かたかたと震える少年(カズイ)もいた。 それを確認して、緑の軍服を着た青年は苦笑を漏らす。
「あなた方に手を出すつもりはありません。二日後にはオーブから迎えが来ます。安心して下さい」
そう言われても簡単には信じられないが信じるしかないだろう。
「キラは…キラはどうしたのよ!」
あなた方の世話を任されたミゲル・アイマンです、と青年が名乗るのとほぼ同時に一人の少女が彼に掴みかかった。
「ミリィ!」
「放してっ!キラが……っ」
慌ててトールが止めようとするが、ミリアリアは手を振り払い突き飛ばす。 彼はそのまま無重力空間を漂いかけた。 しかしそれを偶然そこにいたザフト兵が助け、トールは何の気負いもなく彼に礼を言う。 すると赤い軍服で色黒な金髪の少年は意外そうに目を見開き、次に明るく笑った。 相手がコーディネイターだということを気にしていないトールの態度に好感を持ったのだろう。 ディアッカはまだ知らない。
偽りとはいえ、自分の恋人が彼と“お付き合い”していることを――…
2004/12/09
収拾つかなくなって来た。
如月様、−Mondenshein−
1万ヒットフリーでしたので、頂いてきましたv
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