「・・・彼女には、そろそろコレは遊びではない・・・・と、そのことをきちんと理解いていただかないといけませんね。
私たちは、こんなことで同盟に亀裂を生じさせたくはありません。
貴方方オーブ軍は彼女の命令に従わなければならないのでしょうが、私たちはオーブ国民ではありません。
まして、彼はプラント出身です。 そんな彼を、理不尽な言い分でそちらにお渡しすることなど、できませんわ」



私たちが彼らにしてきた数々・・・。
それは、決して謝罪だけでは済まされないこと。



彼がコーディネイターだということを初めから知っていたのに、私たちは一つの可能性をまったく考えていなかった。
同族意識の強い彼らが、親がナチュラルである1世代目にその意識がないとは言い切れないのに・・・・。


むしろ、彼に私たちが行ってきたのは・・・とてもじゃないけれど褒められたことじゃない。



『連合』と『ザフト』・・・『ナチュラル』と『コーディネイター』。
これが、この世界を覆っている戦争の実態。


そんな中、多勢の『ナチュラル』に独りの『コーディネイター』なのだから、どうなるかってことぐらい・・・・分かっていたはずなのに・・・・・・。








唯愛しくて・・・
    ― 賢者と愚者の温度差 ―











両艦のブリッジで盛大なため息が吐かれている頃、
強制的にクサナギに連れ帰られたカガリはシャトルから出ると近くのモノに憤りをぶつけていた。
そんなカガリの様子に、彼女の乗ったシャトルを回収しに行った軍人たちが心配そうな表情を浮かべながら近づいてきた。



「カガリ様?いかがなされたのです?」

「私は、生まれながらにして選ばれたんだ。 だからこそ、お父様に預けられて、大切に育てられたんだ。 次期、首長として。
だが、私の弟はコーディネイターだがその才は無かった。 だからこそ、普通の家庭に預けられたんだ。
コーディネイターのあいつより、私の方が優れている。 そんな私だからこそ、アスランはあいつではなく私を選んだ。
だが、それをあいつが妬んで、AAからこちらにアスランを渡さないんだ」

「カガリ様とどなたがご姉弟ですって・・・?」

「私とAAにいるキラだ。 証拠は、ほらここにある。 きっと、アスランは同じ顔だから私の変わりにあいつを傍においているに違いない。
あいつと血の繋がりがあるなど・・・虫唾が走るがな」



ブツブツと呟くカガリを心配そうな表情を浮かべながら、
カガリの乗ったシャトルを強制帰還させたアストレイのパイロット・・・オーブ軍の一般兵が近づいてきた。

彼の他にも数名の一般兵が近づき、それぞれカガリの心配をするかのように気遣う。
そんな彼らに問われるまま、カガリは僅かな真実とそこから作り上げられた妄想をあたかも事実であるかのように吹聴してゆく。



「・・・カガリ様とコーディネイターであるあの者が、ご姉弟・・・? カガリ様は、あの者よりも優秀なのですね。
我らは、カガリ様の味方です。 カガリ様の望む者がこちらに来られるよう、我々も・・・・」

「カガリ!!」



一般兵はそれぞれ顔を見わせニヤリと顔を歪ませながら、カガリを安心させるように言葉を紡ぐ。
しかし、彼が最後まで言い終わる前に、格納庫の出入り口から大声でカガリを呼ぶ声が格納庫中に響いた。



「なんだ、キサカ」

「『なんだ』、ではありません! 貴女は、またご自身の立場も弁えずに勝手に飛び出して・・・・。
貴女は、彼らとの同盟を潰す気ですか!?」



聞こえてきた声に不機嫌な顔を隠そうともしないカガリは、嫌そうに声の主に視線を向けた。
視線の先には、護衛兼教育係でもあったキサカの姿がある。
面倒そうに頭を掻きながら答える主に、キサカは毎度カガリに告げている小言を言い始める。



「なぜ、私がアスランを引き取ることでAAとの同盟を潰すことになるんだ?
アスランは、元は私を守るためとはいえ・・・ザフトの人間だろう? 地球軍だったやつらの管轄外だと思うが」

「そう仰るのならば、我々はもっと部外者ですよ。 我々は、中立なのですから。 ザフトとも地球軍とも関係はない」

「何を言っている。 アスランは、私の恋人だ。 恋人をこちらに引き渡してもらって、何が悪い」



キサカの言葉に本気で理解していないのか―単に、理解する気がない―、自身の都合のいいように物事を捉えている。


確かに、アスランはザフトであり、AAは地球軍である。
双方とも現在は脱走兵となっているがつい先日まで敵同士で剣まで交えていた。

しかし、AAは何もアスランを保護しているのではない。
クサナギには本国から持ってきた自機・・・M1部隊が格納庫を埋め尽くしている状況である。
また、彼が嘗て搭乗していた機体・・・『イージス』は元々AAの所有機であった。



「・・・貴女が彼に出会ったのは、つい先日・・・。
何より、この状況下でうやむやとなっているにしても貴女には立派に婚約者がいる身。
・・・この話は、堂々巡りになりますね。 とにかく、勝手な行動は慎みなさい。 さ、行きますよ」



キサカはカガリの育て方を間違えたのでは・・・と、最近思い始めていた。
その思いが確信に変わり、呆れを通り越して哀れみを見せたキサカは、
大きく溜息を吐くと未だに自身の主張ばかりを喚くカガリの首根っこを掴むとズルズルと引き摺りながら格納庫から出て行った。




その様子を、言葉を遮られた一般兵がジッと見つめていた・・・・・・。






一方ブリッジでは、AAとの回線を切られることなく女性同士の会話が進められていた。



「・・・ごめんなさい、こちらの不注意でそちらにご迷惑をおかけして・・・。 あそこまで、自分勝手だとは思っていなかったわ。
・・・この状況下でよく、自分勝手な行動ができるものね・・・」


《・・・私たちは、彼女と出会ったのは砂漠でだけれど・・・・。 あの時よりも、酷くなっているわね》


「・・・中立国の姫が、他国で武器を取っていること自体、あってはならないことですわ。
我が国の理念は『他国を侵略せず・他国の侵略を許さず・他国の争いに介入しない』この、3柱。
彼女は、この3柱の一つを平気で破っている。
本人は、砂漠の虎と名高い方に一度、
『その身を拘束されたけれどすぐに開放されたから、ばれていない』と言っていたけれど・・・彼女は、良くも悪くも目立つわ。
そんな彼女が、彼らにばれないはずがないでしょう」



呆れた表情を隠そうともしないエリカは、もう一度AA側に謝った。




彼女は元々、アスハ家寄りではなかった。
彼女の勤めていたモルゲンレーテ社に関わりの深い、サハク家寄りである。
方針の違いからサハク家とは決別しているものの、カガリを次期首長の器ではないことは分かりきっているため、
サハク家当主であるロンド個人とは、未だに付き合いがあった。
彼女としては、アスハ家・・・ウズミの掲げていた理念に賛同してはいるものの、自身の手がけている仕事・・・MSの開発に疑問を抱いていた。
『他国を侵略せず・他国の侵略を許さず』の二つにある通り、武力的侵略を許さないのが、自国の掲げる理念である。
にも拘らず、自分たちはMSを製造していた。
しかし、それらは自国を守るためだと信じていたため、現在まで仕事として割り切っていた。
それは現実のものとなり、武力行使を行った地球軍に対し、【オーブ】は自国の武力によってそれを防いだのだ。
カガリはアスハの人間だが、彼女は自身の主とは認めていない。
そのため、エリカはカガリに対しての忠誠心は欠片も持ち合わせてなどいなかった。






――――― ピーッ、ピーッ






「どうしたの?」

「それが、6時方向より所属不明艦を発見。 形から、ザフトの物だと思われますが・・・・」

「・・・本当にザフトの物だとすれば・・・戦闘は避けられないわね」



突如、ブリッジにアラートが鳴り響いた。


そのアラームは機影を捉えた時に鳴るものであったため、トノムラはすぐさま機影の場所と所属を照合した。
しかし、総合の結果は「Unknown」と表示されており、どの照合パターンにも該当しない事を現していた。
しかし、モニターに映し出した形から判断すると地球軍の物ではない事は明らかであるため、消去法からザフトの物だと判断したのだった。
トノムラの報告に眉を顰めたマリューは、どのように対応するべきか考え、頭を悩ませた。




《聞こえるか、ブリッジ。 こちら、ディアッカ=エルスマン》




そんな中、突如別の通信が開かれた。
メインモニター一杯に現れたのは褐色の肌と黄金色の髪にヴァイオレットサファイアの瞳を持つ少年が、パイロットスーツで現れた。



「ディアッカ君?」


《艦長、俺に探索の許可を。 やばいようだったらすぐに連絡を入れるから》


「・・・・分かったわ。 許可します。 このまま悩んでいても、状況は変わらないわね」



少年・・・ディアッカ=エルスマンはジッとモニターに映る司令官を見つめ、不明艦を確かめる許可を要請した。
そんな彼の言葉に驚いたマリューだったが、彼の言うとおり現状ではどうすることもできないために、
彼の要求をのみ、許可を出したのだった。




許可を受け、頷いたディアッカは通信を切ると後ろを振り返ると、一緒に聞いていたマードックが頷き、すぐさま準備を行った。
最終点検を終え、ディアッカがコックピットに乗り込み、OSを起動させたと同時に通信が反応し、回線が開かれてゆく。


その回線は独特の物で、オープンさせるためのパスワードを知るものは自分を含め、5人しか知らない。
そのうちの2人は戦死し、もう1人は同じ艦内におり、残りの1人は唯一、彼らの所属していた部隊にいる。



「・・・イザーク・・・?」



ディアッカはポツリと呟きながらも回線をオープンさせ、周波数を合わせる。
雑音が消えたと同時にモニターにも映像が映し出され、映し出された人物にディアッカは目を見張ったのだった・・・・・・。











2009/10/29













あとがきは、最終話にて。