「例え、小母上たちが君の本当のご両親ではないにしても、君があの人たちに愛されていたのは紛れもない事実。
僕を君と巡り会わせてくれたのは、小母上たちだよ」



幼い頃、本当の両親ではないと告げられた彼女。
彼女は、本当に彼らを愛していた。
そんな彼女だからこそ、その事実は凄く辛かったに違いない。
・・・だが、俺は彼らこそ彼女の両親だと思う。
誰から生まれたであろうと、彼女を大切に育ててきたのは紛れもなく彼らなのだから。








唯愛しくて・・・
    ― 家族との再会 ―











《ハルB、距離200。 ハルC、距離230。 軸船よし。 ランデル用軸船、クリア。 アプローチ、そのまま。
調査機偏差を修正する。ナムコンをリンク。 各員、待機。 アプローチ、ファイナルフェイス。
ローカライズト、確認しました。 全ステーション、結合ランチスタンバイ》




地球の【オーブ】本国から脱出した元地球連合第8艦隊所属アークエンジェル・・・通称、
AAは共に脱出してきた【オーブ】の艦であるクサナギのドッキング作業の護衛に回っていた。



クサナギの脱出を援護していた真紅と純白の2機を加えた【オーブ】の守りであるM1部隊もまた、
護衛として辺りを監視していた。
ある程度のドッキング作業を見つめていた真紅と純白の2機は、
残りの作業はクサナギと共に来たM1隊に任せることにし、彼らは先に現在の母艦であるAAへと帰還して行った・・・・。






格納庫にそれぞれの機体を固定し、隣に固定されている純白がダウンさせ、
灰色になっているのを確認した紺瑠璃色の髪とエメラルドの瞳を持つ少年は、
自身の愛機のOSを終了させる為に電源を落とそうとした。



「・・・メール?」



メインモニターには一通のメールが受信されており、そのまま落とすわけにもいかず、未読のメールを開いた。
メールの内容を静かに読んでいたエメラルドの瞳を持つ少年は、
僅かに嫌悪感からか表情を歪めたが溜息を吐きながら電源を落とし、
今度こそコックピットから出ると、自分を待っていた鳶色の髪とアメジストの瞳を持つ自身の対だと認識する少年に、
先ほどまでの表情とは180度違う優しさと甘さだけを前面に出した微笑を見せた。







《クサナギのドッキング作業、完了した》




AAのメインモニターに映し出されたのは、事実上クサナギの艦長を務めるキサカであった。



「・・・カガリさんは?」


《だいぶ落ち着きはしたが、いろいろあってな。 『泣くな』とは言えぬよ。 ・・・今は》




ブリッジに姿を見せない【オーブ】の獅子の娘である金髪にオレンジの瞳を持つ少女を心配した
AAの艦長・・・マリュ=ラミアスは、心配そうにメインモニターに映るキサカに視線を送った。
マリューの心配そうな表情を正確に読み取ったのか、
居住区にあるオレンジの瞳をもつ少女・・・カガリ=ユラ=アスハに宛がわれた部屋に引きこもっている
自分の主を思い出し、少々つらそうな表情を見せた。







「アスラン!」

「キラ、ご苦労様。 ・・・キラ、カガリから俺宛にメールが届いていた」



自分に微笑を見せる対の存在に気付いたアメジストの瞳を持つ少年は、
甘えるような微笑を見せて半無重力を生かして彼に飛びついた。

そんな少年をバランスを崩すことなく抱きとめたエメラルドの瞳を持つ少年は、
ギュッと一度だけきつく抱き締めるとゆっくりと彼の視界に入るように、
名残惜しげに身体を離してアメジストに映る自身を見つめた。



「・・・カガリから? なんて?」

「『クサナギにある、私の部屋に来てくれ』らしいよ。 ・・・どうする?」

「・・・どうするも何も・・・行かなきゃいけないんでしょ? もちろん、僕も一緒に行くよ」



アメジストの瞳を持つ少年・・・キラ=ヤマトは、
エメラルドの瞳を持つ少年・・・アスラン=ザラの言葉に小さく首を傾げた。

そんなキラの様子に苦笑いを浮かべたアスランは、右腕でキラの身体を支え、
開いている左手で優しく鳶色の髪を梳きながら先ほど読んだメールの内容を告げた。


告げられた内容に僅かに顔を顰めたキラは、アスランの問いかけにコテンと首を傾げた。

アスランから告げられたメールの内容だと、こちらに拒否権があるのかどうかが問題である。
アスランを呼び出した張本人は、呼び出し人であるアスランが来ることを前提に話を進めているのだ。



アスランの問いかけに溜息を吐いたキラは、自身を抱き締める腕に甘えるように擦り寄った。



「もちろんだ。 漸く、一緒にいられるようになったのに。 俺は、キラを離す事など・・・しないぞ?」

「うん。 僕もアスランの傍から離れないよ。 だって、この腕は昔から僕だけの特等席だもの」

「当たり前だ。 誰が許したとしても、この俺が許すはずがないだろ? 俺の全ては、キラだけなんだから」



自分に身体全体で甘えてくる唯一の存在に、
アスランは笑みを深くしながら愛おしい彼の額に触れるだけのキスを落とした。



そんな2人だけの世界を作業に追われている格納庫のど真ん中で繰り広げられていたが、
主任であるマードックを初めとする整備士たちは、
彼らが【オーブ】で再会し、共闘することになってから毎回繰り広げられているために、忍耐性が出てきた。
尤も、殺伐とした戦艦内でほのぼのとした空気を振りまく2人に対して、周りの目は見守る体勢である。




彼らは密着したまま、格納庫に備えられている通信機の前に半無重力の力を利用するようにポンッと軽く飛んできた。



「・・・こちら、アスラン=ザラ。
これから、クサナギに少しだけ向かいますので・・・シャトルを一隻、貸していただけないでしょうか。
MSで行ってもいいのですが、どの道M1部隊で一杯でしょうから」


《えぇ、構わないわ。 ちょうど、クサナギと連絡を取っていたところなの。
シャトルの受け入れ要請、こちらで告げておくわ。 後、貴方の部屋はキラ君と同室がいいわよね?》


「ありがとうございます。 では、用件が済み次第、すぐに戻りますので。 ・・・えぇ、できればよろしくお願いします」



慣れた手先でブリッジに通信を開いたアスランは、簡潔にまとめた要点だけをマリューに告げた。
マリューはニッコリと微笑を浮かべながら頷き、
通信を開いたままの状態になっているもう一つのモニターに視線を送った。
こちらからはその様子だけが映し出されていたが、
そのことからクサナギに今の会話が流れていたことを予測したアスランは、素直に礼を言った。
アスランたちの映るモニターに視線を戻したマリューから告げられた内容に、
同室になるように要請しようと思っていたアスランは、僅かに表情を動かすともう一度軽く頭を下げた。
2人の会話を聞いていたマードックは、ほかの整備士たちと共に空いているシャトルの最終点検を行っていた。
完了の合図を受けた2人はシャトルに乗り込み、クサナギへと向かった・・・・・・。






マリューから連絡が行われていたため、
クサナギのカタパルトはすぐに解放され、空けられたスペースに優雅に着陸した。
自動操縦ではまず無理と思われる方法での着陸であったため、
その様子を別室のモニターで見ていたクサナギの整備士たちは、
到着したシャトルの搭乗者は高い技術力を持っていると確信していた。
アスランはシャトルに軽くロックをかけると、後のことは整備士たちに任せることにし、
キラを伴って呼び出した張本人であるカガリの部屋へ向かった・・・・・・。






無重力の慣性の法則に基づき、飛ばされないように注意しながらベルトにしっかりと掴まりながら移動してゆく。
彼らはすぐさま目的地には向かわず、オーブから共に避難した民間人たちのいる居住区へ向かった。




居住区にはクサナギに乗っているクルーたちの家族などもおり、
クルーたちが彼らに割り当てる部屋の対応などを行っていた。





クルーに彼らの探している人物の部屋を教えてもらうと、教えられた部屋へと向かった。



「母様?」







――――― プシュン






キラは小さな声で中にいる人物の名を呼ぶと、ロックに手をかけて解除し、中に入った。



その後にアスランも続き、簡易ベッドに座ってくつろいでいた夫妻に軽く頭を下げた。



「キラ! アスランくんも無事だったのね?」

「母様と父様も無事で、よかった・・・・・・」

「心配をかけてしまったね。 私たちはこの通り、大丈夫だ。
ここに着くまで、親切な軍人さんがいてね。 彼がここまで誘導してくれたんだよ」



中に入ったキラをギュッと抱き締めたのは、
紺瑠璃色の美しい髪をウェーブさせた女性であり、彼女こそキラの母親であるカリダ=ヤマトであった。
そんなカリダの後ろから鳶色の髪の男性が現れ、彼はキラの父親であるハルマ=ヤマトであった。




アスランはキラの両親は『第二の両親』だと思っている。


月時代、母子で生まれ故郷である【プラント】から留学という形で避難してきたが、
母であるレノア=ザラは農業研究者としてその有能さをフルに発揮していた。
そのため、父であるパトリックから宛がわれた広い屋敷に独りいうことが多かった。

しかし、その隣人であったのがヤマト家であった。
ヤマト家はどこにでもあるような普通より上という水準だったが、
カリダとレノアはナチュラルとコーディネイターという枠組みから外れた仲の良い友人であった。
本人たちも、互いを親友と呼び合う仲である。

そんな親友の一家が隣人として同時期に引っ越して、偶然の再会を果たした。
広い屋敷に独りにしなければならない息子を心配したレノアは、1年の大半をヤマト家に預けることとなった。
そのため、どこに行くにも何をするにも常に一緒だったアスランとキラはきょうだいのように仲良く暮らしていた。


半分はヤマト夫妻に育てられたと言っても過言ではないアスランは、
夫妻のことを『第二の両親』だと認識しているのだ。



「お2人が無事で本当によかった・・・。 俺たち、この船の隣にある船にお世話になってます。
俺たちと一緒に、あちらへ移りませんか?
あちらには、小母上たちを連れてくることを伝えているので、心配しなくても大丈夫です。
それに、こちらの方にはすでに話を通していますから」

「あなたたちがあちらでお世話になっているのならば、私たちも移ることに異存はないわ。
むしろ、こちらは人が多いから・・・私たちも移動しようかと言っていたところなの」



キラ以外ではまったくといっていいほど表情に変化のないアスランだが、
『第二の両親』と慕っているだけあって彼らには年相応に安堵の表情を見せた。
キラを抱き締めていたカリダはその腕の力を僅かに抜き、視線を親友の息子に向けた。

アスランの提案にニッコリと微笑みながら頷き、
もう一度腕の中にいるキラに視線を戻すと、昔から変わらない微笑を2人に見せた。



「よかった・・・。 母様、僕たちこれからカガリのところに行ってくる。
アスラン宛てに、メールが届いたって言っていたから」

「・・・そう。 では、私たちはここで待っているわ?」



母の腕の中で、キラは嬉しそうに微笑んだ。
名残惜しそうに、ゆっくりと母の腕から出ると僅かに冷気を宿した瞳で戻る前に向かわねばならない場所を告げた。
キラの変化に気づきながらも驚いた様子を見せないカリダは、
キラの口から出てきた『カガリ』の名前にピクッと反応を見せたものの、再び微笑を浮かべると大丈夫だと頷いた。
カリダの視線に込められた言葉を正確に理解しているキラとアスランは、
無言で頷くとクルッと振り返り、目的地へと向かった・・・・・・。











2008/09/01













あとがきは、最終話にて。