「えぇ。 ・・・何度も同じことを繰り返さない為にも、叩き込まないといけないでしょう。
3年前、再び戦火が広がろうとしていたのをギリギリのところで食い止めたんです。
本来、ザフトは本国の防衛として組織された軍。 地球を支配しようなどと、そんなことを考えたこともない。
一部の人間の所為で、漸く安定してきたこの情勢を崩されるわけにはいきませんからね」
二度と、戦争が起きてはならないんだ。
もし、再びこの世界が戦禍に包まれるようなことが起これば、俺たちが今までやってきたことが無駄になる。
それに、キラやあの子たちの為にもこの平和は維持してみせる。
最初、《仮初》だっとしても・・・・人々の努力次第では、それが《本物》になるのだから。
Adiantum・外伝
― 平和な日常〜After three years〜 ―
デイルが強制的に連行されたのを見届けたアスランは、
周りの状況を未だに把握していないキラにニッコリと微笑みながら退席した。
そんなアスランたちに従うようにニコルも出て行き、
キラの使っていた端末を直し終わったディアッカは、
既に用が無いとばかりに退席しようとしていたイザークに従うように会議室から退室した。
そんな幼馴染たちを確認したラクスは、
会議室で未だに呆然・唖然としているほかの議員たちにニッコリと笑みを浮かべた。
「・・・ここにいる皆様は、お分かりだと思います。
あの方々をここにお呼びする際は、軍事などに関係することだけになさいませ。
そして、ザフトの兵たちをご自分の私兵などと、そのようなお考えの方がもし、
この場におられるのでしたら・・・即刻辞表を出してくださいませ。
共に、平和な世界を創るとおっしゃるのならば、
このような馬鹿げたことをなさらないほうが、身のためですわよ?」
ニッコリと笑みを深くしたラクスだったが、その目は笑っておらず、
逆にアクアマリンの瞳には冷水よりも冷たい光が宿っていた。
以前から彼らをよく知る者たちは了承とばかりに微笑みながら頷き、
今回の件で彼らの恐ろしさを目の当たりにしたほかの議員たちもコクコクと頷いた。
そんな、自分よりも遥かに年上の議員たちの肯定に満足したラクスは、
一礼すると静かに退席して行った・・・・・・。
会議室を退席したアスランたちは、寄り道することなくアスランの執務室へ向かった。
そこには彼らの愛する子どもたちがいるため、自然とその足は早足になる。
また、会議が始まる前にアスランから召集があったイザークたちも直接アスランの執務室へ向かった。
「ふふっ。 ディアッカたちとは久しぶりに会うから、あの子たちもきっと喜ぶよ」
「会うの久々だからな。 ・・・だが、姫が持ってきたランチ・・・家族分だろう?
俺たちが一緒でも大丈夫なのか?」
「・・・その心配はいらん。
ラクスからの召集があった後、俺たちがいつも利用しているホテルに予約を入れておいた。
既に準備されている頃だから、執務室に行った後から連絡を入れれば、ちょうどいいはずだ」
アスランに肩を抱かれながら歩いていたキラは、嬉しそうに微笑んだ。そんなキラの言葉に、
笑みを深くしたディアッカだったが、自分たちにとって重要事項を今更ながらに尋ねた。
そんなディアッカの言葉を予測していたとばかりに、既に根回しをしていたイザークが事後報告した。
彼らがランチタイムによく利用するホテルが、議会の近くにあった。
議会内にも食堂はあるが、上流貴族並の生活を送ってきた彼らは舌が肥えている。
そのことに対して、自覚症状があるからまだマシだろう。
アスランに至っては1年のほとんどをヤマト家で暮らしていたため、
金銭感覚も庶民並み・・・より少し上である。
「・・その分にはもちろん、ラゥ兄様とレイの分も入れているだろうな?」
「当然だ。 俺たちが集まることになれば、隊長たちも一緒だからな」
イザークの言葉を聞いていたアスランは、
自分たちが兄と慕う人物と現在は自分の部下になっているレイを思い浮かべた。
イザークもまた、レイを部下としてだけではなく弟のように可愛がっている。
そのため、アスランが彼らを呼ばないわけが無いと確信していた為、5人分を予約していたのだ。
「お帰りなさい。 母上、父上」
「おかえりなさーい」
「ただいま。 レグルス、スピカ。 いい子にしてた?」
「大丈夫ですよ、姉様。 レグルスたちはちゃんと、いい子にしていました」
執務室で彼らを待っていたのは、可愛い小さな子どもたちであった。
部屋に入ってきたのが両親だと確認したレグルスは、
小さな腕に抱いていた妹を解放しながら家族や身近なものにしか見せない微笑を浮かべていた。
そんな兄の笑みに釣られるように、スピカもまたニッコリと微笑んだ。
そんな2人の対応に、イザークたちはしきりに「アスランたちの子どもだ・・・・」と感心していた。
子どもたちの対応が、幼い頃の彼らにそっくりなのだ。
尤も、アスランにとってキラだけが特別な為、そのほとんどの微笑みは彼女に向けてに限られるが。
全員が集まったことを確認したイザークは予約していたホテルに連絡を入れると、
今回のことを提案したニコルを先頭に、中庭へと移動を開始した。
中庭に到着したキラは、
持参したバスケットの中から少し大きめのビニールシートを取り出すと、地面に敷いた。
また、レイも持参したビニールシートをキラの隣に敷くと、
それなりの大きさになった為にそれぞれが思い思いの場所に座った。
玄関前にランチを取りに行ったディアッカ以外のメンバーが座り、
早速自分が持ってきたバスケットを開き始めた。
中から出てきたのは、
色とりどりの具材が挟まっているサンドイッチやアスランの好物であるロールキャベツ。
お弁当には定番のから揚げやウィンナー、ミートボールなどがあった。
サンドイッチを仲良く作っていた子どもたちは、
ランチの内容に嬉しそうに微笑を浮かべながら並べられるのを今か今かと待っていた。
デザートも入っており、そこにも彼の好物である桃や子どもたちの好きな苺がスペース一杯に入っていた。
「アスランの好きなロールキャベツ、入れてきたよ。
・・でも、さすがにスープのほうは持って来れなかったけど・・・」
「ありがとう、キラ。 キラの作るロールキャベツは、味がしっかり染み込んでいるからね。
味には問題ないさ。 レグルス、スピカ。 きちんと手を拭くんだよ?」
「「はーい」」
バスケットから広げ終わったキラは、近くにあった手拭で手を拭くと、
持参した皿に夫の好物であるロールキャベツなどバランスよく盛り付けた。
自分の分を後回しにし、
夫が子どもたちの手を拭いているのを確認したキラは、ほのぼのとした空気に微笑を浮かべながら、
子どもたちの好物を取り入れつつこちらもバランスよく盛り付けた。
自分の分を取り終わり、
一緒に持ってきたポットを取り出すとおそろいのコップにアイスのミルクティを注いだ。
隣を確認すると、イザークが頼んだランチが中央に並べられ、
それぞれが思い思いに個人に渡された皿に乗せていた。
「こうしていると、日々の忙しさが嘘のようですわね」
「そうだな。 だが、たまにはこういう日もあっていいんじゃないか?」
慣れた手つきで優雅にレモンティを注いでいたラクスは、隣に座った夫にニッコリと微笑みながら告げた。
そんな妻の言葉に、イザークもまた滅多に見せない笑みを浮かべながら皿に盛った物を口に運んだ。
「懐かしいですねぇ。 あの頃も、こうやってみんなでピクニックに行ってましたしね」
「そうだな。 親父たちの休みが重なった時とかも行っていたな。
そうじゃない時は、ハルマ小父さんが引率者でさ」
自分たちを包み込むほのぼのな空気に、
殺伐とした日々で疲れた心が癒されるのを感じていたディアッカは、
幼い頃に、休みが重なって月に来ていたタッドたちが自分たちの休暇の時には必ずといいほど、
一緒にピクニックに来ていたか疑問に思っていた。
だが、いざ自分たちが同じように仕事に追われる身になると、
自分の幼馴染たちが醸し出す暖かな空気に触れると、
癒されるような気分になることを身にしみて体感していた。
「・・・あの頃、こんな穏やかな気持ちになれるだなんて・・・思っていませんでした」
「私もだよ、レイ。 こんな穏やかな気持ちにしてくれたのは、彼らのおかげだ。
そして、この空間を壊さない為にも、あの子たちは頑張っている。 私たちも、手伝えることは手伝おう」
姉と慕うキラの幸せそうな微笑を見つめていたレイは、
自分までも幸せを分けてもらっているこの空気にニッコリと微笑みながら、
現在自分の後見人となっている同じ生まれの過去を持つクルーゼに視線を向けた。
そんなレイの視線を受け止めたクルーゼは、戦後から徐々に笑みが増えた穏やかな表情を浮かべていた。
そんなほのぼの空気を、遠くから優しい視線を向けていた大人たちの姿があった。
会議室から開放され、どこかで昼食を取ろうと話していたところに、懐かしい光景を中庭で発見したのだ。
そんな懐かしい光景に見入っていた彼らは、
穏やかな表情を浮かべる子どもたちに、自分たちが求めていたものが漸く手に入ったのだと実感していた。
「親父?」
「父さんもいらしたんですか」
「母上!母上たちもいかがですか?」
そんな優しい視線に気付いたディアッカたちは、
自分たちを見つめる親たちに笑いかけながら手招きした。
そんな息子たちの姿に、笑みを浮かべながら空いているところに座ると、
まるで月時代に戻ったかのような錯覚を覚えるほど、穏やかな空気が彼らを包み込んだ・・・・・・。
穏やかな時間。
それこそ、彼らが切実に望んだ世界。
悲惨な戦争を知る彼らは、
何気ない世界がなによりも大切な時間だと言うことをその身をもって理解している。
だからこそ、彼らは死力を尽くして大戦をを終わらせた。
その平和な時間を己が欲のために再び壊すことを、彼らは許さない。
――――― 彼らの望みは、唯一つ。
彼らにとって、最も幸せだと感じたあの頃を取り戻す。
ただ、それだけである・・・・・・。
END.
2008/05/18

漸く、完結いたしました!!
・・・長かったです;
20万hitの企画として発動したにも拘らず、執筆を始めたのは30万を超えてから;
意外と人気だった【Adiantum】。
日記で連載を始め、ブログに移植してから実に2年と少しの時間を要しました(滝汗)
・・・読み直していると、同じようなことを何度も書いていたことに気付き、修正しようにも多すぎた為にそのまま放置したという曰く付き;
人気が出たことは、大変嬉しくまた予想外の結果でしたv
一応、これを含めて【Adiantum】は完結となります。
本編の最後に赤ちゃんとして登場した双子の兄妹も大きくなって登場しましたからv
こちらの作品は、リクエスト者であるかたつむり様のみ、お持ち帰りができます。
そのほかの方々は、ご遠慮ください。

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