「そうですね・・・・。 手塚君と越前さんは基礎がしっかりとしているようですから先ほどのようにラリーをして下さって構いませんよ? 不二君もできると思いますが? この2人をよろしくお願いします」
人選には結構辛口な桜川君がおっしゃっていた通り、
丸メガネの奥で嬉しそうに目を細めた事実に気付いたのは、彼の補佐を勤めている副部長だけであった。
心に夢を君には愛を
「莉央香、このまま俺の家に向かうか?」
「うん。 ・・・・母様たちのことだから、お泊りセット持って行っていると思うよ?」
校門から出た2人は手塚の家に向かうため、家の近くを通るバス停の近くで確認のために話しかけた。 バスに乗り、手塚家の近くにあるバス停に降りた2人は今までの空白を埋める勢いで莉央香が話し、
「ただいま帰りました」
「お邪魔します」
手塚と莉央香の声にパタパタとした足音が響き、黒髪の女性が出迎えた。
「お帰りなさい。 リョーさん、国光さん」
「ただいま、菜々姉様。 母様たちは?」
「伯母様たちはキッチンにおられますよ?」
ニッコリと微笑みながら2人を出迎えたのは莉央香の従姉である菜々子であった。
「本当? 荷物置いてきたら私も手伝う!」
「莉央香、荷物は俺が持っていく」
手塚はさりげなく莉央香の荷物を自分の荷物と一緒に持ち、自室のある2階へと階段を上った。 手塚が荷物を置いてリビングに向かう頃、キッチンでは女性人たちの明るい声が響き渡っており、 彼らの将棋の勝負が終わること、女性陣の声によって夕食ができたことが告げられた。
「おや、今日はリョーちゃんも一緒に作ったのかい?」
「うんv でも、みんな一緒に集まるのは本当に久しぶりでしょう? 去年までは長期休暇しか会えなかったもの」
「日本に行くことが決まった時、リョーが一番喜んでいたものね? 国光と一緒に学校に通うって言って」
「だって、また一緒の学校に行きたかったんだもん。 家も近くだから、また一緒に帰れるねっ」
母の言葉に少々脹れた莉央香だったが隣にいる手塚に抱きついた。 そんな2人の様子を見ていた両家の家族たちは微笑ましく、 楽しい夕食会が終わり、毎回恒例となっている晩酌では、お酒に比較的強い祖父の国一と国晴は多少顔を赤くし、
「国光ぅ〜。 ・・・カラダ、熱い」
「・・・・お前は飲みすぎだ、莉央香。 ・・・傍にいるから寝ていいぞ?」
「・・・うん。 クニミツも一緒?」
「あぁ」
莉央香は酔っているのか手塚の首に両腕を絡ませ、首を傾げながら一緒に寝ようと呟いた。 そんな幼馴染に苦笑いを見せると優しく抱き上げ、目の前にいる両親と幼馴染の家族に一礼をした。
「・・・莉央香がこんな調子ですから、今日はもう休みますね」
「えぇv お休みなさい、国光」
「お休みなさい・・・何を撮っているんです?」
「気にしなくてもいいわ? 私たちは明日の朝に帰るとリョーが起きたら教えてね?」
「解りました」 手塚は莉央香をお姫様抱っこしたまま2階にある自室へ戻った。そんな手塚の後ろを白い狸のような猫が付いて行った。 彼らはそれぞれの家に泊まる際、同じ部屋で寝ている。年頃の若者なのにと思われるだろうが、幼い頃からの習慣なのか莉央香が寝ぼけて手塚の寝室に行くことから、同じ部屋となったのだ。どちらも自分のことには鈍いためかお互いを男女としてではなく自分の最も信頼する人物と見ていた。そのことを裏付けるかのように手塚は莉央香を、莉央香は手塚に絶対的な信頼を寄せていた。 手塚は優しく布団の上に莉央香を倒し、布団を掛けるといつものように額にキスを落とした。 朝日が昇り、夜の気配が完全に消えうせた頃、 その光景は、どちらかの家に泊まった時に見られる光景であり彼にとっては早々慣れたものである。
「・・・莉央香、起きろ。 遅れるぞ?」
「クニ・・・ミツ? あ・・さ?」
「朝だ。 一緒に行くのだろう? 早く起きろ」
「・・・うん。 カル、おはよう」
手塚は優しく自分の隣で寝ている莉央香を起こし、自分は布団から抜け出すと自分の着替えである学ランを持ち、部屋を出た。 莉央香はその間に制服に着替え、再び部屋に姿を現した手塚と共に階段を下りてリビングに向かった。
「おはよう、リョーちゃん、国光。 朝食はリョーちゃんの好きな和食よ」
「おはようございます」
「おはようございます、彩菜さん」
手塚の母はニッコリと2人に微笑みかけるとテーブルの上に用意された朝食を見せた。 2人が朝食を食べている間、彩菜は2人と一緒に降りてきたカルピンにミルクをあげるため、キッチンに戻り、 朝食を食べ終えた2人は仲良く食器を直し、手塚家を後にして学園へ向かった。 青春学園には‘帰宅部’は存在しない。 この学園はスポーツだけではなく、進学校としても有名である。
「・・・昨日、本当は部活停止じゃないの?」
「新入生たちのために昨日だけは解禁だったみたいだ。 それに、テニス部は毎月恒例のアレがあるらしいからな」
「・・・アレか。 じゃ、仕方がないね」
「・・・まぁ、今回の整理考査頑張らないとな」
学園へ続く通学路を仲良く歩く2人に犬などの散歩をしていた主婦たちの注目の的となっていたが、 学園の正門をくぐる彼らに、元気のいい声が届いた。
「おーい、そこの2人〜!!」
手塚と莉央香は同時に後ろに振り向き、首を傾げた。
「おはよう。 手塚君、越前さん」
「「おはよう」」
不二の声に営業スマイルみたいな微笑を見せる莉央香に僅かに苦笑いを浮かべた手塚は、
「おはよう。 昨日、テニスコートにいただろう?」
「おはよう。 あぁ。 僕たちもあの後、入部届けを出してきたよ」
「・・・今日、テスト? ・・・つい最近テストがあったばかりじゃん!」
「英二、この学園は文武両道って方針だろう? 仕方がないよ? それに、多分入試の時と似た問題がでているはずだよ」
不二に抱きつくように拗ねている姿はどこか猫のようだと感じるのは莉央香だけではないだろう。
「リョー! 国光も一緒ですか!!」
「「海斗!?」」
2人に海斗と呼ばれた少年は2人の姿を確認すると一目散に駆け寄り、人懐っこい笑みを見せた。
「昨日の新入生代表で国光の姿を確認したからまさかとは思いましたが・・・リョーもこっちに来ていたとは」
「母様の都合でこっちに来たの。 学園に関しては私の我侭だよ。 海斗はどの部活にするの?」
「伯母様たちも元気そうですね。 僕ですか? 僕は、文芸部に所属しますよ。 テニスも好きですが・・・僕にはやっぱり活字が似合っていますから」
「・・・才能的にもあるもんね。 洋書みたいに作って?」
「先輩も了承してくれたから、創りますよ? そちらの3人は?」
「この3人、昨日会ったばかりだよ。 みんな、テニス部に入るんだって」
嬉しそうに微笑みながら莉央香と同じ色素を持つ少年と話していた莉央香だったが少年の指摘に思い出したのか彼らに自己紹介を求めた。
「そうですか! 僕から紹介しますね。 僕は東宮 海斗。 彼女の従兄です。 国光とは幼馴染ですよ。 呼び方は『海斗』か『カイ』にしてください。 苗字で呼ばれるのに慣れていませんし、それで呼ばれるのはあまり好きではないので」
「越前さんの? 初めまして。 僕は不二 周助だよ。 よろしく」
「周助って呼んでもいいですか?」
「いいよ」
「俺は菊丸 英二! 俺も英二でいいぞv よろしく、カイ☆」
「僕は大石 秀一郎。 よろしくね、海斗」
「うん、よろしく。 シュウイチロウ? ・・・秀って呼んでもいいですか?」
「構わないよ」
「!! 国光、私たちも自己紹介していないよ? 越前 莉央香。 リョーって呼んでね」
「手塚 国光だ。 よろしく」
それぞれの自己紹介が終わり、ほのぼのとした空気が流れている中菊丸が莉央香に向かって何か宣言をしていた。
「俺は、おチビって呼ぶから☆」
菊丸の発言に莉央香の機嫌が急激に下がるのを察知できたのは
「自己紹介も終わったことだし、続きは放課後にして整理考査を片付けてきましょう」
海斗は不思議がる3人を押すようにしながら校門をくぐり、振り向いた先にいる2人に視線を送った。 整理考査と言っても一学年は小等部レベルであり、二・三学年は一学年下のレベルである。 そのため、春休みのうちに勉強をしていたものにとっては有利とされるテストでもある。 このことは既に入部届けを提出している5人にも該当する(マネージャーも部員扱い)。
2006/04/22
莉央香の従兄、登場です。
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