「日本に?」


「えぇ、そうよ? 仕事の都合で日本に行くことになったの」


「・・・母様、日本の学校に通うのなら国光と一緒のところがいい」


「その予定よ?」


「ありがとう! 母様!!」



また、彼と一緒に通える。
2年前に帰国してから、今まで通りに一緒に遊べなかった・・・・・。
けど、これからは違う。
また、一緒に勉強したり遊んだりできる!





遠い地にて、桜の咲き乱れる半年前・・・一人の少女が母親の言葉に嬉しそうに微笑んでいた・・・。









心に夢を君には愛を
              ― 入学 ―









桜の舞い散るこの季節にしてこの国特有の景色がいたるところで見受けられる季節。

青空の広がるこの日、体育館の窓ガラスに春の陽気を感じさせながらこの学園・・・
青春学園中等部の入学式が体育館にて行われていた。

真新しい制服をその身に纏い、
ヶ月ほど前まで小学生だった新入生は校長・理事長の挨拶を一部除いて真剣に聞いていた。

青春学園・・・地域からは青学と呼ばれるこの学園は小・中・高・大とエスカレーター式の構成でなっているため、
小等部から中等部に進学する際、編入生を入れての入試試験が行われる。
編入生の中には帰国子女もおり、編入試験は通常の入試よりもランクの高いものとなっている。

新入生が入学する数日前、彼らのテストを全て集計した教師陣は前代未聞の事態に驚きを隠せなかった。
歴代の成績で新入生代表・・・つまりは入試の主席であるが、その主席が2人いたのだ。
エスカレーターにて中等部を受験した男子生徒とアメリカからの帰国子女の女子生徒である。
彼らは双方ともオール満点を叩き出しており、その点数においても過去最高である。
教師陣の議論の結果、女子生徒は帰国子女と言うこともあり、新入生代表は男子生徒となったのである。





そんな裏事情を知らない新入生たちの前に彼らの代表である主席を取った男子生徒が理事長のいる教壇に立ち、
緊張を一切していないかのような表情で代表挨拶を述べた。

その声にうっとりとした表情で見ていた女子生徒が1人いたのだが、
教師陣はもちろん、新入生・在校生も気付くことはなかった。




生徒会長の挨拶も終わり、淡々として入学式が終了すると新入生は式が始まる前に発表されている自分たちの教室に向かい、
在校生は体育館に残ってそのまま始業式が開始された。

エスカレーター式となっているためにこの学園は生徒数が半端なく多い。
そのため、毎年1組から12組までクラスがあり、その分校舎も含めてそれぞれの敷地が異様に広い。
そんな中、今年度の主席となった男子生徒と女子生徒は共に同じクラスとなり、担任となった教師は内心、頭を抱えていた。

彼らの在籍するクラス・・・1組において他の生徒たちとは違うオーラを放っている生徒がいた。
その生徒こそ、先ほどの入学式で新入生代表を務めた男子生徒であった。
周りのクラスメートたちはそんな男子生徒の自分たちと同年代と思えない威圧感を感じ、近寄れなかった。
しかし、そんな彼・・・手塚 国光に臆することなく近づく1人の女子生徒の姿があった。



「久しぶりだね、国光」


「・・・・莉央香・・・・か?」



手塚の表情は無表情だったが内心で呆然としていることが解る女子生徒・・・越前 莉央香はニッコリと微笑んだ。



「そうだよ? 国光」


「・・こちらに引っ越してきたのか?」


「うん。 母様の仕事の都合上でもあったけど、我侭を言ったの」



莉央香は少しだけ首をすくめると悪戯が見つかった少女のような瞳を見せた。
そんな彼女の様子に呆然としていた手塚は僅かに眉を顰めた。
彼と目の前にいる少女は世間一般に言う幼馴染同士である。
そんな彼女の言葉に今までのことを彼女以上に理解している彼は、
彼女の両親を困らせるほどの我侭を一度たりとも言ったことのないことを知っていた。



「我侭?」


「うん。 ・・・どうせ日本に行くのなら、国光と同じ学園がいいって」


「・・・そうか。 ・・・・今日は俺の家だな」


「そうだね。 会場で、彩菜さんたちに会っていたから・・・・」



彼女の言うところの我侭に手塚は嬉しそうに微笑むと洋書を持っていた利き腕を優しく触れるように
彼女の母親から色濃く受け継いでいる金色の髪を優しく梳いた。

莉央香は嬉しそうにその仕草に身を任せていたが、
その行動に驚きを見せたのは小等部から手塚のことを知っていたクラスメートたちであった。

ざわめきに首を傾げたのは女子生徒でもう1人の男子生徒も表面上では無表情なものの、
内心では隣にいる女子生徒と同じように首を傾げている様子が長年に渡って最も近い位置にいた女子生徒のみ知っていた。

クラスのざわめきを鎮めたのは彼らのクラス担任であった。



「・・・・LHRが終了次第、今日は下校となる。 私語のざわめき等が多い場合、その時間は長くなるからな〜」



この一言により、クラスのざわめきは一瞬にして消え去り、手塚は自分の隣に立っていた莉央香に座るように促した。



「・・・莉央香、一応座れ」



手塚の言葉に素直に頷いた莉央香は自分の席である手塚の隣に座ろうとした時、
自分に向けられるまっすぐな視線・・・担任の視線に意識を向けた。
その視線は手塚も気付き、不意に莉央香を守るような体勢をとっていた。



「・・・越前、お前は帰国子女だからこっちに来て挨拶くらいしろ」


「・・・・はい」



2人の様子に呆れたように呟いた担任に対し、
少し罰の悪そうな表情を見せた莉央香は手塚に苦笑いを見せると優雅に教卓の前まで歩いていった。



「リオカ=E=ユリウスです。こっちが本名だけど・・日本名は越前 莉央香なのでよろしく」



自己紹介をした美少女は勝気な笑みを浮かべるとそのまま自分の席に戻った。



「・・・越前はアメリカからの帰国子女だ。 仲良くしろよ」



莉央香の簡潔すぎる自己紹介に苦笑いを浮かべた担任は簡単に莉央香の国籍を伝えると
そのままLHRへと議題を変えていった・・・・・。






私語のざわめきを抑えたままLHRの時間が無事に終わり、
新入生である彼らはそれぞれの帰路につくか自分たちが所属しようとする部活への見学もかねて
それぞれ行われている場所へと向かった。
彼らの先輩である在校生は、入学式直後に行われた始業式が終了後、
一度新しいクラスへと向かったがLHRが終われば即座に下校となるので大人しくしているため、
新入生たちよりも終わる速度が違う。
そのため、新入生たちがそれぞれの部活動場所へ移動している頃にはすでに部活を始めている事態になっている。




今年度の新入生代表を務めた彼とその親しい女子生徒は揃って
校舎から少し離れたところにあるテニスコートへと向かうこととなった。



「・・・国光、テニスコートの場所知っているの?」


「あぁ。 ・・・入学式が終わり次第、すぐに向かおうと思って事前に調べておいた」



玄関前にある靴箱で自分たちの通学用シューズを取り出しながら自分よりも少し目線の高い男子生徒に尋ねた莉央香は、
手塚の言葉に納得した様子を見せながら自分のシューズに足を入れた。



「君たち、テニスコートに向かうのかい?」



校舎から出た手塚たちに声をかけたのは手塚よりも少し背の低い細身の少年であった。



「・・・・その予定だが・・・君は?」


「あぁ、名乗っていなかったね。 僕は不二 周助。 君たちと同じ一年だよ。 僕もテニス部を見に行きたいんだけど・・・
一緒にいいかな?」



手塚は無表情の下で困惑していたが元々感情が表に出ない手塚に代わって隣で静かにしていた莉央香が首を傾げた。


その様子に苦笑いを浮かべた少年・・・不二 周助は自ら名乗り、テニスコートに一緒に行くことに対して彼らに尋ねた。



「テニスをするの? あ、名乗っていなかったね。 越前 莉央香だよ。 彼は手塚 国光」


「彼のことは知っているよ。 僕たちの新入生代表・・・入試試験の首位だから」


「・・・向かう方向が同じだからな。 俺は別に構わない。 ・・・莉央香、行くぞ?」


「うん」



不二に好感を持った莉央香は自分たちの名を名乗ったがやはり入学式直後だからなのか手塚の名はすでに知られていた。

手塚は不二に対して淡々と言葉を返し、テニスコートに向かおうとしながら莉央香に声をかけた。
手塚の言葉に嬉しそうに微笑み、手塚に追いつくとすかさず利き手を握った。
そんな莉央香の行動になれている手塚は苦笑いを隠しきれていないのか僅かに頬を緩ませながら
莉央香が痛がらないように力を加減して自分よりも小さな手を優しく握った。






その様子を一部始終見ていた不二は2人を包む柔らかい雰囲気に自分が微笑んでいることに気付き、
一瞬だけ驚いたような表情を見せたが誰もそのことに気付かなかった。
少し離れたところで手塚と莉央香が同時に振り向き、そんな2人に微笑んだ不二は2人の後を追うように
歩く速度を少しだけ速めた。








2006/04/04













テニプリにて、新連載開始ですv
今回は・・・・私の趣味を凝縮してしまいました;
リョーマ君の女性化!!
ココでは、『リョーマ』でななく『莉央香』ですので!
『リョーマ』に関連した名前を考えていた時、愛称を『リョー』にしました。
よって、それに近い『莉央香』。
言葉遣いは、ちゃんと女言葉です。
・・・一人称が『僕』でしたらそのままでよかったのですが・・生憎にも『俺』ですからね(滝汗)