「いってらっしゃいませ、キラ。 ・・・お土産を楽しみにしておりますわ」



カガリさんのほうはお任せくださいませ、キラ。
彼女は私とミリーさんがお引き受けますわv
私たちは、キラとアスランが共におられるのを見るのが大好きですの。



アスランとご一緒にお帰りになられるのを、楽しみにしておりますわ。

歌姫に見守られて、天使は自分の右翼を取り戻すために敵陣へと飛び立とうとしていた。


・・・・普段の彼女では考えられないほどの・・・・真っ黒いオーラを纏いながら・・・・・。








お迎えです。 後








格納庫へ急いで自分の愛機である『フリーダム』に乗り込むとミリーがハッチを開けてくれたため、晴天の空へと飛び出した。そのまま特定したルートを通りながら『ミネルバ』にハッキングしたキラは、カーペンタリア基地のマザーに侵入し、程なくしてあっさりと掌握できた。



「・・・ザフトって、まさか『ナチュラル』用のセキュリティーしか開発してないの? こんなセキュリティー、僕の力なら簡単にハッキングできるよ・・・。 ・・・これなら、議長の時に完全に止めとけば二度手間にならなかったかな?」



キラは、ザフトのマザーに対して無感情な音を発しながら通信と生命維持以外の全ての機能を停止させた。これにより、ザフトにとって未確認である機体・『フリーダム』が近づいても『ミネルバ』に通信しても教えることができないのである。



「・・・さって、見−つけたv アスラン、待っていてね? この僕に言ったこと撤回させてやるんだから!!」



キラは『フリーダム』のメインシステムに移しておいた『ミネルバ』のコントロールに対して、艦底部にあるハッチを開けさせようとした。



「・・・ふーん? めったに使わないと思ったら暗証番号形式? ・・・馬鹿にしてるの? こんなもの、ハックされていたらすぐに侵入されるでしょうが。・・・僕のように」



そう呟くとキラはキーボードに付いているテン・キーを使ってハッキングした際に入手していた暗証番号を入力した。





『****』





キラがそう入力すると艦底部にあるハッチが音を立てて開いていった。





ビービービ―――――





《艦内に侵入者あり、侵入者あり。 アスラン=ザラ以下3名のMSパイロットは至急、ブリッジへ!! 繰り返す、・・・》

ハッチの警報機と同時に『ミネルバ』の副官であるアーサーの艦内全域に放送が流れた。本来なら、MSの名前を言うところだが、その点はキラが生命維持装置と通信関係以外の全てのシステムを『フリーダム』に移しているために未確認となっていた。実際、キラがハッチを開けるまでレーダーには何の反応もなかったのである。



「アスラン=ザラ、以下3名出頭いたしました!!」


「・・何事ですか、艦長」


アスランの声にレイが重なるように艦長席に座っていたタリアに尋ねた。



「・・・放送を聴いた通りよ。 誰かが、艦底部にあるハッチを使ってこの艦内に侵入をしたそうよ。 MSというのは分かったのだけど、どの機体かは特定できなかったわ。 メインコンピュータをハッキングされたらしくてね、特定が不可能な状態みたいなの。 もちろん、カーペンタリアも同じよ」



タリアは疲れたそうに呟いた。そんなタリアの言葉にアスランは嫌な予感を感じていた。




(・・・まさか、キラじゃないよな? 未確認MS、艦と基地を丸ごとのハッキング能力・・・)




アスランは知らず知らずのうちに背中に冷や汗をかいていた。






その頃、目的地であるブリッジに着いたキラはアスランの後姿を見つけるなり、黒いオーラを隠しながら人懐っこい笑顔を見せた。

しかし、今は男装をしているが・・・彼女をよく知るものであれば後ろのバックの真っ黒いオーラを感じずにはいられない。



「あっ、見つけたっ!! アスラン!!」


「キ、キラ? どうしてお前がこんなところに!!」



キラの明るい声とは反対に少し引きつった声を出したのはアスランだった。彼には長年の経験からか、今のキラが本当はすごく怒っていることに気が付いた。



「どうして? 愚問だよ、アスラン。 それは君に言いたいことがあったのと、迎えに来たってことだよ? あ、今度こそ言い逃れができないように証拠品を持ってきたんだ」



キラはニッコリと微笑みながらアスランに先ほどハッキングして印刷した例の証拠品を渡した。キラから手渡されたアスラン、最初は冷静だったが、ページをめくる度にどんどん表情が悪化していった。



「キラ、これは本当なのか?」


「・・・当たり前でしょう? 何のための証拠品だよ。 ・・・わかった? 僕があの人を信用できないって言った意味が。 人の話、ちゃんと聞こうね? アスラン? それと、長身の男の子に隠れている彼女? あの様子で僕やアスランにばれてないとでも思ったの? ・・・ねぇ? ルナマリア=ホーク?」

「!!」



キラは絶対零度の微笑を浮かべたままレイの後ろに隠れたルナマリアへと視線を向けた。アスランがミリーを通してキラ達と密会していたのを盗聴していたルナマリアだが、本人達が気づいていないと思い込んでいるようであった。



「・・・あんな大きいものを持っていたら、いくら崖からでも目立つでしょ。 あの時点で気づいていないのはカガリくらいだよ? ・・・そうだ、アスラン。 もう一つ、お土産を持ってきたんだ。 これは2年前、オーブが戦場になったときに記録された戦闘記録。 もちろん、僕の機体『フリーダム』と君の機体である『ジャスティス』の記録だよ。 ・・・僕を恨んでいるようだけどね、シン=アスカ? これを見てもまだそんなことをいえるかな?」



キラは自分が『フリーダム』の搭乗者だということをあっさりと暴露した。そんなキラに対して、一気に敵意をむき出したのがシン・アスカだった。



「・・・艦長、メインスクリーンお借りします」



アスランはキラからディスクを受け取ると、メインスクリーンに映し出されるようにセットした。画面に映し出されたのは『フリーダム』と3機との攻防戦だった。そのうち、緑の機体が地上に降り、無差別にレーザー砲を打ち込んでいった。



「・・・問題のシーンはここでしょう? シン=アスカ。この緑の機体は『カラミティ』。 当時、地球軍の新型モルスーツだった。 まぁ、この機体は最後の大戦時に跡形もなくなったはずだけど。 ・・・君が見たというレーザー砲は大きな緑でしょう? 『フリーダム』についている緑はビームのみ。 つまり、銃にしかない。 あの戦闘で、大きな緑色のした砲弾を放っていたのは? ・・・アスラン、君も知っているだろう?」



アスランはキラが何を言いたいのかが分かったような表情をだした。



「!! ・・・『カラミティ』だけ・・・だな]


「・・・そう。 つまり、君が僕を恨む理由はない。 あと、先日ここの主砲を打ち抜いた理由ですが、艦長さんにお尋ねしたい。 ・・・貴方は艦長になるべくしてなったのでしょう?」



キラは呆然としているシンから視線をはずすと艦長席から立ち上がったタリアに向けた。

「・・・えぇ。 そうよ?」



タリアはキラが何を言いたいのかが分からないような言い方をした。



「でしたら、あの主砲がもともと何かを御存知ですよね? いいですか? あれを地上でどかどか打ち込まないでくださいね? あれは、陽電子砲です。 つまり、放射能を放つんですよね? そんなものを地上で打ち込んでいたら地上に住む人間が絶滅してしまうでしょう?」



「何を甘いことを・・・。 それが戦争よ」



アスランとキラの記憶に今の言葉と同じようなことを聞いたようなデジャ・ヴュを感じていた。



「・・・・おめでたい人ですね。 まぁ、いいですけど。 あと、アスラン? 『お前の手だって! 既に何人もの命を奪っているんだぞっ!?』なんて言っていたけど、その根本的な理由、君達にあるってことを忘れていない? あとね、この言葉は君に言われる筋合いはないと思うんだ。・・・君は僕が『ストライク』に乗る前から軍人だった。 つまり、君の手も『ナチュラル』の命を奪っていることになるよね?そのこと、分かって言っているの? 君の言っていることは全て、矛盾しているんだ。 自分だけ違うって言い方しないで欲しいけど? ・・・そういう考えが嫌だから、あの時第3勢力に就いたのでしょう? ・・・それとも、今度こそ本当に『ナチュラル』全てを滅ぼしたいの? ・・・僕の両親まで殺して」


「!!」

「そうでしょう? 君が信頼している議長さん、やり方は違うみたいだけど。 ・・・結果は君の父であるパトリック小父さんと同じ考えみたいだよ? ・・・気づいてないみたいだね」



キラは言いたいことを言ったのか大げさにため息をついた。



「・・・反論、あります? ありましたら聞きますよ? ・・・地上戦で主砲なんて、2年前の成り行き艦長でさえしなかったことなんですがね」

キラは周りを見渡しながら聞いた。最後の『成り行き艦長』とは現AAの艦長をしているマリュー・ラミアスである。彼女はオーブから宇宙に上がる際一度だけ主砲・・・『ローエングリーン』を撃ったが、タリアのように地上の戦場では撃ったことがなかった。キラはそんなマリューとタリアを比較したのであった。



「・・・アンタがあの時、邪魔しなければハイネは死なずにすんだ」


「・・・シン=アスカ。 君にもう一ついいものをあげようか。 ・・・これは、地球軍のマザーにハッキングして入手したやつだよ。 これはね君達が愚かにも2年前の地球軍と同じことして奪取された3機に乗っている相手の個人データ。 ・・・君も知るべきだよ。 最も大切だと思える人との無意味な争いをね・・・。 大体、君達は受け入れないだろうが、あの機体は僕が倒したのではなく、『ガイア』でしょう?」



 シンは言葉に詰まりながらもキラから渡されたディスクを小型の端末にセットした。



「・・・『カオス』、スティング・オークレ、UNKNOWN。 『アビス』アウル・ニーダ、UNNOWN。 『ガイア』ステラ・ルーシェ、UNKNOWN。 ・・・ステラ!?」


「・・・・なぜ、名前と機体以外がUNKNOWN?」



シンの驚きはレイの呟きによって消された。



「・・・2年前と同じだよ。 あの時は、彼らドーピングしていたんだ。 薬によって、力を一時的に『ナチュラル』から『コーディネイター』並みにね。 しかし、それには汚点があった」


「・・・だから、あのコンビネーションか」



アスランはようやく理由が分かったらしく、納得がいったように呟いた。



「・・・そう、彼らの汚点はあのバラバラなコンビネーション。 いくら力だけを強化しても意味がなかった」


「・・・・どうりで、なんとなく昔感じた戦い方だと思った。 やつらはこの3人にも同じようなものをしたんだろう?」


「・・・根本的にはね。 彼らは、考えたよ。 必要なのは力とコンビネーション。 あとは彼らにとっては不要なもの。 だったら・・・・?」



キラはかつての自分を思い出しながらアスラン達に問いかけた。



「・・・まさか、記憶をいじるのか? だが、それは!!」


「・・・何をいまさら。 ザフトもすでに人道的じゃないでしょう?」



キラはニッコリと微笑みながら爆弾を投下した。キラの言っている「人道的じゃない」とはもちろん、ラクスの偽者である。それ以前にキラが静かに怒っていた理由とは、ラクスの偽者を作っておきながら本物のラクスを暗殺しようとしたから、オーブにも戻れなくなっていた。



「・・・そうか・・・。 ・・・シン、君には最も大切な者との意味のない戦闘行為というものを知らない。 実際、知らないほうがいいのだけどね・・・」



普段のへタレはどこえやら、2年前のことを思い出していたアスランはどこか遠くを見つめるような眼差しで、周りを見ていた。



「・・・アスラン、君は昔から一つの考えに没頭しすぎだから・・・。 大方、プラントに行って説得しようとしたら逆に説得されてうっかりと復隊したのでしょう? ・・・あの人、僕の存在も知ってるよ? それとも、君はもう一度僕と戦いたいの?」


「!! ・・・キラ、俺はもうお前と戦いたくはない。 確かに、これだけのデータでは議長を信じることはできないな」



キラはアスランの顔を覗き込みながら悲しそうな表情をして呟いた。アスランは昔から根っからのキラ至上主義者だったため、キラの悲しそうな声で一気に覚醒し、キラを抱きしめた。



「・・・アスラン、僕は君を迎えに来たんだ。 あの時、何も言わなかったのは、彼女がいたし・・・。 なにより、頭に血が上っている状況で君に何もいえなかった・・・。 それにね、僕は・・・カガリ以外の僕らはもうオーブには戻れない。 君も知っているだろう? あのオーブは既にない。 今のオーブはもう、連合と同盟を結んだ連合軍と同じ。 『ナチュラル』だったらまだいいけど、僕達は『コーディネイター』が多いんだ。 それに・・・マリューさん達は2年前に地球軍の裏の顔を知っている生き残りでもある。 戻ったら彼ら、軍法会議にかけられてしまうよ? それでも君は僕らに戻れって言うの? ・・・僕にしたって、良くて人体実験で最悪な場合はその場で射殺だろうね・・・ 」



キラにそこまで言われたアスランはようやく自分の言った失言に気が付いた。実際にあの時は頭に血が上っていたが、冷静に考えると矛盾していることとなる。連合と同盟を結んだオーブに戻れば『コーディネイター』であるキラ達に危険が迫る。それと同時に、地球軍の裏を知って第3勢力に就いたAAのクルー達の命も危うくなるということを。つまり、アスランの言うとおりにオーブに戻れば生きている可能性が低くなるということである。



「・・・そう、だな・・・。 逆に戻ればキラ達の命が危険にさらされる。 ・・・キラ達はこれからどうするんだ?」


「・・・もう少し様子を見ようかと思う。 僕らの目的は両軍から武器・・・MS関係を取り上げることだから・・・。 『ナチュラル』と『コーディネイター』の共存を望んでいるから・・・」



キラはアスランの問いに儚い笑みを浮かべながら自分の考えを伝えた。



「・・・分かった・・・・。 俺もAAに戻るよ。 確かに、このデータでは議長を信じられない。 それに、俺はキラを守るために複隊したんだ。 なのに、そのキラと2年前みたいに敵同士になっている。 ・・・あんな惨めな思いをするのは一度で十分だ」



アスランはキラを無意識に抱き寄せるといつものように抱き締めた。



「ウン。 還ろう? 本来いるべき場所にさ。 ・・・大丈夫。 これからのことはすでに準備されているから。 ・・・協力者もいるからさ」



アスランの言葉に嬉しそうに微笑んだキラは甘えるようにアスランの首に腕を回した。キラが放った最後の言葉はシン達には聞こえてはいなかった・・・。



「・・・では、艦長。 そういうことですので、私はAAへ向かいます」

「!! アスラン! あなたはザフトに複隊したのでしょう!?」


「・・・シン・・・君は忘れてはいないか? 俺は『フェイス』だ。 つまり、単独行動を許されている。 俺は、軍に・・・議長に忠誠を誓った覚えはない。 自分の見たものを信じ、感じたままに決める。 ・・・なにより、ここではいつか俺がキラを再び討たなければならない時が遅からずくる。あんな虚無な思いはあの時感じたものをもう、感じたくない。 その時、俺は自分が正気でいられるかに対して、自信がないからな」



アスランは2年前のオーブでの戦闘・・・アスランが本気でキラを殺そうとした戦闘を思い出しだ。彼は未だにこのことが悪夢として彼を苦しめていた。そのことはキラにも言えることだが・・・・。アスランは当時、自分がキラを殺したと思い、精神崩壊を起こしかけた。実際にキラが生きて再び地球へ降りたことをラクスに聞くまでは傍から見れば変わらないだろうが、結構親しい人から見ればアスランは一時的に精神崩壊を起こしていたのだ。



「・・・では、『ミネルバ』の皆さん、お騒がせいたしました。 アスランは帰してもらいますね? ・・・あと、この艦のコントロールは僕が無事にAAへ着き次第、回復いたしますのでご心配なさらないように」



キラは嬉しそうにアスランの腕を引っ張ると出口に向かった。扉を開け、閉めると同時に今思い出したかのように少し振り向くとニッコリと微笑みながら自動回復すると言った。言外には自動的以外には無駄だということを隠して言ったのだ。





キラ達がいなくなったブリッジには誰1人としてその場からしばらく、動くことができなかった・・・・。







ブリッジでクルー達が固まっている頃、キラ達はまずアスランの機体である『セイバー』のある格納庫を目指していた。この艦の構造は大体理解できたアスランはキラが進入してきた艦底部のハッチは格納庫のちょうど真下にあることが分かったからである。



「・・・キラ、シンのことは気にするな。 ・・・あいつがこれから先、戦闘のたびにちょっかいを出すようなら俺が手加減なしにするから」



アスランはキラを握っている手からキラが僅かに震えていることに気が付いた。



「・・・うん・・・。 アスラン、僕もう君と離れるのは嫌だよ? ・・・だってあの時以外、君がプラントや僕から離れると必ず会うのは敵として・・・だから。 僕はもう、そんなのは耐え切れないから・・・」



アスランはキラの訴えにキラ限定の微笑を見せることで肯定の意味を示した。2人はそれぞれの場所で自分の愛機に乗り込むと、キラのハッキングによって完全停止している『ミネルバ』をせに、本来いるべき場所へと帰還していった・・・・・。







END








2005/06/23














後編をようやく更新することができました・・・!!
しかし・・・これまた極端に後編は長くなりましたね・・・・。
本来はまだ書きたいところがあったのですが・・・。
その点は、後日におまけとして書こうと思っています。
初のDESTIYネタでしたが・・・。
短編はどちらかというと・・・DESTIYネタが多くなるかもしれません・・・。
あと、私もシンが「フリーダム」(キラ)がオーブでシンの家族を巻き込んだとは思えません。
確かに、爆破した後に「フリーダム」が飛び去っていましたが・・・。
直接的には、地球軍の新型MSである「カラティ」だったはずでは?
つまり、シンはキラを恨むのではなく「カラミティ」を搭乗していたオルガを恨むべきでは・・・?