「戦って討たれて失ったものは・・・もう二度と戻らないから。」
キラは今にも泣きそうな表情を必死に耐えて自分の前にいるアスランを見つめた。
「自分だけわかったような・・・綺麗事を言うなっ!」
アスランはそんなキラの表情が夕焼けの逆光のため見えず、声を荒げた。
「お前の手だって! 既に何人もの命を奪っているんだぞっ!?」
彼の脳裏には、ニコルを初めとする多くの同胞達を思い出した。しかし、そんなアスランにキラは一言も反論もせずにアスランと再び別れた・・・・。
お迎えです。 前
アスランがセイバーに乗ってもと来た道・・・『ミネルバ』に戻ったのを見届けたキラ達は自分達の来た道・・・『アークエンジェル』、通称AAへ帰還するべくキラは自分の機体のある場所へと移動を開始した。そんなキラを見つめていたミリアリアの表情にはキラを思う気持ちとアスランに対しての怒りの感情が渦巻いているのをカガリは感じていた。
「・・・ミリー、AAに来るだろう?」
カガリは複雑そうな顔をしながら隣にいたミリーに声をかけた。
「そうね、そうするわ。 ・・・行きましょう、キラ」
ミリーはカガリの問いに答えながら目の前を歩いていたキラに声をかけた。
「そう、だね。 ・・・ミリー、このことをラクスに伝えてくれるかな? 僕、ちょっと自室にいるから・・・・」
キラはついさっきまで涙をこらえていたのか、今にも泣きそうな表情をしながらミリーの言葉に頷いた。
「いいわよ、キラ。 こっちは任せておいて?」
ミリーは泣きそうな表情をしながらでも何かを決めた決意を感じる声になんとなく予感を感じたのか、意味ありげな言葉をキラに与えた。そんなミリーに儚く微笑み、キラはフリーダムに乗り込むとAAへと帰還して行った。
キラはAAの格納庫にフリーダムを固定すると、一目散に自室にあるPCの前に座った。彼は確かにアスランの言葉に傷ついた。しかし、後からどうしても言いたいことが山ほどあることに気がついたのである。
(アスラン、あの時は言いたい放題だったけど、冷静に考えると彼の言っていることに矛盾を感じるんだよね・・・・)
そのようなことを考えながらキーボードを最速で叩く姿をクルー達が見かけていたらその場で灰と化しているだろうと思わせるくらい、黒いオーラを放っていた。
彼は3年に一回という割合で時折黒と化すことがあった。最後に黒と化したのは今から3年前、つまり『ヘリオポリス』が崩壊する1年前のことであった。それにより、先ほどミリーの予感とはこのことであった。 彼が今行っているのは地球でのザフト基地・カーペンタリアにあるマザーへのハッキングである。ここの基地を通して直にプラントのマザー、議長のPCへと侵入するつもりである。
(アスランに文句言う前にまずは否定できない徹底的な証拠の集めでしょう)
キラはラクス暗殺の黒幕にプラントの議長が一枚かんでいると核心を持っていた。
(じゃないと、ラクスの偽者を作るわけがないよね。ラクスはプラントでは歌姫であると同時に象徴であるって前アスランが言っていたもの。ラクスを使って兵士達の土気をあげる。確かに、それはいいと思う。けど、自分の思い通りに・・・人形にならないからって暗殺?それって、おかしいよね)
キラはカーペンタリアのマザーのセキュリティーを簡単に無効にすると、プラントの個人PCへとハッキングを開始した。
その頃、キラにおいて行かれたミリー達はカガリが来たジープに乗ってAAへ帰還しようとしていた。
「キラ、大丈夫かしら」
ミリーの小さな呟きは隣にいるカガリには聞こえていなかった。
「・・・ミリー、AAに帰還したら即でラクスのところへ行くぞ。 なんとしてでも私のアスランを取り戻すんだ」
ミリーはカガリの最後の発言に疑問を感じた。
「? カガリ? いつから彼はあなたのものになったの?」
「そのままだろう? アスランは私のためにSPになったんだ。 私を守るために」
カガリは自信満々に答えた。
(・・・カガリ、本気でそう思っているの? アスランがあなたのSPになったのはキラがアスランに頼んだからなのよ?
彼の希望はあくまでもキラと共にいること。 そんなアスランにキラがたった一人の肉親であるあなたを心配してアスランにお願いしたのに・・・・)
ミリーはカガリの言葉を聴きながら、2年前の大戦時のことを思い出していた。彼らはいつも行動を共にし、食事の時も常に一緒に行動をしていた。その姿は彼らの機体が置かれる専用運用艦である『エターナル』はもちろんのこと、『ストライク』があるAAでもその2人の姿が目撃されていた。 カガリが運転するジープは限界速度ギリギリのラインでAAへ帰還し、急いでラクス達のいるブリッジへと向かった。
「ラクス!!」
カガリはブリッジ前の扉を乱暴に開けるとミリーを連れてラクス達の前にやってきた。
「お久しぶりですわね、ミリーさん」
「そうね、ラクス。 ・・・キラからの伝言よ。 『アスランは自分の主張を言いたいことだけ言って、僕の話をまともに聞かないであちらに帰還して行ったよ』だそうです。
それと、これは私の予感ですが、近いうちにここがまたあの頃のように賑やかになるでしょうね」
ラクスはカガリに言う前にミリーに挨拶をした。そんなラクスに対して、すれ違う際にキラから頼まれた伝言をラクスに伝えた。
「・・・まぁ、そうですの? では、あちらはキラにお任せしましょう。 ミリーさんはこれから、私達と一緒に行動を?」
ラクスにはミリーが何を言いたいのかが分かったらしく、その点には触れずにミリーに尋ねた。
「そうね、そうするわ。 ・・・また、お世話になります。 マリュー艦長」
ミリーはそう言いながら艦長席に座っていたマリューに挨拶をした。
ブリッジで懐かしい人達の再会をしている間に、AA内の仕官の個室、キラの部屋ではプラントの議長であるデュランデルの個人PCからのデータをハッキングしていたキラは目当てのデータを見つけて自分のメモリーに保存していた。
(これで、アスランも信じるほかないよね? これほどまでに証拠が揃っているのだから)
キラはメモリーにコピーしながら次の作業に取り掛かっていた。アスランの赤いMS・・・『セイバー』が飛んでいった方向から『ミネルバ』の位置を特定し、『ミネルバ』のメインコントロールと地球上にあるザフトの基地であるカーペンタリアのマザーコンピュータを完全にハッキングしようとしていた。
(・・・それじゃ、そろそろ行こうかな? !! 見つけたっ! 『ミネルバ』!!)
『ミネルバ』を見つけた瞬間、キラはそれまでのタイピング速度よりもわずかにスピードを上げ、『ミネルバ』のハッキングに取り掛かった。
(ザフト基地は『ミネルバ』経由ですればいいよね・・・。 まぁ、僕ならそのままでも大丈夫だけど・・・面倒だし。
それより、あの時から性能は上がってるかな?)
キラはザフトのマザーに幼年学校時代に一度、ハッキングしたことがあるのである。その時は跡形もなくその場から引いていったため、いまだに誰が犯人かは分かってはいない。
しばらくすると、すさまじい速さでキーを打っていた指の速度を落としたキラは最後の仕上げにエンターを押した。
「・・・これで、コントロール関係を『フリーダム』に移せたね。 ・・・ラクスに言って、いきますか」
キラは自室を出て、ラクス達のいるブリッジへと向かった。 ブリッジに向かったキラは、そこにカガリがいないことを確認するとニッコリ微笑んだ。
「ラクス、マリューさんちょっと行ってくるね。 ・・・あと、ありがとう。ミリー」
「いってらっしゃいませ、キラ。 ・・・お土産を楽しみにしておりますわ」
ラクスの謎とも言える言葉を背中で受け取ったキラは分かっているというように頷いた。
「・・・キラ君、怒っているみたいね・・・。 あの時のように・・・・」
マリューは2年前にキラを怒らせたことがあるため、彼の怖さを十分知っていた・・・。
2005/06/13
初めての短編です。・・・本来は一話完結にするはずでしたが・・・・。
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