「血が繋がっていない俺は嫌い? 血の繋がりのない兄じゃないと・・・・価値がないの?」

「私は・・・いつでも、キラの味方ですわ。 ですから・・・キラを傷つけることしかなされない貴女を、許すことはできませんわ」

「奴は昔からキラしか見ていない。 筋金入りだからな。 まぁ、それがアスランだからな」

「あのお2人が僕は大好きなんですよ。 ですから・・・彼らのジャマばかりする貴女は、はっきり言って煩わしい以外、ありません」

「アスラン・・・筋金入りの姫バカだからな。 あんたが入る隙間、ないぞ。 まぁ、その前に俺たちによって排除されるけどな?」




俺は、キラしか要らない。キラが、俺の全てだから。
君とであったあの頃から、全身全霊をかけてキラを守ると誓ったのだから・・・・・・。








交差する想い
   ― 前編 ―








満開に咲き乱れた桜がまるで吹雪のように散って逝った後、日差しが強く照らす季節。
すっかり、春の気配から夏の気配に姿を変える中、それぞれの学園でも衣替えの季節である。
それは、彼らの通う学園でも例外ではなく、
厚い冬服からから涼しげな夏服に移り変わる衣替え期間に突入していた。
もちろん、生徒会執行部に属している彼らとて例外ではなく、
衣替え期間の宣言がされた翌日から夏服を着用していた。
法人学園の密集地帯だが、その中でもエリート校のエスカレーターで有名なザフト学園。
この学園は、個人の能力が認められれば家柄が上流階級でも下級階級でも関係なくその門をくぐることができる。
もちろん、学園内でもそのようなことでの騒動は起きない。

否・・・騒動を起こさせないのだ。


学園内で事実上権力を持っているのは教師陣でも理事会でもない。

生徒たちの中のトップ集団・・・生徒会執行部である。

世の中の理で権力に酔うと独裁政治のようなことが起こるがザフト学園ではそのような事実は今までの中で一切ない。
歴代たちもまた常識は持っているからだ。


今の執行部を運営している彼らは小等部で権利を認められてから同じメンバーである。
もちろん、そのことに対して上級生たちからの反感を買ったことはない。
過去に、彼らに反感を持った者たちの末路を知っているからである。
事実、彼ら以上にうまく運営することが不可能だと自覚しているからでもあるが・・・・。



「アスラン、その資料で最後です。 ・・・・それの決済が終了次第、お帰りいただいて結構ですよ」

「・・・こちらも終わった。 ・・・ディアッカ、そっちはどうだ」

「こっちもコレで終わりだ。 ・・・合同にしたせいでこっちの仕事がかさばったな・・・・」

「仕方がありませんわ。 元々、向こうの提案ですのに全て仕事がこちらに回ってきたのですから」



若草色の髪を持つ少年は中央に座る紺瑠璃色の髪を持つ少年の前に資料の束を置き、
彼の言葉に中央から左側に座っていた銀色の髪を持つ少年が反応した。
彼に問いかけられた金色の髪を持つ少年はため息をつきながら今までの資料をまとめ、
桃色の髪を持つ少女は給水室から人数分のお茶とお茶菓子を用意して持ってきた。



「お疲れ様、アスラン」

「キラもお疲れ様」



鳶色の髪を持つ少女はニッコリと微笑みながら自分用と中央に座る少年に紅茶の入ったカップを持つと、
少年の元に慎重に持っていった。
少女から渡されたカップを受け取ると少女専用の笑みを浮かべた。
紺瑠璃色の少年と鳶色の少女は学園でも有名な双子の兄妹である。
兄のほうは執行部の生徒会を勤めており、妹のほうは書記の立場にある。
彼らの仕事ぶりは有能で、定期試験においても常に首席と次席をキープしていた。
そんなこともあり、彼らの存在はこの学園内では知らない者はいないほど有名なのだ。
そのこと以外にもザフト学園の創設者は彼らの一族であり、学園のスポンサーでもあり、
理事会の1人でもあるパトリック=ザラの子息たちでもあった。
兄のアスラン=ザラは妹至上主義者としても学園では有名で、
一度執行部からの誘いを辞退したが妹のキラ=ザラの一言によって就任したことでも生徒たちに認識されている。
もちろん、その際に条件を提示することも忘れてはおらず、
その条件によってキラもまた共に執行部に属することとなったのだ。
クラスに関しては小等部に入学してから常に同じクラスで、
そのことに関しては彼らの両親が裏から根回ししたことだがその事実を知るのは当事者たちだけである。
そんな彼らのほのぼのとした空気に長年共に仕事をこなしているメンバーは安心したように見守っていた。
銀色の髪を持つ少年と桃色の髪を持つ少女は幼い頃からの友人関係を築いており、
彼らの中で最も信頼されているメンバーでもある。
そんな彼らの視線を気にすることなく、仲良く一緒に座りながら漸く訪れた休息を楽しんでいた。






その頃、学園の正門ではちょっとした騒動が起こっていた。
ザフト学園は関係者以外正門をくぐることができない。
それは上流階級の子息なども通っているため、セキュリティー対策を万全にしているからだ。
そのため、学生たちが常時制服に校章の入ったバッチを所持している。
その中に、個人情報の入ったチップが埋め込まれている。
正門にはそのチップを認識する特殊のセンサーがあり、そのセンサーに認識されないものが侵入した場合、
即刻警報が鳴って警備員が警備室から登場する仕組みとなっている。


学園のセキュリティーやマザーコンピュータに関してはキラが構築したプログラムを使用しているため、
外部からのハッキングは不可能である。
キラ以上のプログラマーは、この【プラント】内にはまずいないだろう。





そんな万全のセキュリティーに不法侵入の警告が点灯し、急遽警備員が正門前に直行した。




「私は関係者だと何度言ったら分かるんだ! 私は、この学園の生徒会長の婚約者だぞ!」



正門前で喚いている金色の髪を持つ少女は両腕を先に来ていた警備員に取り押さえられても尚抵抗を続けていた。



「関係者でしたら、専用のIDが配布されているはずです。
我々は、そのIDを所持しておられない方は、お通しできないのですから」

「っ! 私をアスランの元に連れて行け! あいつが私の身元確認をしてくれるはずだ!
なにせ、私はアスランの婚約者なのだからな!!」



警備員の言い分によって一瞬言葉を失ったが、すぐさま自信満々に宣言し、
少女の言葉に警備員たちは不審そうな視線を向けた。


彼らもまた、自分たちが警備している学園の生徒会長のことをよく知っており、
彼が誰を一番に大切にしているのかを近くで見ているからである。
もちろん、警備員たちの中でキラの評判はいい。
時々だが、生徒会での仕事の合間に彼らにコーヒーの差し入れなどをするからである。
また、彼女の言葉にも労りがあり、中には彼女からの差し入れを“癒し”と思っている警備員もいる。


そんな妹を大切にしている生徒会長の婚約者が彼の妹とはまったくの正反対な性格の持ち主だと信じたくない思いなのだ。



だが、本人がこう言っている以上確認のために連れて行かなくてはならない。
自分たちの判断で追い返した場合、もしもの時は取り返しが付かないからである。
1人の警備員はアスランがまだいる生徒会室に連絡を取り、今から面会人を連れて行くことを伝えた。






―――― この判断が、そもそもの間違いだとはこの時、誰も分からなかった・・・・・・・。









それから数分後、正門前で人騒動起こした当事者と数人の警備員は学園の中央にある生徒会室の前に立った。
少女を立たせた瞬間、両腕を拘束していた警備員の腕を振り払い、ノックもせずに扉を開け、まっすぐに走りこんだ。



「入出の許可をしていないぞ!」

「アスラン! 会いたかったぞ!!」



銀色の髪を持つ少年・・・・イザーク=ジュールの大声をかき消すほどの声を出して
中央に座っていたアスランに抱きつこうとした。
しかし、本人に抱きつく前に近くにいた若草色の髪を持つ少年・・・ニコル=アマルフィによって止められた。



「招かれざる客である方が、なぜこの場にいるのです?
そもそも、入出許可をしておりませんので・・・この部屋に入ってくること自体できないのですが?」



ニコルは普段から考えられないほどの不機嫌さを見せながら扉付近で固まったままの警備員に向かって金髪の少女を放り投げた。



「・・・なんでこの女、連れてきたわけ?」

「この方、アスラン様の婚約者だと名乗っておりましたので・・・・。 まさかとは思いましたが、念のためにお連れしました」



警備員は入り口にいるが部屋の中でブリザードとも思える冷気が発生していることにその身をもって感じ、
背筋が凍る思いでこの場にきた用件を伝えた。
警備員の言葉に一段と冷たくなった空気の中心には今の話に出てきた当事者・・・・アスランがいた。
アスランはとっさにキラを守るように抱き締めたままの格好だったが、そのままの体勢でブリザードを発生させていた。
この場でそのブリザードに気付いていないのは天然であるキラと状況がまったく分かっていない金髪の少女であろう。



「・・・俺の婚約者? いつ、そんな話になった? ザラ家とアスハ家の縁談が俺の知らないところで行われたと?
オーブ学園生徒会長であるカガリ=ユラ=アスハ嬢。 俺は、貴様の婚約者になった覚えはないぞ?」

「っ!! だが、私の父はお前が婚約者になることを認めてくれたぞ!!」

「・・・ウズミ様が? ・・・そうか。 だが、残念だったな? 貴様たちが認めたとしても・・・父上は認めないだろう。
もちろん、当事者である俺も認めない」



金髪の少女・・・カガリの発言によってアスランが身に纏う冷気が一段と冷たくなったことに気付いたのは
室内にいるイザークたちであろう。



「・・アスラン?」

「大丈夫だよ、キラ。 俺がキラと正反対な性格を持つコイツと婚約者になるわけがないだろう?」



心配そうに見上げたキラに対し、先ほどまで冷たい視線しか見せなかったアスランは
ガラッと雰囲気をキラ限定なものに変えるとニッコリと笑みを浮かべた。
カガリはその様子を憎悪が浮かんだ表情で見ていた。



「・・・いいご身分だな? アスランに守ってもらって。 ・・・・そうか。 アスランはその女に騙されているんだな?」

「・・・・・え?」



突発的な行動だったため、近くにいた警備員はもちろんイザークたちもその場から動けなかった。
目の前にいたアスランはキラの腕を掴もうとした瞬間、近くにあった机の角にキラの頭がぶつかった。



「キラッ!!」



頭をぶつけたキラに背筋が凍る思いのアスランはすぐさまキラの元へ駆け寄り、キラの容態を診た。
キラは頭を打った衝撃なのか意識はなく、グッタリとした様子でアスランの腕の中で気を失っていた。



「・・・アスラン、まずはキラを保健室にお連れくださいませ。 ・・・この方は、私たちにお任せくださいな」



ラクスはキラを抱き締めているアスランが先ほどまで以上の冷気を纏っていることに逸早く気付くと、
目の前にいる原因よりも友人であるキラの心配をした。
アスラン自身、最優先事項はキラだと思っているためラクスの言葉に頷きキラの頭を動かさないよう、
最善の注意を払いながらお姫様抱っこのまま保健室へ向かった・・・・・・。



「・・・姫を傷つけた罪・・・・。 重いぞ?」

「・・・こいつを外に放り出して置け。 こんな非常識の塊が、あいつの婚約者のわけがないだろう」



彼らの中で温和な分類にはいるディアッカは今までにない怒りの篭った言葉を発し、
不機嫌を隠そうともしないイザークは近くにいた警備員に命令を下した。
命令された警備員もまた、キラを傷つけられたことによって彼らほどではないが憤りを感じており、
イザークたちに一礼をするとカガリの首元を掴んで彼らの持ち場へと戻っていった・・・。
もちろん、無様にも抵抗をしているカガリに対し、礼儀を通すことなく無理矢理引きずってだが・・・。



「・・・・ラクス、彼女の家は・・・アスハ家でしたよね? ココ最近、急激に成績を上げてきたアスハ一族の・・直系でしたっけ?」

「えぇ。 ・・・そのように伺っておりますわ。 ・・どうも、今回合同と言ってきたオーブ学園の生徒会長らしいですわね。
オーブ学園のスポンサーは・・・アスハ家だと聞いておりますわ」



警備員とカガリの気配が完全に消えた後、ニコルは小さな声で近くにいたラクスに先ほどまで命令口調女の素性を聞いた。
ラクスは入れなおした紅茶を少し飲み、目の前にある合同先の学園・・・オーブ学園の執行部のプロフィールを広げた。



「・・・どおりで、この成績で会長の座が収まるわけですね・・・・。 この学園の方針とこちらの方針はまったく違いますし・・・。
こちらは、家柄関係なく、個人の能力を重視しての入学ですが・・・。 あちらは、家柄重視みたいですよ。
自信があるのは、自分の家柄だけですから・・・偏差値ではこちらのほうが断然高いですね」





ニコルはため息をつきながら目の前にあるデータを見ていた・・・。





「ニコル、どこにアクセスしているんだ?」

「え? もちろん、オーブ学園に決まっているじゃないですか。 ついでに、学園のマザーにもお邪魔しようかと」

「・・・マザーに? ・・・マザーにハッキングできれば、スポンサーにたどり着く・・・か」

「えぇ。 この際ですから・・あちら側の弱みを握っているのも悪くはないと思いますよ」



ディアッカの問いかけにニコルはニッコリと微笑を見せた。
この時、ディアッカとイザークはニコルのバック真っ黒いオーラを感じ取っていた・・・・。
その頃、気を失っているキラを抱きかかえて保健室に向かっていたアスランは
保健室のベッドで眠ったままのキラの傍から離れずにじっと見守っていた。



「・・・先生。 キラを連れて帰ってもよろしいでしょうか。 ちょうど、生徒会の仕事も片付いたので・・・。
それに、屋敷のほうがキラも安心できると思いますが」

「えぇ。 構わないわ。 ・・・正門前にお迎えが来るまでの間、ここで休んでいてもいいわ」

「・・・ありがとうございます」



アスランは保健医に礼を述べるとキラが眠るベッドの近くにある簡易の椅子を寄せ、静かに腰を下ろした。
キラを見つめる表情には、めったに感情が見えないアスランには珍しく、動揺した様子が見られた。




アスランの所持する携帯に迎えの連絡が来るまでの間、
アスランはキラの傍を離れることなく沈黙したままキラの眠る横顔を凝視していた・・・・・。
















【主人公オンナノコ化アンソロジー企画】様へ投稿した作品です。
完全パラレルで、学園モノですv
キラにどうしても、紅色のセーラー服を着せたかったんです!
もちろん、アスランには同じ色でのブレザーvvv
学ランも言いですが・・・アスランにはブレザーが合うかなと。
枚数が長かったので、前・後と分けます。




2005/05/31投稿



2006/09/12