「君が生まれてきてくれたことに、俺は感謝するよ。 大切な君と出会えたのだからね」
「俺は、お前を気に入っている。 だから、この日を感謝する」
「姫は大切な仲間だと思っているさ。 だから、祝うのは当然だろう?」
「おめでとうございます、キラ。 私もこの日に感謝しますわ」
俺の大切な・・・最も愛する者の生誕の日。
あの頃、世界の情勢によって引き離された3年間以外は、常に祝ってきたこの日。
今は、まだ戦争中だが・・・少しでも、心の休まることを願って・・・・・。
―――――― 殺伐とした中での“癒し”ともいえる人物の誕生日。クルー全員が一丸となり、盛大に祝われた・・・・・。
Memoial
極上のアメジストの輝きをその身に宿す少女が永い眠りから覚めて、早くも数週間が過ぎようとしていた。
艦の外を見渡しても宇宙にいるために漆黒の闇しか見えないが、
それでも艦内にいるクルーたちは祖国の標準時間を知ることのできるようにと各部屋にタイマーを設置していた。
そんな中、少女の右翼とも言える人物が日付を見つめていた。
傍から見ると無表情にしか見えない横顔だが
彼の身近な者が見れば困惑していると分かってしまうほど日付を見ていた。
「・・・・既に、5月になっていたのか・・・・」
エメラルドの輝きをその身に宿し、宵闇色の髪を持つ青年は、
日付を見ながら呟くと何かを決めたかのように目的地へと足を向けた。
目的地についた青年・・・アスラン=ザラはドアをノックし、
電子音の解除の音を聞くとそのまま部屋の中に身を滑り込ませた。
「どうかなさいましたか?」
ピンクの髪を持つ少女はニッコリと微笑みながら目の前にいる銀髪の青年と一緒にアスランに視線を向けた。
「お楽しみのところ、申し訳ない。 だが、こちらとしてもとても重要なことでね」
「重要なこと・・・ですか? 珍しいですわね」
少女・・・ラクス=クラインは首を傾げながら目の前にいるアスランの表情を見ていた。
「・・この艦は、近々近辺のコロニーに立ち寄りますよね? 補給のために」
「その予定ですわ」
「そのときの滞在期間を少々延ばしていただきたい」
「・・・・理由をお聞かせくださいな」
アスランの言葉に笑みを消したラクスは真剣な表情でアスランの視線を受け止めた。
ラクスの隣にいる銀髪の青年・・・イザーク=ジュールは口を挟むことなく、彼らのやり取りを見守っていた。
「先ほど、【プラント】の標準時間を見たところ、既に5月のようですね」
「? それと何のご関係が?」
「大有りです。 特に、俺にとってはね。 ・・・5月は、キラの誕生日月ですから」
アスランは少しだけ表情を柔らかくしながら艦長室にあるデジタル表示を見つめた。
「滞在期間をキラのお誕生日まで延ばしてほしいと言うことですの?」
「そうなりますね。 ・・・戦闘に関しては、こちらで任せていただきませんか?
ハッキングしてでも両軍とも戦闘を起こさせないのは・・・簡単なものですから。
それに・・・半月くらいクルーたちにも休息を与えてもいいと思いますが?」
アスランはニッコリと微笑んでいるが瞳が笑っていない。
アスランとラクスの周りにはブリザードが吹き荒れているが、
その被害に遭うのは不幸にもこの場にいるイザークだけである。
「分かりましたわ。 そういう理由でしたら、こちらとしても大歓迎ですもの。
当日は、盛大にパーティを開きましょう」
「・・・こんな無意味な戦争中だからこそ、一時でも無縁なことをしてあげたいんですよ。
目覚めたばかりだからあまり無茶なことをさせるわけにはいかないですがね」
アスランは自分の用件が終わったとばかりにさっさと部屋を出ようとした。
もちろん、ラクスもイザークも彼の行動を止めることなく、部屋を出る際に呟かれた言葉に深く頷くだけであった。
「私は、ケーキを作りますわ。 以前、【オーブ】におりました時に作りましたの。
そのケーキがキラにとても評判でしたから」
ラクスはニッコリと微笑みながらイザークに視線を送った。
「会場のほうは、俺に任せろ。
一応、これから向かうコロニーにはジュール家が経営するホテルがあったはずだからな」
イザーク本人は近くにあったPCに身を寄せると早速実家が関係するホテルを検索し始めていた。
その後、イザーク経由で部屋にいなかったディアッカにもこれからの計画を伝えられ、
連絡を受けたディアッカは張り切った様子で了承した。
アスランは自室に戻る際、少々より道をしていた。
本来ならばすぐにでもキラのいる部屋へ戻りたいが、彼女がいる場所では話せない内容なため、
人気のない展望室へと足を向けた。
幸い、既にこれから寄るポイント・・・コロニーの電波がギリギリに届く範囲まで接近していたために
電波によって妨害されることなく目的の人物へ連絡を取ることができた。
それから数時間後、当初の予定通り来たたちの乗せたエターナルと後方を走行しているAAは
補給するために立ち寄るコロニーの港へ着いた。
クルーたちには休暇として艦から滞在するコロニーへ出てもいいとあらかじめ連絡がされていたため、
クルーたちは久しぶりになる休暇に羽を伸ばしていた。
艦内では休養ができないというラクスの主張のもと、
アスラン・キラ・イザーク・ラクス・ディアッカは
イザークの実家であるジュール家がスポンサーのホテルに滞在することが決定し、
滞在期間中に必要な衣服類は現地調達するために身の回り品のみを所持してホテルへ向かった。
部屋割りは当然アスランとキラ・イザークとラクスはツインとなり、
ディアッカは彼らと同じ階のシングルとなった。
(・・・分かってはいたけどね・・・・/ディアッカ談)
当初の計画通り、会場は彼らの滞在するホテルの一室を当日に貸し切る事が決定し、
ディアッカはコロニー内でのプレゼントを捜しに出かけ、ラクスはキラを連れて近くの公園へ出かけた。
キラとの別行動はアスランにとって不本意極まりないが全てキラの誕生日プレゼントのためだと割り切った。
エターナル内で既に連絡を取っていたアスランはそのまま連絡を撮った人物と待ち合わせている場所に向かい、
そのポイントに既に到着していた人物と接触を果たした。
「・・・・ご無沙汰しております、スイさん」
「通信でのやり取りはあるが、直接会うのは・・・何年ぶりだろうな」
「4、5年は経っていますよ。 ・・・今回、ご連絡した件・・いかがでしょうか」
アスランと待ち合わせをしていた人物・・・スイは琥珀の瞳と黒い髪を持つ青年であった。
都市はアスランよりも少しだけ年上のような雰囲気をだしている。
彼との交流は母であるレノアの友人であることから
その息子であるアスランやアスランの唯一の人であるキラも彼との面識はある。
「もちろん、受けるさ。 キラは、僕にとっても大切な友人だからな。 だが、僕の仕事はあくまでも加工だ。
デザイン関係は・・・君の仕事・・だよ?」
「えぇ。 ・・・以前、キラが欲しがっていたデザインをちょうどデータとして保持していたので・・・一緒に持ってきました」
アスランはスイの目の前にプリントされたデータを出し、以前キラの行っていたデザインを見せた。
「・・・ほう。 コレはいいデザインだね。 よし、このデザインそのまま作ってみせよう。 指輪・・・だったね?」
「はい。 エメラルドとアメジストをこの窪みに入れてもらえませんか?」
「構わないよ」
デザインを手渡されたスイはアスランにニッコリと微笑むと早速とばかりに彼が作業する工房へ戻っていった・・・・・。
それから数日後、アスランの個人PCにスイからの連絡がった。
アスランはその日のうちにスイの工房へ行くと、頼んでいたものを受け取り、すぐさまキラのいるホテルへ戻った。
パーティが開催される2日前、
ラクスはホテルの厨房とパテシェを数人借りるとキラの好みに合わせてのケーキの製作が開始された。
キラ専用のケーキとは別に甘さを控えめにしたケーキもパテシェが作り、
甘いものが苦手な人でも食べられるように製作された。
ディアッカとイザークは以前キラが天体を見るのが好きだと聞いていたのを思い出し、
それぞれの分野を生かして小型のプラネタリウムを完成させた。
― 5月18日 ― 当日
イザーク・ラクス・ディアッカの3人はこの日も早く起きて会場の準備に取り掛かっていた。
この場にアスランがいないのはキラと同室のためである。キラにとって最近の出来事は衝撃的なことが多かった。
2年前の大戦において精神的情緒不安定の時期があり、アスランがザフトに複隊した時にその均等が崩壊した。
そのため、目覚めたばかりの頃は数分だけでもアスランが傍にいないと体調を崩しやすかったのだ。
そのことにより、均等が少しだけ改善された今でもキラに何も言わずに移動することは極力避けていた。
このことによって、アスランはキラの傍を離れずに会場の準備はホテルのスタッフたちに任せることとなった。
「・・・・準備のほうは、コレくらいでいいでしょう。 皆様、ありがとうございました」
「いえいえ、イザーク様のご友人のパーティのためですから。
この後、料理のセッティングをしてもよろしいでしょうか?」
「お願いいたしますわ。 時間的には・・・今から3時間後にアスランがキラを連れてこちらへ参りますから」
ラクスはスタッフにニッコリと微笑を見せるとステージ側に置かれているマイクスタンドの調整に入った。
それから3時間が過ぎ、会場内にはホテルのコックが作り上げた料理や
2日前にラクスやパテシェが作ったケーキが置かれていた。
アスランは自分たちの泊まっている部屋からキラを連れ出すと
キラ限定に見せる甘い微笑を浮かべながら目的の場所へ連れて行った。
「? アスラン、ここに何があるの?」
「それは、自分の目で確かめるといいよ? ・・・さぁ、開けてごらん?」
キラは扉のノブに手をかけながらも中に何があるのかアスランに尋ねた。
しかし、アスランは微笑むことしかせずにそのままの状態でキラに扉を開けさせた。
『Happy Birthday!!』
「えっ!?」
「誕生日、おめでとう。 キラ。 ・・・まだ戦火は拡大しているけど・・だからこそ、君におめでとうって言いたかったんだ」
室内にいた殆どの者たちから一斉におめでとうと言われ、
隣にいたアスランからニッコリと微笑を浮かべながらキラに心からの祝いの言葉を伝えた。
「お誕生日、おめでとうございます。 こちらは、私が作りましたケーキですわ。
もちろん、味のほうはこちらに勤務されているパテシェの方に見てもらいましたからv」
ラクスが示した先にはキラの好きなデコレーションケーキが置かれていた。
上には苺がふんだんに使用されており、中央にはちゃんとキラの名前が明記されていた。
「誕生日、おめでとう。 姫、コレは俺とイザークの合同作だ。 イザークがこの場所を提供したんだぞ」
ディアッカは珍しく正装した服装でキラたちの前に現れ、手にはなにやら小さな箱がもたれていた。
「ありがとう、ディアッカ。 ・・・これは?」
「姫、前に天体が好きだといっていただろう? 今は長時間外にいるとアスランが五月蝿いと思ってさ。
だから、部屋の中でも天体が見れるように小さなプロネタリウムが見れる装置、作ってみた。
もちろん、ワンパターンだと面白くないからさ。 過去のパターンも取り入れているからな」
ディアッカは彼特有の笑みを見せると箱の中から小さな水晶を取り出した。
「この水晶が?」
「そうだ。 中に入っているプログラムはデータだから、いつでも書き換えが可能。
まぁ、この装置自体は昔からあったみたいだからな。 俺たちはそれを使いやすくしただけだ。
この大きさだと、持ち運びも楽だろう」
「ありがとう。 ディアッカ、イザーク」
キラはディアッカから受け取った水晶を大切に箱に収めると2人に向かって笑みを見せた。
目覚めたばかりのキラはアスランが前にも増して過保護になったためか長時間外にはおれず、
艦内での仕事が何気に多いイザークたちとあまり話ができなかった。
だが、今回のパーティにてキラの笑みを見ることができたイザークたちは安心した様子を見せた。
それからしばらくの間、会場内にある料理などをバランスよく食べ、
メインであるケーキも食べたキラはアスランに連れられるまま再び部屋に戻ってきた。
「ありがとう、アスラン。 今日、とっても楽しかった」
「気に入ってもらえて、良かったよ。 ・・・キラ。 俺からのプレゼントもあるんだ」
「アスランからの? でも、さっきのパーティの計画を立てたのはアスランだってラクスが・・・・」
「もちろん、計画は俺が立てたよ。 けど、それとは別のものを用意しているんだ」
アスランは言うのが早いのか行動が早いのか・・・キラをテラスに連れて行くと小さな箱をキラの掌に乗せた。
アスランの無言にキラはドキドキさせながら箱を開けた。
「っ!! これ!!」
キラは箱の中に納まっていたものに驚きの声を上げた。
中にはキラが昔欲しがっていたデザインの指輪が納まっていたのだ。
「コレと対のものは・・俺が今身につけているんだ」
アスランは微笑みながら上までしっかりと止められているボタンを首下が見えるまで外し、
シルバーのチェーンをキラに見せた。
首元にはチェーンに通された対の指輪が収まっていた。
「ありがとう、アスラン。 大切にするね?」
「ちゃんとしたのは、本番に渡すよ。 コレは、普段身に付けられる様にと思ってチェーンも贈ったんだ。
・・・この戦争が終わったら・・・別の意味のやつを君に渡すね」
アスランは鎖のホックを取って箱に収まっている指輪を通し、キラの首元に指輪の付いた鎖を通した。
アスランによって付けられたキラは今日の中で一番輝く笑みをアスランに見せた。
その笑みはまだ彼らが戦争という名を身近に感じなかったあの頃によく見せ、
戦争に巻き込まれてからは見せなくなったアスランの大好きな笑みだった・・・・・・・。
まだ、宇宙では戦争という魔物が棲んではいるが、そんな時だからこそ最も大切な者の生誕を祝う。
無駄な生命など・・・・ないのだと、再確認するために・・・・・・・。
END.
2006/05/15
今回は・・・前回の教訓を活かし、
誕生日月である5月からこのお話の製作に取り掛かりましたv
予定通り、18日までに完了してホッとしております。
元々、前後の2話構成でしたが・・・意外と内容的に薄かったので、
詰め込んで1話で終わらせちゃいましたv
一応、設定的には小説展示室にあります【制裁】が設定となります。
キラが目覚めたばかりの頃(本編・7話辺り)、
艦の補給のために近くのコロニーに立ち寄ったという設定です。
このお話は、本日から一ヶ月間の間フリー期間となります。
お持ち帰りの際、サイト名である【水晶】と著者名である【遠野 真澄】は必ずご記名の上、
BBSにて書き込みをしていただくと、大変光栄です(任意)
キラ、お誕生日おめでとう!
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