「こんな状況で寝られちゃうっていうのも、すごいよな」

「疲れているのよ。 キラ、本当に大変だったんだから」

「大変だった・・・・か。 ま、確かにそうなんだろうけどさ」

「・・・何が言いたいんだ、カズイ」

「別に? ・・・ただ、キラにとってはあんなことも『大変だった』で済んじゃうもんだなって思ってさ。
キラ、OS書き換えたって言っていたじゃん。 アレの。 それって、いつさ」

「いつって・・・」

「キラだって、あんなもんのことを知っていたとは思えない。 じゃぁ、あいついつOSを書き換えたんだよ。
・・・キラがコーディネイターだっていうことは、ここにいる皆が知っていることだけどさ。
遺伝子操作されて生まれてきたやつら・・・コーディネイターってんのは、そんなことも『大変だった』で出来ちゃうんだぜ」

「・・・・・・」

「ザフトっていうのは、皆そうなんだ。 そんなんと戦って、勝てんのかよ・・・地球軍は」



僕が寝入っていることを確認してから、話している何も知らない子どもたち。
地球軍である彼らはともかく、中立に住むのだからそれなりに理解力のある子たちだと思っていたけれど・・・
それは、僕の思い過ごしだったみたいだね。
・・・こうやって、戦渦に巻き込まれれば彼らナチュラルは、僕らコーディネイターを迫害するのか・・・・・・。
やはり、【オーブ】は名ばかりの中立国家だった・・・・ってことだね。
ここの空気は、僕・・・コーディネイターにとって毒でしかない。











Iris
 ―保護という名の脅迫  ―











その頃、ヴェサリウスでは着々と発進準備が整っていた。




《ミゲル機、発進準備完了。 これより、カタパルトへ移動。 発進し次第、続いて『イージス』をカタパルトへ》


「ミゲル=アイマン、『ジン』、行くぞ!」

「アスラン=ザラ、 『イージス』、出る!」



ミゲルの搭乗したザフトの量産型である『ジン』と、
先ほど【ヘリオポリス】から奪取された内の1機である『イージス』が、ヴェサリウスのカタパルトから出撃した・・・・・・。











「コロニー全域に電波干渉。 Nジャマー、数字増大!」



ブリッジには警報が鳴り響き、その警報によりザフトが攻撃を仕掛けたことを彼らに知らせた。



「なんだと!?」

「チッ。 やっぱ、こっちが出て行くまで待つ気はないか」

「また、コロニー内で戦闘・・ですか」

「まいったな・・・。 こっちは撃てないが、あっちは撃ち放題だ」



チャンドラの言葉に、驚きを隠せないナタルに対し、フラガはこのことも予測していたのか、
舌打ちをするとモニターに映るコロニーを見つめた。
コロニー内が戦闘になることに対し、そんなに罪悪感を感じていないのか、
淡々とした口調で告げるナタルだが、そんな彼女の言葉に誰も意を唱えることなくそれぞれに宛がわれた任にそれぞれが就いた。






ブリッジから出てマリューが向かったのは、自分が拘束した学生たちのいる居住区であった。
一室に固まっていた学生たちの中から目的の人物・・・キラを見つけ、廊下に呼び出した。
ドアは閉められることなく、キラがなぜ呼び出されたのか気になったほかの友人たちはドアの部分に集まり、
マリューたちの会話を静かに聞いていた。



「お断りします! 僕たちをこれ以上、戦争に巻き込まないでください!!」

「・・・キラ君・・・」



キラはキッとマリューを睨み付けると、きっぱりと拒絶の言葉を告げた。
そんなキラの姿に友人たちは痛ましげに、マリューは困惑の表情を浮かべた。



「・・・貴女は、自分の言葉が矛盾していると感じないのですか?
貴女は、分かったようなフリをして『戦禍に巻き込まれるのが嫌で、ここに移ってきたコーディネイター』と言い、『【プラント】と地球・・・。
コーディネイターとナチュラル。 双方が戦争をしている』とも言った。
そんな貴女が『中立国のコーディネイター』に、戦闘をしろとでも言うのですか?
しかも、同胞であるコーディネイター・・・ザフトを撃てと?」



そんな彼らの表情を視界に収めながらも、キラは自分の内側に押さえつけていた激情をこれ以上、抑えることが出来ずにいた。
これまでの内容もだが、自分がコーディネイターであることを知りながらも自分たちの為に同胞を撃てと、
直接的ではないにしろ、彼女はキラに強制したのだ。






―――ピーッ! ピッ






そんな時、ブリッジからの通信を知らせるアラートが廊下に響いた。
備え付けのモニターはいたるところに備えられているが、マリューはあえて彼らの位置に近いモニターに接続した。




《ラミアス大尉、至急ブリッジへ!》


「どうしたの?」



クルーの緊迫した声に、マリューの声もまた硬くなった。




《MSが来るぞ! 早く上がって、指揮を取れ! 君が、艦長だ》


「私が!?」



クルーに続いて通信に顔を出したのは、本来ならば戦闘要員であるフラガであった。
フラガの言葉に、マリューだけでなく声を聞いていたキラも目を見張り、
ドアの前にいる友人たちには分からない程度ではあったが、驚きを隠せない表情を見せた。




《先任大尉は俺だろうが・・・・俺は、この艦のことは分からん!》


「・・・分かりました。 では、アークエンジェル、発進準備。 総員、第一戦闘配備。 大尉のMAは?」


《だめだ、出られん!》


「では、フラガ大尉にはCICをお願いします」



フラガの言葉は尤もである。現在、この艦には2人の大尉しかいない。
また、大尉以上のクラスは先ほどの爆発で死亡が確認されており、本来艦長となる人物もまた、死亡している。
そのため、成り行きではあるが艦内を熟知しており、また現段階においての最高クラスである大尉であるのは、マリューしかいないだろう。



深呼吸をして目を閉じたマリューは、ゆっくりと開かれた瞳には決意が宿っており、堂々と発進準備と戦闘配備を発令した。
マリューの言葉に愛機がまだ修復されていないと告げたフラガは、マリューの言葉に臨時ではあるがCIC席にその身を置いた。







―――ブンッ・・・









「聞いての通りよ。 また、戦闘になるわ。 シェルターはレベル9で、貴方たちを降ろしてあげることもできない。
ともかく、この危機を乗り越えて【ヘリオポリス】から脱出することができれば・・・・」



通信を切ったマリューは不安気な表情を浮かべる子どもたちに振り向き、その不安をさらに煽った。
しかし、本人はそのことに気付いてはおらず、子どもたちは友人であるキラに視線を向けた。



「・・・あなた方・・・貴女は、卑怯だ。 そして、MSはアレしかなくて、今扱えるのは僕だけだって言うんでしょう!?」

「キラ・・・」



マリューの言葉にキラはギュッと握り拳を作り、掌の肉が揃えられている爪によって傷つけられる。
10の視線を浴びたキラは、フルフルと肩を震わせながら怒りを抑え、キッとマリューを睨んだ。



そんなキラに対し、トールは心配そうにキラの名を小さく呟いた・・・・・・。






マリューがブリッジに戻り、艦長席に就く。それと同時に、操縦席に座ったノイマンが艦を浮上させた。



「【ヘリオポリス】からの脱出を最優先とする。 戦闘ではコロニーを傷つけないように留意せよ」

「・・・んな無茶な・・・」



コロニー内部で戦闘が起きる限り、コロニーを傷つけないなど無理な話である。
ましてMS戦であれば可能であろうが、戦艦では不可能に近い。
そのことに気付かないマリューに対し、CICの索敵担当となったトノムラが小さく愚痴った。






一方、出撃準備に追われていた格納庫では、MSにキラが搭乗したのを確認するとすぐさまカタパルトへ移動された。
そこで、収容した3台のコンテナーのうちの一つを開かせた。



「3番コンテを開け! 『ソードストライカー』を『ストライク』に装備だ!!」



整備士のチーフを勤めるマードックの怒鳴り声が格納庫に響き、
整備士たちは作業に追われながらも自分たちに課せられた仕事をこなしてゆく。



「『ソードストライカー』・・・剣か。 他の4機と何かが違うとは思っていたけど・・・・。 この機体、武装変更が可能なのね」



装備が終わった後、OSを起動しながら装備された武器を確認していたキラは、ポツリと呟きを漏らした。
そんなキラの言葉は通信を切断しているために聞こえることなく、コックピット内に響くのみであった・・・・・・。



「接近する熱源1。 熱合パターン、『ジン』です」

「なんてこったい。 拠点攻撃用の重爆撃装備だぞ。 あんなもんをここで使う気か!?」



トノムラの報告に、背後にいたフラガが照合された『ジン』に驚きの声を上げた。
『ジン』はザフト軍初にして世界初の汎用量産型MSである。
しかし当時の開発技術では、ビーム兵装の小型化や運用に耐えうるジェネレーター出力の問題がクリア出来なかったため、
本機の兵装は大半が実体の物理兵器である。
また、数少ないビーム兵器も威力より扱い難さの方が強く、拠点攻撃等の特殊な状況を除けば殆ど使用されない。
避難が完了しているとはいえ、コロニーでそのような兵器を投入してくることに驚きを隠せないでいた。






――――― ドドーンッ!!






ブリッジの混乱をよそに、外部からコロニーの外壁に穴が開き、そこから数機の機体が内部に侵入してきた。



「タンネンバーム地区から、さらに別同部隊進入!」

「『ストライク』、発進させろ」

「あッ! 1機はX-303・・・『イージス』です!」



トノムラの報告に、隣の席に座るナタルは冷静に判断し、『ストライク』の発進を告げた。
それと同時に、『ジン』に混じって進入してきた別のMS・・・自軍が開発し、奪取されたXナンバーだということに驚愕の表情を浮かべた・・・。











2009/12/31













今年、最後の更新です。
冒頭部分、前回の学生組の会話より。
まぁ、突然戦争に巻き込まれればそれまで普通だったけれど、
畏怖に感じたり同胞の軍を擁護したい気持ちも分からないでもないんですが、
「・・・そこで言うか;」
と思ったので;
中々ブログで連載を開始した場面に追いつかない・・・・。
来年こそは、追いつきたいと思いますorz
ではでは皆様。
よいお年を!!