「し、仕方なかったんだよ! あの時、俺たちには志願するしか生き残る方法はなかったんだ!」



仕方なかった・・・だと?
お前たちが志願したのは、強制ではなく、自身の意志だろう。
それを、状況が不利になると他者の所為にする。


確かに、彼らもまた被害者なのかもしれない。
だが、それは『足つき』の連中がすぐに投降しなかったからに過ぎない。
追ってくるのが俺たち・・・クルーゼ隊だと知っているのなら尚更。
しかし、お前たちは投降せず戦う道を選んだ。



そして・・・何の罪もない、俺にとっての至宝の存在であるあの子を危険に巻き込んだ者たち・・・・。
そんな者たちの言い分など、聞く価値もない。












23. 涙











ヴェサリウスに到着した2隻のシャトルは、180度違う対応で迎え入れられた。




アスランたちの乗るシャトルは、本国の歌姫であるラクスが共に乗船していることを事前に伝えていたため、
シャトルから降り立った彼女とアスランに抱かれたままの状態にある幼子に対し、暖かい雰囲気の中迎え入れられた。
彼らと共に戻ってきた『デュエル』は、整備士に誘導されるままヴェサリウスに乗艦する際に固定する場所へと導かれ、
OSにロックを掛けると同時に白から灰色へ変化させるとコックピットを開放し、一目散に婚約者の下へと向かった。





そんな彼らが格納庫からブリッジに向かい、その姿が消えたと同時に、
彼らがいる時は一度も開かれることのなかったもう1隻のシャトルが開かれた。
先ほどまでのほのぼのとした暖かい空気は一瞬にして消え去り、
背後から銃を突きつけられながらシャトルから降ろされた地球軍兵たちは憎悪と険悪が渦巻く視線に曝された。






そんな対応であるが、当然といえば当然であろう。
先の戦闘・・・ラクスの人質宣言を行った者たちである。
格納庫とはいえ、あの宣言は全周波で流れていた。
そのため、ブリッジ経由で偶然接続したままの状態にあった格納庫だけでなく、全艦に響き渡っていたのだ。
そして、アスランに抱きついたままの状態にあった幼子のこともまだ記憶に新しく、
彼女が受けた心の傷のことも、想像に過ぎないが大体のことは予想がついている。
そして、そのことを仕出かした者が何者であるかもまた、火を見るよりも明らかである。





唯でさえ、ナチュラルに対していい感情を持たないものも多い。
また、そこまで酷くなくとも軍人である地球軍と自分たちコーディネイターを標的とするブルーコスモスに対しては、嫌悪の対象である。
今回の一件は、そのことに拍車を掛けたに過ぎなかった。










一方、ブリッジへ向かったアスランたちは既に入室しており、
クルーゼの許可を受けていると留守番役となっていたアデスに伝え、オペレーターに本国の国防委員長室に繋げる様、命じた。
そんな中、3隻目のシャトルで戻ってきたクルーゼがブリッジに戻ってきた。
クルーゼが戻ると同時にタイミングよく、国防委員長室に接続した回線が開き、
メインモニター一杯に一見、無表情に見える顔が広がった。



「ぱとパパ!!」



モニターに映し出された顔に、アスランの首元に顔を埋めていたキラはガバッと顔を上げ、満面の笑みで嬉しそうな声を上げた。




《キラちゃん!! 無事だったかい!? ラクス嬢も無事で何よりだ。 シーゲルもこれで、安心できるだろう。
アスラン、イザーク・・・そして、クルーゼ隊の諸君。 良くぞ無事に、彼女たちを救出したな。
今回の任務の功績に、本国に戻り次第、2ヶ月の休暇を与える》


「ありがとうございます、ザラ委員長。 彼女たちはこのまま、我々が本国へお連れいたします。
本国よりこちらに迎えをよこすより、我らが護衛として共に帰還した方が、安全かと。
また、今回の任務で掌握した『足つき』の捕虜たちもおりますので」


《分かっておる。 お前たちの任務完遂は、彼女たちを無事に本国へ連れて帰り、また捕虜としたやつらをこちらに引き渡すまでだ》




嬉しそうに自分の名を呼ぶキラに、いつもの威厳のある表情をどこに捨てたのかと問いたくなるほど、
いつもであれば考えられないほど緩みきった表情で息子に抱かれている義娘の無事な姿に安心した。
そして、その横にいる盟友の娘とその婚約者が視界に入り、
義娘と共に地球軍の人質となった件を報告として聞いていたため、
ラクスの無事を喜ぶと同時に彼女たちを無傷で救出した彼らを功績を褒めた。
長期に亘る任務に加え、今回の救出作戦の完遂の見返りに言い渡された数ヶ月ぶりの休暇に、
パトリックの言葉を聞いていたクルーたちは喜び、ブリッジの空気は一気に緊張感の薄れたほのぼのとしたものが流れた。
そんな彼らの空気に水を指したのは、さすがというのか表情が伺えないクルーゼであった。
しかし、彼の言い分は尤もであるため、彼の言葉に反論する者はいなかった。



「・・・父上、今回の件でよくお分かりになられたでしょう? 私も今回は自分の詰めが甘かったと、そう認識しています。
今回は、保険として彼女に私が製作した『ハロ』とキラに以前渡している『ハロ』と『トリィ』が傍にいたからこそ、
こうして無事に救出ができました。
考えたくもありませんが、一度あることは度々ありうることです。
私は、二度とこのような怖い目に彼女を合わせたくはありません。
唯でさえ、あの時以来ナチュラル・・・いや、地球軍の軍服を着た人間を恐怖の対象としているのですから」



モニターに向かって微笑んでいたキラが再び、甘えるようにアスランの頬に擦り寄ってきた愛し子を軽く抱きしめ、
目の前の会話を黙って聞いていたアスランは、上司たちの会話が途切れたと同時に、胸に秘めていた決意を切り出した。
元より、彼は自身の腕の中にいる愛し子を傍から離す気など、さらさらなかった。
彼女が正式に自身の義妹となり、ザラ家に引き取られてから初めての任務が今回の長期に亘るものであったため、
休暇中に訪れたクライン家にて懐いたラクスに預けていただけであった。
クルーゼ隊の紅服を身に纏う者たちは、【プラント】最高評議会議員の子息たちである。
そんな彼らと議長である父を持つラクスは、謂わば幼馴染の関係である。
アスランのみ、短期間ではあるが月に留学していた時期があるが、
そのほかのメンバーは親の関係もあり、幼い頃は共に過ごした仲であった。






――――― イザークは、幼い頃からアスランに対して一方的なライバル心を持っており、
幾度となく勝負を仕掛けるものの9割方、アスランの圧勝に終わっている。







友人として、また信用できる者としてラクスに会ったのだ。
ラクスが纏う優しい雰囲気に懐いたキラの姿は、アスランの想像以上であった。
しかし、そんなラクスだからこそ長期間の任務の際には預けようと決意した矢先に、今回の事件が起こった。
それならばいっそ、自身の目の届く範囲に・・・自身と共に行動していた方が彼の精神的安定にもなるし、彼女の安全も確保される。
そのように判断したアスランは、上司よりも絶対の権限のある父に自身の決意を告げたのだった。




《お前の言いたい事は、よく分かった。 私自身、このような事は二度と起こって欲しくはない。
本当ならばキラちゃんには本国にいてもらいたいが、私もレノアも忙しいのが現実だ。
忙しさにかまけて、また今回のような事に巻き込まれないとも限らない。
・・・クルーゼ。 ヴェサリウスに、キラちゃんの乗艦を命じる。
彼女には、私が以前特注で作らせた紅服を纏わせること。
彼女は民間人であるが、彼女を害する者は何者であろうと、この私が許さない証としろ》




アスランの決意を聞いたパトリックは渋い表情を浮かべたが、息子の言い分も分かる。
義娘には安全な場所にいてもらいたいと思うが、現状はそう甘くない。
今回のGシリーズ奪取によって戦渦は大きく変わろうとしてはいるものの、それでも本国だから安全というわけではないのだ。



クルーゼ隊の2名が地球軍にスパイ活動をしていたように、ザフトにもスパイが紛れ込んでいる。
その者がザラ家の一員となったキラの命を狙わないとも限らない。


使用人しかいないザラ家に幼子1人を置いておくより、彼女が誰よりも信頼している息子と共に行動している方が、
よほど安全であることをパトリックは理解していた。




その為、苦渋の決断ではあるがキラの安全のためだということで、
キラがヴェサリウスに乗艦することを最高責任者であるクルーゼに命じたのだった。



「了解、いたしました。 我が隊は、ザフトの中でも生存率と成功率の高い隊です。
過去の実績に対し、驕るつもりはありませんが、これまで以上に気を引き締めて今後の任務に当たりたいと思います」



軍人ではなく民間人・・・それも、幼子が乗艦することに対し、クルーゼは硬い声で答えたが、彼らの言い分は尤もであった。
コーディネイターしか住んでいないはずの【プラント】でテロが起こったりなどしているため、
本国だから安全だとは言い切れないのが現状である。
そんな危険なところに幼子を置いてくるなど、幼子限定に甘い部下が許すはずもない。
また、そんな幼子に甘いのは部下だけではなく、自身の上司であり部下の父である軍の最高司令官が許すはずもない。
そのため、クルーゼはこの命令に頷くしか道はなかった・・・・・・。






もう二度と、こんな怖い目には合わせないよ?
君は、俺にとって唯一無二の存在。
何よりも守りたい、至宝の存在なんだ。
君を傷つける者は、いかなるモノでも許さない。
本来ならば、『足つき』の者たちも許さないけれど、条約で捕虜に危害を加えることは出来ないからね。
そんなことよりも、まずは君の心に残ってしまったであろう恐怖心を癒してあげることが、何よりも大切なこと。
怖かったことを隠さなくてもいい。
俺の腕の中であれば、悲しみの涙を我慢することなんてないのだから・・・・・・。








――――― 己の腕の中で安息を得た愛おしい“天使”。
悲しみを癒し、自身を優しく包み込む紅の騎士に、“天使”は自身の安全を体感する。
この腕の中にいれば、身が凍るほどの恐怖を感じることはないのだと・・・・・・。









END.








2009/05/18
Web拍手より再録。















「○○の人質」からリンクしての「涙」。
漸く、終わりました;
このお題を見た瞬間、この二つの繋がりを決めておりましたv
キラにとって、アスランの腕の中は安心でき、
尚且つ安全な場所だと認識。
そのため、怖いことがあった後に抱き締められれば泣いてしまうのではないかなと。
AA・・と言うより、地球軍はたぶん、これだけの出演でしょう。
今後のお話には、フラガさんやノイマンさんが登場するかもしれませんv