「・・・・キラ。 君は、俺が守るから」



まだ幼いキラ。だが、そんなキラに運命は残酷だ。
大きな傷跡をキラの心に残し、トラウマとしてキラに植えつけた。



君は、俺にとって《光》。



父上に命令されるまま軍に入った。


・・・守りたい者は、母上とキラだけ。






―――― 俺の持つ剣は、キラのために。












sparkle
  ― 始まりの日(前編) ―











C.E.70年2月14日。
宇宙に住むコーディネイターにとってその日は忌々しい記憶として残っている。
たった一つの核によって、多くの同胞を失った。
悲しみと二度とこのような悲劇が起こらないよう、
多くの若者がプラントを・・・そして、自分たちの愛する者たちを守るためにザフトに志願した。
悲劇から一年の月日が流れ、
連合とザフトの間で勃発する戦争は、宇宙・地上を巻き込むほど拡大化していった・・・・・。



そんな中、ザフトの士官学校であるアカデミーにて歴代トップの記録を塗り替えた5人が、
後にザフトの花形と呼ばれることとなる隊・・・クルーゼ隊へと採用された。





漆黒の闇である宇宙空間が全体的に見渡される艦尾。
そこの展望室に一人の少年が佇んでいた。
ザフトの中でエリートの証である“紅”を身に纏い、
その場の雰囲気を壊すことなく自然に目の前に広がる宇宙を見渡した。



「・・・・この宇宙のどこかに、君はいるんだね?
・・・君を守るために、俺は戦う。 平和な世界になったら絶対探し出すから・・・・」



紺瑠璃色の髪とエメラルドの瞳を宿す少年は、
この場にいない脳内に浮かぶ幼子に微笑みかけるように優しい声音を紡ぎながら囁いた。








時は少し遡り、L5と呼ばれるプラントの近くに存在するL4のコロニー・メンデル。
このコロニーは人々から『禁断の聖域』や『遺伝子研究のメッカ』と呼ばれていた。
プラントにて暮らす殆どのコーディネイターたちは、このコロニーで遺伝子操作された者たちが多い。
二世代目の殆どはプラントにて操作された者が多いとされているが、
一世代目などはこの研究所にて操作されている。
そんなメンデルで本来この場にいない者たち・・・・
遺伝子操作されたコーディネイターを化け物と呼んでいる者たちであり、
ブルーコスモスと呼ばれる勢力の襲撃にあったのだ。
この研究所の最高責任者であるユーレン=ヒビキは、
自分の妻と娘を守るためその身を犠牲にして彼女たちを逃がした。
研究所の主電源は切られており、
暗闇の中幼い子どもを抱いた母親らしき女性は唯一の脱出ポイントである港へと急いだ。



「まーま?」

「・・・キラ、絶対貴女だけでも守るからね?」



キョトンとした様子で自分を抱きしめる女性を見上げ、
幼い子供を抱きしめる女性は背中に致命的な傷を負いながらも子どもに心配かけまいと優しく微笑みかけた。
暗闇で女性・・・・ヴィア=ヒビキは気付いてないないが自身の血が幼い子どもの洋服に付着し、
純白の服を一部真紅に染め上げていた。




ヴィアは幼い子どもを民間ポットに入れ、
幼い子どもの同胞・・・ヴィアたちの友人がいるプラントに照準を設定した。
そんなヴィアに対し、背後から近づいている連合の軍人に気づかずに・・・・・。



「宇宙の化け物が! 死ねッ!! 青きなる清浄な世界のために!」



背後から近づく軍人は手に持っていた銃の照準を、ポットに乗せられた幼い子どもに向けた。


幼い子どもは、
コーディネートされた際にされていないナチュラルよりも様々な面で優れている脳や考える能力が優れていた。
そのため、幼い子どもは己が狙われていることをおぼろげながらも理解した。






―――― バンッ!







一発の銃声がコロニーに響き、幼い子どもを狙った銃口は守るように身を投げ出したヴィアの心臓上を貫いた。
幼い子どもは自分の母親の血を頭から浴び、
一部だけ真紅に染められた純白の洋服は、その白さをすべて真紅に染め上げた。



「ッ! ・・・・キラ・・・貴女だけ・・・でも、逃げて・・・・・?
・・・一緒に・・・いられ・・なくて、・・・・・・ごめ・・・んね・・・・・?」



ヴィアは最期の力を振り絞って微笑みながらポットを閉じ、設定していた発射スイッチを押した。
縋るような表情を見せた幼い子どもは、
自身を身を挺してまで守った母親の儚い笑みに幼いながらも優秀すぎる頭で理解し、
大切に隠されていたエメラルドグリーンのペットロボを小さな手に抱きながら、
美しいアメジストに大粒の涙を浮かべていたが、先ほどまでの緊張からか、
幼い身体は倒れるように深い眠りについた・・・・・・・。








一方その頃、
プラント付近の警戒を任務として与えられていた2隻の戦艦を持つクルーゼ隊の隊長であり
艦の最高責任者であるラゥ=ル=クルーゼは自分の愛機であるゲイツで、
メンデルがブルーコスモスの襲撃にあったことを本国から知らされ、単身でコロニーに向かった。

遠くからでもコロニーから襲撃の跡のように爆発しており、
研究者を含めて生存者は絶望的だとクルーゼはコックピット内でコロニーを見つめた。




本国に報告するために自艦へ帰還しようと迂回した時、
緊急時に作動する自動送信が近くで作動していることに気づいたクルーゼは、
送信地点を割り出し、小さな民間ポットを発見した。



発見地点から割り出してもその民間ポットは本国から連絡のあったメンデルからの生存者であると判断したクルーゼは、
衝撃を与えないようにゲイツの両腕でポットを支え、最大出力で自艦であるヴェザリウスへと帰還して行った・・・・・。






自分たちの上司であるクルーゼが民間ポットを回収してきたとの報告を受け、艦全体が騒然としていた。
クルーゼ隊の左艦であるガモフからも真紅の軍服を着た3人の少年兵が
愛機である機体と共にヴェザリウスに着艦した。
ヴェザリウス配属である2人の真紅の軍服を着た少年兵と緑の軍服を着た1人の少年兵が彼らを出迎え、
彼らの待機場所であるパイロット室へ向かった。



「隊長が小さな民間ポットを拾ったってさ」

「そのようですね。 発見ポイントからして、問題のメンデルからの生還者と考えて間違いないかと」

「メンデル? ・・そこって、アスランの出身地でもあるんじゃないか?」



黄金の髪とヴァイオレットサファイアの瞳を宿す少年がクルーたちに聞いた報告を呟いた。
その言葉を聞いた若草色の髪とトバーズ瞳を宿す少年が頷き、
黄金の髪を持つ少年・・・ディアッカ=エルスマンの言葉を裏付ける最新情報を提示した。
そんな最年少の少年の言葉に橙色の髪とアオライトの瞳を宿す少年が、
自身の隣にいる今瑠璃色の髪を持つ少年・・・アスラン=ザラに視線を向けた。



「・・・・あぁ。 母の親友がそこの研究所で働いていた。
その関係で、俺はそこで生まれたんだ。 尤も、あそこの出身者は多いと思うが・・・・」

「・・・そうだな。
最近はプラントで誕生する者もいるが、俺たちの世代まではあの場所で生まれたことは珍しいものではない」



アスランの言葉を肯定するかのように応えたのは、白銀の髪とサファイアの瞳を宿す少年であった。




《隊長機、ゲイツの着艦を確認。 格納庫に空気とGが満ちます。
ポット内に微力ながらも生存1を確認。 医療班は待機してください》




彼らの会話が途切れた時、
まるでタイミングを計ったかのように格納庫からの報告アナウンスがパイロット室に流れた。
そのアナウンスを聞いた彼らは待機していたパイロット室から再び格納庫へ戻っていった・・・・。







格納庫では、隊長の持ち帰ってきた民間ポットの周りに整備士たちの姿で上の部分しか見えておらず、
未だに中にいる生存者が出てこない状況におかれていた。



「何をしているんです?」

「ポットを開放しようとしたんですよ。
そうしたら、頑丈にロックされているらしく・・・解析に遅れているんです」

「・・・・何かの衝撃でちゃんとプログラムが起動していない。
・・・・こっちの部分に強制レバーがある。 下がっていろ」



整備士と若草色の髪を持つ少年・・・ニコル=アマルフィの会話を聞いていたアスランは
目の前にあるポットのプログラムを見せてもらい、エラーの部分がどこかを調べたが、見つからなかった。
そのため、緊急時に手動で開閉できる強制レバーを探した。



「危険です!」

「・・・中に生存者を確認したんだろ? そのままにして置く方が危険だと思うけど?」



整備士の制止に対して、橙色の髪を持つ少年がため息をついた。
そんな彼らの会話を一切無視したアスランは、強制レバーを引っ張り、ポットを開けた。




『トリィ!』


「・・・・え? トリィ? ・・・・なぜ、ここにお前がいるんだ。
お前は、あの子と一緒にいるんだろう? ・・・・まさか!」



開放されたポットから出てきたのは、メタルグリーンに統一された“鳥”であった。
その“鳥”は迷うことなくアスランの肩に止まると、『トリィ』と鳴きながら首を傾げた。



「アスランッ! 貴様、何を勝手に行動しているッ!!」



そんな“鳥”の存在に驚いたアスランは、中に誰がいるのか分かったのか慌てた様子を見せながら、
背後からの静止を一切無視した様子で開放されたポット内に侵入した。



「・・・・ヒック。 ・・・・トリィ・・・・?」

「・・・キラ? そこにいるのは、キラかい?」



暗闇の中でも分かるほど震えている小さな物体に、優しく声をかけた。



「・・・? あしゅ・・?」

「そうだよ、アスランだ。 もう、怖くないからね?」



震える声で自分を認識する捜し求めていた幼い声に無意識に微笑んでいたアスランは、
小さな衝撃に驚きながらもその衝撃の正体に気付くと、怖がらせないように注意しながら優しく抱き締めた。
強くしがみついてくる子どもに対し、ポット内が血の臭いで充満しているのに気付いたアスランは、
抱き締めている子どもにどこか傷ついているのかを確かめるべく、
明るい場所に移動しようと格納庫に向かった。
そんなアスランの行動を止めたのは、アスランに抱かれたままの格好だった子どもであった。



「!? や、やぁ!!」

「!! ・・・大丈夫だ。 キラは、俺が絶対に守るから。
・・・それでも怖かったら、俺にしがみついていていいからね?」



先ほどよりも激しく震えだした幼い子どもに対し、
安心させるように抱き締めていた腕を少しだけ緩めると頭を撫でた。
そんなアスランの動作と言葉に漸く安心できたのか、次第に震えが止まって小さくコクンと頷いた。
その様子を気配で感じていたアスランは「いい子だ」と耳元で囁き、額に触れるだけのキスを落とした。

アスランはこれ以上幼い子どもを不安がらせないために、
身に纏っていた真紅の軍服を脱ぐと外の視線を遮るように幼い子どもを包み込んだ。
幼い子どもは抱き締めているアスランの体温と上から被せられた軍服から微かに香る彼の独特な匂いに安心したのか、
肩の力を抜いてアスランに体重を預けた。



アスランの軍服に包まれた幼い子どもを守るように抱き締め、そのまま民間ポットから格納庫に出た。
その場にいた整備士や彼と同じ真紅の軍服を身に纏った者たちは、同僚が連れてきた塊に視線を送った。



「・・・アスラン、貴様一体何を連れてきた?」

「この中にいた人物だが? ついでに、俺の知り合いだ。 好奇の視線を送るなよ?
不安がっているからな」



アスランは目の前にいた同僚に冷たい視線を浴びせるとそのまま格納庫から去り、自室へと向かった。
暗闇の中で震えていた状況から、
人の多い格納庫で確かめるよりも自室で確かめた方が腕に抱く幼い子どもにもいいと考えたからであった。
器用に片手でパネルを操作し、自室のパスワードを入力したアスランはロックが外れたドアを開いた。
ベッドに幼い子どもを乗せ、安心させるように額にキスを落として、念のために厳重なロックを施した。



「・・・・あしゅ?」

「もう、大丈夫だよ? ここには、俺しかいないからね。 念のため、キラに怪我がないか確かめるから」



アスランは幼い子どもに視線を合わせるとニッコリと安心させるように微笑を浮かべた。
その笑みに安心したのか幼い子どももまたアスランににっこりと微笑んだ。
その笑みに目の前にいる幼い子どもの精神状態が安定していると判断したアスランは、
幼い子どもを包み込んでいた真紅の軍服を慎重に脱がした。


軍服の中から出てきた幼い子どもの姿にアスランは呆然とした。
幼い子どもは、全身に血を浴びたかのように血痕と思われるものが付着していた。
幼い子どもの着ている洋服は、そのことを裏付けるかのようにアスランの軍服のように真紅に染まっていた・・・・・。








2007/06/01
Web拍手より再録。