「天空に輝く星々よ。 貴方方は、一体何をお望みなのですか?
この地に住む愚かな人間たちは、母なるこの星を長き時に渡り、蝕んでまいりました。
そのことで、貴方方がお怒りになられるのは、当然のこと。 ・・・私は、このことをこの星の命運を掛けた試練だと思い、私の責務である監視者≠ニして、この戦いを見守りましょう・・・・・・」



我が一族は、代々この星の監視者≠ニしての定めを担っていました。
その定めは、必ず女性。
神の妻としての役割のある、巫女の名残なのでしょう。

しかし、その一族も先の大戦で多くの縁者を失い、今では私たち姉弟のみ。



予知夢≠見ても、監視者≠ニしての立場が・・・事実を告げることしか、できない。
私たちは、最後まで見守ることしか・・・できません。




――――― 幾多に輝く天空を見上げ、最後の末裔である巫女姫が星々に祈る。








apocalypse
    ― 巫女姫の予兆 ―











地脈や星の動きなどで様々な危機、災害などを読むことの出来る御門一族。
しかし、その一族も半世紀前の世界を巻き込んだ『第三次世界大戦』の末、直系を残して滅びた。


直系は、地脈や星の動き以外にも“予知夢”という不思議な能力があり、
その力によって一族の長とその後継が生き残ったのだ。



「こちらにおいででしたか、姉上」

「・・・幸?」



彼女たちは、御門一族最後の直系であった。
彼女たちの両親は、星の定めに従い命を落とした。
“予知夢”の能力を持つ彼女たちでも、己の天寿を変える事は出来ない。

両親の死後、
御門家長女であった少女が当主の名と代々受け継がれてきた巫女の地位を継承し、
弟である少年が姉の補佐を自ら己の役目と課した。


当初、
家の仕来りに縛られるのは生まれながらにして決まっていた自分だけでいいと考えていた少女であったが、
そんな少女に物心の着く前から姉至上主義者であった少年が許すはずがなく、
姉の負担を少しでも減らすようにと姉の補佐を願い出た。

そんな弟を突き放すことの出来ない少女は、弟の願いを聞き入れた。
広い屋敷に建った2人きりであるが、本人たちは平穏に暮らしていた。



屋敷の中庭にある広い池にその身を映し、天空に輝く星々と光り輝く満月を見ていた。
腰辺りまである漆黒の髪を風の流れに逆らうことなく無造作に靡かせ、
黒曜石の瞳に不安を宿していた1人の少女。
その少女に、音もなく近づいて行った少女と瓜二つで漆黒の髪と黒曜石の瞳を持つ少年。
少年の声に反応した少女は、
未だ不安そうな色を瞳に宿していたが、それでもどこか安心した表情を見せた。



「このような夜更けにどうかなされましたか、姉上。
姉上の気配がこちらから感じましたので来てみたのですが・・・。 ・・・眠れないのですか?」



少年は、自分の手に持っていたカーディガンを華奢な姉の肩に掛けた。
そんな弟の心遣いに微笑を浮かべながら、遠くを見つめた。
姉の行動を不審に思いながらも少年は姉が再び口を開くまで沈黙を守り、
僅かに震えている姉を無言で優しく抱き締めた。



「・・・・近い将来、先の『第三次世界大戦』以上の過酷な戦いが起こるわ」

「『第三次世界大戦』以上・・・・のですか? 姉上、予知夢≠見られたのですか!?」



弟の広い胸に顔を埋め、同じ血を引く唯一の肉親である少年の心音を聞いていた少女は、
顔を埋めたままポツリと呟いた。
その呟きは小さいものの、姉の言葉を聞き逃すはずのない少年は、姉の呟きに驚愕の表情を見せた。




『第三次世界大戦』・・・29世紀末に起こった最大最悪の悲劇である。
19世紀末に起こった『第二次世界大戦』の悲劇を教訓に、
各国はそれぞれ独自に世界と歩み寄りを行っていた。
しかし、その平和は長くは続かなかった。

『第二次世界大戦』はアメリカが
日本にたった二つの大量殺戮兵器・・・・《核》を投下したことによって、戦を迎えた。
その事により、各国はアメリカの持つ《核》に怯え、
自国をアメリカの《核》から護る為に多くの《核》を製造した。
恐怖によって終わらせた戦争は、人々に様々な疑心暗鬼を植え付け、
常に緊張状態の平和が保たれていた。

その細い糸に保たれていた均等が破れ、国を滅ぼすほどの戦争が29世紀末に行われてしまった。
保有していた《核》が自国を護る為にと使用され、世界の半数以上の国が《核》によって滅びた。

『第二次世界大戦』以降、中立を保っていた日本は、
先の大戦において唯一《核》の恐怖を知る国であった為、『第三次世界大戦』時は自国の防衛に徹し、
数少ない戦場と化していない国であった。

『第三次世界大戦』の原因となったアメリカ・ロシアなど軍事国や《核》の保有国が滅び、
中立の立場や悲劇を食い止めようと戦渦を広げなかった国たちが存続し続けた。
皮肉にも『第三次世界大戦』時に使用された《核》は戦後一つも残ってはいなかった。


終戦後、二度とこのような悲しみしか残らない戦争をしないと各国が誓約し、残った国たちは力を合わせた。




「・・・この世界を、《闇》が覆い隠す時、《光》がその姿を現す・・・」

「《闇》がこの世界をですか?」



弟の言葉に少女はコクンと頷き、静かに不安に揺れる黒曜石を瞼の裏に隠し、
目覚めるまで見ていたビジョンを思い出した。



「・・・そう。 遙か昔、この国に封印された四方のタリスマン≠フこと、知っている?」

「タリスマン=H この世界を司る四大属性の力が集められているという、あの伝説の?」



タリスマン≠ニは、御門一族に古くから伝わる伝説の中に登場してくる巨大な力のことである。
伝承として語り継がれている伝説だが、実物を見た者はいない。



しかし、伝承によるとそのタリスマン≠ヘ、ひし形の形をした水晶と言われている。
四方に封印されているタリスマン≠ヘ、
それぞれの方位に属する属性によって創られている為、紅・蒼・翠・橙の有色透明となっている。



「そうよ。 そのタリスマン≠ヘ、結界によって中央を守っているの。
中央には、何にも属さない特別なタリスマン≠ェあるとされるわ。
そのタリスマン≠ヘ、 触れる人によってその属性を決めるとされている。
心に邪悪な考えを持つ者が触れた時には、闇のタリスマン≠ノなる。
それとは逆に、人々を心から想う者が触れた時は、光のタリスマン≠ノなるの。
四方に封印されているタリスマン≠熕竭蛯ネる力を秘めているわ。
・・・けれど、その中央のタリスマン≠ヘそれ以上の力を秘めているとされている。
・・・もし、そのタリスマン≠闇なる者が触れてしまったら・・・・・・?」

「・・・この国・・・いいえ。 この星そのものが滅びます」



中央に封印されているタリスマン≠手にした者は、メシア≠ニ呼ばれる。
光のタリスマン≠手にした者は再生のメシア≠ニ呼ばれ、
闇のタリスマン≠手にした者は破滅のメシア≠ニなる。


タリスマン≠ニいう単語に少年は反応し、自身の腕の中で静かに話す姉に視線を向けた。
弟の視線を受けた少女は、静かに古代から語り継がれる神話の域に近い伝説を話した。





〔遙か昔、《天界》の理に反した3人の天使がいた。
3人の天使たちは神の怒りによって《天界》を追放され、堕天使となった。

追放された堕天使たちは、その心を《闇》に染め、《地界》で4人の悪魔と共に《天界》への復讐を誓う。
堕天使の長に立つ者の双子の弟は、堕天使となった兄を救う為、自ら《天界》を降り、兄を探した。
彼と共に、自ら堕天使たちを救う為、6人の天使たちが降りた。

堕天使たちは目的である《天界》への復讐のため、
《人界》にいる人間たちの信仰の力を弱めることを考えた。
そのことを知った天使たちは、人間へと転生し、
《天界》と《人界》を護る為に四大属性の力を借り、強力な封印を施した。

封印の中央に、存亡の鍵として《無》属性の封印を施した。
《無》の属性とはその名の通り、属性がない。
しかし、封じられている力は四大属性以上の力を持つ。

触れし者の持つ属性により、《無》属性は《光》にもなるが《闇》にもなる。
《光》は全てを癒す力を放ち、《闇》は全てを破壊する力となる。

《無》属性が《光》に輝く時、世界は癒され、星は再生する。
《無》属性が《闇》に染まる時、世界は崩壊され、星は滅びる〕





この伝説は、伝承として代々御門一族が継承者とその近しい者に口承として、数十世紀以上前より伝えられている。



「・・何としてでも闇のタリスマン≠フ出現と破滅のメシア≠フ誕生を避けなければ、この星は滅びるわ」

「・・・しかし、姉上。 我ら一族はそれらを予知することは出来ても、実際に戦うことは不可能。
我ら一族は、その行く末を見守らなければならない監視者≠ネのですから。
たとえ、この星が滅びることとなったとしても、それはこの星が決めた定め。
我らがその事実を変える事はできません」

「・・・分かっているわ。 私たち一族の定めは、星の行く末を見守ること・・・。
でも、まだ希望を棄てた訳じゃないの。 ・・・・《光》がその姿を現す・・・。 《闇》に唯一抵抗のできる存在。
その者たちはまだ、目覚めてはいない。 ・・けれど、星は巡りだしたわ。
・・・私たちは、監視者≠ニして戦いに介入することは出来なくても、助言は出来るはずよ。
彼らの進む道を、間違えさせない為の・・・道標に・・・・」



姉の儚い笑みに辛そうな表情を見せた少年は、姉が苦しがらない程度に抱き締めている腕に力を込めた。
そんな弟に対し、少女は大丈夫とでも言うかのように弟の背を優しく撫でた。



「・・・姉上が、そう望まれるのならば、僕はそのお手伝いをするだけです。
僕の幸せは、姉上のお傍にいること。
たとえ、この世界が崩壊する定めであったとしても、
その瞬間まで姉上のお傍にいられるだけで、僕は十分なのですから」

「・・・・《光》に属する7人の純白の翼を持つ者たちと《闇》に属する7人の漆黒の翼を持つ者たち。
・・・どちらが先に目覚めるのかは分からないわ。 ・・・けれど、その目覚めもそう遠くないはず。
天空に輝く星々は、それらの定めに動き出したのだから・・・・」



少女は弟の腕の中でクルリと向きを変え、再び天空に光り輝く星々を静かに見つめた・・・・。











2008/01/01













さて、始まりましたv
オリジナル作品の新作ですv
私の趣味丸出しですね;
星に関連するものとか好きなんですv
設定のほうは、
今はないままで登場人物がボチボチ出だしてからだしますv

この章に出てくる2人は、キーパーソン的役割を果たします。