「・・・母上、父上。 リムだけは、必ず護ります。 そのために、僕は強くなったんです。 幼い頃、お2人に誓ったあの約束を守るために」
全ての始まりは、2年前から・・・・・・。
女王家の代々受け継がれる紋章が何者かによって奪われた時から始まった。
更なる混乱を避ける為、
母上が「宿してはならない」と伝えられてきた、
“太陽の紋章”を宿したことから・・・ゆっくりと歯車が廻り始めた・・・・・・。
―――― 王位継承権が無いというだけで、一部の貴族たちから貶されてきた王子。
彼の胸には、幼い頃に両親の前で誓った《約束》が強く、宿っていた・・・・・・。
Recover
― 壊された《平和》 ―
群島諸国よりも南に位置する
太陽の紋章と大河のフェイタスの祝福により豊かな国土に恵まれた王国、ファレナ女王国。
この地において、不穏な影が女王国を包み込もうとしていた・・・・・。
ファレナの次期女王を生まれながらにして定められた幼き王女の夫であり、
この女王国で最も誇れる地位である女王騎士長の座を約束された王女の婚約者が王女との婚約の儀において、
女王国の象徴と謳われる太陽宮を私兵の者たちを引き連れて制圧しようとしていた・・・・・。
「兄上。 ・・・・母上たちは大丈夫かの?」
「・・・リム。 絶対僕らから離れちゃダメだよ。 ・・・・リムと叔母上は、僕が絶対守る」
この国の母であり、女王である母の色素を色濃く受け継いだこの国の王子は
自らの腕の中にいる幼い妹姫を安心させようと、母に似た慈愛に満ちた微笑を浮かべた。
そんな兄王子に対して、
母である女王を守る女王騎士長の任を担っている父の色素を色濃く受け継ぐ王女は、
不安な色を宿しながらも小さく頷くと兄王子に抱きつく腕を弱めることなく兄王子の腰の辺りに顔を埋めた。
「2人とも、安心するのはまだ早いよ? とにかく、ここから脱出することを最優先に考えるんだ。
いいね?」
「陛下とフェリド様のところには、ガレオン殿とゲオルグ殿がおられます。 きっと、大丈夫ですよっ!」
「ミアキス様の言う通りですよ、王子。
私たちは一刻でも早く、フェリド様の言いつけ通り太陽宮から脱出することを第一に考えなくては」
幼い兄妹のほのぼのとした空気に、
彼らの叔母に当たる女性は苦笑いを浮かべながらも今の状況では危険だと伝え、
妹姫の護衛に任命されている最年少の女王騎士は、
いつもの砕けた口調から考えられないほどしっかりとした口調で両親を案じる幼い兄妹に微笑みかけた。
先ほど、
兄王子の寝室にて刺客が忍び込んでくる事態になったがそのことを事前に察してた兄王子は
ニッコリと微笑みながら妹姫を彼女付きの女王騎士にその身柄を任せ、
彼女に被害が及ばないところで避難させた。妹姫は兄王子に絶対的な信頼を寄せているため、
彼が再び現れるまで護衛の女王騎士と共に静かに息を顰めていた。
「・・・リムに血生臭いところを見せたくないからね。
・・・この僕に、喧嘩を売るだなんて・・・。 身の程知らずだね」
兄王子は母譲りの白銀の髪を僅かに開いている窓から流れる風で靡かせ、
青金石の瞳には今回のことを企てた者に対しての強い怒りを宿していた。
「ルーシュ!!」
最初のうちは攻防を繰り返していたが、
王子はその間自分と対峙している敵の行動パターンが大体であるが読めたらしく、一気に反撃に出た。
彼は物心付いたばかりの頃から環境がお世辞にも良いとは言えない環境であった。
両親である女王と女王騎士長の2人や彼の肉親である母の妹である叔母。
そのほか父の部下であり古株にあたる女王騎士。
8年前の隣国であるアーメス新王国の大侵攻において活躍し、
女王騎士長直々の引き抜きと実力によって女王騎士の座を手に入れた者。
その実力によって、最年少にして女王騎士の座を手に入れ、
現在は妹姫の護衛を担っている女王騎士。彼らは数少ない王子を真に理解する者たちであった。
しかし、彼らは『女王騎士』という地位に就く者たちでもあるため、
表立って王子を庇うことはできない。
それは、彼の両親である女王と女王騎士長にも言えることであった。
国の掟と古くからのしきたりにより、
男の王族は他の者・・・特に政に関わることのできる貴族たちにとって不要とされがちであった。
彼もまた、この世に生を受けたその日から貴族たちの陰口に晒されることとなった。
そんな環境で育ったためなのか、彼の先見の目に関しては両親も感心するほど秀でていた。
また、妹姫が誕生してから自身が妹姫を守るのだという意識が強まったのか、
基より優れている頭脳を活かし様々な分野の文献などを吸収していった。
もちろん、頭脳だけではなく武道の方もまた父の名に恥じないように努力した為か、
鍛錬の成果でその能力を開花させた。
現在に至っては国宝である『連結式三節棍』の使い手である。
彼の棍捌きは先に行われた闘神際にて垣間見えたが、
その力は実力の半分にも至っていないということを知るのは、彼が信頼する女王騎士と彼の肉親だけである。
そんな彼は、武術を習う際に先見の目を武術に取り入れながら鍛錬してきたかいがあってかほかの者にない、
相手の行動パターンを大まかであるが大体予測が出来るようにまでなった。
そんな王子の繰り出した一撃でそれまで相手の有利だった攻防が一気に王子優勢となり、
彼の一撃をまともに受けた暗殺者は地に沈んだ。
「・・・・大丈夫ですよ、叔母上。 こいつら如きに、殺されるつもりなどありませんから。
僕は、母上やリムたちを守るために強くなったのだから。 リム・・・もう大丈夫だよ?」
王子・・・ファルーシュ=ファレナスは自分を殺そうとした暗殺者の成れの果てを
未だ冷気を宿した瞳で見据え、愛器である『連結式三節棍』を定位置に戻し、
護衛の女王騎士と共に隠れている妹姫の名を優しく呼んだ。
「兄上〜!! 兄上、無事か!?」
「何処も怪我なんかしていないさ。 ・・・こいつらが大勢いることになるのか・・・。
母上たちが心配だ。 早く、謁見の間に向かおうか」
「王子!? フェリド様のご命令は、お二人の身の安全でございますっ!」
「けど、こいつらの目的は僕の暗殺と母上の宿しておられる“太陽の紋章”・・・。
お2人が心配だっ!」
鳶色の髪を兄王子のように靡かせながら目の前にいるファルーシュに抱きついた。
そんな妹姫を大事そうに抱き締めたファルーシュは、
やはり両親が心配だと護衛騎士の言葉を振り切るように謁見の間へと向かった・・・・。
部屋から飛び出したファルーシュだが、その傍らにはしっかりと妹姫を庇う姿が見られた。
・・・彼は、自他共に認めるシスコンである。
どんな緊急事態が起ころうとも、彼が妹姫を守らないことなど、ない。
妹姫を守ることなど、彼にとっては既に無意識の行動である。
そんな兄妹の後を追うように、
彼らの護衛騎士と叔母が昨日までの太陽宮にはなかった怒声と悲鳴の響く廊下を、
頼りない月光の導きで駆けた。
「あれは・・・・・」
階段の中央にある大きな窓があるところを通り過ぎようとした時、
謁見の間辺りから眩い紅の光が見えた。
ファルーシュの叔母であるサイアリーズはその光に呆然とし、
ファルーシュはその光が何を意味するか、正確に理解した・・・・。
「兄上・・・? あれは・・・あの光は、何なのじゃ?」
「・・・リム。 あの光は、母上が宿されている“太陽の紋章”の光。 あの光が発動してるということは・・・母上たちの身が危ないッ!」
紅の光に何処か怯えた様子を見せる妹姫・・・リムスレーアは無意識に兄王子の袖を握っていた。
そんな妹姫の手をしっかりと包み込みながらも、
その光の意味を知るファルーシュは一刻も早く両親の元に行きたいと願った。
床を蹴り、急いで謁見の間へと急ごうとした彼らに立ちはだかった2人の人影があった。
「・・・・お前はッ!」
目の前に現れた者に対し、リムスレーアの護衛騎士であるミアキスは兄妹を守るかのように前に出た。
「おや、皆さんお揃いで」
楽しげに笑いながら、しかしその瞳は血に飢えたかのような表情でファルーシュたちを眺めた。
そんな男に対し、ファルーシュは何処か冷めた表情で見やり、
さり気ない仕草でリムスレーアを自分の後ろに隠した。
兄王子の行動に、リムスレーアは大人しく従い、ファルーシュの服を硬く握り締めた。
「・・・貴様か、キルデルク。
・・・そうか。 貴様は最初から闘技奴隷ではなかったようだな。
さしずめ・・・暗殺者か? ゴドゥインも地に堕ちたものだな。 そこを、どいてもらおうか」
「ご明察。 流石は王子殿下・・ですねぇ。
私もあの闘神際には不満だったのですよ。 なにせ、血が見れませんからね。
ですが、今回は楽しめそうです。 貴方方にこうして、真剣を向けられるのですから。
それだけで嬉しくて、嬉しくて・・・・。 特に・・私の楽しみを邪魔した貴方の血が」
ファルーシュは目の前に狂気を宿した瞳の男・・・キルデルクを一瞥すると、
視線だけで普通のものだったら硬直するほどの冷たさを青金石の瞳に宿していた。
そんなファルーシュに対し、
キルデルクは何処か狂ったかのように笑いながら手に持っていた刃物を嘗め回した。
「そんなこと、私がさせませんッ!
私がいる限り、王子にも姫様方にも、指一本触れさせません!!」
ファルーシュの前に彼の護衛騎士であり、女王騎士の見習いのリオンが立ちはだかった。
それを合図に、リムを柱の影に隠すと戦闘態勢を整えた。
彼の横には同じく戦闘態勢を整えたサイアリーズとミアキスの姿があった。
「・・・・貴様だけではないだろう? その陰に隠れているヤツ、出て来い。
そこにいるのは・・判っているんだ。 その気配、あの林にいた者か」
「・・・この私の気配を感知するとは、恐れ入ります。
・・・まさか、君がそちらにいるとは思っていなかったよ。 ミスマル・・・僕のこと、忘れたのかい?
・・・まぁ、無理もないよね。 あの頃の僕らは、まだ幼い子どもだったのだから。
けど・・僕は覚えているよ。 君の面影を・・・・」
ファルーシュの声に、闇に潜んでいたもう1人が月の光によってその姿が現れた。
その男はリオンに視線を向け、彼女を懐かしそうに“ミスマル”と呼んだ。
そんな男に対し、リオンは目を見開き、硬直した状態で僅かに震えていた。
「ま・・・まさか、ミツカフッ!? そ、そんな莫迦な!」
「その、まさか・・・だよ。 尤も、今は“ドルフ”と呼ばれているけどね」
取り乱したりオンは、頭を振った。
そんなリオンを嘲笑うかのように男・・・ドルフは口元を歪めた。
「ふははははッ! こいつは驚いた。 王子殿下を護衛する女王騎士が、我々の同胞だとは」
「・・・黙れ、下種が。 過去がどうであれ、今のリオンは我ら・・ファレナの一員だ。
貴様たちのような卑劣な人殺しと、同じと思うな」
ファルーシュの脳裏によぎった可能性は、キルデルクの言葉によって確定されたが、
本人はその事について気にしなかった。
キルデルクの高笑いにもファルーシュは顔を顰めるだけで、クスッとその美しい顔に冷笑を浮かべた。
(・・・おや、珍しいね。 この子が怒るなんて。 ・・・リムも危険な目に合わせられているからか)
ルーシュ―近しい者たちから、愛称として呼ばれている―の隣で、
戦闘態勢を整えていた彼の叔母・・・サイアリーズ=ファレナスは内心苦笑いを浮かべていた。
彼にとって、自分を侮辱する者に対して何も言わないが、
彼にとって大切に思う者たちを危険な目に遭わせる時や侮辱する時などに、
それまで温厚という性格に隠れていた一面が表に出るのだ。
――― 尤も、そのような場面など数えるほどしかないが。
「王子、サイアリーズ様!! ミアキス様も姫様を連れてこの場から離れてくださいッ!」
「逃がさないよ? 君たちは、この場で死ぬ運命なのだから」
リオンは攻撃を仕掛けようとしたサイアリーズにルーシュと逃げるように言い、
柱に隠されているリムリーアを守るミアキスに、連れて逃げるように叫んだ。
その叫びを嘲笑うかのように、ドルフは無造作に腕を振るった。
ルーシュは危機感を感じたのか咄嗟に避けた。
避けたルーシュの耳に、背後の壁に金属音が響いた。
ドルフは顔色を変えることなく、淡々と飛刀を放ったのだ。
再び腕を振り上げようとした瞬間、辺り一面の空気が急激に冷えた。
「・・・やっぱり来たね。 叔母上、僕たちがこいつらの相手をする必要は、ないよ」
ルーシュは今にも攻撃を仕掛けそうな勢いの叔母にニッコリと、
先ほどまでの冷笑とは比べ物にもならない微笑を浮かべた。
ルーシュの言葉を証明するかのように、廊下の奥から青くきらめく光の渦が飛来した。
「王子ッ! 我が右手に宿りし、水の紋章よ! 汝の氷にて敵を狙撃せよ! 『氷の息吹』!!」
「リム!! 叔母上たちも早くッ!」
光の方向からルーシュを呼ぶ青年の声を聞いたルーシュは、
それまで柱に隠していた妹姫をその手に取ると、連結させた棍を振り上げ、
キルデルクとドルフの間に隙を作った。
その隙から光のある廊下に出て、背後にいるサイアリーズたちに叫んだ。
青年は、己の右手を高々に掲げるとその手に宿る紋章を発動させた。
彼の宿す水の紋章にして、唯一の攻撃魔法・・・『氷の息吹』は、
正確に狙いを定め、ドルフとキルデルクに襲い掛かった。
その隙に、この場からの退散を選択した彼らは、光によって視界が狭まれている今を狙ったのだった・・・・・。
2007/04/01

幻想水滸伝Xですッ!
・・・妄想の塊なので、
ゲーム軸で一応進みますが・・・しょっぱなから捏造しまくりです。
太陽宮が襲われるまでもまだあることはあるんですけど・・・
飛ばさせていただきました;
一応、飛んでも分かるようには書きたいと思います!

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