大天使の局地的人災 1
ムウ・ラ・フラガ──不可能を可能にするという地球軍の英雄――… そんなものは幻想だった。 彼はザフトのスパイであり、今アークエンジェルが敵対しているクルーゼ隊の副隊長である。 諸事情により、しばらく直属の上官で(表向きは)従兄弟のラウ・ル・クルーゼ率いる部隊と戦うことになったのだ。 アークエンジェルがへリオポリスで破壊されていれば、今ごろはザフトに戻っているはずだったのに……
(ん?何だ?)
ストライクがイージスに捕獲されそうになり、どうしようかと悩んでいたフラガは“TEXT ONLY”と通信画面に映し出された文字を目で追う。
(おいおい、マジかよ)
最初に驚いたのはその文章を送って来た相手だ。 アスラン・ザラ──自分がスパイ活動をしていることを知っている、数少ない人間だ。 そして──
(アホだろ、ナチュラル……)
自分が潜り込んでいる組織の人間が何をしでかしたかを知る。 彼らが手を出した少女──キラが何者でどういう立場にあるか、どれだけの影響力を持っているか…… キラの背負うものは重い。 それでも純粋な部分を無くさない彼女に、救われた人間は多かった。 かく言うフラガや、彼の悪趣味な上官もその一員である。 キラに救われた人間は面白いほど彼女に傾倒する。 アークエンジェルのブリッジでキラの帰りを待つ少女もそうだろう。
(荒れるかもな……)
フラガは愛機の中で遠い目をしていた。 彼女が常識人である保証はない。 むしろ型破りな人間であろう。 一人で大丈夫だと言ったキラに、恋人に長期間会えなくなるのも構わずついて来たのだ。 きっとキラが絡むと豹変するに違いない。
<アスラン、貴様何を考えているッ>
<キラ・ヤマトッ、何をしている!?>
全周波故に両軍の声を拾ってしまっているメビウス。 それに乗っている彼は響いた怒声に我に返る。
(あ、とりあえず追いかけないと……)
間に合わないのは分かっていたが艦に戻ってからのことを考え、形だけでも追う。 けれど当然、間に合うはずもなく、また、間に合って欲しくなどなかった。 もう、彼女にはあの場所に戻っては欲しくない──
2004/12/03
持ち帰る人はいるのか…?
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