「キラの笑顔こそ、俺が護りたかったもの」
・・・先日の事件の所為で、キラの無垢な心に大きな傷が残った。
だが以前のようにとは言わないけど、それに近い状態に戻してみせる。
孤独の中にいた俺を救ってくれた、綺麗で可愛らしいキラの心からの微笑を。
再び、この手に・・・・・・。
――――― 幼き少女の微笑を取り戻す為、少女を心から護ろうとする1人の騎士はその胸に誓う。
01. キラ
数時間前、L4にあるコロニー・【メンデル】にて、コーディネイターを宇宙の化け物と言い、
テロ活動を行うナチュラル・・・ブルーコスモスが民間人のナチュラルを巻き込んでの襲撃事件が起こった。
1人の幼い子ども以外は生存者が絶望的であり、
幼い子どもを助けた後に向かった時にはコロニー自体が爆発音と共に半壊していた。
保護された幼い子どもは、保護した軍人・・・幼い子どもの同胞であるコーディネイターの軍である
ザフトの最高司令官である国防委員長の友人の娘だということが判明し、
国防委員長の嫡子であり、幼い子どもと面識のあった1人の“紅”を身に纏う少年が、幼い子どものお世話係を任命された。
任命された少年は、その任務に対して反論することなく、逆に当然とばかりにその任務を受けた。
不安気に見上げる幼い子どもに安心させるように彼女限定の優しい微笑を見せ、宥めるように軽く背中を叩いた。
懐かしい少年の仕草に、徐々に落ち着きを取り戻した幼い子どもは、
どこか安心した表情を浮かべながら絶対的の信頼を寄せる少年の広い胸元に頬を寄せ、静かに瞳を閉じた・・・・・・。
「・・・お休み、キラ。 キラは、絶対俺が護るからね?」
穏やかな吐息を繰り返す幼い子どもに優しげな笑みを浮かべた紺瑠璃色の髪とエメラルドの瞳を持つ少年は、
鳶色の髪と今は眠りについた為見ることができないが美しいアメジストの瞳を持つ少女の柔らかな髪を優しく撫でた。
「おや・・・。 眠ってしまったのかい。
アスラン、その少女の世話係を国防委員長直々の任命の為、
本国に着くまでの間少女が立ち入ることのできない場所での任務を免除する。
少女の立ち入ることの出来る場所での業務は今までと同じだ」
「了解いたしました。 ・・・しかし、いいのですか? 彼女と一緒でも」
少年の仕草に驚きを隠せないが生憎仮面で表情が隠れている為、
誰にも築かれることのないウェーブされている黄金色の髪を持つ青年は、
目の前にいるエメラルドの瞳を持つ少年に改めて命じた。
青年の言葉に目を瞠った少年は、
幼いとはいえ民間人を軍人しか目にすることが出来ない軍事機密もあると言外に含ませた。
「情緒不安定な少女を置いての業務だと、君に支障が出るだろう。
それに、その少女自身も不安がることは目に見えている。
共に立ち入ることは許可するが、くれぐれも触れさせることがないよう、注意しろ」
「了解。 ・・・では、失礼いたします」
青年の言葉は尤もだと、エメラルドの瞳を持つ少年は納得し、
小さく頷くと腕に抱く幼い子どもを落とさないようにもう一度抱き直し、静かにブリッジを退室した。
ブリッジを退室したアスランは、そのまま宛がわれた自室に戻り、
お世辞にもフカフカとは言えないがそれなりの機能が搭載されている簡易ベッドに幼い子どもを寝かせた。
しかし、安心できる唯一のぬくもりじゃないと本能的に察しているのか、
不愉快そうに眉を顰めた幼い子どもに苦笑いを浮かべた少年は、身に纏っていた“紅”の軍服を脱ぐと、
皺にならないように椅子に掛け、幼い子どもの眠るベッドにその身を潜らせた。
「・・・大丈夫だよ、キラ? ここには、俺がいるから。 キラに、危害を加えさせないから。
悪夢を見たとしても、俺が助けるからね」
無意識に少年の気配を察したのか、ホッとしたような・・嬉しそうな微笑を浮かべた幼い子どもは、
その安心できる気配に近づこうと少年の胸元に擦寄り、安心できる位置を探してその胸元に顔を埋めた。
そんな幼い子どもの以前と変わらない癖に対し、
少年は優しい微笑を浮かべながら幼い子どもの柔らかな髪を優しく梳いた・・・・・・・。
幼い子どもが眠りついてから数時間後、【プラント】標準時間では既に一日が過ぎており、
幼い子どもに襲撃事件は大きなストレスとなっていたということが痛感した。
襲撃事件に続き、両親を目の前で殺されたのが禍しているのか、
幼い子どもはそれらを幼いながらも優秀すぎる頭脳で理解してしまったのか、
思わぬ事態が多かった為に情報処理する量が多すぎた為、容量オーバーとなり、たくさんの眠りを必要としたようだ。
そそれに加え、幼い子どもが両親以外で唯一無条件で甘えられ、
幼い子ども自身も絶対的の信頼を寄せるエメラルドの瞳を持つ少年の傍だからこそ、
一度も起きることなく深い眠りについたのだろう。
「おはよう、キラ。 たくさん眠れたね」
「・・・? あしゅ?」
「そうだよ、キラ」
それまで一度も起きる気配のなかった幼い子どもが目覚める気配に気付いたのか、
優しげな眼差しで幼い子どもの眠りを見守っていたエメラルドの瞳を持つ少年は、
彼が好きな愛らしいアメジストの瞳に自身が映し出されるのを静かに待っていた。
1年前まで毎日傍で感じていた懐かしい気配に目覚めを促された幼い子どもは、
その気配が誰よりも信頼できる大好きな少年の気配だと気づいた時には、眠気はすっきり消え去り、
瞼に隠れていた綺麗なアメジストの瞳は自分を見つめる1対の大好きなエメラルドの瞳が映し出され、
彼を連想させる絶対的な色・・・紺瑠璃色の髪がアメジストの瞳に映し出された。
愛らしいアメジストの瞳に自身が映し出されていることに対し、
嬉しげに微笑を浮かべた少年は、優しく幼い子どもの髪を梳いた。
優しい仕草にされるがままだった幼い子どもは、
嬉しそうに目を細めて少年に擦寄り、彼の纏う真紅の軍服の袖を握り締めた。
「キラ、一緒にご飯食べに行こうか。 お腹、空いただろう?」
「・・・あしゅもいっしょ?」
「あぁ。 父上がね、本国に着くまでの間ずっとキラの傍にいなさいって言われたんだよ。 だから、ずっと一緒だ」
「あいっ!」
ゆっくりとベッドから起こされた幼い子ども・・・キラ=ヒビキは、
自分を起こした少年・・・アスラン=ザラに優しく問いかけられた言葉を首を傾げながら
少女にとって一番重要なことを聞いた。
その言葉に優しく微笑みかけたアスランは、自分をジッと見つめるキラを安心させるようにキラ限定の甘い微笑を見せた。
本国から割りと近い地点にいたのが幸いしたのか、本国への連絡した際にキラに合うサイズの衣装を送るよう、
自分の父である国防委員長に要請していた。
彼の要請はすんなり通り、要請した翌日・・・キラの目覚める前には大量の衣装がヴェサリウスに到着した。
送られてきた衣装の中で彼女の好みに合いそうなものをいくつか持ってきたアスランは、
頑張って睡魔と闘っているキラに苦笑いを浮かべた。
「キラ。 キラの着ていたお洋服、処分しちゃったから父上に頼んでお洋服送ってもらったんだ。
結構あるけど・・・どれがいい?」
「ぱとパパ? ・・・きら、これがいいの」
キラに視線を合わせてにっこりと微笑を浮かべたアスランに対し、
首を傾げながらもアスランが持ってきた衣装をジッと見つめた。
キラがこれと示したのは、
アスランの纏っている軍服に似せて作らせたのだろう・・・確りと襟元にはザフトの刺繍が施されていた。
「これかい?」
「あいっ! あしゅのおようふくと、おそろいv」
キラの示した衣装に驚いた様子を見せたアスランだったが、
優しげに微笑を浮かべるとほかに持っていた衣装を箱の中に仕舞い、
キラを手招いて自分の服を纏っているキラに着替えさせた。
ミニマムサイズの軍服はキラにぴったり合っており、“紅”の女性用と思わせる作りとなっていた。
「さて・・・食堂に行こうか?」
キラの着替えを待っていたアスランは、キラが着替え終わったのを見届けると部屋のロックを解除し、ドアを開放した。
アスランに手を引かれるまま廊下に出たキラだが、部屋の中とは違い、
若干重力があるものの何の訓練も受けたことがなく、宇宙に出る機会すらなかったキラはうまくバランスが取れなかった。
「???」
頑張ってバランスを整えようとするキラに苦笑いを浮かべたアスランは、
キラに衝撃を与えないように注意しながら自分のほうへ引き寄せ、離れないように抱き上げた。
バランスを取るのに必死になっていたキラは、急に引き寄せられたことに驚いて身を硬くしたが、
自分を抱き締める腕と自分を包み込む気配が誰よりも信頼できる人物だと認識すると
無意識に固まっていた身体から力を抜き、自ら甘えるようにアスランの胸元に擦り寄った。
アスランに抱き上げられたままの状態で食堂に向かっていたキラだが、
朝食の時間帯だったのか彼らと緑服を身に纏う一般兵たちとすれ違う。
最初の辺りは緊張気味に固まっていたキラだが、自分を見つめてくる視線の多さに対し、
徐々に怖がるように自分を抱き上げているアスランの胸元に顔を埋めた。
一般兵たちは自分よりも年下であり、上流階級の育ちで軍の最高司令官の嫡子であるアスランに対し、
僅かながらも対抗心と妬みを持っていた。
だが、アスランの実力は親の七光りではないとこれまでの戦闘で彼の実力を知っているため、
表立って彼に僻みなどの負の感情をぶつけない。
軍での彼の印象はアカデミーからの共通認識であった、“鉄仮面”又は“アンドロイド”であった。
何事にも表情を変えることなく、淡々と任務や課題を完璧にこなす彼の姿に、皮肉気に付けられた異名であった。
しかし、そんな彼らの認識を覆す光景が目の前に広がっていた。
アスランは自分たちを凝視する視線を気にすることなく、
周りに怯えて自分の胸に顔を埋めるキラを安心させるように優しく小さな背中を軽くポンポンとリズムよく叩いた。
彼の表情は、腕の中に抱くキラに無条件の愛情を注いでいるのがよく分かるほどの優しい微笑を浮かべており、
彼の表情を直視してしまった一般兵は、その場に固まった。
(・・・戦場に出ても表情が一切変わらない“あの”アスラン=ザラが、子ども相手に微笑んでいる!?)
慈愛に満ち、キラにだけ愛情を注ぐその姿に思考回路がショート寸前な一般兵は、
ギリギリ残っていた理性でそのようなことを考えていた。
「キ〜ラ? 大丈夫だよ。 俺がいるだろう?」
周りの様子に気付かないアスランは、
自分の胸に顔を埋めているキラに苦笑いを浮かべながら安心させるかのようにキラの耳元で囁いた。
そんなアスランの言葉に彼の軍服をギュッと握り締めている手を弱めることがないものの、小さく頷きを返した。
ほかの視線に敏感なキラは、悪意がないものの自分を凝視する視線と大勢の大人たちに襲撃された時の恐怖が蘇った。
優秀すぎる子どもの脳ではここは安全だと分かってるが、
それでも幼い子どもの体験した死への恐怖と目の前で殺された両親の姿をしっかりと見てしまっている子どもにとって、
思考と感情が伴っていなかった。
キラの心情を理解していないものの、カタカタと震える肩を優しく包み込むかのように抱き締めたアスランは、
漸く周りが自分たちを凝視していることに気付き、その視線で腕の中にいる愛し子が怯えていることを察した。
それからのアスランの行動は早く、自分たちを取り囲むかのように無遠慮にも凝視する視線たちを黙らせるため、
キラのために醸し出されていた甘い雰囲気から一気に底冷えするほどの絶対零度の雰囲気に変わったアスランは、
まるで獲物を獲るかのような鋭い視線で周りを見渡した。
「・・・何を見ている? お前たちの無遠慮なその視線で、怖がっているだろう」
彼が一瞬にして纏ったオーラは一般兵たちがよく知るもので、
刺す様な冷たい視線に怯えた一般兵は咄嗟に彼らから視線をはずした。
自分たちを凝視していた視線をすべて排除したアスランは、
腕の中で彼の冷たい雰囲気にビックリした表情を見せるキラに対し、再びキラ限定の優しげな微笑を浮かべた。
自分のよく知る優しい彼の気配に、キラはホッとした表情を見せた。
自分を見つめてくる視線がないことに気付いたキラは、それまで無意識に緊張していた身体全身から力を抜き、
アスランの首に回していた腕の力を緩めながら彼の首元に頬を摺り寄せた。
「あしゅ。 あしゅは、ぼくをおいてかにゃい?」
「俺がキラを置いて行く? するわけがないだろう? 俺にとって、キラはとても大切だからね。
キラには、何時も笑っていてもらいたいから。 約束しただろう? ずっと、傍にいるって」
アスランの胸に甘えるかのように擦り寄っていたキラは、突然真剣な表情で自分を見下ろすアスランに視線を固定し、
不安げに揺れるアメジストの瞳には表情を同じ真剣な色を宿していた。
そんなキラの真剣な表情に、アスランは安心させるように微笑みながら目の前の幼い子どもに誓った言葉を告げた。
アスランの言葉に安心したキラは、不安の宿っていた瞳が安心したかのように細められ、嬉しそうに微笑を浮かべた。
自分の胸に頭を預けたままの状態になっているキラを抱き直し、
ニッコリと微笑んだアスランは最初の目的場所である食堂へと、その足を向けた・・・・・・。
俺が思っていたより、キラの心に残っている事件の後遺症はひどいようだな・・・・・・。
キラが、この手を不要だと思うまで、俺はずっと傍にいる。
俺から、離れることなど・・・出来ないのだから。
―――― 幼き心に残る“別離”の恐怖。
最も親しき者を目の前で亡くした幼子にとって、最も恐れる事態。
目の前で体験したことから、幼子は絶対的な信頼を寄せる青年との“別離”を何よりも恐れる・・・・・・。
END.
2007/12/01
Web拍手より再録。
思ったより、このシリーズを楽しんでいただけているようで、
ほっとしております;
話が増え次第、設定のところに時間軸も付け足して行きたいと思っております。
基本的に、順番どおりに進めたいと思いますが;
このお題は、以前拍手に記載した【sparkle】の数時間後ですv
アスランは、基本的にキラを中心に世界が回っております。
キラが幼児化しようが、アスランのキラ至上主義は変わりません!
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