「今日から、家族だよ? キラは、1人じゃない。 俺はずっと、キラの傍にいるから・・・・・・」



両親を殺されて天涯孤独になったキラ。
生前、小母上たちから親戚がいると聞いたことがなかった。
・・・いたとしても、その親戚は小母上たちと同じナチュラル。
一世代目とはいえ、キラは俺たちの同胞だ。

それに・・・ずっと探していた愛し子がこの腕の中にいる。
その状況で、手放せるものか・・・・・・。





―――― 両親を殺され、唯一の生存者となった少女。
少女はコーディネイターである為、この情勢下では近しい血縁者に引き取られることがない。

少女を誰よりも大切にする少年と、少年の両親は少女の後見を名乗り上げる。
大切な友が護り抜いた、忘れ形見を保護する為に・・・・・・












new life with...
  ― 新たなる生活 ―











国防委員長から直々の帰還命令を受けたクルーゼ隊は、本国付近を哨戒していたのを中止し、
襲撃されたL4のコロニー・【メンデル】の唯一の生存者であった1人の幼子を連れて、
プラントの首都・アプリリウスの軍港へ着艦した。




《【プラント】首都・アプリリウスに到着。 クルーたちは速やかに下船せよ。 繰り返す・・・》


「キラ、おいで? 父上に呼ばれているから・・・一緒に行こうか」

「ぱとぱぱ? あしゅもいっしょ?」

「あぁ、一緒だよ。 だから、少しの間静かにできるよね?」

「あい!」



艦が港に着艦したことを放送で知った今瑠璃色の髪とエメラルドの瞳を持つ少年は、
自分の膝の上にチョコンと座っていた鳶色の髪とアメジストの瞳を持つ幼い子どもにニッコリと微笑みかけた。
少年の言葉を理解しているのか、
首を傾けながら自分にとって重要事項を大好きなエメラルドの瞳を持つ大好きな人に尋ねた。


幼い子どもの言葉に目を見張った少年だったが、
すぐさま優しい微笑みに戻り、頷きながら幼い子どもと約束を交わす。



大好きな少年の言葉を理解した幼い子どもは、嬉しそうに微笑みながら大きく頷き、左手を勢いよく挙げた。



「いい子だ。 行こうか」



少年・・・アスラン=ザラは自分の膝の上から幼い子ども・・・キラ=ヒビキを降ろすと、
頭を優しく撫でて元気のいい返事を褒めた。
褒められたキラは嬉しそうに笑うと、立ち上がったアスランの足に抱きついた。

そんなキラの行動に驚いたアスランだったが、キラの幼い身体を軽々と抱き上げ、
準備されていた荷物を片手に持つと、艦から降りる為に格納庫へ向かった・・・・・・。






「アスラン。 直ぐにでも評議会へ向かうのかね」

「はい。 父上からの召喚命令が下っておりますし・・・キラのことで相談したいことがありますので」

「そうか。 私も報告に行かねばならないが・・・一緒にとはゆくまい。 少し、時間をずらして行くとしよう」



格納庫に備えられたリフトに乗ろうとしたアスランを呼び止めたのは、
隊長格の証である白で統一された軍服を身に纏った青年であった。
青年の言葉にアスランは頷くと、抱き上げているキラに視線を向けた。
キラはキョトンとした表情で、目の前にいる仮面で顔を覆い隠している青年に視線が固定されていた。


アスランの視線に気づいたキラは、首を傾げたがすぐさま目の前にいる青年・・・ラゥ=ル=クルーゼに視線を戻し、
小さくお辞儀をした。



「う? こんにちわっ」

「こんにちわ、キラ嬢」



にっこりと微笑みながらクルーゼに挨拶したキラに対し、
クルーゼは表情は仮面に隠れて判らないものの、この声は優しさに満ちていた。
挨拶を返されたのが嬉しかったのか、キラはご機嫌の様子でアスランの首元に腕を回した。



「では・・・・隊長。 お先に失礼いたします」



アスランは器用にキラを片手で支え、クルーゼに敬礼をしてその場を去っていった・・・・・・。





母艦であるヴェサリウスから降艦したアスランが向かったのは、
アプリリウスの中央に聳え立つプラントの最高意思決定機関・・・プラント最高評議会であった。
彼の父・パトリック=ザラは、評議会議員であり軍属であるアスランの上司に当たる国防委員長でもあった。



エレカから降りたアスランは、助手席に乗せていたキラを降ろして評議会の入り口へと向かった。
キラは多くの大人たちに驚いたのか、緊張した様子で自分の手を握っているアスランに縋りついた。

微かに震えるキラに気づいたアスランは、苦笑いを浮かべながら体重の軽いキラを抱き上げた。
急に視界が高くなったキラは驚いた表情を見せたが、目の前にキラの大好きなエメラルドの瞳があり、
安心させるように微笑んでいるアスランに対し、徐々に落ち着きを取り戻した。


落ち着いたキラは、アスランに甘えるように彼の首元に擦り寄り、彼の首元に両手を回してギュッと抱きついた。
そんなキラの甘えに慣れているアスランは、小さな背中をポンポンと軽く叩き、
彼らを召喚したパトリックのいる委員長室へと足を進めた。




(・・・あの、アスラン=ザラが微笑んだ!? ・・・あの子どもは、いったい何者なんだ?)




キラ限定の微笑を遠目で見ていた議員や緑の軍服を身に纏う軍人たちは、
目の前で起こった出来事に驚きを隠せないでいた。



アスランは、アカデミーの頃から良くも悪くも有名であった。


―――― 尤も、彼だけではなく彼の同期たちも有名だが





アスランの同期・・・クルーゼ隊メンバーに選抜された者たちは、全てトップガンであった。
アカデミーでは、歴代のトップ5の成績を塗り替えた。
その中でもアスランは、総合点トップで事実上歴代の中で最も優秀で、不動の一位の座にいる。

それ以前に彼の父であるパトリックの仕事の都合上幼い頃からメディアなどに出ていたため、彼は有名であった。
そんな彼に畏怖にも似た尊敬が彼の周りに集まり、親衛隊のようなものが出来上がっていた。


尤も、彼本人はその様なものに一切興味がないため、彼から関わりを持つことは無かった。
彼の表情が変化した瞬間を見た者はおらず、
また彼が誰かと親密に会話をしている場面など、目撃したこともなかった。



一時期、パトリックの盟友であり古くから付き合いのある、
現評議会議長を務めるシーゲル=クラインの娘であるラクス=クラインとの婚約説が流れたが、
彼女が婚約したのはアスランではなく、幼馴染の関係で彼の同期・同僚であるイザーク=ジュールであった。

その発表があった直後はアスランの元にもしつこいほどの報道陣が詰め掛けたが、
彼は一切話すことなく堂々と報道陣の中央を突っ切った。


無感動・無感情で一切表情の変の無い彼に、アカデミー時代から影で“鉄仮面”や“アンドロイド”というような、
皮肉が混ぜられた呼び方で呼ばれていた。

そのため、愛しそうに見つめる綺羅に対しての表情を彼らは今まで見たことが無かった・・・・・・。



しかし、彼は肉親以外ではこの幼子にしか興味を示したことが無いのだが、
その事実は彼の両親しか知らなかった・・・・・・。






―――――― コンコンッ






国防委員長室前に来たアスランは、キラを抱き上げたままの格好で扉をノックした。
本来ならば、降ろさなければならないのだろうが、その選択肢は初めからアスランの中では存在していなかった。




『入れ』


「失礼します」



中から響いた威圧感のある言葉に、気にした様子を見せないアスランは、
許可が下りたことで目の前にある扉を開いて中に入った。



「キラちゃんッ!!」



入室したと同時に、キラの名前を呼びながら向かってきたのは、
アスランと同じ髪質を持つ女性・・・レノア=ザラであった。



中央にある委員長席にはパトリック=ザラが座っており、アスランと同じく滅多に表情が動かないものの、
彼の出す雰囲気は嬉しさが滲み出ていた。



「ただいま、戻りました。 母上、父上」

「うむ。 ご苦労だったな、アスラン」



内心、委員長室内にいるレノアに驚きを隠せないものの、
キラが来ることを知ったのであればある程度の予測を立てられたのか気にする様子を見せなかった。
しかし、アスランに抱かれたままの状態であるキラは驚きのあまりにキョトンとした表情で固まっていた。



「キィ〜ラ? 固まらなくても大丈夫だよ? モニター越しだったけど・・・お話しただろ?」

「う? ・・・れのあママ、ばとパパ??」



そんなキラに苦笑いを浮かべたアスランは、キラを驚かせないようにゆっくりとした動作で下に降ろした。
アスランの言葉に、キラはキョトンとした表情のまま首を傾げ、目の前にいるレノアたちを凝視した。



「キラちゃんが無事でよかったわ・・・。 ヴィアたちのことは、パトリックから聞いたの。
ささっ、こちらにいらっしゃいな」

「れのあママ!!」



首を傾げた状態のキラに、レノアは慈愛に満ちた微笑を浮かべた。
その微笑みは、アスランがよく見せる微笑に似ているのか、キラは安心した様子でコクンと頷きを返した。
頷いたキラを、レノアはギュッと抱き締めた。

抱き締められたことに驚いたキラだが、その温もりは自分のよく知る人物だと認識できたのか嬉しそうに微笑んでいた。
その様子を近くで見ていたアスランは、ホッとした表情を見せた。



「アスラン。 手続きはすでに完了している。 キラちゃんの後見人には、私がなっておいた。
これで、あの子は我がザラ家の養子だ。 ・・・だが、問題なのはお前がプラントにいない時だな。
私は今までどおり評議会に詰められるだろうし。 レノアは・・・今研究の方が忙しいとぼやいていた。
キラちゃんには可哀想だが・・・シーゲルのところに預けようかと、思案している」

「・・・俺が連れて行きます。
戦艦で、少々危険ですが・・・キラの懐いていない者に預けても、不安がるだけだと分かりきった事ですから」



ホッとした表情を見せる息子に、パトリックはゆっくりと椅子から立ち上がってアスランの元に近づいた。
そんな父を確認したアスランは、父の言葉に頷いた。

だが、大切なキラを知人とはいえ他人に預けることに反対なアスランは、エメラルドの瞳に僅かな冷たさを宿した。
そんな息子に苦笑いを浮かべたパトリックは、
すぐに決めることではないなと、嬉しそうに微笑みあっている妻たちに視線を送った・・・・・・。






俺にとって、あの子は至宝の存在。
そんな存在を、信用の置ける人物だと解っていても心配だ。
それならば、いつでも目に届く範囲にいてくれたらと願ってしまう。


だが、俺のいるところは戦場。
血生臭い・・・殺伐とした場所に、無垢なあの子を連れて行っていいものだろうか・・・・・・。






――――― 紅の騎士は、己の心に宿る相反する二つの想いに苦悩する。
至宝の存在だからこそ、純粋であってほしいと思う願いと共に在りたいと思う願い。


全ては、至宝の存在の為に・・・・・・。









END.








2007/12/01
Web拍手より再録。















はい、番外編そのAです;
・・・お題2を考えていたんですけど・・・・どこをどう、間違ったのやら;
ほぼ確定事項ですがまだこの時、キラはヴェサリウスに乗艦することは決まってません。
まぁ、近々分かると思いますが;
書いている本人が時間軸が分からなくなる時があるので・・・
やっぱり、作品が多くなったら一度時間軸を作ってみますねv
ではでは、ちったいたんシリーズをこれからも楽しんでいただければ、幸いですv