「・・・例え、リムが僕のことを嫌いでも、あの子は僕のたった1人の大切な妹です。
あの子が、僕を嫌うのならば・・・僕は影となってでも、あの子を護りたいと思います」
昔、父上たちの前で誓った言葉。
その言葉に、今でも偽りはない。
大切なあの子に、嫌われるのは・・・確かに辛かった。
けど、あの子を失うよりはマシだと・・・ずっと言い聞かせてきた。
あの子が、母上のお腹に宿ったと知った時・・・すごく嬉しかった。
貴族たちのように、『次期女王』だからじゃない。
僕の『妹』だと、母上は仰った。
僕はあの子の『兄』だから、あの子は僕が護る。
例え、その大切な『妹』であるあの子に・・・嫌われていたとしても。
―――― 大切な妹姫を護る為、兄王子は母である女王から国宝級と謳われた武器を授かった。
癖のある武器・・・連結式三節棍を会得する為に、日々鍛錬に励む。
Recover 〜過去偏〜
―01. 太陽宮の名物コンビ ―
太陽の紋章と大河のフェイタスの祝福により豊かな国土に恵まれた南の王国、ファレナ女王国。
この国の王家にとても仲の良い兄妹がいる。
そんな兄妹でも険悪な時期があった。
尤も、険悪だったのは兄王子に対しての妹姫の態度であった。
自らの権力に溺れる貴族たちが、物心付いたばかりの妹姫がいるとも知らずに洩らした一つの言葉。
その言葉が切欠である事件が起きるまで、妹姫は兄王子をとにかく嫌っていた。
しかし、そんな妹姫でも兄王子の表情はにこやかに笑みを浮かべていたが、
妹姫を大事に想う兄王子にとって、妹姫の拒絶は心に小さな傷を残した・・・・・。
「あにうえー!」
幼い声がファレナ女王国の象徴とも言える太陽宮に響いた。
この幼い声の持ち主こそ、次期女王の継承権を生まれながらに担っている5歳になったばかりの妹姫である。
兄王子と和解した後、妹姫はそれまでの険悪が幻とも思えるほど兄にべったりとなり、
帝王学などの勉強が終わるたびに兄王子を捜す妹姫の姿が今では太陽宮の名物となっている。
その可愛らしい姿を太陽宮に警護の任に就く兵士たちは、
彼らの様子を穏やかな笑みを浮かべながら見守っている姿もまた、名物であろう。
その頃、妹姫が必死に探している人物はそろそろ妹姫が自分を探しに来る頃だと気付き、
護衛である女王騎士の1人であり、自分自身が最も信頼するカイルを連れて自室から中央部へと向かった。
「王子〜。 そろそろ姫様が王子をお探しになられている頃ですよ?」
「そうだね、カイル。 リムを待たせるなんて言語道断。 早く行こうか。
・・多分、この先で会えるはずだから」
カイルの言葉に兄王子・・・ファルーシュは、
母でありこの国の女王であるアルシュタート譲りの美しい白銀の髪を綺麗に束ねて、
通常よりも若干歩く早さが早いためか重力に従って靡いている。
自分の家でもある太陽宮なのだから走ってもいいのだが、彼の気質なのか早歩きはしても走ったりなどしない。
そんな王子の姿を背後から見る護衛騎士・・・カイルは穏やかな笑みを浮かべた。
そんな彼らが謁見の間がある中央部に向かっている最中、
前方から自分を呼ぶ愛する妹姫の声が聞こえてきた。
「あにうえー! あにうえはおらぬのか?」
「こっちだよ、リム」
「あにうえ! やっとみつけたのじゃ!」
ファルーシュはニッコリと妹姫に微笑みかけると、お世辞にも大きいとはいえない腕を妹姫に向かって広げた。
そんな兄王子の行動に嬉しそうに微笑むと、小さい身体で兄王子の腕の中に飛び込んだ。
「姫様〜? 兄上様をお見つけになられましたか〜?? あら、あらあら。 ふふ、良かったですね姫様」
「ミアキス殿。 毎回のことながら王子たちのスキンシップは微笑ましいですね」
彼らの後ろで暖かく見守っていたカイルは、
リムスレーアが飛び足してきた方向から自分と同じ女王騎士であり、
ファルーシュに力の限り抱きついている妹姫の護衛を勤めるミアキスの姿を見つけた。
ミアキスは独特な口調でおっとりとしており、仲の良い兄妹の姿を見ると優しそうに微笑んだ。
「そうですね〜。 あら? サイヤリーズ様、お休みではなかったのですか?」
「それをアンタが言うのかい。 ぐっすりと寝ている私の部屋に急に入ってきて、「あにうえー!」って叫んで行っただろう」
「ふふふ。 サイヤリーズ様、私ではなく、姫様ですよ〜」
「・・・まぁ、そのことはもういいさ。
しっかし、あの子のブラコンぶりはもう、太陽宮での名物らしいねぇ。 最も、ルーシュも嬉しそうだけどさ」
ルーシュとは、ファルーシュの親しい者や肉親が愛称で呼ぶ。
この国の現女王であるアルシュタートの妹であり、
兄妹の叔母であるサイヤリーズは苦笑いを浮かべながらも、目の前でほのぼのとした空気を纏う兄妹を見つめた。
「なんだ。 また、リムは俺たちよりもルーシュか?」
「義兄上。 姉上にガレオン? なんか、珍しい顔ぶれだね」
サイヤリーズたちの後ろから3人の独特な気配がして、
女王騎士であるミアキスとカイルだけではなく武術を少しだけするサイヤリーズもまた振り返った。
振り返った先には目の前で微笑ましい空気を纏う兄妹の両親であり、
ファレナを守る女王とその女王を守る女王騎士長と女王騎士の中で一番の古株の人物がいた。
「そうでもありませんよ? 先ほどまで謁見の間におりました。
そうしていたら、ここで二人の声が聞こえてきたのです」
「殿下と姫様のお2人は、本当に微笑ましいですな」
女王・・・アルシュタートは息子と同じ白銀の髪を靡かせながら妹の傍により、
目の前で息子に抱きつく娘を慈愛に満ちた微笑を見せた。
そんな妻を守るかのように、夫であるフェリドもまた穏やかな笑みを
目の前にいる息子たちに惜しむことなく見せていた。
「あ。 母上、父上。 これからあの庭園に行こうと思うのですが・・・・カイルたちも一緒だとダメですか?」
「構いませんよ。 カイルたちもまた、私たちの家族同然ですからね。
ちょうど、今は忙しくない時期です。 久しぶりに、あの庭園でお茶会でも開きましょう。
珍しいお茶菓子を手に入れました。 貴方たちに食べてもらいたいと思ったモノのです」
妹姫を包み込むように抱き締めるルーシュは自分たちを優しく見つめる気配に気付き、
振り返るとそこには両親を始めとする彼が最も安心できる居場所を作り出すことが出来る、
女王騎士たちが勢ぞろいしていた。
その事に気付いたルーシュは、
普段は自分たち王族しか入れない庭園に護衛であるカイルたちも連れいいかと母に尋ね、
そんな息子の問いかけに優しく微笑みかけたアルシュタート。
そんな母の言葉に嬉しそうに微笑むと、リムを連れてカイルたちの元に行き、
カイルの手を取って早歩きを見える息子に微笑ましそうな笑みを見せるフェリド。
そんなフェリドと同じ心境だったサイヤリーズもまた、珍しい甥の姿に笑みを見せていた。
彼らを守護する太陽が微笑ましい恵である子どもたちに降り注ぎ、
混乱の世から漸く平和を取り戻したと実感することのできる一時である。
2007/09/01
Web拍手より再録。
此方は、連載中の【Recover】の過去偏を軸に書いてまいりますv
過去偏と言っても、主人公であるファルーシュの幼年期ですv
加盟させていただいている同盟に、
シスコン・ブラコン好きにはたまらないお題があった為、
Web拍手に番外編として書いておりますv
本編が、シリアス系になりそうなので・・・
番外編だけでもほのぼの感を出せたらいいなぁと思いますv
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