── この学院には、眠り姫が存在する。








眠り姫 -jmdm-








1人の少女が全てを治める玉葉学院。
都内にありながら入り口が木々で覆われている為あまり知られていないその学院は、 閑静であり落ち着いた雰囲気を持ち、またここに通う生徒・教職員の数に見合った広大な敷地を有している。
名前だけは聞き及んでいても、その正式な所在地を知っているのは学院の関係者くらい。



そんな知る人ぞ知る…と言ったこの学院には、世間には知られていないからこそ出来るのであろう、ちょっとした制度があり──…



「…見つけた」



自然がそのまま残され、利用する形で作られている敷地内には、校舎から少し離れた場所に都内でも珍しいだろう森林の公園──広場が存在する。
そこにやって来たシアンブルーの制服を着た男子生徒は、芝生の上に横たわり漆黒の髪で川を作っている同じ制服を着た少女を見つけて苦笑を零す。



「また寝てる。 まあ、そうだと思ってたけど」



昼休みを過ぎても帰ってこない学院の『お姫様』を探す為、心当たりに足を向けること2箇所目。
入学当初から多忙な毎日を過ごす彼女は、少しでも時間があるとすぐに身体の休息を始めてしまう。…それがどんな場所であろうとも。


授業中に机に伏せることなど日常茶飯事。


しかし彼女が教師から叱られることはなく…寧ろ、確認した瞬間から教室は静寂に包まれる。




── それは、この学院にいる限り暗黙のルール。



「そうか。 今日はこっちの方が寝やすいのか」



始めに向かった場所──屋上は影になる場所がなく、今日の日差しの中で寝るには少し不便だろう。
それに比べ、周囲を木々で覆われているこの広場なら…強い日差しも心地良い木漏れ日になってくれる。



「全く…、本当に「眠り姫」だね、優希って」



『絶対王政』であるこの学院では、その全てが『王』に任命された人物に委ねられる。
学院の全てを自由に決める事が出来、その採決に対して生徒や教師・学院側は一切の苦情も文句も言わないし言えない。好きなように学院を造りかえることだって可能なのだ。



…ただし、その分負担も大きいのは事実。



それを補佐するために『王』の側近の役割を務める『賢者』がいて、さらに2人の『騎士』や複数の『大臣』が存在するのだが…



この学院は『絶対王政』。
つまり、『王』にさえなってしまえば全てを手に入れたも同然、ということになる。
3年間しか通わない小さな箱庭だとしても、その全てを掌握したいと思う生徒は山のようにいて、『王』はいつも地位を狙われている状態。
そんな『王』を守るために『騎士』は存在し、『大臣』は一般生徒と『王』とのパイプ役を務める。


そのため、学院を動かしているのは『王』と『賢者』の2人のみ。



「まして、優希は全部自分でやろうとするからなぁ;」



この学院では『王』と『賢者』だけが着ることの出来るシアンブルーの制服。
それを身に纏っている者は、学院の何よりも高貴な存在として崇められ、例外なく絶対的なカリスマ性を持つ。



── そしてそれは、例え眠っていても変わらない ──



木漏れ日の中で穏やかに眠る少女こそが現在の『王』。
玉葉学院第21代目の『姫』、工藤 優希。


普段は見る人を魅了する蒼き輝きを持つ瞳も、今は閉ざされいつもより彼女を幼く感じさせる。
逆を言えば、それだけ普段は大人びて見えると言うことなのだが…この学院での最高権力を保持していても、職務を離れればただの少女だ。



「このところ書類の量が増えてたからな…」



気が付けばいつでも何処でも眠りに落ちてしまう優希。



「無理はするな、って…あれほど言ってるのに」



恐らく、職務で削った体力や精神力を補うためなのだろう。



「ん…、」
「おや。 そろそろお目覚めの時間かな?」



僅かに瞼を震わせてた優希の傍に膝を立てる。
目覚めを促すように風が流れ、木々が小さなハーモニーを奏でる。

このまま自然にすらも愛されたお姫様の穏やかな覚醒を見守るのも良いけれど…



「…やっぱ、お姫様を起こす方法は1つだよね♪」



人々の前ではいつも眠りに落ちている『姫』。
そんな彼女を、いつしか生徒達は敬意と親しみが込め『眠り姫』と呼ぶようになった。


この学院唯一の『姫』。

姫を起こすのは、王子からの口付け──と言うのが御伽噺のセオリーだ。



「…かぃ、と…?」
「おはよう、オレのお姫様?」



セオリー通り目覚めたお姫様の口唇に、王子はにっこりと笑って2度目の口付けを降らせた。







c2005. As for this novel, "Setsuka ougetsu" holds a copyright.






【eine schwache Ausrede】

暑中お見舞い申し上げます!
…って、もう残暑の時期なんですけどね?←去年と同じ。
色々なアクシデント(…)に襲われ未だに不安定な更新を続けている
当サイトですが、やはり暑中見舞いは頑張らなくては!!
と、握りこぶしを作ってみました。

…まあ、結果はともかくとして。(…)

このお話は去年の暑中見舞いで書いた「眠り姫」の続き、と言うかなんと言うか。
同じ設定で書きました。でも年齢は変わってないのできっとサ●エさん方式(ぇ)
調べてみると、去年と同じ日に今年も暑中見舞いを掲載しているっぽくて…
来年はもっと早く書けるように頑張りたいです;




― Whisper of Night ―、桜月様


暑中見舞い第二弾ですv
今回は、第一弾の眠り姫設定での快斗×優希onlyです♪
はやり、眠り姫は王子様のキス出目覚めなくてはいけませんよねvv
素敵なフリー小説、ありがとうございましたv