【夢で会ったら…】
同じクラスのミリアリアが妙な噂話をしてきたのは、日増しに日差しがきつくなる夏手前の夕方だった。
「キラ!あの噂聞いた?」
「噂?」
「7丁目の洋館の話よ!」
「ん〜〜…知らないわよ?」
白いシャツにえんじ色のリボン。それに白のベストと紺色のチェックのスカート姿の二人が、下校時間で沢山の学生が歩く道を楽しそうにおしゃべりをしながら歩いていた。 歩くたびにふわりふわりと揺れるスカートから覗く足は、夏前の為まだ真っ白で傷一つない。 ちらちらとそんな二人を盗み見する他校生も多い中、二人は周りの視線を全く気にも止めないで歩いていた。
「やだぁキラってば知らないの?」
「えぇ。なんかあったの?」
小首を傾げて尋ねる仕草は同性から見てもとても可愛く、他校生にもてるのも無理はないと、ミリアリアは思う。
「なんかね、いるらしいのよ!」
ふふっとキラの前に立ってミリアリアが指を立てながら言う。
「いるって?」
「吸・血・鬼!」
一語ずつ区切って言うと、キラが『そんなわけないじゃない!もぉミリィはそういうの好きなんだから!』と顔をしかめて言う。 そう言うオカルトチックな話は苦手キラ。いるわけないじゃないと思いながらも、聞くのは決していい気分ではない。
「あ〜信じてないんだぁ〜!」
「信じてるとかそういうんじゃなくって!もぉ!!」
「あ、私これから塾だから!続きは今度ね!!バイバイ〜イ!!」
ミリアリアは時計を見るとそのままバタバタと掛けて行ってしまう。 会話の途中でいなくなってしまい、キラはふぅっと溜め息を落とすと歩き始める。
"あたしのお家…あの洋館の前通らなきゃ帰れないの知ってて言ってるのかしら…"
真昼だったらまだしも、あの洋館を通る頃には確実に暗くなってるはずだ。
"もぅ!考えるのやめよう!早く帰んなきゃ!"
いるわけないと思うが、やはりちょっと恐い。 いつもはのんびり歩く道のりも、今日は心なしか足早になってしまう。
"よりにもよってこんな時にバズが遅れるなんて…ついてないなぁ〜"
急いで帰るはずが、道路事情に巻き込まれたバスが遅れてしまい、結局いつもよりも帰宅時間が遅くなってしまった。 辺りは真っ暗。
「あ、ねぇ君!」
洋館が視界に入ると、キラは無意識で歩く速度を速めていた。通り過ぎようとした時、後ろから声をかける者がいた。
"まさか…ねぇ?"
そんなわけないと思いながらも、振り返るのに勇気がいる。
「これ、君が落としたんじゃないか?」
もう一度同じ声がする。落とした物…?キラは恐る恐る振り返る。
「あ…あたしの」
振り返ると、そこには男の人が手を伸ばして立っていた。 その手にはキラのカバンに付けている、うさぎのキーホルダー。
「あ、りがとうございます…」
「どういたしまして」
手渡され、礼を述べる。 顔はよく見えないけれど、キラの頭一つ分は大きい。
「君、この辺に住んでるの?」
男が尋ねてくる。
「はい」
「そうなんだ。俺この間ここに引っ越してきたばかりなんだ」
「あ、そうなんですか」
馴れ馴れしいような、それでいて不快感を与えるような話し方のその男に、キラは今まで緊張していた表情を緩める。
「ここに住んでるんですか?」
「そうだよ」
男が指差したところは、さっきミリアリアが言っていた7丁目の洋館。
"なんだ…普通の人じゃない?もぅ!ミリアリアが脅かすから!"
想像していた吸血鬼とは全然違う男の風貌に、キラは心の中で『ミリィに明日注意しなきゃ』と思う。
「良かった。引っ越してきたばかりでちょっと困ってて、誰も知り合いいないからどうしようかと思ってたんだけど、君に聞いてもいいかな?」
「あたしにわかることなら…」
引越ししたてで何もわからないのは不安だろうし、心優しいキラは笑顔でそう答える。
「そう…助かったよ。では…」
――――――花の香り…?薔薇…?
意識が遠退くのとそう思うのはほぼ同時だった…。
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「ん…」
なんか寝苦しいとキラが身じろぎする。
「?」
寝苦しい…?そうではない。何かがおかしい。 キラは思い瞼を持ち上げると、状況の読み込めぬまま驚愕する。
そこは一面の薔薇に覆われた処だった―――――。
「え?ここ?どこ!?」
建物の中ではない。遠くまで全てが薔薇に覆われているのだ。こんなところ普通にあるわけじゃない。 一体どうして…?キラは必死に思い出そうとする。
"確か…男の人に聞きたいことがあるからって言われて…そしたら薔薇の香りがして…"
【吸血鬼…?】
ミリアリアの言葉が頭をよぎる。まさか…とは思いながらもこの現実離れした状況に、有り得ないと言い切る自信がなくなってくる。
「目覚めた?」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「あ、貴方??」
「俺?俺はアスラン。君はキラだよね?」
「なんで名前!?」
さっきまで確かに誰もいなかった。 無限に広がる薔薇の園の中、椅子に縛られたままの自分しかいなかった…ハズなのに…。 何故名前を知っているのか?何故こんなところにいるのか?キラは理解不可能な状況で確実に怯えていた。
「ねぇ!ここはどこなのよ!?」
「どこ…どこなんて存在しないところかな。キラの世界の言葉で言えば【異空間】といったところか」
「異空間…?」
「言葉では片付けられない世界だよ」
アスランと名乗った男の声は後から聞こえる。 表情はわからないけれど…響くような声に得体の知れない恐怖を覚える。
「吸血鬼…?」
キラは聞き取れないくらい小さな声で呟く。 ガサッ…後方で動く気配がする。
「この世界で言うなら正解だな」
"…やっぱり…!!"
「あたしに…何をするの…」
足音がじわじわと近づいてくる。
「何って…わかるだろ?」
―――――ゾクッ。。。。
耳元近くで声が聞こえる。深く澄んだ声。それは人のものと変わらない。音の繋がり。
「血…?」
声が震えてる…?恐いから…?
「ちょっと違うかな。俺が欲しいのは…」
――――――君の全てだよ。
目の前に影が落ちる。今見上げればその顔が見える。 キラは恐る恐る顔を上げた。 目に飛び込んできたのは鮮やかなネイビーブルーの髪。目を奪われるほど鮮やかな色。 そのまま意識が遠退くのがわかる。 深い眠りにつくような…。心地良さ。薔薇の香りのせい…?
『今日は挨拶だけだ。また今度な…』
遠くでアスランが何か言ったような気がしたけれど、それはキラの耳に届くことなく、目の前は暗転したのだった…。
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「ほら!キラ!起きなさい!!ミリアリアちゃんが迎えに来てるわよ!」
「ん〜〜…え!?」
ドアをバタンと開けて母親が入ってくる。
「え?あたし…あれ??」
「もう!なに寝惚けてるのよ!遅刻するわよ!!」
「嘘!!大変っ!!!」
時計の針は家を出る時間ぎりぎりを指している。
"なんだ…夢だったんだ…"
昨日の出来事は夢。普通じゃないから。だから学校へ行こう。 キラは急いで支度をすると、バタバタと階段を駆け下りる。階下ではミリアリアが『もう!遅いぞ!!』と怒ってる。いつもの日常。いつもの朝。 そう何も変ってなんかいない。
「ごめんね〜〜〜!!」
「昨日遅くまで漫画でも読んでたの?寝坊なんて!ま、キラらしいけど」
「んもう!ごめんってば!!」
「駅前のカイトのシュークリームで手をうってあげませう」
「はいはいっ!」
クスクスと笑いあうと、ほら何も可笑しなことなんてない。
「あ、そう言えば今日転校生が来るみたいよ!」
「そうなの?」
「うん。職員室でフレイが聞いたって言ってた」
「こんな時期に珍しいわね」
「なんでも海外からの帰国子女みたい。男の子だって!かっこいいかなぁ?」
「またミリィはすぐそれなんだから、トールにチクっちゃうぞ?」
「あ、それは駄目!トールすぐヤキモチ妬くから!」
「ふふっ冗談よ♪」
転校生。 キラはまだ知らなかった。あれは夢なんかじゃないことを。
「転校生を紹介する。アスラン・ザラ君だ」
『やぁ、また会えたね。昨日はありがとう』
クラス中の視線を浴びながら、アスランはキラの前に立つ。
『もう一度、会いたかったんだ』
色めき立つ周りの皆をよそに、キラだけが驚いたままそのネイビーブルーの髪を見つめていた。 夢じゃない。鮮やかな色彩。薔薇の香り。 何かが変っていく、薄紫色の夢に包まれるように―――――。
fin
40000hit御礼企画です♪ フリーSs vol.2 璃華サマよりリク【アスvキラ キラ女体化・アス吸血鬼】
刃月様、−Zero
System−
刃月様より頂いたフリー小説(4万hit)第2弾ですv素敵でしたので頂いてきましたvvアスキラ〜vv
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