彫字
夜。いつものように、二人抱き合って眠って。 目覚めた瞬間に、幸せそうな笑みと共に、誕生日おめでとう、と祝う声が聞こえた。
「…んぅ…?」
ゴシゴシと目元をこすりながら、キラは首をかしげ、唸る。
誕生日…誕生日…?誰の………
「きーらー。お前のに決まってるだろ?」
何も言わなくても、この付き合いの長い幼馴染は全てお見通しなのか、あきれた口調なのに、どこか甘ささえ含んだ声で諭されてしまった。
「…ぼく?」
ぱちぱち、と幾度か瞬きし、キラは無意識にアスランの胸に頬を摺り寄せる。
すると、ぎゅっ、と直に触れる腕が抱きしめてくれる強さに、うとうととまた眠りに落ちかける。
「キラ…起きて?」
「や、まだ寝る…」
「プレゼントせっかく用意したのに」
ぽそっ、と耳元にアスランが囁けば、キラの肩が震え、むずがるように身体が捻られる。
「ん…何?」
ひょこっ、と腕の間から顔を覗かせるキラの額、瞼、唇に口付けを落とし、アスランはそっと腕を解いた。
名残惜しそうに触れてくるキラだが、アスランも完全に離れる気はなく、手だけ伸ばして影に隠すように置いてあった包みを取り出す。
「これ」
ちょっとだけ下に沈んで、キラと目線を合わせてアスランはその包みを差し出す。 手に渡されたそれを見つめ、しばし数秒。 アスランらしく丁寧にラッピングされたそれは、青の包装紙に淡い紫のリボンという、目に優しい色彩をしている。 なんだか勿体無いな、などと思いながら、キラはその包みを解く。 その間にも、アスランの手は勝手にキラの髪の毛を梳いている。
「…これ…」
はら、と解けた包装紙の上には、小さな箱。
ちらりと上を見れば、アスランは無言でそれを開けるように促してくる。 上質に見えるその小箱の中には、銀色に輝くブレスレット。
「…アス?」
「君の背負ったものを、少しでも軽く出来るように…」
そっとそれを手に取り、キラの手首にはめながら、アスランは笑う。 そのひんやりとした感触は、赤く傷の走ったそこを優しく包みこんでいる。
「…ありがとう」
震えてしまっただろうか。 不安に思いながら、キラはアスランの首に腕を廻して抱きついた。
…顔を、見られないように。
首筋にあるひんやりとした感触に目を細めながら、アスランは何も言わずにキラを抱き返した。
「キラが生まれてきて、良かった」
ここにいてくれて
出逢えて
…こうして、支えになってくれて
「ありがとう、キラ」
キラの手首に輝くブレスレットの裏側
こっそり彫った文字 気がつかないでいいよと、心の中で告げた。
"All of
me to you..."
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砂葵様、−凪の海−
砂葵様より頂いた、キラ誕生日小説です。
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