復讐代行? 〜Revenge
vicarious execution?〜
「アスラン・・・っ」
普段どれだけ邪険にしていても、キラにとってのアスラン・ザラという存在は代替のきかない―――かけがえのない人だから。
「キサカさん・・・アス、誰にやられたんですか・・・」
感情をギリギリまで抑えた低い声で、アスランを連れて帰って来てくれたキサカに尋ねる。
キサカはキラの気迫に呑まれ思わず一歩後ずさるが、それでも自分が見た光景を克明に話し始めた。
「―――ザフトの新機体ディスティニーと、レジェンド?」
「たぶん乗っていたのはミネルバのエースパイロットだろう」
「・・・・・・・・・・・・ふーん」
「き、キラ?」
長い長い沈黙の後、キラが発したたった一言の『ふーん』には様々な意味が込められているようにキサカには思えた。
「キサカさん―――アスを連れ帰って来てくれて有難うございました。ゆっくり休んで下さい」
それだけ言うとキラはアスランが治療を受けているメディカルルームへ向かう。
細い体躯を怒りに震えさせ感情を必死に抑えているキラの後姿を、物言わず見送ったキサカはこれからの事を思い深く嘆息を洩らす。
「やっかいな事が起こりそうだな・・・はぁ」
真っ白い病室。機械音とアスランの苦しげな息遣いだけが聴こえてくる。
時折発せられる呻き声がキラの胸を更に痛ませた。
「―――アス・・・。よく頑張ったね。色々と文句言いたいけど、それは後にしてあげるよ。今は―――それよりもやらなきゃならない事が出来たから・・・」
行って来るね、とキラはアスランの乾いてかさかさになった唇に自分のそれをゆっくりと重ねた。 舌で舐めるようにして唇を潤し、充分に潤ったのを確認するとそのまま部屋を出て、今度はブリッジを目指す。
目的はただ一つ。
「マリューさん」
「キラくん、アスランくんは・・・」
「まだ気が付きませんけど、大丈夫らしいです・・・」
「そう、それなら一安心ね」
「はい。―――マリューさん、お願いがあるんですけど」
「なに?」
「―――エターナルのラクスと・・・通信開いて貰えませんか?」
「え!?」
マリューの表情が瞬間険しくなるが、キラの紫の瞳から強い意志を感じて直ぐにエターナルと通信を開くように命令を出す。
程なくしてブリッジ中に歌姫の綺麗な声が響き渡った。
『―――お久し振りですわ、皆様。今日はどうなさいましたの?』
「ラクス! 久し振り」
『まあ、キラ。もしやキラが私に御用ですの?』
「―――ラクス、ごめん・・・。悪いんだけど例のポッドを直ぐにこっちへ射出してくれないかな?」
「「「「「!?」」」」」
キラの言葉にブリッジにいたクルーが全員が驚き動きを止める。
おどろおどろしい緊迫感が全員を包んだ。
そんな中、ラクスだけがのほほんとキラと対話している。
『あらあら・・・。急、ですのね』
「うん、ちょっと。―――僕の堪忍袋の尾がキレました」
これ以上はないくらい低い声でキッパリと告げると、ラクスはコロコロと笑い出す。
『あらまあ・・・。キラを怒らせるなんてどこのおバカさんでしょう』
「ザフトのぴよぴよちゃんたちだよっ」
『あのぴよぴよちゃん達ですの? ふふっ、判りましたわ。では早急にポットをそちらへ向かって射出致します。キラ、ご武運を』
通信が切れると同時にキラはくるーりと後ろを振り向き、にっこりと笑う。
「そういう訳なので、直ちにポッド回収の為動いて下さいね」
いつもの温かい笑顔を見せるキラから殺気が放たれているのに気づいた全員は、恐怖で身を震わせながらもキラの言う通りに動き出した。
有無を言わせないキラの迫力に太刀打ちできる人物など―――残念ながらこの艦には存在しない。もしもアスランがいたとしても―――・・・止められないだろう。
「―――僕を怒らせたこと、死ぬほど後悔させてあげるよ。ザフトのぴよぴよちゃんたち!」
にこにこと柔らかな笑みとは裏腹なキラの発言を聞いたクルーたちは、全員同じ事を考えた。
『ザフトのエースパイロットはもう終わり、だな・・・』
キラが関われば倍仕事が速いラクスの働きにより、あれからすぐに目的 今、キラの眼前には様々な経緯を経て手に入れた―――2機のMSがある。 その内の一機『ZGMF-X20A ストライクフリーダム』にそっと手を掛けた。 ネーミングに一縷の不安を感じないでもなかったが、それでもこれが自分の機体だからと無理矢理納得したキラは、そのままコクピットに滑り込む。 不完全なOSを神がかり的なスピードで書き換える。
『『キラっ!?』』
「ミリアリア、カガリ」
『コーラーっ、キラ! お前ドコ行くつもりだ!?』
「ちょっと出かけてくるよ。すぐに戻るからそれまでアスランの看病お願い。じゃあねっ!」
『『キ―――っ!!』』
向こうの2人はまだ何か言いたそうであったが、キラは通信を強制的に切断してフリーダムを発進させる。
「ストライクフリーダムシステム起動! キラ・ヤマト、フリーダム行きます!」
目的地は―――ザフト軍ジブラルタル基地。狙うのは当然・・・ザフトのパイロット2人だ。
「ついでにあの黒たぬきさんも懲らしめてやりたいけど。ま、それはおいおいでいっか」
黒たぬきさん、とはラクスが付けたデュランダル議長の呼び名である。だから一応『さん』付きなのだ。
「―――そろそろ、かな?」
キラの目には広大なまでのザフト軍基地が映っている。
こちらの接近に気づいたようでザクやグフが戦艦からこちらに向かって飛んでくる。が、キラの相手はこんな雑魚共ではない。
「邪魔」
たった一言。
その一言だけ呟いたキラは今にも攻撃してきそうなその邪魔な機体の全てを一度にロックオンして―――打ち落とす。
といっても、ここは基地の上。
それをうざったそうにファンネルで片付けながら、注意深く見ているとついにキラの待ちかねた機体が2つ、こちらへ飛んでくるようだ。
「フフフ、来た来た―――あれがレジェンドと、ディスティニーか」
明らかに他とは違う装甲の期待が猛スピードでこちらに向かって来ている。
「邪魔者もあらかた片付いたし。―――やりますか」
キラお得意の某特殊技術を用いて、向こう側と回線を無理矢理開く。 さぞぴよぴよちゃん達は驚いているだろうね、と人の悪い笑みを零しながら。
「―――ハジメマシテ、ザフトの紅服のヒトタチ?」
『誰だよっ!! アンタっ!! 何しに来たっっ』
感情を表に出し過ぎているディスティニーのパイロットに、キラは冷めた口調で話しかけた。
「別に僕の名前なんてどうだっていいでしょ」
『―――っ』
『・・・シン、落ち着け』
『でも、レイ!! コイツ―――!』
どうやらぴよぴよちゃん達の名前はシンとレイというらしい。
キラにとっては彼らの名前などどうでも良いのだが。
シンが『動』レイが『静』のタイプだろうと判断したキラは、狙いをシンに定める。ああいうタイプはちょっと突けば直ぐに爆発するだろうから。
―――操り易いんだよね。案外ザフトの中でも操り人形にされてそう・・・。
たった数秒で相手の性格や特徴や傾向を予想したキラはやはり只者ではない。 シンとレイは未だ急に現れたとんでもない人物のキラをどうするべきか言い争っている。
いい加減煩い。
ただでさえキラの怒りは沸点に到達しているのに、ここで更にくだらない言い争いを聞いていたくはないのだ。
というか。
キラの怒りのリミットは当の昔に壊れているから・・・。
「―――そこの2人、ウルサイよ!」
『『っ!!』』
「君たち2人の言い争いを聞く為にわざわざ回線繋いだワケじゃないんだよねぇ・・・」
『じゃあ何しに来たって言うんだよ? だいたいたった1機で軍の基地に乗り込んで来るなんてバカじゃねーの、アンタさっ!』
キラの気迫を感じているが、虚勢を張ってシンはキラを挑発する。
愚かしい・・・。
キラは挑発に乗る気などなく―――というよりも既にキレているので乗る必要がないのだが―――静かに、目的を告げ始めた。
「・・・何しに来たって言ったよね? 教えてあげるよ」
空気を一度深く吸い込んだキラは、鬼神の如き形相で画面の向こうを睨みつける。
ちなみに、キラには2人の顔は見えるが―――2人にはキラの声だけしか届かない。それでも充分・・・キラの怒り具合は伝わっているはず。
「よくも―――よくも僕のアスランに傷を付けてくれたね!?」
『『っ!! アスランっ!?』』
2人はキラからまさかその名前が出てくるとは思わず、目を丸くして驚いている。
「アスを苛めていいのは僕とラクスだけなんだよ・・・っ」
それ以外は認めない。認めるものか!
「思い知らせてあげるよ、ザフトのぴよぴよちゃん達。アスランを殺そうとした罪がどれだけ重いのかっていうのをね!」
宣言するとほぼ同時にキラはフリーダムの全主砲を呆然としている2機へと容赦なく浴びせた―――。
戦いはレベルと経験値の差を思う存分見せ付けたキラの勝利に終わった。
「あーっ、スッキリした!! さっ、とっとと帰ってアスの看病しながら遊んでやろうっと」
ズタボロにやられた2人がどうなったのか―――それは復讐を遂げたキラにとってはもう・・・どうでも良いことなのだった。
end
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≪後書き≫ 10万hit記念SSお礼第二弾。アス×黒キラです。
秋良様、−zunft−
《コメント返し》 フリーということだったので、速攻でお持ち帰りしてしまいましたvv
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