The Promised
Land
稲妻がはしった。
「うわっ!!」
僕は思わず耳を手で塞いで、縮こまる。それでも、僕の耳にはあの嫌な音が伝わってきて、体が震える。 そんな中、押し殺した笑い声が紛れ込んできて、僕は頬を膨らます。
「……そんなに笑わなくたっていいじゃないか」
「ははっ。ごめんごめん。怖がり方があまりにも………、さ」
「どうせ子供っぽいとか言うんだろ!! でも僕の方が五ヶ月も年上なんだからね! 大体君は……うわっ!!」
幼馴染――というか兄弟のほうが近いかもしれないけれど、とにかく隣で呑気にマイクロユニットなんか作ってる彼に文句を言おうとしたところでまた雷鳴がして、僕の言葉は僕の叫び声で消された。 再び音が遠のいた頃、彼は苦笑を僕に向ける。
「……本当に雷ダメなんだな」
「当たり前じゃないか! あのおなかの中がぐるぐるかき回されるような感じの音が大っ嫌いなんだもん。しかも、いきなりやってくるし………」
「腹がぐるぐるって……まあ、いいけどね。それより、僕が良いこと教えてあげるよ」
そう言うと、彼はマイクロユニットの作りかけを隅の方へ寄せて、僕を手招きする。 僕は、彼の翡翠の瞳が今尚楽しげに笑っているのが気に喰わないながらも、彼の前まで移動してそこに座る。 すると突然、僕の体が引っ張られて気付いたら彼の腕の中だった。
「なっ、いきなりどうしたんっ、うわぁぁぁ〜〜〜!!!」
そこに再び光と、少し遅れて音が轟いて、僕は思わず彼にしがみついた。 彼は、服をぎゅっと掴む僕の頭を優しく撫でる。
「…………まあ、役得ってやつだよな」
「? なんか言った? 雷でよく聞こえなかったんだけど…………」
「ん? なにも言ってないよ。それより、いいこと教えてあげるって言ったろ」
そう言って、彼は僕の顔を上げさせる。宵闇の髪は今の空よりもあかるくてきれいで、なによりやさしいから好きだ。
「いい? 次に雷が光ったら自分の鼓動を聞いててごらん」
「僕の?」
「う〜ん。別に僕のでもいいけど……とにかく光ったら数えてごらんよ」
僕にはよくわからなくて首を傾げたけれど、ちょうどその時窓から光が漏れてきて、僕は必死になって彼の服を掴み、彼の腕に納まり、彼の鼓動を数えた。
トクン トクン
規則正しく刻まれるその音は心地よく、彼と同じ感じがした。 一緒にいるってことが温かさでわかって。それがなぜか嬉しくて。 だから、あの忌々しい音が鳴っても、僕は頭の端で察知しただけだった。
つまりは、怖くなかったということ。 それに気付いた僕が顔を上げると、彼はとても得意げで。
「ほらな。俺が言った通りだっただろう?」
と言って笑った。僕も怖くなかった事が嬉しくて
「うん! 全然怖くなかった!! 心臓の音が気持ちよくってね、思わず寝ちゃいそうだった!!」
「…………寝るのはどうかと思うけど」
「むっ。しょうがないだろ。君と一緒にいると安心するんだから」
僕の言葉に、彼は驚いたように目を瞬かせたけれど、すぐにふわりと微笑んで僕を抱き寄せた。
「じゃあ、僕はキラの雷怖がり防止係だね」
「…………なにそれ」
「そのまんまだよ。キラが怖がらないように、雷の日はこうやっててあげる」
今も。そして、これからもずっと。 耳元で囁かれた言葉に、僕も応えるように笑った。
「うん。ずっと一緒だよ。アスラン」
部屋の外では雷が激しさを増していたけれど、僕は怖くなかった。 それはきっと君がいてくれたから。 宵闇色の髪と、翡翠の瞳の、誰よりも大事な君がいてくれたから。
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10万HIT御礼のフリー小説です。
姫月様、−虹色のアメ−
あとがき返し
この小説は、『−虹色のアメ−』、姫月様のサイト内にあるフリー小説からいただいたものです。
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